SEA side

静けさの中で波の音だけが永遠に響きつづける。
美しいものとの出会いの記憶・・・・。

映画 「エグザイル/絆」

2009年01月29日 | 映画(ア行)

 いわゆるヤクザの内部抗争がスタイリッシュな銃撃戦で描かれる。

 都合4回の銃撃戦があるがうち3回は室内戦。至近距離であれだけ撃ち合えば皆死んでしまうだろう。事実最後の銃撃戦はそうなるのだが・・・。(他の2回はなぜ無事なの??)

 007の新作を見た後ではこの緩やかなテンポが心地良い。緩急のリズムとユーモアの気配もある。登場人物も多いがけして分かりにくくない。(話が単純だからか?)でも、てっきり死んだと思っていた人が車の中でガバッと起きるところは笑いそうになってしまった。シリアスな場面なんですけど。

 組織の掟と義理人情の間で5人の男たちの絆が確認される。

 死んだ夫を残して、妻が子供と家を出て行くのは分かるが、遺体に火をかけて、どう見ても一戸建てではないのだから、これは放火ではないのか?他の住民はどうなるのかと余計な心配をしてしまった。
 スタイリッシュな絵作りのためとはいえ、どうなのかなぁ?

映画 「007 慰めの報酬」 ~ 暴走の報酬?

2009年01月28日 | 映画(タ行)
 6代目ボンド=ダニエル・クレイグの第2作目。前作「カジノ・ロワイヤル」の続編という異例の作りなので、事前に再度見ておくべきだったかという反省がある。が、それが致命傷にはならない。

 冒頭から高いテンションでボンドはすでに満身創痍。アクションに次ぐアクションで間にドラマが挟まるがバランスが悪い。

 アクション部分は倍速再生でもしているかのようなテンポで敵か味方か、何がどうなっているのか分からない。ドラマ部分もパートナーがいつの間にか死体になっていたり、単純な対立関係ではない複数の「組織」の関係が複雑だ。

 で、上映時間は106分、といういつにない短さのため説明も不足気味だ。

 前作の完成度が高かっただけに期待が大きすぎたのだろうか。役者が揃っているのに役の深みが無い。前作にあったボンドの苦悩が、今回は復讐の憎悪一色で暴走するという筋立てなので、その設定が作品の構造に素直に反映されているというわけか?

映画 「我が至上の愛 ~アストレとセラドン~」

2009年01月26日 | 映画(ラ行、ワ行)

 端正でのどかな雰囲気が全編を包み込むエリック・ロメールの新作。にしてこれが最後の長編、と本人は言っているそうだ。

 17世紀に書かれた5世紀ガリア地方の羊飼いが主人公の物語を、現代において90歳間近の老監督が撮りあげたわけだ。ハリウッド映画とは天と地ほども違う「貞節と忠誠」の物語の、この悠然たる構えに太刀打ちするには人生の円熟を必要としそうだ。

 いつも小鳥のさえずりが聞こえてくる陽光の中で物語は進む。忠誠を尽くそうとする男の中性的な魅力が鍵となるのだが、そこに何やら怪しげな雰囲気が漂いだして、ひたすら古典的でのどかな緑の森に官能の気配がたち現れる。

 原作は何と5000ページの長編だそうな。

映画 「アクロス・ザ・ユニバース」

2009年01月22日 | 映画(ア行)

 ベトナム戦争の時代を背景に運命的に出会う若者たちの愛を描く青春群像ミュージカル。舞台「ライオン・キング」の演出で有名なジュリー・テイモアの監督作品。

 ベトナム戦争は重要なモチーフではあるが、では反戦ものかと問うなら、若者たちの愛を翻弄する時代のうねりの象徴、とでも言ったほうがよいだろう。

 歌曲は全編ビートルズの名曲で、吹替えではなく出演者自ら歌っているという。クリア・ヴォイスがいずれも素晴らしくビートルズの演奏とはまた違った味わいがある。登場人物の役名もジュード、ルーシーなど歌から採られている。

