SEA side

静けさの中で波の音だけが永遠に響きつづける。
美しいものとの出会いの記憶・・・・。

映画 「ホノカアボーイ」

2009年09月28日 | 映画(ハ行)

 雨の後に見える虹はレインボーだが、本作は月の光の中に現れる虹、ムーンボーが見えるというハワイ島の村ホノカアが舞台。

 この地名からして、すでに癒し系の響きがある。

 こののどかなホノカアの村の、のどかな映画館に映写技士として雇われる主人公のレオを岡田将生が演じる。

 なぜホノカア村なのかと言えば、たまたま主人公がガールフレンドと旅をしたのがこの地だったから。分かれて当然という嫌な感じの女の子を、蒼井優がホントに嫌な感じに演じて見事。

 ホノカアに暮らす、倍賞千恵子演じるビーさんという日本人老女とレオの出会いの物語で、親子と言うよりは祖母と孫のような関係だ。レオとビー、ライオンとミツバチの話である。

 ほほえましく緩いハワイの田舎生活ながら、老いと孤独、病と死、若い男性に対する老女のときめきと嫉妬などがキチンと描かれ、深みを感じさせる。

 端正な佇まいの好編だ。

映画 「TAJOMARU」

2009年09月18日 | 映画(タ行)

 芥川の「藪の中」を原作とする映画といえば黒澤の「羅生門」だが、三船の演じた多襄丸を今回は小栗旬が演じる、と思っている人が多いのではないか?

 そこに多少のひねりがある。

 「多襄丸」は泣く子も黙る伝説的な盗賊だが、ここでは一つのブランドのようになっており、特定の個人の名前ではない。むしろ「多襄丸」を名のる資格を持った盗賊と言った方が良い。

 三船の多襄丸は本作では松方弘樹が演じている。王を倒したものが次の王になるように小栗が多襄丸の名を次ぐ。

 「羅生門」で有名な森のシーンも白州の証言も筋書きに散りばめてある。ただ、本作でキーとなるのは田中圭の演じる新たなキャラクター、桜丸だ。敵役であり、ラストの小栗旬との対決シーンはなかなかの迫力だ。

 しかし、桜丸がダークサイドに落ちる当たりの描写があえて省略されているために、物語としての厚みがなくなっている。善から悪へのその変身が思いもよらないミステリー仕立てになるのなら省略もありうるが。

 松方・多襄丸はさすがにうまい。貫禄の中に軽さかあって素晴らしい演技だ。ただ、結果的にこの人物はあまりの好人物なのだ。したがって倒されるのは単なる誤解によるのであって、真に邪悪なるモノが倒されて新たな悪を継ぐと言う迫力が小栗にもない。

 作中でも小栗・多襄丸を評して「多襄丸がこんなに上品でいいのか」という意味の台詞があるくらいだ。

 ラストは愛する人と自由を得て万万歳のはずなのだが、おまえらそれで食っていけるのか、と心配したくなるほど頼りなげだ。

映画 「湾岸ミッドナイト THE MOVIE」

2009年09月17日 | 映画(ラ行、ワ行)
 ビデオムービー・シリーズやTVアニメになった人気コミックの実写映画化作品。

 中村優一と加藤和樹、仮面ライダー系の若手が主役の二人を演じている。

 事故や死でドライバーの人生を狂わせる呪われた車が、「13日の金曜日」の不死身のモンスター、ジェイソンのように、その都度よみがえる。
 「悪魔のZ」と呼ばれる青い車体の車だ。

 が、車が主人公のホラー映画ではなく、それに魅入られた男たちのドラマだ。

 夜の湾岸を時速200km超で疾走する恍惚感を観客は安全な劇場のシートで体験することが出来る。スピードに魅せられた人種が、こういう時間帯にこういう場所に生息していることも分かって面白い。

