ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

忘れられた楽譜から

2007-12-13 01:13:58 | 南アメリカ


 ”Raras Partituras”by Ramiro Gallo Quinteto 

 国立図書館の奥に眠っていた、忘れられていたタンゴの楽譜を発掘して演奏するという、なかなか心躍る企画のライブを収めた盤であります。

 かって、非常に和声に凝った、洗練されたサロン風のタンゴが一部のミュージシャンたちによってしきりに作られた、そんな時代があったのだそうですよ、アルゼンチンには。その時代の詳細については、毎度すみません、良く分かっていなくていまだ調査中なんだけど。

 いずれにせよその片隅のブームというもの、タンゴの主流を成すほどの流れにもならずに、いつか時代の中で忘れ去られてしまった。今回、それらの作品群に今日のタンゴ界でも非常に個性的な演奏活動で知られるラミロ・カージョの五重奏団がスポットライトをあて、”古きよき時代の前衛”とも言うべき作品群に新しい生命を与えている訳であります。

 上のような次第なので、タンゴの重要な構成要素とも言うべき裏町のうらぶれ感や都市の悪場所のやさぐれ美学、そのような尖った個性の発露は希薄です。あくまでも室内楽的良さの探求とでも申しましょうか。
 実は楽団、結構凝ったことやってるんですが、伝わってくるのはあくまでも物静かな安らぎに満ちた音楽で、旋律のうちに脈打つ、南欧風の甘美なセンチメンタリズムが光ります。

 長過ぎる灰色の冬に飽いた窓にふと小春日和の陽光が差し、遠い南の輝く青空の気配がつかの間、部屋を満たした、そんな手触りの音楽。こんなのも良いですねえ、たまには。

 何曲かではゲスト歌手も登場し、この独特の音楽世界にふさわしい優雅な歌唱を聞かせてくれます。ことに、なんでもっとアルバムを出してくれないのかなあ、と毎度、嘆息させてくれる私のヒイキのリディア・ボルダの歌声が3曲ほどで聴けるのが嬉しいです。

 やあ、早く憂鬱な冬なんか終わってしまって、光溢れる春がやってこないものかなあ、などと冬は始まったばかりなのにもう考えさせられてしまう、そんな一枚なのでありました。