SEA side

静けさの中で波の音だけが永遠に響きつづける。
美しいものとの出会いの記憶・・・・。

映画 「その土曜日、7時58分」

2009年05月29日 | 映画(サ行)

 シドニー・ルメット監督の新作。84歳とは思えぬパワフルな演出だ。

 運命がある一瞬を境に切り替わり、一つの家族が崩壊していく過程が描かれる。

 フィリップ・シーモア・ホフマン、イーサン・ホーク、マリサ・トメイ、アルバート・フィニーといずれもアカデミー賞受賞あるいはノミネーション級の役者が主役に顔を並べている。

 幼少期以来、弟に対するコンプレックスを抱きつづけている兄の、父親との葛藤が思わぬ形で噴出して、悲劇をさらに大きなものにしてしまう。

映画 「ある公爵夫人の生涯」

2009年05月27日 | 映画(ア行)

 イギリスの公爵家をめぐる三角関係の行方を描くコスチュームプレイ。

 キーラ・ナイトレイが毅然と公爵夫人を演じている。同じ家庭内に妻と愛人が同居する奇妙な生活だが、むしろその二人の友情関係が夫と拮抗することでバランスが取れているようだ。

 夫のデヴォンジャー公爵はレイフ・ファインズが演じており、これといった出番のない控えめな設定であまり見せ場はないが、心の内の微妙な変化が物語の陰翳を醸す重要な役だ。

 公爵夫人ジョージアナの生まれたスペンサー家は故・ダイアナ妃の生家だそうだ。母親役はシャーロット・ランプリングと充実の配役である。

 衣装と美術の豪華さは目の保養になる。各映画賞ノミネートもその分野が中心で、アカデミー衣装デザイン賞を受賞している。

映画 「グラン・トリノ」

2009年05月26日 | 映画(カ行)
  「チェンジリング」に次ぐクリント・イーストウッド監督作品。今回は主演もかねている。前者をパワフルかつスリリングと形容するなら、本作は渋い円熟の味わいである。

 しかもこれまでのイーストウッド作品のエッセンスが凝縮されている。

 「ミリオンダラー・ベイビー」にあった師弟と家族のあり方をベースに、ダーティ・ハリーの過激な正義を現代の西部劇として描いているようだ。

 それにしても、頑固一徹で差別と偏見に凝り固まった、誰から見ても好きにはなれない老人が、しだいに頼もしく愛すべき人間に変わって行く、そのじっくり、ゆったり描かれたリズム感が心地良い。

 2作がほぼ連続的に公開され、まったくスタイルは異なり、それぞれに良いのだが、どちらを取るかと詰められたら「チェンジリング」の方かな?

映画 「レッドクリフ PartⅡ 未来への最終決戦」

2009年05月19日 | 映画(ラ行、ワ行)
 二部作の完結編。

 メインディッシュに当たる赤壁の戦いは、溜めに溜めた抑制を、最後にあらん限りの力で解き放つような迫力で見せる。

 古典的な戦いだが、そこに至るまでに細菌戦、心理戦、諜報戦のような現代的な要素が詰まっていることが分かる。

 ヴィッキー・チャオ演じる尚香のスパイ戦が大きな役割を果たすが、このパートは全体としてはコミカルな演出になっている。

 天の時、地の利、人の和が劉備・孫権連合軍に勝利をもたらす。まさに「天地人」、NHK大河ドラマの世界だ。そういえば「風林火山」の言葉も出てくる。

 戦いの戦略、戦術が具体的視覚表現として眼前に繰り広げられる様は圧巻である。

映画 「チェイサー」

2009年05月14日 | 映画(タ行)

 餌を取られた犬が取った犬にとことん仕掛かっていくような映画だ。

 主人公自身女性を食いものにしている。体調のすぐれない子持ちの女性をデリヘルの仕事に追い立てている。元刑事だ。

 彼が追うのがシリアル・サイコキラーの若者。ハンニバル・レクター博士のような美学を持っているわけではない。極めて現代的な得体の知れなさ、何かによって偶然キレて暴発してしまう。犯人役ハ・ジョンウの造形が底知れない怖さを生む。

