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2011自治体学校講座「社会保障政策」を読む

2011-08-01 23:57:58 | 政策・提案

今回の自治体学校の分科会の中で私は講座「新自由主義路線を露わにした財界・政府の社会保障戦略」に参加しました。講師は芝田英昭 立教大学教授でした。

政府は「税と社会保障の一体改革」に向けた関係閣僚会議で政府案を取りまとめることとし、前提として、国民が社会保障改革のために消費税の増税を了承済みとしているが、果たしてそうなのか。芝田教授は呼びかけました。

 

 

世界的にも、消費税を社会保障目的税とした国はなく、ヨーロッパでは2008年以降、むしろ外食産業などの特定分野で付加価値税(消費税)率を引き下げる動きがあり、最も消費税率が高いスウェーデンでも、2010年12月、レストラン等での消費税を25%から12%まで引き下げることを検討すると表明。日本の消費税増税の動きは世界の動きに逆行するものと指摘しました。

 

以下、芝田教授の講演内容です。

1.財界が求める社会保障改革とは?

(1) 経団連は2010年4月13日に「豊かで活力ある国民生活を目指して~経団連 成長戦略2010」を発表し、成長戦略として、法人税の引き下げを提案し、これにより、企業の国際競争力を維持し、海外への移転に歯止めをかけるとしているが、実際の企業が海外移転する理由の1位が「現地の製品需要」で、70.5%を占め、「法人税の優遇」を理由に挙げた企業は8%に過ぎない。また、この「成長戦略」では、道州制と「地域主権改革」による新しい内需の創出と成長力の強化、保険外サービスの拡大などによる医療分野の成長産業化、介護の産業化などを提案。

 

(2) 経済同友会は、2010年4月22日に「抜本的な医療制度改革への提言~持続可能な制度への再構築と産業としての医療の発展を目指す~」を発表し、「医療」を成長産業として捉え、公的医療保険の一元化、公的保険適用範囲の最適化=最小化、混合診療の全面解禁、株式会社による医療機関への参入規制の緩和などにより、産業としての医療を発展させることを提案し、74歳以下の医療費については保険原理を徹底させ、国庫負担をなくすこととしている。「介護保険」についても、2010年6月28日に「2009年度社会保障改革委員会提言~持続可能な介護保険制度に向けた抜本的改革を」の中で、自己責任、自助努力を基本とし、ナショナルミニマムを保障する公的制度と民間の力を活用する制度とに分け、財源は国民で広く負担し、受益と負担における世代間、世代内の格差を縮小、是正することを提案。これは、財源は消費税を充てるべきと主張している。

 

2.政府与党の目指す社会保障改革とは?

(1) 産構審産業競争力部会の2010年6月3日「産業構造ビジョン2010(報告書)」によると、聖域として残っていた医療、介護、健康、子育てといった社会保障分野を産業化することで競争力を高める、ビジネスチャンスをつくることを提案。内閣府の公共円卓会議も2010年6月4日に『「新しい公共」宣言』で、現在の企業も「新しい公共」の担い手であるとし、営利企業に公的分野を明け渡す根拠とされる恐れがある。

(2)2010年6月18日閣議決定の「新成長戦略~元気な日本復活のシナリオ~」では、医療・介護・健康関連産業を成長牽引産業と位置付け、民間事業者等の新たなサービス主体の参入を促進し、2020年までに新規市場約50兆円、新規雇用284万人を目標とする。また、「新しい公共」として、市民、企業、NPO等が国民の多様なニーズに応えるサービスをムダのない形で提供することで活発な経済活動が展開されると主張。

 

(3) 経産省・医療産業研究会の2010年6月30日に発表した「医療産業研究会報告書」では、これまで高く評価されてきた「国民皆保険制度」を、初めて「受給を自立的に調整する機能が低い」と批判し、公的保険制度の外も活用しながら医療の産業化を進めるべきだとしている。具体的施策としては、既に公的保険外の世界を活用するモデル事業として、公的医療保険のリハビリ限度日数に達した人を受け入れるサービスをコナミスポーツが受託しており、全国展開を目指している。

 

