SEA side

静けさの中で波の音だけが永遠に響きつづける。
美しいものとの出会いの記憶・・・・。

映画 「ツリー・オブ・ライフ」

2011年08月26日 | 映画(タ行)

 万物を創造した神の意思を人間はどう読み解くかというテーマが、厳格な父の元で育った三兄弟の長男の視点から描かれる。

 次男の死亡、という突発的な出来事を契機に彼の精神的な思索の旅が始まる。映画はあるストーリーを語るというより、宗教的かつ哲学的な映像モニュメントのような風貌を帯びてくる。

 宇宙を創造した神の行為の中に感情は無い。生まれたものはやがて死ぬという一種の無常観が支配する世界だ。人間の一生もその一部に過ぎない。しかし、人間はそこに意味を求める。そして言う。「 神は与えて奪い、そして癒す」と。
 人の死は悲しいが残されたものは自身の生を生き、死者が去った現実を受け入れていく。

 神はけして語ることがない。何度か現れる神々しい光こそが神なのか、それともその中に神がいるのか?姿を見る事もできなければ、真意を尋ねる事もできない。神は人間の前で常に沈黙している。

 壮大な宇宙の存在の本質を丸ごと描き出そうとする野心的な試みに大震災の光景が重なって見えた。

映画 「トゥルー・グリット」

2011年04月13日 | 映画(タ行)

 ある時代、西部のある場所で、3人の男女がある出来事を通じて確実に時間を共有した、という事実を成長した女性が確認する語り口がクールだ。

 西部劇特有のお尋ね者追跡劇をコーエン兄弟が監督している。2007年に監督した「ノーカントリー」も追跡劇の系譜だが、あの執拗な恐ろしさはない。

 主人公の少女を演じる14歳のヘイリー・スタインフェルドがジェフ・ブリッジス、マット・デイモン相手に一歩も引けを取らない堂々の演技だ。アカデミー助演女優賞候補になったが、限りなく主演に近い。

 役柄は健気というよりは、生意気な子供だ。「JUNO/ジュノ」や「インセプション」に出演したエレン・ペイジのような女優系列かな?

映画「ツーリスト」

2011年03月11日 | 映画(タ行)

 アンジェリーナ・ジョリーとジョニー・デップのロマンチック・ミステリー。この二人の顔合わせでアクション度は5%以下、「ロマンチック」に比重がある。

 ロシアン・マフィアも諜報員も出てくるが、ジョニー・デップは寝起きを襲われ、パジャマ姿で屋根の上をオロオロと逃げ惑い、ポール・ベタニー捜査官はヘマばかり、マフィアも口は達者だがキレもスピード感もない。

 アクションらしいアクションは皆無だが、超人ではない普通の人はこの程度のはずだから大いに好感が持てる。

 間違われた男と謎の美女がベニスを舞台に逃避行を繰り広げる。往年のスター映画のゆったり感があって、ベニスの風景を堪能できる観光ロマンスだ。

 途中で容易に想像できる真相が期待通りに明かされる、と見せかけて土壇場で外す手際は鮮やかで楽しめる。

 外見はどんなに騙せてもキスをしてみれば分かる、というものでもないらしい。

映画「冷たい熱帯魚」

2011年02月21日 | 映画(タ行)

 おそらく誰にも勧めることはないが、見なければ良かったとは思わない異様な力作。新宿の上映館は平日も満席だ。

 前作「愛のむきだし」で厳格な牧師を父親に持つ若者を西島隆弘が好演したが、その息子が別の形で成長したら本作の怪優でんでん演じる熱帯魚屋になっていたのかも知れない、と思わせる園子温ワールドだ。

 人間を解体、燃焼させて「透明」にしてしまうことに何の躊躇いもない、異常な夫婦の暴走に、為す術も無く取り込まれて蟻地獄に落ちるかのように家族が崩壊していく。凄惨ながらブラックなユーモアにまぶされて不思議な輝きを放っている。

 崩壊家族の父親を演じる吹越満は、こちらも近隣で小さな熱帯魚屋を営んでいる。

 でんでんの大熱帯魚屋従業員の女性たちは園作品に頻出するカルト教団風の怪しさを持っているが、今回はそちらの描写は殆ど無い。彼女たちを中心に据えたスピンアウト企画も期待できそうだ。

映画 「TSUNAMI-ツナミ-」

2010年10月06日 | 映画(タ行)

 中国の台風のあとは韓国の津波だ。ド迫力のパニック映画である。台風の後で良かったと思う。見るならこの順番だ。

 韓国映画らしくドラマのツボを良く押さえている。

 3組の人間ドラマをコメディと人情でじっくりと見せ、なかなか津波は来ない。まだ来ないのか、もう来るんじゃないかとヤキモキするが、いざ来たらこれが凄まじい。ものすごい被害だなと思っているとそれ以上の2波、3波がやって来るのだ。これでもかの世界だ。

