”Biruta Ozolina &Patina”
北欧のいわゆる”バルト三国”の一つ、ラトビアのフォーク歌手である、Biruta Ozolina が現地のジャズ・ミュージシャンとの共演で作り出した、不思議な手触りの一枚。
ラトビアの古い民謡をジャズのサウンドに乗せて蘇らせようという試みのようだが、これが独特の効果を生み出しているのだ。ちなみにジャケに書かれたこのアルバムの音楽ジャンル分けは”エスノジャズ”である。
Biruta の歌う、どこか日本の子供の遊び唄なども連想させる素朴で懐かしい旋律をもとに、バックにひかえるジャズマンたちは想像力を全開にして、今日のラトビアの当たり前の日常と、そこにふと忍び込む古代の幻想を描いている。
ピアノがジャズィな和音をまき散らし、雪降り積む北国の都市の灯りを表現してみせると、ベースが、その街を行く人々の抱えた孤独を低く呟く。そして聴こえてくる、素朴極まりない歌唱による忘れ去られていた民謡の調べ。
遥か昔のラトビアからやって来た古い古い言い伝えが、街の辻々に響き渡る。もう失われてしまった古語による物語と警句が、粉雪舞う街を行く人々の心に静かに染み渡って行く。
シャープなシンセのソロが表通りを走り去る車のライトの輝きを奏で、サックスの歌うレイジーなフレーズが街の暮らしの倦怠を滲ませる。
暮れ行く北の街の夕刻のある瞬間、古代都市の幻想が街を覆い、そして消え去って行った事を人々は知らずに終わるが、その日から街の人々を訪れる夜毎の夢は、これまでとは違った色合いを見せるようになる・・・