SEA side

静けさの中で波の音だけが永遠に響きつづける。
美しいものとの出会いの記憶・・・・。

映画 「信さん 炭坑町のセレナーデ」

2010年11月30日 | 映画(サ行)
 昭和30年代を描くノスタルジック路線の映画だが「ALWAYS 三丁目の夕日」と違って九州の炭鉱町が舞台となる。

 厳しい労働条件の炭鉱ゆえ、労使問題や外国人雇用、その酷使など深刻な問題を抱えているはずだし、子供の世界もイジメ、偏見、体罰の日常だ。

 しかし、そのリアルを描くことがテーマではないので、ほどほどに抑制の効いたバランスで生きる哀しみがジンワリと滲み出て、当時の子供たちのバイタリティが活写される。

 都会から越してきた母子と親しくなる悪ガキの、母親に対する慕情が切ない。

 監督も含め出演者に九州系が多いので、最近作「悪人」に比べても九州弁に関する限りはよほど違和感がない。

 大竹しのぶの配役は、「青春の門」の織江が炭鉱町でそのまま年をとったらこうなっていたかもと思わせてくれる。

映画 「黒く濁る村」

2010年11月29日 | 映画(カ行)

 韓国発のミステリー大作。2時間40分の長尺だ。

 音信のなかった父の訃報を受け、その死の謎を息子が探ろうとする。父親は人の心を惹く魅力的な人柄の影に闇を抱えているようなのだが、その造形が曖昧な印象なので見終わってもスッキリしない。

 理想的なコミュニティを作り上げ、村長として君臨する元刑事と、そこの教祖のように納まっていた父親の二頭体制で村は機能していたらしい。が、村は周囲と孤立しているわけでもなくアクセス可能で、普通に人も住んでいるようだ。いったいどういう村なのか、その実態がよく分からない。

 事件を解決に導く息子と、その天敵のような検事が、その進展の中でなんとなく友情を育んでいくエピソードの方にむしろ味があるように感じた。

 しかし、細かいことを気にしなければ長さを感じさせず、面白く見ることができる。現在の韓国映画の力量だ。

映画 「ふたたび」

2010年11月19日 | 映画(ハ行)

 ハンセン病への偏見が生んだ悲劇からの再生をテーマにした作品。

 法的扱いが偏見を生んでいたことが理解できる。しかし、特効薬の開発で完治が可能となり、かつての患者の社会復帰も進んでいるようだ。

 死んだと知らされていた祖父を受け入れる家族の波紋が主筋となる。病のためにステージデビューできなかったかつてのジャズバンド仲間を、祖父と孫が訪ね歩くロードムービーである。

 老いたメンバーにベテランを配し、涙の再開が胸を熱くする。

 さてその「ふたたび」の舞台だが、やや唐突にスタートするステージ演奏は主人公の幻想シーンかと思っていたら、そうではなかった。ロードムービーからクライマックスのステージに至る繋ぎが、脚本の書き込み不足で粗くやや不自然な印象になっている。

 また、ハンセン病に対する偏見はいまだに根強く、孫娘はそのために破談になるのだが、全体がステージ再現でハッピームードの中でその孫娘の胸中をどう描くべきか、脚本家も監督も、完全無視状態で、画面に出てくる孫娘役もなんとなく居心地が悪そうで気の毒だ。

 しかし、渡辺貞夫も特別出演の演奏シーンは素晴らしい。悪い映画ではないのでもう少し細部を丁寧に作って欲しかったな、というのが感想。

映画 「リミット」

2010年11月12日 | 映画(ラ行、ワ行)

 目が覚めたら棺おけに入って土中に埋められていた、という究極のシチュエーションだ。そこからの脱出、果たしてそれが映画になるのか?という発想でスタートしたのだろう。

 実際映画になって公開されてはいる。ただ興趣にとんだ面白い作品になったかというと、残念ながら・・・の感が強い。

 「ワールド・トレードセンター」も生き埋めになった消防士の話だが、経緯や回想、気遣う家族など、現場以外の部分で「映画」になっている。そういう要素が一切なく、棺おけから一歩も出ないことがコンセプトだすれば、それを見せていくアイデアが足りなかったとしか言いようがない。

 セットに関する限り、低予算と言われた「CUBE」どころではない究極のローコストだ。俳優も一人、衣装も一着、結局最もコストがかかったのは冒頭のタイトル・デザインではないだろうか?