4 皆保険体制批判と医療産業化

 (1)皆保険体制の批判

 経産省・医療産業研究会『医療産業研究会報告書』(2010年6月30日)は、今日まで日本の医療を牽引してきた「皆保険体制」を真っ向から批判しています。

「国民情保険を基本とする日本の医療制度では、疾病に対しては、保険収載されていない診療内容は基本的に提供されず、疾病以外でも正常分娩のように保険収載されず提供されるものがあるが、極めて限られている。…中略…残念ながら、患者や顧客のニーズに応える自由なサービスの提供が十分に実現しているとは言えない」

また、「サービスの範囲と価格が定められている『計画された供給』が基本」(⑩五四)であるとしています。しかし、これは皆保険体制の問題点と言うよりは、保険収載の問題であり、実に意図的批判でしかありません。つまり、公的には患者のニーズに応えられない部分を、産業化すべきと言いたいのです。同報告書は、「日々の生活に関わる『医療生活産業』のサービスが、実需に応じて存在するようになれば、これまでミスマッチを承知で公的保険の枠内で供給を求めざるを得なかった需要に対して、より適合した内容のサービスを提供できる」「公的保険外の市場を形成する」方向を提案しています。

 (2)准病院・としての医療生活産業

 「医療周辺サービス(「医療生活産業」)を使いこなし・患者や消費者から見て、シームレスにサービスが連続する環境を構築することである。これは、「准病院」とも言える病院と自宅の間を埋めるサービス機能の創出とも言える」とは、結局患者の傷病に対して公的にカバーできる範囲を狭め、そこを隙間産業として育成することを意図しているといわざるを得ません。経産省は、二〇一〇年度「医療・介護周辺サービス産業抄出調査事業」を「株式会社コナミスポーツ&ライフ」に委託しました。同社のホームページによれば、「本来リハビリが必要にもかかわらず、すでに医療保険の『上限日数』に連したため、中断せざるを得ない方を対象として、。受け皿々的なリハビリ事業を展開します」としています。しかし、「本来リハビリが必要」とは、そもそも上限日数を設けず公的に行うべきですし、それを中断させ営利産業に売り渡すのは、国民の生存権をないがしろにしているといわれてもしかたないでしょう。また、同社は本事業を、課題などを調査検討し、実証を重ねながら、「高齢化社会に対応した地域密着型の各サービス事業者の連携モデルを構築し、全国展開を目指しています」(注4)と採算ベースに乗せようとしています。つまり、この事業が「医療生活産業」になるためには、公的保険がカバーする範囲を国家として最小限にとどめる必要があります。

 同報告書は、最後に「医療生活産業の振興や医療の国際化を目的とする医療制度の見直しは、公的保険外の市場の創出が目的であるという点において、従来の議論とは性質が異なる」(⑩四十七ぢ)とくくっています。

 

(4) 2010年10月28日の第1回政府・与党社会保障改革本部会合の厚生労働省「社会保障の現状と課題(資料)」では、「共助」のシステムとしては、国民の参加意識や権利意識を確保する観点から、負担の見返りとしての受給権を保障する仕組みとして、国民に分かりやすく、負担について合意が得やすい社会保険を基本とするとしている。これは、負担の見返りとして受給権があるという主張であり、私的保険の考え方とまったく同じである。

 

(5) 2010年12月10日の第2回政府・与党社会保障改革本部会合に提出された民主党の『税と社会保障の抜本改革調査会「中間整理」』では、社会保障分野には成長の可能性の高い産業が数多く存在すること、納得を得られる社会保障制度としては受益と負担を明確化すべきであること、社会保障の財源としては消費税が非常に重要であることなどが主張されている。

 

(6) 2010年12月10日の内閣府の社会保障改革に関する有識者検討会の「安心と活力への社会保障ビジョン」では、新しい社会保障の設計にあたり、超党派的議論の蓄積を踏まえて、負担のあり方も含めた改革のビジョンを示すとしているが、超党派的議論の蓄積があるのかは大変疑問。また、地方自治体が担う支援型のサービス給付とその分権的・多元的な供給体制とあるのは、医療・介護を営利企業などの「多様な主体」に開放することであり、消費税を社会保障目的税とすることも主張している。

 

