ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

ロシアン・ルーツロックの女神

2007-12-27 03:28:10 | ヨーロッパ


 ”Девушкины песни(The Girl's Songs)”
           by ПЕЛАГЕЯ(ペラゲーヤ)

 ロシア・ポップス界で実力派の呼び声も高いペラゲーヤ。
 彼女はロシアのポップスやロック界と民謡の世界と、何股もかけて活躍する多彩な才能の持ち主とのことで、楽しみに聞いてみたのだ。

 なるほど、冒頭の曲など、エレキ・ギターのアルペジオに導かれて始まり、やがてザクザクと刻まれる生ギターとパーカッションが織り成すリズムがいきなり快感だ。なんだか”ロシア風の70年代アメリカ・サザンロック”みたいな陰りのある重たいノリが快い。

 毎度ロシアのポップスと言うと硬直した表情のエレクトリック・ポップスの作りが多くて辟易しないでもないのだが、このアルバムはキーボードよりはギター、打ち込みのリズムよりはドラムスの響きが際立つ音作りで、その広がりある世界が嬉しい。

 もちろん主役のペラゲーヤのボーカルも自由自在の飛び回りようで、ロシア民謡調のロックを歌っていたかと思えば終盤はイタリアのオペラの歌曲にいつのまにかなって、そのまま終わり、なんて人を食ったところも見せる。

 5曲目の、効果音的に鳴らされるパーカッションを除けばほぼ無伴奏で歌いだされる”詠唱”ってな雰囲気の曲もひときわ印象深く。彼女の本領発揮らしいロシア民謡で、なるほど根の深い歌唱で聴きごたえがある。
 しかし、なんだか日本語の歌詞をつければ日本民謡にも、英語の歌詞をつければブリティッシュ・トラッドにも聞こえそうな曲だなあ。根に至れば通ずるものはあり、と言うことか。

 全体に、もともとの彼女の出自らしいロシア民謡の素地を生かしつつ、完全にロックを自家薬籠中のものにしていて、獲得したその広い世界の中で生き生きと彼女独特の表現を繰り広げてくれる、このあたり、ロシアのルーツロック誕生!みたいで、こちらのようなワールド物好きには嬉しい存在といえよう。
 なにより終始歌唱に安定感があるんで、ハードなロックの後に感傷的なバラードを歌っても音楽の電圧が下がらなくて良い。

 ステージ映像など見ると、ビジュアルも音楽も、かなり民俗調というか土俗調を強調しているようで、地盤ロシアではどのような存在なのか興味がそそられる。というか、スタジオ録音ものでもあのくらいどぎつくやってくれるとさらに私好みなのだが。

 それにしても彼女、写真の写りようで素朴な村娘にも派手なロックねーちゃんにも辺境のシャーマンにも見え、そしてこのCDのジャケの彼女は、そのうちのどれでもなく写っている。実像はどれなんだ?