 中国映画「超強台風」のような熱血ヒーロー市長は登場しない。自然の猛威の前に人間は無力だ。逃げることが出来るかどうかにかかっている。主要登場人物も明暗を分ける。皆助かるんじゃご都合主義だが、そのバランスは良い。

 しかし、超高層の屋上にいる人たちが波に飲み込まれる一方、地表付近を漂っていた人たちがどうやって生き残ったのかは、ただ不思議としか言いようがないが。

 それにしても恐ろしいのは一人の喫煙者が招いた二次災害だ。この男が一方で人を助けたことにより表彰されるのだから人生は分からない。

映画 「超強台風」

2010年10月05日 | 映画(タ行)

 中国製のパニック映画。主役は中年の市長で、市民を守るため自ら最前線に出て大活躍する。

 暴風雨の中で孤立した離島での出産や、あの手この手のエピソード満載で楽しめる。が、全体としてチープな印象を受けるのは作り込みが浅いことによる。

 車ごと波にさらわれた外国人写真家が、大波に乗って再び避難所に流れつくがたいした怪我もしていないとか、鮫との格闘も用意されている市長は元特殊部隊にいたとか、その場の辻褄合わせのように言い訳が用意されている。

 しかし、ミニチュア特撮だが迫力はあるし、冒頭とラストに登場する宇宙規模のCGは地球の直面した環境問題を高らかに歌い上げて、これが中国映画なのだと思わせてくれる。ただし、B級。

映画 「特攻野郎Aチーム」

2010年09月24日 | 映画(タ行)

 A級ではないかもしれないが、B級アクションと侮れない。

 訳ありの面々がチームを組み、非合法の活躍を繰り広げるTVヒットシリーズの、これは映画版。

 リーダー役リーアム・ニーソンが掲げる「奇をてらった作戦ほど良い」という理念のもと、その通りのド派手なアクションが展開される。港の大型コンテナ群がまるで積み木細工のように粉砕されるクライマックスは圧巻。

 ブラッドリー・クーパーと珍しく悪役のパトリック・ウィルソンなど配役も豪華だ。「第9地区」で主役を演じたシャールト・コプリーもチームの一員。いかれたパイロット役が可笑しい。

 ヒット如何では続編も、という期待が出来そうだ。

映画 「トイレット」

2010年09月16日 | 映画(タ行)
 荻上直子監督の新作。二つの死を挟んで三兄妹の成長が綴られる癒し系コメディ。

 カナダが舞台だが日本人俳優はもたいまさこのみで全編英語の台詞。しかももたいの「ばあちゃん」は英語が話せないという設定なので、ただ1回、2語の台詞を除いてほとんど無言の演技だ。

 コミュニケーションがテーマになっているが、「かもめ食堂」でも、もたいはフィンランド語が話せないながら現地の人と深刻なコミュニケーションを成立させていたのが可笑しい。

 日本の偉大なトイレット技術が隠し味になっており、見終わってみるとTOTOの壮大なコマーシャル映画でもあったと気付かされる。

映画 「ダブル・ミッション」

2010年06月29日 | 映画(タ行)

 この邦題ではどう見てもハードなアクションという感じだ。ところがどっこい、原題は「隣のお姉さん」ならぬ、「隣のスパイ」だ。

 ジャンルで言えばスパイ・アクションというよりはファミリー・コメディに分類すべきであろう。そのお隣のおじさんが実はスパイなんだよ、という味付けになっている。

 ジャッキー・チェンのハリウッド進出30周年記念を銘打った作品だが、大作というわけではない。ジャッキーのコミカルな面が良い味を出したホノボノ系アクションの趣だ。

 3人の子役もなかなか良くて安心して見られるファミリー・ムーヴィーといえるだろう。ジャッキーのこれ以降の方向性は・・・、次回作を見ないとわかりません。

映画 「第9地区」

2010年04月27日 | 映画(タ行)
 かつての人種差別国・南アフリカのエイリアン差別映画だ。

 しかし、いつかどこかで見た映画のようで、そのどれとも違う。いかにもチープでありながらかつ斬新だ。

 「エビ」と呼ばれているエビのようなエイリアン。知性とは縁遠いようでいて、親子の情も、人間に対する友情も持っている。宇宙船を修復・操作できるスキルも持ち合わせている。

 その宇宙船がヨハネスブルグ上空で動かなくなって20年、船外に出て地上にバラックを提供され住み着いている。まるでどこかの難民キャンプのようだ。

 地球の空気がそのまま吸えるのか?まったく違う言語なのに何故コミュニケーションできるのか?食べ物もIT技術も地球とそっくり、など細かいデタラメが散りばめられながらも、変身ホラー、アクション、SFと娯楽要素満載のサービス振りだ。

 エイリアンのキャンプ移設責任者を命じられるのが何ともお調子者の人の良さそうな親父だが、そのうちエイリアンの犠牲になるかと思えば一転、スーパーモンスターに変身した孤高のヒーローに見えてくる。

 アカデミー賞レースのダークホースだったことがよく理解できる。