SEA side

静けさの中で波の音だけが永遠に響きつづける。
美しいものとの出会いの記憶・・・・。

映画 「4分間のピアニスト」

2008年05月30日 | 映画(ヤ行)
 ゴツゴツした異物感が胸に残る。

 俳優も監督も知らないドイツ映画の、しかし傑作だ。結局人間同士は分かり合えないのだという事実に突き当たる。コミュニケーションの不在ではない。コミュニケーションの不可能がそこにはある。

 加えて、予定調和的な幸せな結末はやってこない。ハリウッド映画の絶対に描かない世界だ。それでも、絶望的なラストに微かな希望を見出すことが出来るのは、ヒロインが自分で生きる手がかりを模索し始めたことが分かるからだ。

 ヒロインと刑務所内でピアノの指導に当たる老女の2人の物語、心は開かれるかに見えてまた硬く閉ざされてしまう。その硬質の屹立した個性が闇の中に輝きながらぶつかり合う。2人に絡む看守が一般人の代表だろうが、人間の嫌な部分を見事に体現している。

怒涛の五月

2008年05月29日 | 日常生活・事件
 うるわし五月 緑に映えて 歌声響く 野に山に・・・・ 昔歌ったことのある歌の歌詞だ。

 しかし、今年の五月はこんなのどかなものではなかった。

 何かあらゆることがいっぺんに起こったという印象。突然というのではなく、スケジュールされ、あらかじめ何がいつ起こるかは分かっていた。

 しかしそれも昨日、5月28日ですべて終わった。

 仕事とプライベート、文に武に、あらゆる力を注ぎ込んだ。すべてが満足いくものではなかったものの、とにかくこなした。

 こなせたのだ。

映画 「僕のピアノコンチェルト」

2008年05月27日 | 映画(ハ行)
 天才の夢を描いた作品。それが何と「普通でいる事」なのだ。

 単なる音楽やピアノの天才というだけではない。その辺が「アマデウス」とはちょっと違う。モーツァルトの、音楽以外の幼児性みたいなものは微塵もない。極めて大人っぽい少年だ。したがって周りにはなじめず孤独だ。

 しかし、演技の天才でもあった事で人生が豊かに動き出す。望みを自分自身でかなえることが出来たのだ。天才と凡人、両方の生活を知ったことで人間としてのバランスも獲得できたのだろう。

 祖父役のブルーノ・ガンツがとても優しく、大きな愛で少年を包んでいるのが素敵だ。

 監督はスイスのフレディ・M・ムーラーだが、日本での公開作品は「山の焚火(1985)」 「最後通告 (1998)」に次ぐ3作目である。もともと寡作なのか?一作ごとにまったく趣が異なっているがどれも見応えがある。

  少年役のテオ・ゲオルギューは実際の新進ピアニストだそうだ。吹替えなしの演奏シーンは見事だ。彼自身は天才の孤独に悩むことはないのだろうか? 

映画 「さよなら。いつかわかること」

2008年05月21日 | 映画(サ行)
 静かな語り口の作品。

 母親が軍人としてイラク戦線で戦っている一家の物語。夫を戦場に送っている妻の集まりに、この一家の場合は夫が出席している。

 妻の死を、たまたま自分だけが知ることとなった夫が、二人の娘たちにそのことを告げるまでの話だ。学校を休ませて娘たちの行きたいところに旅をする。その非日常の中で、何か変だという心の準備が娘たちにも出来てくる。その微妙な旅をロードムービーで見せていこうという趣向だ。

 家の留守電では、今でもその死んだ妻の声が相手にメッセージを求めてくる。夫は旅の途上で度々電話をしては妻に旅の報告を入れている。

 「そこまでの時間」を描くところに主眼があるためか、すべてを知っている観客にとってはそれがとても長い。映画らしいメリハリの利いたエピソードの積み重ねがなく、むしろ淡々と時間が流れていく。まじめな映画なのであまり文句を言いたくはないのだが。

 特筆すべきはクリント・イーストウッドが音楽スコア書いていることだろう。

映画 「ミスト」

2008年05月20日 | 映画(マ行)
 フランク・ダラボン監督の新作。「ショーシャンクの空に」「グリーンマイル」に続くスティーヴン・キングの原作もの。

 一体何が起こっているのか分からない、事態の始まりにリアリティがある。

 予備知識が無い人にとっては、やがてそういう話なのかという意外な展開。しかし、ホラー的な要素より、スーパー店内の限定空間・密室心理劇的要素が濃厚で見応えがある。そこに重点があるので、何がどうなっているか詳しい説明はない。
 そちらをSF的な別作品に仕立てることも可能だろう。

 異界の侵略でこの世がのっとられるというアイデアは黒澤清監督の「回路」にも共通しているが、まったく違う方向性と表現をとっている。

 それにしてもラストのあまりに深い絶望はどうだろう。主人公はこの先、生きていくことが出来ないのではないか?

