SEA side

静けさの中で波の音だけが永遠に響きつづける。
美しいものとの出会いの記憶・・・・。

映画 「KIDS」

2008年04月28日 | 映画(カ行)
 乙一の原作は「傷」。それを「KIDS」としたタイトルセンスは素晴らしいのだが、小説では主人公が小学生なので良しとするも、映画に主演した小池徹平も玉木宏もKIDSと呼べる年齢かどうか?もっとも古くは北野武の「キッズ・リターン」が金子賢、安藤政信で、役の上では20歳チョイ前のキッズだったが。

 超能力者の物語だ。タイトルにある「傷」を移動させ、人の痛みを自分の体に引取ってしまう優しい若者の話だ。ただ映画の冒頭でそれを暗示させるために、テ-ブル上の小瓶を動かすシーンが用意されているのだが、物理的に物を動かす念力とは別種の能力なので、脚本の浅さがいきなり露呈し、白けてしまう。

 原作は乙一の持ち味である「切なさ」で語られるが、映画の方は、これがアイドル映画の常道と言わんばかりにハッピーエンディングに持ち込んでいる。

 そのため余韻に乏しく、アイドル映画がアイドル映画として終わってしまう。それがファンの期待と言ってしまえばそれまでだが、彼らの優れた表現力の可能性はそのためにそこまでで止められてしまっている。ファンだって本当はアイドルの別の一面を見たいと思っているのではないか?

 まったく同名のラリー・クラーク監督作品(1995年)がある。こちらはニューヨークのティーンエイジャーの性とドラッグに浸った日常を描いている。

映画 「ブラックサイト」

2008年04月25日 | 映画(ハ行)
 無責任な好奇心がいかに人を傷つけるか、がテーマ。それをシリアル・サイコ・キラー風のミステリーに仕上た作品。

 あそこまで残忍な犯行に走れるかどうかは別として、犯人の動機には同情の余地がある。

 ダイアン・レインがネット犯罪を担当する捜査官を演じるが、母としての家庭生活と仕事との葛藤もキチンと描かれる。

 冒頭でヒロインは道路渋滞に巻き込まれる。道路脇の交通事故現場を眺める車両が、そこで速度を落とすためだと分かる。この好奇心がネット上で悪意のもとに操られたらどうなるかを描くために、さり気ない伏線として配置されたエピソードだ。渋滞の理由をヒロインは、車中からやはり最新のシステムを使って知る。

 物語の基本的な組立てや背景を、自然にかつコンパクトに観客に提示する巧妙なオープニングだ。

 操作のプロセスは明快にスピーディに進み、一挙に犯人を特定、ラストのクライマックスへ突入する。これが動機なき愉快犯だったらこう簡単には行かなかっただろう。

 ネット時代、誰もが荷担してしまう可能性のある恐怖の世界を描いている。

映画 「モンゴル」

2008年04月22日 | 映画(マ行)
 浅野忠信主演のアカデミー外国語映画賞ノミネート作品。

 チンギス・ハーンの幼少時からモンゴル統一までの波乱の生涯を描いている。
 昨年公開された邦画「蒼き狼」に描かれたハーンの息子の苦悶は、本作のエンドマークの後に続く部分。

 多国籍映画だが台詞は全編モンゴル語、出演する俳優もそれらしい顔つきで、横綱朝昇龍はこういう風土の中で育ったのだと思った。冒頭近くでモンゴル相撲のような場面も出てくる。

 映画は獄中に繋がれたハーンの回想で始まる。幼少時から再びこの獄に話が戻るまでがかなり長い。この間ハーンの半生は受難、また受難だ。そのたびに一から、というよりゼロからやり直している。

 獄を抜けてからが「第2部」に相当するがここからクライマックスの大戦闘シーンに至る間、いかにしてあれだけの支援者が集まり軍を編成できたかはほとんど描かれない。いつのまにか人が集まっている。

 コッポラの「ゴッドファーザー」はその辺のディテールに説得力も魅力もあった。

 本作はむしろ戦闘シーンに相当の重心があるようだ。画調、色調が重々しく変化し、血しぶきが逆光の中で赤く輝く。

 浅野忠信は熱演、獄中で風呂にもいらず顔面が垢と汗の痕で覆われ、まるで土の仮面のような形相は鬼気迫る。モンゴル統一をなしえた男の並大抵ではない気力と迫力が伝わってくる。

 それにしても、パオというモンゴルの住居は移動を前提にしている。遠征に出た男たちが、広大なモンゴルの大地のどこにいるのかさえ定かでない家族の下へ再び帰ること自体が奇跡のようなものだ。 

