”Wild Dances” by Ruslana
ウクライナの人気女性ポップス歌手のルスラナのことなど。
以前、彼女の”ブレイク前”のアルバムをここで話題にした事があったけど、今回はまさに彼女の出世作を取り上げる。2004年、ここに収めれられている”ワイルドダンス”という曲で彼女は、もしかしたら”東欧圏初”であるのかも知れない”ユーロヴィジョン・ソングコンテスト”における優勝を勝ち取ったのである。
このアルバムはその快挙を受けて、前年に出されていたアルバム”ワイルドダンス”を、ボーナストラックを加えて再リリースしたものだ。
彼女の音楽は”ウクライナの古い山岳民族の音楽をエレクトリック・ダンスミュージック化したもの”と言われているようだが、その”民俗性”がどの程度リアルなものなのかは浅学にして分からない。
ともかく彼女のプロモーション・ビデオなどを見る限り、その”野生のエネルギーを秘めた辺境の異民族”っぽい演出はファンタジー映画を見る如くであり、このあたりのエキゾティシズムが彼女の”売り”であるのは容易に想像が出来る。
このアルバムで聞ける彼女の歌はどれも、ロシア民謡風という言い方が適当なのか分からないが、ほのかにスラブ系の哀愁を漂わせたメロディに、バルカン音楽風、あるいはジプシー音楽あたりを想起させる香気を混入させたような、ややクセのあるメロディであり、アジア人である我々には妙に親和感を覚えさせるものである。
ともかくどれも初めて聴くメロディであるはずなのに、初聴きで馴染んでしまい、爪先でリズムを取り、歌声を追ってハミングを始めている私がいる。
ホーンセクションがバルカン半島を連想させるイスラムっぽいフレーズを高らかに吹き鳴らして暴れまくり、ルスラナがコーラス隊を従えて「ヘイ!ヘイ!」とワイルドなシャウトを繰り返す。あるいは打ち込みのリズム、あるいはハードロックっぽいエレクトリック・ギターのリフ、あるいは渦巻くようなシンセ音の洪水、さらに民俗打楽器の呪術的響きなどが渾然一体となって襲い掛かってくる迫力はなかなかのもの。
このあたりの土俗性と今日性を激しくバッティングさせた演出には、ワールドミュージック好きとしては手もなくやられて「ルスラナ最高!」と叫ぶしかないのである。
ルスラナの、こんな異形の音楽世界を目の当たりにすると、ウクライナってヨーロッパ人にとってどんなイメージの土地なのだろうと、あれこれ空想を試みたくなる。そうこうするうち、キャラ設定のためにいつもエグいメイクをしているルスラナって結構いい女なんではないかなどと余計な事にも目が行ってみたりする。
打ち鳴らされる大太鼓と角笛の響き。裸馬に乗って荒野を駆け抜ける夷たちが遠く呼ばわる声。ウクライナの夜祭りの幻が駆け抜け、”ワイルドダンス”のメロディは耳を去らない。