ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

ウズベク、風の道

2010-01-26 03:24:04 | アジア


 ”Dunya”by Yıldız Usmonova

 ウズベキスタンを代表する女性歌手、ユルドゥス・ウスモノーヴァの昨年作。彼女の作品はもうずいぶん前に一枚聴いたことがあるのだが、そいつは現地のポップスに西欧のプロデューサーが手を加えた当時の流行りの”いわゆるパリ発ワールドミュージック”だったので、あまりピンと来ず、手放してしまった記憶がある。

 (ここで有能なるワールドミュージック好きのプロデューサー諸氏にお願いである。他所の土地の音楽をいじり倒すのはやめてくれ。そいつを”紹介”するのは大いにやってくれてかまわないが、あなたの趣味でヒップホップの要素を無理やりぶち込むとか、そういうことはやめて欲しい。余計なお世話であるし、他民族の文化への侮辱であろう)

 ところが今回の盤は、そのような欠点が解消されてウズベクの大衆音楽の味を楽しめる作りになっている。電気楽器は使われて入るが目立たないように後ろに回り、民俗打楽器のリズムがグッと前に出てきている。絡みつくように旋律を奏でる弦楽器の響きにも血が騒ぐ。なにより彼女の歌声が円熟の域にいたり、相当の迫力で聴かせる。佳境にいたり、ハスキーなんて言葉じゃ生易し過ぎる、ガラガラ声でシャウトするあたり、こちらの心まで熱くなってくる。

 当方として、もともとウズベクを含む中央アジアのポップスには心惹かれてならないところだったのが、これでますます気になってきてしまうなあ、CD、なかなか売ってないんだぞと嘆息してしまう出来なのだった。

 彼女の歌うのは、いわゆるイスラム色濃い音楽なのであるが、”本場”である中東のアラブ・ポップスにはない、いわばラフな良さがあり、足元からタクラマカン砂漠の砂埃が沸き立つみたいなラフな叙情に、どうにも心騒ぐのだった。
 周囲をアラブ文化に囲まれた環境で濃密に熟成されたアラブ歌謡、というのもゴージャスな悦楽をもたらしてくれるものだが、こちら、いわば辺境である中央アジアのイスラミックな歌謡表現には、また独特のスリルがある。

 ここでリンガラを夢中になって聴いていた頃を思い出してしまうのだが、私は当時、本場である”アフリカン・ポップスの総本山”ザイール(現コンゴ)の高度に進化したリンガラ・ポップスより、アフリカ東海岸、ケニアあたりで頑張るB級ローカルバンドの、いわば邪道のサウンドに妙に惹かれてならなかったものだ。異郷に生きる緊張感と、”権威”から離れた自由さと。そんなものが脈打つ彼らの音楽。

 あれと同じような辺境ポップスの着崩した魅力が、”イスラム音楽の一種”としてとらえた時の中央アジアポップスにはある。
 本場アラブものと比べれば濃密には構成されていないサウンドには、常に自由な風が吹き抜けており、広く厳しい自然の中で他民族との相克などにも出会いつつ歴史を重ねてきたウズベクの人々の生の記憶が、その歌の中に生きている。

 ウ~ン、このあたりはもっともっと聴いてみたいね。やっぱり心惹かれる中央アジアのポップス!ということで。