いまの世の中、ときにまじめさや実直さが軽んじられたり、からかわれる風潮があります。そんな生き方は損だとばかりに。しかし実際に社会をつくり、支えているのは、多くの人びとのまじめな生活です
▼亡くなった宇津井(うつい)健(けん)さんは、その誠実な生き方が役柄からもにじみ出ていた俳優でした。1970年代のテレビドラマ「たんぽぽ」や「赤い」シリーズでは、厳しくも優しい兄や父を熱演。背筋を伸ばし、正義や道理を説く姿を懐かしく思い出します
▼本紙にもたびたび登場。90年代に車椅子の弁護士を体当たりで演じたときには、役を通して障害者の大変さをわかってもらえれば、と語っていました。そして「役者には現在あるのみ、過去の栄光はない。最近の作品は、そのつど最新の『遺書』のつもりで」と
▼昨年放映された「渡る世間は鬼ばかり」が遺作になりました。5人の娘の良き相談相手となる小料理屋の主人、2代目岡倉大吉役。板前について勉強し、懐の深い演技を見せていたのに…
▼プロ意識も高く、体を鍛え、節制に努めていた宇津井さん。長い芸能生活で休んだことは一度もなかったそうです。社会にも目を向け、テロにも軍事報復にも反対するアピールに名を連ね、平和や憲法9条を守る集会に足を運びました
▼温厚で気配りの人は、誰からも愛され、慕われました。同じ事務所に所属する藤原紀香さんも忘れられない言葉をもらったといいます。「有名になればなるほど頭(こうべ)は垂れるもの。実り多き、稲穂のように」(しんぶん赤旗「潮流」より
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