 何処にでもあるような迷路のように入り組んだ住宅街に設定された闇空間が恐ろしい。どういう理由で何故?はあえて説明されない。理不尽な恐怖が突然現れるところが現代的と言えるだろう。

 ハリウッドでどうリメイクされるのか今から楽しみだ。

映画 「大阪ハムレット」

2009年05月12日 | 映画(ア行)

 3兄弟がそれぞれに悩みを抱えている。

 その父親の死後、叔父(父の弟)が居座ってしまう。というハムレットなみの設定だが、愛憎も復讐もなく大阪弁のマッタリ感と松坂慶子の肝っ玉母さんぶりがすべてを飲み込んで、愛すべき家族の風景が繰り広げられる。

 年上の恋人と言っても、たいした差ではないと思っていたが長男が高校生ではなく中学生なんだと知ってビックリ。

 次男は極め付きのワルのようだが、真面目にシェークスピアに取り組むし、家族で弟の学芸会を見に行ったりするので、まったく憎めない。

 末弟は性同一性障害に悩んでいるが、同級生も先生もそれを優しく受け入れている。実に進んだクラスだ。

 「崩壊」とは無縁の、求心力に富む羨ましい家族の物語だ。中心にあるのは母性の輝きか?

映画 「スラムドッグ$ミリオネア」

2009年05月11日 | 映画(サ行)

 波乱万丈のサクセスストーリー。それだけでも成立するストーリーを、クイズ番組のあまりの正解率に対する嫌疑への証言、という知的な語り口で構成している。

 自分の人生がそっくり出題されるような、そんな偶然があるだろうか?と疑問を呈する向きもあろうが、それが運命だったのだとこの映画は言っている訳だ。納得してもらうしかない。

 ほとんど拷問に近い取調べを受けておきながら、何事もなかったかのように平然と翌日の生収録の続きに顔を出せることに驚く。黙って耐えるしかない、それがインドの現実であり、日本とは違う日常がベースにあるということだ。
 みのもんたがコマーシャルの間にあんなことをやっているわけではない。ですよね?

 最終問題は簡単すぎるが、物語の構成上、主人公の人生に於けるもっとも大切な場面が出題されると言う展開ならば・・・やむを得ない?

 エンドクレジットのダンスはとてもハッピーな気分にさせられて楽しい。オスカー作品にしては公開規模が小振りなのはスターが出ないから?

映画「 わが教え子、ヒトラー」

2009年05月08日 | 映画(ラ行、ワ行)

 ヒトラーを茶化した悲喜劇。文字通り張りぼてと化した第三帝国の裏側を描いている。ただコメディと呼ぶにはシリアスだ。

 ヒトラーを「独裁者の孤独」の視点からとらえているため、いわゆるナチスの非道はあえて画面には出てこないし、ヒトラーはただの叔父さんに見えてくる。ヒトラーの教師役になる「教授」一家も家族は多いが、ここに至るまでの間、誰一人収容所で命を落としてはいない。

 「ヒトラー=ユダヤ人」説なるものがあったが、この映画では自らユダヤ人の血を引いていることを語らせもしている。また厳格な父親の教育が性格形成に影響を与えたと言う設定だ。

 ナチスの画策したヒトラー大演説は、偶然が重なって吹替えをすることとなった教授が暴走、壮大な失敗に終わったことになるわけだが、その後どうなったのか、歴史とこの物語をどう結び付けたいのかが曖昧なまま終わっている。

映画 「ノン子36歳(家事手伝い)」

2009年05月07日 | 映画(ナ行)
 登場人物の誰にも感情移入はできない。どうなって欲しい、という期待が無いだけに、物語がどう転がっていくか分からない面白さがある。

 坂井真紀が演じる、かつて芸能人だったというヒロインは無気力な日常に埋没している。出戻り娘が住む実家は小さな地方町の神社だ。そこの年に一度の祭りがこの映画の描く唯一の非日常だ。

 縁日で店を出したい若者と、ヒロインのかつての夫でありマネーネージャーだった男が非日常要素として加わる。

 波紋の起こった水面が、また元のように静まるまでを描いているかのようだ。若者が持ち込むヒヨコの群れが、画面に生気を与える思わぬ効果を生んでいる。