これはいままでほとんど知られていなかったことですが、実はM3グラント戦車には左右対称の鏡像型が作られていたんです。写真をご覧下さい。下半分は我々が見慣れた、車体右側スポンソンに75ミリ砲を装備したタイプですが、上半分は同様のスポンソンが明らかに車体左側に付いていますね。
M3リーとグラントとの違いは、その砲塔にあることはよく知られています。英軍が無線機を搭載するスペースを有する大型砲塔を望んだため、再設計された大型砲塔を載せたのがグラントです。ところが英軍がリーに抱いた不満はそれだけではなかったのです。75ミリ砲が車体の片側にしかないことも、同時に問題とされました。要するに、車体の右方向は射撃できるのに、左方向になると射角が極端に制限されるのです。そこで英軍では、75ミリ砲を反対の左側に装備した鏡像タイプを並行して生産することとなりました。つまり、一個小隊に右タイプと左タイプを半数ずつ配備し、それらがお互いに死角をカバーし合いながら連係して行動するよう訓練することにしたわけです。ちなみに、75ミリ砲が反対側に移った分、砲塔は車体の右寄りになりました。
って、嘘ですよ~、嘘!
この写真、実は以前ヒストリーチャンネルで放送された新東宝映画「第二次世界大戰」のシーンなんです。ドキュメンタリー映画でして、製作当時の日本の風景も交えながら、第二次大戦を回顧する形で、記録フィルムを組み合わせつつ、北アフリカから始まって欧州戦線を概観する形になっています。
ふんふんなるほど、まあよくまとまっているわい、とぼんやり長めながら……ん?今のはなんだ? 目にとまったのは、見慣れたグラントとは反対の位置に75ミリ砲を装備した変わり種グラントだったんです。ありゃ?そんなタイプはあるはずがないんだが?
で、しばらく映画を見ていて、やっと理由が分かりました。これドキュメンタリーと言いながら、映画全体が演劇タッチになっているんですね。特に北アフリカの砂漠戦の映像では、広々とした砂漠を背景に車輌が走り回るので、特に英独の車種を知っていなければ、どちらが英軍でどちらがドイツ軍なのか、見ている人によく分かりません。
そこでこの映画、役柄で進行方向をそろえたんです。つまり、ドイツ軍の車輌はすべて画面の左から右へ進むように、反対に英軍の車輌はすべて画面の右側から左側へ進むように、元の記録フィルムを必要に応じて無理矢理反転して使用して、いかにも右と左から両軍の車輌が激突するように演出したんですね。
だからこのグラントの映像も、全体として英軍の戦車部隊が右から左へ動くように、裏焼きした状態にされちゃったんです。この写真はちょうど車輌が前を向いたところを選びましたが、その前後ではグラントは画面右から左へ進軍して行きます。ドイツ軍はその逆。他の戦車なら、よく見ないと裏焼きされていることに気づきませんが(例えば車体機銃の位置など)、グラントだけは左右裏焼きがめちゃくちゃ目立った、というわけです。写真下半分のように、戦闘が終わった後の、しかも画面奥から手前へまっすぐ走ってくる場面では、特に裏焼きはしていないんですね。あー、びっくりした。
この映画、企画製作はすべて日本の新東宝が手がけていますが、テロップに「この映画に使用せる外国の場面は英国陸軍省の好意により資料として提供されたものであります」とあります。ただ、裏焼きしたのが英陸軍省なのか新東宝なのかは分かりません。制作年もどこにも書いてなかったのですが、中に「先ごろ板門店で休戦協定が結ばれた」と出て来ますので、1950年代半ばの作品でしょう。おお、これだな。
http://movie.walkerplus.com/person/109848/
「1954/2/1公開」とあるから、間違いありません。
ついでに、ヒストリーチャンネルはお約束で番組の最初に「作品のオリジナリティを尊重して公開当時のまま放送いたします」と注意書きをつけています。あはは、違ぇねえ! 裏焼きのグラントもそのまま放映しているんですからねえ。
M3リーとグラントとの違いは、その砲塔にあることはよく知られています。英軍が無線機を搭載するスペースを有する大型砲塔を望んだため、再設計された大型砲塔を載せたのがグラントです。ところが英軍がリーに抱いた不満はそれだけではなかったのです。75ミリ砲が車体の片側にしかないことも、同時に問題とされました。要するに、車体の右方向は射撃できるのに、左方向になると射角が極端に制限されるのです。そこで英軍では、75ミリ砲を反対の左側に装備した鏡像タイプを並行して生産することとなりました。つまり、一個小隊に右タイプと左タイプを半数ずつ配備し、それらがお互いに死角をカバーし合いながら連係して行動するよう訓練することにしたわけです。ちなみに、75ミリ砲が反対側に移った分、砲塔は車体の右寄りになりました。
って、嘘ですよ~、嘘!
この写真、実は以前ヒストリーチャンネルで放送された新東宝映画「第二次世界大戰」のシーンなんです。ドキュメンタリー映画でして、製作当時の日本の風景も交えながら、第二次大戦を回顧する形で、記録フィルムを組み合わせつつ、北アフリカから始まって欧州戦線を概観する形になっています。
ふんふんなるほど、まあよくまとまっているわい、とぼんやり長めながら……ん?今のはなんだ? 目にとまったのは、見慣れたグラントとは反対の位置に75ミリ砲を装備した変わり種グラントだったんです。ありゃ?そんなタイプはあるはずがないんだが?
で、しばらく映画を見ていて、やっと理由が分かりました。これドキュメンタリーと言いながら、映画全体が演劇タッチになっているんですね。特に北アフリカの砂漠戦の映像では、広々とした砂漠を背景に車輌が走り回るので、特に英独の車種を知っていなければ、どちらが英軍でどちらがドイツ軍なのか、見ている人によく分かりません。
そこでこの映画、役柄で進行方向をそろえたんです。つまり、ドイツ軍の車輌はすべて画面の左から右へ進むように、反対に英軍の車輌はすべて画面の右側から左側へ進むように、元の記録フィルムを必要に応じて無理矢理反転して使用して、いかにも右と左から両軍の車輌が激突するように演出したんですね。
だからこのグラントの映像も、全体として英軍の戦車部隊が右から左へ動くように、裏焼きした状態にされちゃったんです。この写真はちょうど車輌が前を向いたところを選びましたが、その前後ではグラントは画面右から左へ進軍して行きます。ドイツ軍はその逆。他の戦車なら、よく見ないと裏焼きされていることに気づきませんが(例えば車体機銃の位置など)、グラントだけは左右裏焼きがめちゃくちゃ目立った、というわけです。写真下半分のように、戦闘が終わった後の、しかも画面奥から手前へまっすぐ走ってくる場面では、特に裏焼きはしていないんですね。あー、びっくりした。
この映画、企画製作はすべて日本の新東宝が手がけていますが、テロップに「この映画に使用せる外国の場面は英国陸軍省の好意により資料として提供されたものであります」とあります。ただ、裏焼きしたのが英陸軍省なのか新東宝なのかは分かりません。制作年もどこにも書いてなかったのですが、中に「先ごろ板門店で休戦協定が結ばれた」と出て来ますので、1950年代半ばの作品でしょう。おお、これだな。
http://movie.walkerplus.com/person/109848/
「1954/2/1公開」とあるから、間違いありません。
ついでに、ヒストリーチャンネルはお約束で番組の最初に「作品のオリジナリティを尊重して公開当時のまま放送いたします」と注意書きをつけています。あはは、違ぇねえ! 裏焼きのグラントもそのまま放映しているんですからねえ。