(7) 政府が今国会に提出し、強行した介護保険法改正案の下敷は、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが委託を受けて提出した「地域包括ケア研究会報告書」で、ここでは、歩いていける範囲で医療も介護も受けられるという在宅を中心とした「地域包括ケアシステム」が提案され、2025年の超高齢社会を見据え、施設を全廃して住み慣れた地域で24時間の介護サービスが提供される体制をつくり、「ケア」と「住まい」の機能を分離することが提案されている。これは、これは、一見すると望ましい制度のように思えるが、地域でサービスを完結させることによって介護の責任を国から地域に移し、「ケア」と「住まい」を切り離して「ケア」を外注化することにより、営利企業が参入しやすい形を作り出すことになる。

 

「地域包括ケア研究会報告書」

(3)施設整備のあり方

 施設入所者は「より重度者に限定」すべきとし、原則在宅サービスを中心としています。

また、施設経営を多様な主体に開放し産業化の足がかりとしたいとしています。

現在介護保険施設は、自治体や社会福祉法人が開設できますが、「株式会社等、多様な経営主体の参入を促す」べきであり、その際「特別養護老人ホーム等を開設する社会福祉法人に対して行われている公的助成や税制面での優遇措置等はなくし、他の経営主体と競争条件を同一にする必要がある」としています。今日まで、社会福祉事業の発展に寄与してきた社会福祉法人を株式会社と同等の条件下に置くことは一見理にかなっているようにも思えますが重大な落とし穴があります。これは、施設整備への公的責任を捨象することが目的としか考えられません。また、施設整備にかかわる一定の費用は介護報酬に組み入れられることを意味することから、国民の施設整備を求めるニーズが高まれば、当然「保険料や自己負担」を引き上げるねらいもあります。

(4)在宅サービスヘの誘導

 「施設で介護を受ける場合についても、要介護度が同じであれば、在宅介護を受ける場合と支給額を同程度にとどめ、それを超過した費用分は全額自己負担とすべき」として、在宅サービスヘ誘導させようとしています。これは、将来的に施設サービスを廃止していく方向性を示唆したととらえられます。今国会に介護保険改正法が上程される見込みですが、この目玉は「地域包括ケアシステムの構築」だとされています。厚労省は二〇〇八年度に、三菱UFJリサーチ&コンサルティングに委託し、「地域包括ケア研究会」を立ち上げ、実質的にこの議論を介護保険改正法案の下敷きにしていますが、同研究会報告書(三菱UFJリサーチ&コンサルティング『地域包括ケア研究会 報告書』二〇一〇年三月二十三日)は、「世界的には潮流は『地域居住(エイジングインプレイス)』、すなわち、住み慣れた地域で高齢者の生活を支えることとして捉えられています。地域居住を実現するためには、従来の施設において一体的に提供されていた『ケア』と『住まい』の機能を分離し、ケアサービスを外部化することが鍵」とし、いわゆる介護保険施設を「高齢者住宅」に位置づけ、サービスは外部の在宅サービスを利用するシステムを構築しようと提案しています。これが「地域包括ケア」の根幹です。経済同友会も、この方向性を意図しているものと思われます。

 

3.この政府与党の目指す介護の産業化に対抗する2段階の取り組み。

(1) 第1段階としては、現在では現金給付となっている介護保険制度、医療と同じく現物給付とすること。そうすることにより、サービスを「買う」という制度ではなくなり、営利企業の参入を阻むことができる。

(2) 第2段階としては、介護保険を廃止し、社会福祉制度に戻す方向性を模索すること。十分な議論が必要だが、社会福祉制度に戻すことによって、生活支援の保険外しといった事態を防ぐことができる。

 

 

4.まとめ

政府与党が目指している社会保険改革とは保険外を拡大して新たな産業を創出することであり、これは、保険給付を際限なく縮小する可能性があり、地域主権改革によって全ての基準を地域に丸投げし、社会保障のナショナルミニマムをなし崩しにしようとする動きもでもあることから、構造改革・新自由主義路線から決別し、国家の責任としてのナショナルミニマムを確立し、基本的人権と生存権を基礎とした福祉国家構想を打ち出す必要がある。

 


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