”第1集”by Jio
ああっ恥ずかしいっ。こんな音楽を聴いているところを誰かに見られたらどうしようっ!・・・と身悶えしつつ、でも聞く事をやめられない。大衆音楽ファンのこれは因果な醍醐味でしょうなあっ。
などと深夜一人、CD廻しながらわけの分からないボヤキを呟いてみる。いやなに、今、手に入れたばかりの韓国のトロット演歌の新譜を聴いていたんでね、多少の妄言はお許し願いたい。
”Jio”なる若い女性歌手の、おそらくデビュー盤。まあ大きなくくりの中では美人なんだろうが、妙に逞しいものを感じさせる女で、”女子プロレス”なんて言葉も頭を過ぎる。そんな外見にふさわしく相当にタフな喉の持ち主で、新人らしからぬパワフルな歌唱力を真正面に押し出し、ふてぶてしいとさえ言える歌を聞かせる。トロット演歌の歌い手なんてものは、このくらい強面でなけりゃやっていけないのかもなあ、などと勝手に納得するしかない。
アタマに収められているのが・・・昔、いましたね”わらべ”とかいう欽ちゃん番組に出ていた女の子3人組が。彼女らの”もしも明日が”なんてヒット曲を思い出させる”嬉し恥ずかし昔のド歌謡曲”的曲調の一発で、もうアタマからこれだもんなあ。妙な上昇志向などかけらも見られない、臆面もない歌謡曲ぶりがいっそ爽やかともいえよう。
その後も、ほんとにこんな曲を聴いているところを誰にも見られたくないなあと首をすくめるような、感傷垂れ流し古臭い歌謡曲感覚丸出しのド演歌が次々に繰り出される。
アルバムの主人公であるJioの歌声は時に「インネンつけてるんか?」と尋ねたくなるようなドスの効かせっぷりで響き渡り、バッキングも、「裏町酒場の酔いどれの感傷に時代の流れなど関係はない」と言わんばかりの時代錯誤ぶりを誇りつつ、揺るぎのないブンチャカブンチャカ道を全うするのである。
聴いていると、夜闇の高速道路を夜っぴて飛ばす長距離トラック運転手や、ソウル発最終列車に凍えた体を押し込み家路を辿る生酔いのサラリーマンたちの孤独や怒りなどが、安酒場において供されたイカ焼きの臭いとマッカリ焼酎の酔い込みでこちらの体にまで染み付いてくるような、ディープなディープな韓国風うらぶれフィーリングが溢れ出て、死ぬほどやりきれない思いに身を焼く羽目となるのである。
・・・と、ケチばかりつけているように聞こえるかもしれないが、これでも文意としては大衆音楽トロットの新人デビュー・アルバムの出来上がりを褒めているのであって、その辺を行間から読み取っていただけると幸いである。