これまでのどんな映画とも違う、不思議なタイの映画だ。映画を見たというよりは、2時間の不思議な体験をしたと言った方が良い。
この世とあの世の間、現実と夢の間で境界線が風にそよぐように揺れる。その時、こっち側に立っているつもりでもあちら側に足を踏み入れているのだ。
ブンミおじさんの夕食の食卓には、死んだ妻も、行方不明になり今は猿になっている息子も生者と同じように座る。病気で死が近いおじさんの立ち位置からはどちらの世界も眺められるということなのだろう。
映画を見ていて眠くなることはないのだが、この映画だけは例外だったと知人が言った。半信半疑で臨んだが、それが理解できた。
画面から流れる続ける自然音や何か分からない響きが、体の深いところに作用するようで、いつの間にか映画と同じ現実と夢の間に鑑賞者である自分自身がいる。その夢うつつでの鑑賞がこの作品に限っては、むしろ正しい向き合い方なのかも知れないと思える。
ラストでは、生者であるおじさんの妹と僧になっているその息子の体にも離脱が起こる。ここにいる自分とは違うもう一人の自分がいる。どちらが本当の自分なのか、もう分からなくなる。