映画 「スパイダーウィックの謎」

2008年04月18日 | 映画(サ行)
 「ネバーランド」「チャーリーとチョコレート工場 」の子役フレディ・ハイモアが主演するファンタジー作品。しかも今回は双子の二役だからファンには倍の楽しみがある。

 妖精世界の進入を阻む結界をめぐる攻防の物語なので、妖精やらモンスターやらがウジャウジャと出てくる。実写との合成やまったく違和感の無い双子の描写などSFXは素晴らしい。

 ただ天才子役の呼び声が高い逸材フレディ・ハイモアを得ながら、物語自体がやや低年齢層向きの印象だ。この手のファンタジーは主人公が家庭的な問題を抱えているケースが多いが、本作もその例に漏れない。

 その心理的な葛藤とスパイダーウィック家の過去の事情が、もう少し大人向けに書き込まれたら素晴らしい作品になっただろうなと思える。

 悪い妖精はゴブリンと呼ばれているが、「スパイダーマン」で悪役ウィレム・デフォーはグリーン・ゴブリンという怪人に変身していた。このゴブリンがまことに騒々しい。一方で花の妖精は限りなく美しく、優雅で可愛いのだが物語には絡んでこない。

映画 「タロットカード殺人事件」

2008年04月17日 | 映画(タ行)
 ニューヨークとの決別後、ヨーロッパに舞台を移したアレンの新作。系譜としては前作「マッチポイント」に続くミステリーだが、ロマンチックコメディの色彩が強い。アレン自身が出てくると、もうそれだけで絶対にシリアスにはならない。

 アレンの作品には時々超常現象が出現するが、これもその一つ。ゴースト・ストーリーでもある。

 箱の中の人が消失するマジックは、スコセッシ+コッポラ+アレン3大監督の超豪華オムニバス映画「ニューヨーク・ストーリー」のアレン編にも登場している。本作とはかなり近い位置関係にある作品だ。

 この時アレンは母親と一緒にマジックショーを見にきた観客であり、客席から舞台に上げられ箱の中で消失するのは彼の母親である。で、消えてどこに行ったかはステージ上のマジシャンも困惑してしまう超常現象として処理されており、映画を見ている観客も「そんなのあり?」状態であった。
 
 新しいアレンのミューズ=スカーレット・ヨハンソンが前作に続いて主演している。マッチポイントの毒婦が今回は可憐な女子学生だ。アレンも楽しんで作っているようでタッチは軽く、いわゆるミステリーとしてはコクが無い。

 結末としては、実は違った・・・というハッピーエンディングに持っていったら良かったと思う。アクション映画では想像できなかったヒュー・ジャックマンの新たな魅力を生かすためにも。

映画 「ダージリン急行」

2008年04月16日 | 映画(タ行)
 三兄弟の極彩色インドの旅を綴るロードムービー。

 冒頭、すでに発車した列車を追う旅の男を追い越して次男が飛び乗り、映画はスタートする。脱落する旅の男にウェス・アンダーソン監督作品常連のビル・マーレーが扮しているのは愛嬌か?前作から今回は出番の無い本作へのバトンタッチのようにも見える。

 三兄弟は長男オーウェン・ウィルソン、次男エイドリアン・ブロディ、三男ジェイソン・シュワルツマン。まったく似ていないが大きく特徴的な鼻だけは共通している。

 ウェス・アンダーソン監督作品は日本公開作に関する限り「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」「ライフ・アクアティック」に次ぐ3作目だがいずれも気心の知れた仲間と楽しんで作っている雰囲気がよく伝わる。いわゆる「緩さ」が持ち味だ。それを退屈と取るか癒しと取るかで評価は違ってくるだろう。

 今回は脚本にロマン・コッポラが参加、同じく脚本にも参加した三男役のジェイソンはその従兄弟に当たり、「マリー・アントワネット」ではルイ16世をやっていた。いわば本作はアンダーソン一家とコッポラ・ファミリーの合作といえる。

 本編に先立って短編「ホテル・シュヴァリエ」が上映されるが、タイトルではこちらがPart1、本編がPart2とクレジットされている。Part1はパリのホテルの1室でのエピソードで、三男ジェイソン・シュワルツマンとその恋人(だった?)ナタリー・ポートマンの2人芝居だ。ナタリー・ポートマンはPart2冒頭のビル・マーレーとともに映画の後半でもワンシーンだけ幻想的に登場する。

 ウェス・アンダーソン監督3作の中では一番面白く見ることが出来た。

映画 「ノーカントリー」

2008年04月15日 | 映画(ナ行)
 年寄りには住みにくい世の中だ、という老人のボヤキがタイトル(”NO COUNTRY FOR OLD MEN”)だが、ハードな映画だ。文学的な香気に血の臭いが混ざる。

