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レフティやすおの新しい生活を始めよう!

50歳からが人生の第二段階、中年の始まりです。より良き老後のために良き習慣を身に付けて新しい生活を始めましょう。

光文社古典新訳文庫から完訳版『十五少年漂流記 二年間の休暇』ヴェルヌ/鈴木雅生訳 が発売

2024-08-10 | 本・読書
7月10日に、光文社古典新訳文庫から完訳版のジュール・ヴェルヌの名作『十五少年漂流記 二年間の休暇』が鈴木雅生さんの訳で発売されました。

『十五少年漂流記 二年間の休暇』ヴェルヌ/鈴木雅生訳 光文社古典新訳文庫(K-Aウ 2-4) 2024/7/10



完訳版で、全712ページという分厚い本です。
なかなか読みでのある本になっています。

しかし内容を見ますと、光文社古典新訳文庫は、作品本文だけでなく、解説が豊富で、著者の年譜も付いています。
また、ヴェルヌの本にとってはもう一つの魅力でもある挿絵が、《原書初版に収録された図版約90点も収録》ということで、より大部の本となっているわけです。

1888年の作品で、時代は経っているものの、『ロビンソン・クルーソー』ものの一つで、少年たちが主人公の冒険ものということで、とっつきやすいのでは、と思います。
夏休みの中高生のみなさんにぜひ読んでいただきたいものです。

 ・・・

従来はこの季節、新潮文庫の<夏の文庫100冊>フェアで、新潮文庫の縮約版の『十五少年漂流記』が書店に並んだものでした。

もちろんこの本にはすでに完訳版があります。
一般向けの文庫では、集英社文庫<ジュール・ヴェルヌ・コレクション>の一冊『二年間のバカンス 十五少年漂流記』(横塚光雄訳) や、創元SF文庫『十五少年漂流記』(荒川浩充訳)があります。
しかしもうかなり昔の翻訳です。
私が持っている集英社文庫は1993年の出版ですが、元本は1967年に出版された集英社コンパクトブック版<ヴェルヌ全集>全24巻中の一冊です。
50年以上前の翻訳となりますね。

『十五少年漂流記』ジュール・ヴェルヌ/著 横塚 光雄/訳 2009/4/3
544ページ
↑こちらは、2009年<桂 正和描き下ろしカバー>版。


お子様向けの文庫版でも何点か出ています。
光文社古典新訳文庫版『十五少年漂流記 二年間の休暇』の巻末の「訳者あとがき」に、『二年間の休暇』の書名で岩波少年文庫(私市保彦訳)、偕成社文庫(大友徳明訳)、福音館文庫(浅倉剛訳)からそれぞれ出ているとあります。
詳細は確認していませんが、こちらもみなそれなりに日が経っているように思います。

比較的新しい完訳ものでは、新潮社の<新潮モダン・クラシックス>の椎名誠と渡辺葉による父娘共訳という『十五少年漂流記』(2015/8/31)でしょうか。

『十五少年漂流記』ジュール ヴェルヌ/著 椎名 誠、渡辺 葉/訳

*参照:『レフティやすおのお茶でっせ』2015.8.10
ジュール・ヴェルヌ『十五少年漂流記』椎名誠、渡辺葉・父娘共訳31日発売

 ・・・

現代では、翻訳物はみな、原語からの完訳が常識となっています。
冗長な部分をそぎ取り、ダイジェストした翻訳(日本の古典に関しても)は、今ではあまり評価されされなくなりました。
そういうものも必要だという人もいます。
作品をよく理解した訳者によるダイジェストは有用だ、というのです。
どちらとも言えないですね。

確かに入門書的に、そういうダイジェストから入るというやり方もあります。

私も若い頃にデュマの『モンテクリスト伯』のダイジェストものを読み、感動したことがあります。
『南総里見八犬伝』もそうですね。

子供の頃に読んだ少年少女ものの文学全集的なものはみな、そういうものでした。
ですから、一概には否定できないのも事実です。

 ・・・

私の今持っている『十五少年漂流記』の文庫本は、他に旺文社文庫版が2点あります。
ともに古本屋さんで購入したものです。
これは、訳者の「あとがき」によりますと、この当時まだ日本にこの本の完訳版はないとのこと。
で、《フランスで現在もっとも広く行われている縮約本をそのまま使うことにした》というものです。

