ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

光の中のフィリピン

2009-03-18 03:40:09 | アジア
 ”Sharon Sings Valera”by Sharon Cuneta

 ずっと遠くで呼んでいる。あれは、遠い昔から糸一筋で続いているラテンの血の騒ぎか。それとも、もっと別のなにものかなのか。時の流れの中で、あまりに遠い面影になってしまって、その姿をしかと認めることも叶わないけれど。

 フィリピンの歌手、シャロン・クネータによる、同国の名作曲家、レイ・ヴァレーラ作品集であります。以前にアナログ盤で世に出ていたもののCD化で、すでにタガログ語ポップスの名盤として誉れ高いもののようです。
 シャロンは清純な美声を素直に響かせるタイプの歌い手で、そんな彼女にこうしてヴェレーラによる美しいメロディを、流麗なストリングスなどバックに歌われると、なんとも心洗われる気分になってきますな。

 ポップ・インドネシアなんかでもそうなんだけど、この種の洗練された東南アジアポップスを聴いていると、その奥で息ずいているラテンの血のざわめきのエコー、とでも言えばいいんでしょうかね、そんなものが気になってきます。歌われているのは、なんだか南欧の国のポップスめいた佇まいの旋律なんですね。
 それは、そのあたりを長期間にわたって植民地支配していったヨーロッパの国々が、その土地々々の人々の心の中に置き忘れていった唄の魂、その残滓なんでしょうけど。そいつが、東南アジアポップスが洗練に向うほどに目を覚まし、切ない残照のメロディを歌い出すかのような。

 植民地支配は何百年にも渡った訳ですから、その年季の入り方と言うものが違う。「R&Bが好きで~す」とか言っている昨今の我が国の”Jポップ歌手”あたりの付け焼刃とは。
 何代も何代も先から受け継いできた血の中に潜んだ、ずっとずっと魂の深い部分から、インドネシアやフィリピンの人々における”ヨーロッパのエコー”は吹き上げてくる。この深い味わいには、もう手もなく酔わされてしまうんですな、いやあ美しい、と。

 とは言うけど、もちろん植民地支配を受けるのが気楽な稼業であったわけはないんで。何度も書いて来たけど、インドネシアを領有していた時期、オランダの人々の平均身長は数センチ伸びた、というんですからね。当然、その数センチ分をインドネシアはその時期、奪われていたわけです。
 その苦痛を想像すれば呑気に音楽に酔い痴れているのも申し訳ないような気分になって来ますが、それでも美しい音楽である事自体は確かで、それを美しいと感じてしまう後ろめたさが、その音楽にますますの陰影を与えるという悩ましい形勢となって来ます。

 このあたりに関して、もうずいぶん以前に、ある絵本作家と論争したものでした。彼が、「だからヨーロッパの植民地支配を一概に責める事もないんですよ。二つの文化が出会い融合する事が出来たんですから」とか言うんでね。よくもまあ、そんな結論を簡単に出せるものだとその乱暴な論理に呆れたものでしたが。
 そもそも植民地支配を受ける人々の側に、それら文化上の影響を受けるか否かの選択の自由はあったのか。そして、すべてを奪われた人々が自らの文化を再び起こすのに、どれほどの努力が必要だったと思っているのだ、と。

 ほんとに、良い気持ちでこの音楽の美しさに酔ってしまっていいんですかね。そんな戸惑いを笑顔で打ち消す天使みたいに、シャロンの素直な歌声は緩やかに伸びて陽の光の元、太洋の波の連鎖の上をどこまでも渡って行くのでした。

 ☆付記 

 ■のり子さんに在留特別許可、叔母夫妻が養育者に

 この一連の報道におけるフィリピンという国の扱いについて問いたい。関係者諸君、あの国はこの世の地獄のような場所なのかね?
 マスコミの諸君、君たちの、「あのような劣等国に、先進国たる我が日本育ちの”のり子さん”を送り込むのは残酷過ぎます」とでも言わんばかりの報道に問題はないだろうか。

 ”のり子さん”ご本人よ。君にとってフィリピンとはなんだ?「人の住む価値もない薄汚い地獄」とでも思っているような君の態度だ。
 が、あの国にも日々を懸命に生きている立派な人々はいて、そして君は両親からその人々と同じ血を受け継いでいる。彼らは君の同胞なのだ。そんな彼らとフィリピンの地で暮らすのが、君にはそんなに苦痛なのだろうか?

 この事実を君は、どう考えているのだろう?「日本語しか話せないからフィリピンでは暮らせない」と言いながら、家では両親とタガログ語で会話していたと言う君よ?
 そして”のり子さん”の両親よ。君たちが生まれ育ったフィリピンではなく、法を犯してまでこの日本で暮らさねばならなかった、その理由はなんだ?

 恥と思え。申し訳ないと思え。たとえ現状がどうであれ、君らの父祖が、その血と汗と涙をもって守り育てた愛すべき祖国フィリピンではないのか。
 君ら家族三人は、故国の同胞と一緒に額に汗しフィリピンの大地を耕せ。そしてフィリピンを日本人がその豊かさをうらやむほどの理想国に、君らの手で育て上げるが良い。

 それに付けても非常に胡散臭く思うこと。
 この”各社右へならえ”で”かわいそうなのり子さん”報道を垂れ流すマスコミの異常な姿勢の裏に、露骨な陰謀が透けて見えて仕方がないのだ。
 日本の一般大衆のうちに、「不法滞在する外国人は同情すべきかわいそうな人たちだ」との思い込みを刷り込まんとする策謀が。
 なにかね、これは?裏に誰がいて、どのような勢力が利益を受け取らんが為の裏工作なのか?見守ろう。すべてのイカサマを見逃さぬために。

 ○のり子さんに在留特別許可、叔母夫妻が養育者に
 (読売新聞 - 03月16日 21:16)
 不法入国で強制退去処分が確定した埼玉県蕨市のフィリピン人、カルデロン・アラン・クルズさん(36)一家が日本にとどまることを求めていた問題で、法務省東京入国管理局は16日、中学1年の長女、のり子さん(13)に期間1年とする在留特別許可を出した。
 一家は家族全員の許可を求めてきたが、今月13日、東京入管との協議で、アランさんと妻サラさん(38)は強制退去処分を受け入れ、のり子さんはサラさんの妹夫妻が養育者となり、現在暮らしている埼玉県蕨市内にとどまることが決まった。両親は、のり子さんが2年生に進級する来月8日の始業式を見届けた後、同13日に帰国する。
 アランさんは「のり子に許可が出たのは支援してくれた人たちのおかげ。のり子にはダンスの先生になるという夢をかなえてもらいたい」と語り、のり子さんは「両親がこれまでやってくれていたことをこれからは自分でやらなければならない。もっとしっかりしなければと思っています」と話した。