映画 「エクスペンダブルズ」

2010年11月11日 | 映画(ア行)

 豪華「熟年」アクションスターの大競演だ。シルバー・アクション!!

 息が切れないだろうかと思っていたら、皆がみんなチームの一員で大活躍というわけではない。政界で次期大統領戦を狙っている人とか、チームにミッションをオーダーする側の人はノーアクションだ。

 それでも単なる顔合わせ映画ではない面白さに仕上がっているのはさすがだ。スタローンの男気がみなぎり、心惹かれた女性救出のために立ち上がる。

 他ではジェット・リー、ドルフ・ラングレンに悪役エリック・ロバーツが印象に残る。

映画 「シングルマン」

2010年11月05日 | 映画(サ行)

 自分自身の死の予感がある中で、パートナーが事故死する。最悪の状況だ。

 大学教授という社会的地位のある男が、この状況の中で自殺を計画する一日の出来事が描かれる。

 男の置かれた状況を複雑にしているのが、死んだパートナーが同性であったということだ。元恋人であった女性と教え子の男の子が主人公の最後の一日に絡んでくる。

 イギリス映画の雰囲気と、コリン・ファース、ジュリアン・ムーアというベテランの演技、ファッション界出身で監督第1作目というトム・フォードの美しい映像が、映画でなくては描けない純度の高い表現を見せてくれる。

映画 「BECK」

2010年11月04日 | 映画(ハ行)
 コミック原作は読んでいないし、熱烈なロックファンでもないのだが面白かった。

 ロック・グループのサクセスストーリーで、ライバルの存在や、まるでギャングのような業界黒幕との確執など、山あり谷ありで飽きさせない。

 佐藤健演じるコユキの天賦のボーカルが世界を変える。クライマックスは雷雨の野外コンサート会場だ。劇中の観客とともにその奇跡の瞬間を味わうことになる。

 堤監督は前作のヒットシリーズ「20世紀少年」もコミックの映画化で、クライマックスは野外コンサートであった。原作の歌が実写版でどう歌われるか楽しませてくれたが、今回はまったく逆の見せ方をしてくれた。すべて見るものの想像に委ねられるのだ。

 その部分だけが見事に無声で、いったいどんな歌声なのか募る期待を映像マジック的なイメージで見せてくれた。

 主演の水嶋ヒロはこの後役者引退を宣言、作家への変身を遂げたので、最後の主演作となった。本作でも十分にカッコイイのだが、その変身後、早くも小説で賞を受賞、頭角を現したわけだからその才能たるや恐るべしだ。今後に期待!

映画 「マザーウォーター」

2010年11月02日 | 映画(マ行)
 冬の陽だまりが今日も温かい。ここでお弁当でも食べようか・・・という風情の、何も特別のことは起こらないが、それはそれで退屈もしない・・・という意味での癒し系作品。

 最近、川の流れるこの町にやってきたらしい二人の女性がカウンターバーとカフェを開いている。それに豆腐屋をやっている若い女性や風呂屋を経営している男がいる。みんな水に絡んだ仕事だ。

 小林聡美のやっているバーはウィスキーしか出さない。何故なのか?この町だから?というような会話がある。バーで出るのはサントリーの「山崎」だ。山崎工場は京都・大阪の境界にあり、近くを宇治川、桂川が流れている。
 その辺のお話のようだ。

 胎児は母の胎内で羊水に浮かんでいる。何やらそのあたりに由来するかのような、これは女性の生理から生まれた作品だ。

 裏では何かが起こっているようなのだが、肝心なものは画面には出てこない。日常をひたすら、ただありのままに生きる、これは生粋の女性映画だ。