 直接の対戦相手となるポルシェの黒、脇役的な袴田吉彦と松本莉緒の車が黄色と赤で配色も決まっている。

 続編が出来そうなラストであるが、チューンナップで部品が交換されていくし、最後に主人公の乗る「悪魔のZ」は炎上してしまう。その車がまた蘇るという場合、何が残っていることが条件なのだろう?エンジンか?分かる人がいたら教えて欲しい。

 同種同型同色の車を用意したところで「悪魔のZ」の蘇りにはならないらしいのだ。

映画 「宿命」 ~ ・・・というほどのスケール感はない。

2009年09月16日 | 映画(サ行)

 ソン・スンホンとクォン・サンウ主演の韓国映画。

 固い友情で結ばれた仲間が主義主張の対立から反目しあう・・・ことになるはずなのだが、そもそもどういう友情で結ばれていたのか説明がない。

 ラストに学生時代の屈託のない仲間同士の姿がわずかに映されるが、もう遅い。

 がっちり組まれた構成が必要なのに、金をめぐるヤクザの内輪モメのディテールばかりが描かれ、天下国家のスケール感があるわけでもない。殴る蹴るの暴力シーンと、ひたすら怒鳴りまくっている台詞ばかりが目立って、せっかくの役者の良さが生かされてこない。

 ドゥマンとドワンとか役名が似ているし、女優さんの顔が区別つかないとかで混戦模様の鑑賞となった。

 日本語で主題歌が流れていると思ったらGLAYの楽曲だった。

映画 「20世紀少年 最終章 ぼくらの旗」

2009年09月15日 | 映画(ナ行)

 完結編のみ劇場で見た作品はこれまでなかった。1章、2章はテレビで鑑賞、原作コミックは完読で劇場に向かった。

 子供のまま大人になってしまった少年の妄想に、世界が翻弄される。終幕の「ともだち」の告白により、リアルな世界で演じられていた「ゴッコ遊び」にみんなが気付いてしまう。

 膨大な原作なので読んでもすべては記憶できず、途中何度後戻りして確認をしたことか。そうやって読んだので、映画は初めてみるシーンも既視感がある。壮大な世界が頭の中でごっちゃになっている。

 話がサクサクと進み過ぎてコクはないのだが、問題のエンドロール後の10分間で得点が上昇した。原作で示唆されてどういう意味か測りかねていた部分が、とてもよく理解できたからだ。

 ただヴァーチャル世界で何かをやってもタイムマシンとは違う。過去が実際に精算できるわけではないし、現実は何も変わらないのだ。

映画 「天使の眼、野獣の街」 ~ 野獣の街に咲く傘の花

2009年09月14日 | 映画(タ行)

 地味な香港映画の小品ながら佳作。

 冒頭、多くの人物が次々にスクリーンに映り、これから何かが起こるらしい期待感が観客の心をとらえる。ちょっとブライアン・デ・パルマ作品を思わせる滑り出しだ。

 犯罪の捜査陣が細かく役割分担されており、これはその監視班なる組織の新米女性と先輩の物語。その採用試験を兼ねた実地訓練のさなか即事件となる。

 監視と追跡が役目なので、決定的ななにかを目撃しても、そこから先の逮捕劇は別の部隊に譲らなくてはならないもどかしさがドラマを生む。

 それにしても日常のハイテク監視システムがここまで進んでいれば、もはや犯罪の生まれる余地はないのではと思えるが、悲劇は毎日のように起きている。

 降りしきる雨の俯瞰撮影で、傘の花が咲くが「シェルブールの雨傘」とは色調が違う。ノワール映画だから。

映画 「南極料理人」

2009年09月11日 | 映画(ナ行)

 南極には昭和基地以外にも基地があることを初めて知った。昭和基地から1000kmも離れた、富士山より高い標高の地が舞台だ。想像を絶する。

 あまりの低温のため菌すら生息できないから風邪は引かない、と言っているが本当だろうか?熱くらい出ることもあるだろうが、それは風邪ではないということなのか?