 ヘストン版「猿の惑星」ラストシーン以来の絶望感だ。

映画 「つぐない」

2008年05月12日 | 映画(タ行)
 10年に1本の、かどうか分からないが、最近まれな秀作。

 演技もカメラも音楽もすべてがコントロールされ、あるべき位置に収まった完璧なフィルムだ。

 主人公の少女を3人の女優が演じるが、晩年のヴァネッサ・レッドグレーブが圧巻、さすがの存在感を示している。想像力豊かで多感な少女がいかにして他人を傷つけ、その生涯のテーマとした「贖罪」をいかに果たしていくかが綴られる。

 長回しのカメラで捉えられた戦場の圧倒的に豊かな映像、映画としての語り口など、至福の映像体験を味わえる。

 全体が女性の最後の著作に語られた「書き物」の映像化であったことを、タイプ音をモチーフにした音楽が表現していたのだと、観客は最後に知ることになる。

 悲劇の恋人たち、キーラ・ナイトレイとジェームズ・マカヴォイも美しいし、キーラの妹役のシアーシャ・ローナンも多感で微妙な年頃の息遣いをスクリーンから発散させている。

 バネッサ・レッドグレーブは「いつか眠りにつく前に」に次ぐ作品だが、あいかわらず見事な「老人力」を見せてくれる。

映画 「フィクサー」

2008年05月09日 | 映画(ハ行)
 2000年公開のジュリア・ロバーツが主演したソダバーグ監督作品「エリン・ブロコビッチ」のように巨大企業を相手にした公害訴訟を扱っているが、法廷劇ではなくミステリータッチである。

 冒頭、いくつかのエピソードが綴られた後、4日前にさかのぼって物語が進行する。この冒頭がなんだかよく飲み込めず、付いて行けるだろうかと不安になるが、再び時間がそこまで巡って来るまでにすっかり事態は呑みこめている。で、再び冒頭のシーンが繰り返された後クライマックスが待っている。

 主役のジョージ・クルーニーは弁護士だが、華やかな法廷弁護士ではなく影で事件をもみ消す掃除屋(フィクサー)だ。

 その彼が今回のこの大スキャンダルをどう掃除するのか、そこが見所となっている。

映画 「紀元前一万年」

2008年05月08日 | 映画(カ行)
 マンモスが闊歩する古代世界。怒涛のごとく走るマンモスの群れを恐竜に置き替えると「キングコング」で見た光景だ。しかしテレビ予告から想像するのとはずいぶん趣が違って、巨大生物の出番はわずかだ。

 もっぱら人間ドラマの比重が大きく、それがまた意外なほど素直に出来ている。巫母と呼ばれるまじない師の語る伝説の世界が、予定調和的神話として描かれている。

 古代都市のエジプト的なビジュアルはかつて見たエメリッヒ作品「スターゲイト」などを思わせる。彼らが建造しようとしているのはまさにピラミッドのようだ。

 都市文明を築くために自らを神に見立てた人間の思い上がりが戒められるあたり、旧約聖書のバベルの塔のエピソードにも、近代都市文明批判にも見えてくる。

 全編のナレーションを担当しているのが懐かしや、「ドクトル・ジバゴ」のオマー・シャリフで、重厚な語りが耳に心地よい。

「映画千一夜」1%達成 ~ 千里の道も一歩から

2008年05月01日 | 映画

 週刊のメールマガジン「映画千一夜」を創刊して10週が過ぎた。

 タイトルどおり1001回の発行を目指すとして、ようやく1%の出来高だ。あと99回これを繰り返せばいいのだ。それで20歳年をとる計算だ。

 「アラビアン・ナイト」と同じく、夜毎語り継ぐスタイルを取っており、これまでの10夜分を紹介すると次のようなラインアップになる。

第1夜 千夜一夜物語
第2夜 アラビアンナイト
第3夜 アメリカの夜
第4夜 1000日のアン
第5夜 2001年宇宙の旅
第6夜 10,000 B.C
第7夜 007/カジノ・ロワイヤル
第8夜 8人の女たち
第9夜 8 1/2
10夜 十戒

 新作紹介ではないので読者は少ないが、DVDレンタル時には多少の参考にはなるかもしれない。