ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

チベットへの道

2008-04-29 05:00:40 | アジア


 ”徳乾旺姆(ドーチェン・ワンムー)”

 果てしない青空の下に広がる、遥かな山々と広漠たる草原。風渡るその風景の中に古びた鐘楼がポツンと立っている。そんな写真が表ジャケに使われている。
 先月の11日にチベットの女性シンガーソングライター、央金拉姆 (ヤンチン・ラムー)のアルバムを紹介したが、今回はチベットに隣接し、古くからチベット民族による吐番王朝の支配するところでもあった場所、中国領青海省出身の歌い手、徳乾旺姆(ドーチェン・ワンムー)のデビュー・アルバム(2006年作)など。

 こちらも同じチベット民族の女性シンガーソングライターではあるのだが、歌詞はほぼすべて中国語で歌われている。また、いかにもフォークシンガー然としてチベット高原の風が吹き抜けるような涼しげな歌声を聞かせる央金拉姆に比して、こちらはかなり情熱的でパワフル、かつ歌謡曲的猥雑ささえ秘めた歌唱である。

 サウンドはシンセと打ち込みのリズムが中心の音つくりで、時にNHKの”シルクロード”のシリーズの音楽を手がけた”喜多朗”のサウンドなど彷彿とさせる部分もある。それに時によって民族楽器が絡むという形で、歌手のスケールの大きな歌唱と相まって、広漠たる青海省の風土を聴く者の目の前に生き生きと展開してみせる運び。

 強力に民族音楽寄りの音作りでチベット民族の個性を前面に出す、という方向性で作られてはいないが、それでもかなりエキゾチックな辺境民族ポップスではある。ジャケ内に収められた草原や山々の壮大な広がり、荘厳な仏教寺院などの写真を見ながら聴いていると、心は雄大な歴史を秘めた風吹きすさぶ西域へ。

 青海省は古くから各民族が覇権を争った場所であり、チベット族とモンゴル族とが共に暮らした世界でもあった。以前よりチベット文化とモンゴル文化と通ずるものがあるような気がしていたのだが、なるほど、青海省が交流の場となっていたのだな。

 それは今日の中国政府によるチベット政策の事情ともかかわってくるのだろう。チベット民族は青海省もまた古くからのチベット民族の地と考えており、もしチベット本土と青海省とが共に中国から分離に向う事になれば、その領土は内蒙古に通じて中国西部を縦に割ることとなり、その西にはこれもおりあらば自主独立をとの気概を秘めた新疆ウイグル自治区が控えている。
 痛快だろうと思うけどねえ、ほんとにそうなったら。

 3曲目、中国最大の湖を歌った、まさに広々として神秘的な歌、”青海湖”の歌詞中で繰り返される”民族的自尊、祖国的光栄”が複雑な気持ちにさせてくれる。ここ言う民族とはどこの民族なのか、祖国とは何を指すのか。

 さっきから壮大という言葉を何度も使いたくなって困っているのだが。ほんとに広々とした時間と空間を感じさせるアルバムである。
 そしてラスト近く、高らかに歌い上げられるチベットの首都への賛歌、”ラサ祝福”は、その明るさ、内に込められた聖なるものへの敬意などなどが、チベット民族の明日への祈りに結実するかのように聞こえて、なにやら切なくもなってくるのだった。



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