 ヒッピー・カルチャーやドラッグ感覚などが独創的なヴィジュアルで表現され、視覚・聴覚をたっぷりと楽しませてくれる。

映画 「ウォーリー」

2009年01月21日 | 映画(ア行)

 ロボットに感情はあるのか?というのは鉄腕アトム以来の一大テーマである。その感情の芽生えが人類の未来を大きく変える。

 ゴミ処理ロボット・ウォーリーは、人類のいなくなった地球で700年間ひたすら作業を続けている。彼の作り上げた、空き缶を積み上げた未来の景観=ゴミの摩天楼は壮観である。ただただ母恋しさで何十万年の時を待つ、スピルバーグの「A.I.」に似た切なさがある。

 宇宙空間に出た人類は帰還すべき地球の環境浄化が達成されるのを待っている。その環境監視のためのサンプル採取を行う探査ロボット・イヴにウォーリーは恋をするのだ。

 コンピュータ管理下の宇宙船内でバーチャルなパラダイスに浸っている人間は単なるメタボの群れで無気力。彼らの「リアル」に対する気付きを阻止しようとするコンピュータの反乱は「2001年宇宙の旅」の再現だ。

 地球への帰還を決意して立上るキャプテンの映像のバックに「ツァラトゥストラはかく語りき」のテーマが壮大に流れる。

映画 「アンダーカヴァー」

2009年01月16日 | 映画(ア行)

 ロンドンを舞台にしていた「イースタン・プロミス」に続き、今回はアメリカを舞台にロシアン・マフィアが登場する。

 警官一家の話で、ロバート・デュバルの父、マーク・ウォールバーグとホアキン・フェニックスが兄弟だ。

 弟ウォールバーグがロシアン・マフィアに関わるナイトクラブのマネージャーとして素性を隠して働いているところが話の核となる。最初から「潜入」しているわけではない。が、物語の成り行きで対立項にある兄弟が結束することになる。
 エリートコースの兄に対して弟がコンプレックスを持っているというのが普通だが、実はその逆で、兄は弟の自由な生き方を羨ましく思っている。そのため、後半の弟の転向にも納得がいく。

 ゴッドファーザー以来、マフィアは血の結束に守られたファミリーだが、本作では対する警官側もファミリー。ファミリー対ファミリーの戦いなのだ。マフィア側に「イースタン・プロミス」のようなコクがない。ナイトクラブ経営の影でドラッグを仕切っている状況が意外とあっさりと描かれており、内部抗争的な複雑なプロットは無い。

 本作の特徴は肝心な部分を見せない、ということだろうか。大きな山場はカーチェイスシーンとラストの銃撃シーンだが、いずれも土砂降りの雨の中だったり背丈ほどの野草が燃え上げる煙の中だったりする。

 兄弟役者二人と監督ジェームズ・グレイは2001年公開の「裏切り者」以来の顔合わせで、今回は「兄弟」二人が製作にも名前を連ねている。

映画 「図鑑に載ってない虫」

2009年01月15日 | 映画(サ行)

 食わず嫌いで劇場公開時は未見の三木聡 監督作品。しかし、面白かった。たぶん見ていない人もこれからも見ない人も多いだろう。もったいない。

 「死ニモドキ」という臨死体験をもたらす虫を探して、その体験をルポするよう命じられたライターのロードムービー。その道中に様々な人が関わって来るが、皆、どこか変わっている。その変わり方が尋常でないというか異常というか、ぶっ飛び具合もここまで来れば見事という人たちのオンパレードで抱腹絶倒だ。

 やがて5人になる旅の仲間もトンデモナイ人たちだが、なんだか楽しい。

  伊勢谷友介・松尾スズキ・菊地凛子を中心に、水野美紀・高橋恵子・片桐はいりなど脇も含めて豪華だったり、個性的だったりの顔ぶれが並ぶ。

 松尾スズキはペ・ヨンジュンに似ている、と言っていた人がいるが確かにそうかもしれない。もし、韓国でリメイクしてこの役をペ・ヨンジュンがやったらそれは見ものだろうな。