 主な登場人物は3人。麻薬にからむ大金の持ち逃げするルウェリン・モス(ジョシュ・ブローリン)と彼を追う殺し屋アントン・シガー(ハビエル・バルデム)、その彼を追うトミー・リー・ジョーンズの保安官である。

 一応ルウェリンが主人公のように始まる。保安官の登場はずっと後の話だ。しかし、後半のルウェリンの死は主人公扱いではない。物語はさらに続き、退官後の保安官が見た夢の話で終わる。そこで冒頭の語りに観客の記憶は飛び、登場の遅かったこの保安官が実は物語全体の語り部であり、その時代の行く末を案ずる古き良きアメリカの嘆きが聞こえてくることに気付く。

 大金の行方は結局よく分からないままだ。だけどそれは多くの人の人生を狂わせた。ラスト近くで事故に遭った殺し屋シガーを助ける少年たちのエピソードがはさまれる。ここでもお礼に渡された紙幣がその彼らの間に微かな軋みをもたらしたことが、さり気なく描かれる。

 アントン・シガーの悪魔のような存在感をハビエル・バルデムが見事に演じて、肌寒くなる恐ろしさだ。

映画 「デッド・サイレンス」

2008年04月08日 | 映画(タ行)
 腹話術をモチーフにしたホラー映画。当然腹話術人形が出てくるが、これが不気味だ。

 冒頭のタイトルバックで人形の制作課程がいかにもホラー映画らしく描かれ、腹話術氏が書きとめたノートの中に「完全な人形」というメモが見える。 

「完全な人形」とは何か?「人形」は人の形なのだから、「完全な人形」は限りなく人間に近い・・・ということになるだろう。それが何を意味するのかが衝撃のラストとなる。

 話自体は復讐劇だ。日本の幽霊ものならジワジワと心理的に追い込んで復讐を遂げるところだが、こちらは「目には目を」のスタイルで直接的だ。ただ復讐する側が生きた人間では無いために話としてはホラーになってくる。

 それはあり得ないだろうという状況も、霊が絡むと「あり」だ。その分、脚本としては書きやすいのかもしれない。

 被害者は一瞬にして舌を食われ、そのためアゴが外れて惨い顔になってしまう。美人の女優さんにとってはやや酷だ。

映画 「ラスト、コーション」

2008年04月04日 | 映画(ラ行、ワ行)
 ラストはLASTではなくLUST。
 LUSTは性的な欲望、肉欲のことで聖書の七つの大罪の一つ。ブラッド・ピット主演の「セブン」はこの七つの大罪の「七」である。

 漢字書きされた原題「色・戒」を見ないと邦題の意味は分からない。官能とそれに対する戒めの物語なのだ。この聖書に由来する観念が1940年代、日本軍占領下の上海、香港を舞台に展開される。

 官能シーンの過激さが話題になっているが、物語は時間の流れに沿って前後に大きく分かれており、この前半の描写に抑制が素晴らしく効いているからこそ、後半の愛欲の激しさがより際立ってくるという、絶妙のバランス感覚を見せている。

 トニー・レオンが演じる男は祖国を裏切っているがゆえに、冷徹で異常なまでの猜疑心と用心深さをもっており、その彼からあそこまでの愛情と信頼を勝ち得るために説得力のある性愛の激しさを描き出すとすればこうなるのだろう。

 戒=コーションが下された後の深い空しさが画面から漂ってくる。

映画 「ポストマン」

2008年04月03日 | 映画(ハ行)
 富士山、菜の花、赤いポスト・・・日本の原風景だ。そういうモチーフの映画はたいていまっすぐに素直だ。本作もその例外ではない。思ったとおりに筋が運ぶ、そういう意味では安心できる。が、そこが物足りないという人も多いだろう。

 民営化前の郵政公社時代の郵便局が舞台になっている。郵便が運ばれるしくみも、郵便局の規則も、なるほどこうなっていたのかと良く説明してくれる。

 手紙というメディアの持つ意味を、いまさらながらに再認識させてくれる内容だ。

 郵便は「心を運ぶ」という部分で単なるビジネスではない。そこで人情と職場の規則の板ばさみになる主人公の立場も描かれる。
 しかし最終的にここに描かれるのは人情の世界だ。ウォール街のビジネスマンではない「郵便屋」の世界だ。

 今回製作総指揮も兼ねた長嶋一茂のやや前近代的な主人公の描写が、類型的ではあるが悪い感じはしない。

 すでに郵便局は昨年秋に民営化されている。効率化で切り捨てられていくものも多いはずだ。主人公の世界観はどう変わるのか?民営化で揺れる郵便屋を描く期待の第2部・・・が出来るわけないか。

 素直な運びの中でただ一つ、物語の主筋に関わる郵便の意外な利用法が出てくる。どんでん返しというほどではないものの、物語の薬味として効いている。