南斗屋のブログ

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地方公営企業の訴え提起時等の注意点

2022年01月06日 | 地方自治体と法律
 地方公営企業が訴訟をする場合に注意点についていくつか検討してみました。

(訴え提起時の議会の議決)
 訴え提起については、地方自治体は、原則として議会の議決が必要です(地方自治法96条1項12号)。しかし、地方公営企業の訴え提起は議決が不要です(地方公営企業法40条2項)。

(裁判上の和解をする場合には注意が必要)
 「損害害賠償の額を定めること」は、地方自治体では原則として議会の議決が必要ですが(地方自治法96条1項13号)、地方公営企業には条例で例外を定めることが認められています(地方公営企業法40条2項)。
よって、当該地方自治体の条例までチェックしないと議会の議決が必要なのかどうかがわかりません。
 例えば、千葉市立病院については、次のように規定されています。
千葉市病院事業の設置等に関する条例
(議会の議決を要する負担附き寄附の受領等)
第11条 病院事業に関し、法第40条第2項の規定により、議会の議決を要するものは、次の各号に定めるものとする。
(1) 負担附きの寄附又は贈与の受領で、その金額又はその目的物の価格が1件300万円を超えるもの
(2) 法律上市の義務に属する損害賠償の決定で当該決定に係る金額が30万円以上のもの
 この条例によると、30万円以上の損害賠償を千葉市が負う場合は、議会の議決を要することになりますから、損害賠償で被告となり、損害額が30万円以上の場合は、議会の議決を取らなければなりません。地方公営企業が債権回収のために訴え提起をする場合は、議会の議決が不要なので、それに慣れてしまっていると、議会の議決を見過ごす可能性がありますので、要注意です。
 

(条例の規定を見過ごして、裁判上の和解をしてしまった場合)
 条例の規定を見過ごして、裁判上の和解をしてしまった場合に、この和解の効力はどうなるでしょうか。
 地方議会の議決を要する事項につき、議会の議決を経ないでされた行為は無効であるとするのが判例である(最判昭35・7・1民集14巻9号1615頁)。
 よって、議会の議決なく、和解をしても、その和解は無効になってしまいます。
もっとも、無効な行為であったとしても、事後に議会の議決があれば、当初から議決を経た場合と同一の効力を生ずるとするのが裁判例の多数の見解です。この点についての最高裁判決はないのですが、大阪高判昭53・10・27行集29巻10号1895頁、大分地判昭37・12・15行集13巻12号2169頁が同様の見解をとっています。
 このような下級審の裁判例からすれば、無効な裁判上の和解であっても、議会の議決を経ることにより、当初から議決を経た場合と同一の効力を生じ、手続きの瑕疵が治癒されることになります。

(当事者の記載例)
なお、医療事故等で自治体が設置する病院に対して損害賠償請求を行う場合の訴状の被告の表記例をあげておきます(千葉県立病院の場合)。
被告 千葉県
同代表者病院管理者病院局長 ○○
(参考 千葉地裁平成25年12月11日判決・判例時報2211号107頁)

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