 1年以上も狭い基地の中に8人ほどの男だけが顔を付き合わせることになるのだが、時間の感覚も、基地の作りもうまく表現されていない。
 各々のエピソードが今ひとつ各個人の個性をクッキリと浮き立たせず、閉塞空間のいらいらだけが募ってくる感じだ。知らない役者さんの区別がつかないことも原因か?

 澄んだ青空と吹雪は出てくるが、極地の朝焼けも、夕焼けも、星空も、オーロラも出てこない。同時期に公開されている「30デイズ・ナイト」はホラーで南北の違いはあるものの「極地」の絵が格段に深みを感じさせる。
 南極ロケまではやらなかったにしても、チープ感はいかんともしがたい印象だ。

 あんな豪華なものを食べるのだという驚きはあるものの「かもめ食堂」の簡素な日本食の方がよほど美味しそうに見えた。

映画 「My Son あふれる想い」

2009年09月09日 | 映画(マ行)

 NHK アジア・フィルム・フェスティバルで上映された韓国映画。劇場では未公開である。しかし、なぜ?と思わずにいられない。とてもよく出来ている。

 主人公は殺人を犯し、終身刑の判決を受けてすでに15年服役している男だ。

 終身刑が他の刑と違うのは目標がないことだ、と独白がある。死刑囚には刑の執行、刑期の決まった囚人には刑期満了の出所がある。何の目標もないまま毎日を送るのが終身刑の囚人というわけだ。

 そんな彼らの中から選考により、一日だけ出所して家族に会えるという制度が物語の核にある。唯一の目標を得た男が、外の世界にいて15年間まったく音信のなかった息子と母親に会いに行く1日の物語だ。

 それだけでも十分なストーリーなのだが、ひねりが効いていて、物語が終わるかと思われたところから逆に大きくうねり出す。なかなか冴えた脚本だ。

 加えてユーモアのセンスとファンタジーの気配が盛り込まれ、豊かな語り口を持ったすぐれた映画に接する至福の時を、テレビが与えてくれた。

 昨年の第9回フェスティバル上映作品がNHKのBShiで9月7日に放映されたものだ。10月19日(月)にBS2でもう一度、見ることができる。

映画 「マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと」

2009年09月08日 | 映画(マ行)

 確かに利口な犬ではないかもしれないが、この邦題のセンスほどひどくはない。

 原題は「MARLEY & ME」で、コメディではあるが、飼い主より先に老化して死んでいく宿命にあるペット犬との付合いが、むしろしみじみとした余韻を残す。

 原作者ジョン・グローガンのベストセラー・エッセイでオーウェン・ウィルソンが作者自身扮している。新聞のコラムニストとして、マーリーに関する記事が好評をはくし、名前を成していくさまが、犬との生活を通して描かれている。

 悪い映画ではないのに、このタイトルでは見に行かない人もいるのではと、そちらの方が気になる。

映画 「30デイズ・ナイト」

2009年09月02日 | 映画(サ行)

 白夜の半年後、逆に太陽が顔を出さない30日間の北極圏の町の出来事。

 町にいても仕方がないので、その間、一部の人を残して他の人は出稼ぎに行くのか、その辺の事情が詳しくはわからない。子供がいたら学校は冬休みなのだろうが。

 バンパイア系ホラーなのだが、彼らも元はといえば人間なので、そもそもなぜそうなったのか、町を壊滅させては次の町へ行くのか、夏の間はどうしているのか、とにかく何も説明がない。

 襲われた人間もまたバンパイアになるので、そうならないように襲ったら首を切れ、と襲う側のモンスターが言っている。どうも仲間を増やす気はないようだ。

 ジョシュ・ハートネットの主人公が挑む、ラストの犠牲的バトルがこれまでにない新機軸だし、冒頭の、深みのある絵のような映像も美しいのだが、長い物語の一部のみを見せられているようで、全体の状況が分からないもどかしさがある。

 もっとも、現実はその訳のわからない中で進行するのだが。