ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

ジャズの夜汽車の北帰行

2010-01-30 02:00:24 | ジャズ喫茶マリーナ
 ”Svingin' with Svend”
 by David Grisman Quintet featuring Svend Asmussen

 ドーグ・ミュージックのデヴィッド・グリスマンが、デンマークのベテラン・ジャズ・ヴァイオリニスト、SVEND ASMUSSENを迎えて1986年に行なったセッションの記録。なぜだか知らないけどこの盤、今、入手困難盤らしい。弱ったね、私はグリスマンのアルバムではこれが一番好きなんだけど。

 いかにも北国のミュージシャンらしい、思索的な翳りのある旋律が胸に染みるSVEND ASMUSSENのオリジナル曲や、彼の編曲になるジャズ化された北欧民謡などがまずは聴きモノだ。北欧民謡の合間には親指ピアノのソロまで飛び出す。
 やや薄暗いマイナーキイの旋律の支配下でジャジーにスイングする演奏は、リズミックでありながらも、その芯に冷たく沈み込むものを孕んでいるように聴こえるのは、SVENDが背負って来た北国の哀感がムードマイカーとなっているせいだろうか。

 いや、そもそもそれがこの盤のテーマであるような気がする。人の魂が、遠く広がる北の大地の薄明に託すものは何か?という・・・ほうら、甲斐バンドも歌っているでしょう、「北へ向う夜汽車は俺の中の心のようにすすり泣いてた♪」と。
 その2曲に続いて収められている”スイングしなけりゃ意味ないね”や”マイナー・スイング”といった”ありがちなジャズナンバー”もまた、やや違った色合いを帯びてここには収められているように感じられる。本来の曲調を離れ、ある種、ロシア民謡などに通ずるような内省的な響きをもった、ウエットな佇まいで演じられているような。

 この、夜の底を通り抜けるようなセンチメンタルな旅の感触が快く懐かしくて、なんか心の疲れた気分の時、このアルバムと酒をお供に一夜を過ごしてしまうのだった。
 国境の長いトンネルを抜けると北欧だった。夜の底がズージャになった。このメンツでスタン・ゲッツの”懐かしのストックホルム”とかやって欲しかったけどなあ。

 このアルバムの試聴は残念ながらYou-tubeには見つからなかったので、雰囲気的に似ていないでもないグリスマンとジェリー・ガルシャとの”ロシアン・ララバイ”などを貼っておきます。