映画 「コレラの時代の愛」

2009年01月14日 | 映画(カ行)
 ハビエル・バルデムの主演作。「ノーカントリー」とはガラリと違う役柄で雄大な愛の物語がユーモアを交えながら描かれる。

 初恋の女性を51年9ヶ月待ちつづけた男の話だ。ようやく思いを遂げられると思ったのは女性の夫が死んだからだ。その葬儀の場へ告白に赴く。当然というべきか、強い反撥と拒絶にあってしまうシーンから始まって回想的に描かれる。

 その間、「精神的な純潔」を守り通した男の物語なのだが、肉体的な純潔の方は遥か彼方へ置き去りにされ、51年以上の長い時間を622人の女性が彩っている。その622人目の女性との行為中に初恋の女性の夫の死を知って行為を中断、駆けつけるのだ。

 その拒絶の冒頭シーンに戻って以降の展開が素晴らしい。ラテン的なおおらかな景観の中でもはや老境に入った、かつての恋人同士が失われた時間を埋めていく。

映画 「ワールド・オブ・ライズ」

2009年01月09日 | 映画(ラ行、ワ行)

 「ディパーテッド」「ブラッド・ダイヤモンド」とハードなアクションものが続いたレオナルド・ディカプリオのまたまたハードな新作、正月映画の大作だ。これにラッセル・クロウがからむ。
 監督はリドリー・スコットで「ブラック・ホークダウン」以来の戦争アクションになる。

 よく練られたストーリー運びで、登場人物の造形も鮮やかに決まっている。この種の戦争アクションでは頭抜けた面白さだ。対照的な設定の主役二人がテロ組織のリーダー捕獲に当たる。

 敵を欺くにはまず味方から、というわけで二人の「騙し合い」が展開するが、舞台がヨルダンに拡大するに及んで登場する「第三の男」も含め三者間の「騙し合い」へと発展する。この第三の男ハニ・サラームに扮するマーク・ストロングがかつてのアンディ・ガルシアのようで、強力なオーラを出している。

 原題は「Body of Lies」なので、そのままカナ書きした邦題ではない。ならばもっと気の利いたタイトルはなかったのかと思ってしまう。
 RとLはカナ書きするとどちらもラ行になってしまう。サンライズのライズではないのだ。

映画 「蛇にピアス」

2009年01月08日 | 映画(ハ行)

 演劇界の鬼才、蜷川幸男の監督作品。

 精力的に演劇作品を演出し続けながら、よく映画まで監督できるものだと感心してしまう。しかも感性的にはまったくの異界の物語、どこまで蜷川ワールドが肉薄していくかに興味をそそられた。

 ボディピアスに刺青、の身体改造劇が逃げのない映像で痛々しく表現されるが、その先に本人たちの恍惚感があるのかどうか。ロマンポルノの巨匠が挑めば、多分その辺がうまく表現できたのではないかと思うのだが、観客として今回は引いてしまった。

 基本的な骨格は三角関係だし、それに殺人事件が絡む。濃厚な人間の業に関わるドラマにもミステリーにもなりえただろうが、そうはなっていない。改造シーンのインパクトを除けばドラマとしてのメリハリは弱く、尺が長く感じられた。現代的な風俗にも取り組んでみましたという趣で、ギリシャ悲劇やシェークスピアをものにした蜷川流の読み替えはない。

 小栗旬、藤原竜也、唐沢寿明ら蜷川組ゲスト出演の豪華さと、途中で何回か挿入される、望遠でとらえた列車の走行シーンがなんとも官能的だったのが印象に残った。

 主役の3人、吉高由里子・高良健吾・ARATA は体を張った熱演だ。