旺文社文庫は、基本学参の出版社ということもあり、主に中高生向けに古典の名作名著をわかりやすく読みやすく紹介する、という使命の下、著者の人と作品についての解説や年譜など詳細な資料を付加した入門書的な構成になっています。
そういう性格からか、ここではストーリーを追うことを重点にした読みやすい抄訳版になったのかも知れません。

1.『十五少年漂流記』ジュール ヴェルヌ/著 金子 博/訳 旺文社文庫<特製版> 昭和44(1967)年7月
↑こちらは、ハードカバー版。

2.『十五少年漂流記』ジュール ヴェルヌ/著 金子 博/訳 旺文社文庫 昭和44(1967)年4月初版/1980年重版
↑イラストのカバー付き。


(画像:私の蔵書から、ジュール ヴェルヌの『十五少年漂流記』文庫版の翻訳書4点――旺文社文庫<特製版>、旺文社文庫カバー付、集英社文庫<ジュール・ヴェルヌ・コレクション>版、新刊の光文社古典新訳文庫版)

 ・・・

まあ、いちばんいいのは、抄訳版と完訳版をどっちも読み、自分でどちらが良いか読み比べてみることでしょう。


(画像:抄訳版と完訳版の厚さの違い――左から『十五少年漂流記 二年間の休暇』光文社古典新訳文庫 712ページ、集英社文庫<ジュール・ヴェルヌ・コレクション>版『二年間のバカンス 十五少年漂流記』544ページ、旺文社文庫/抄訳版版『十五少年漂流記』248ページ)

もう一つ、『十五少年漂流記』と同様の設定で書かれた小説に、ノーベル文学賞を受賞したウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』(1954)があります。
健全さを保ち、善への道を歩んだ前者とは異なり、悪にとらわれてしまった後者の違いは、ちょっとショッキングでしたね。
こういう読み比べもできます。

『蠅の王〔新訳版〕』ウィリアム・ゴールディング/著 黒原 敏行/訳 ハヤカワepi文庫(コ 1-1) 2017/4/20

 ・・・

最後に翻訳者の鈴木雅生さんは、光文社古典新訳文庫では、

『ポールとヴィルジニー』ベルナルダン・ド・サン=ピエール/著 鈴木 雅生/訳 (光文社古典新訳文庫 Aヘ 4-1) 2014/7/10
『戦う操縦士』サン=テグジュペリ/著 鈴木 雅生/訳 (光文社古典新訳文庫 Aサ 1-4) 2018/3/7

を担当されています。

私の好きな二大作家ヴェルヌとサン=テグジュペリを翻訳されているのは嬉しいものです。
『ポールとヴィルジニー』も古くさいといえば古くさい小説ですが、色々な背景のある小説で、かつては広く読まれた古典で、読む価値ありだと考えています。
この本も原著挿絵付です。


(画像:私の蔵書から、鈴木雅生さん訳の光文社古典新訳文庫版の『ポールとヴィルジニー』『戦う操縦士』。)


*【ヴェルヌの参考書】:
『ジュール・ヴェルヌ伝』フォルカー・デース 石橋正孝訳 水声社 2014/5/1
―本邦初のヴェルヌの評伝。力作です。ヴェルヌの伝記のなかで最も信頼に足ると言われるものです。
 当時の社会状況を知っていれば、また彼の作品をより多く読んでいれば、楽しさも増します。

『〈驚異の旅〉または出版をめぐる冒険 ジュール・ヴェルヌとピエール=ジュール・エッツェル』石橋正孝 左右社 2013/3/25)
―これも力作。元は学術論文ということで、ちょっと読みづらく感じたり、ヴェルヌの原稿をまな板に載せているため、それらを(邦訳がない、もしくは手に入りにくいため)未読の人には分かりにくかったりします。
 小説家ヴェルヌと編集者エッツェル、二人のジュールのあいだを巡る出版の秘密をめぐる“冒険”です。

『ジュール・ヴェルヌの世紀―科学・冒険・《驚異の旅》』東洋書林 2009/3/1
―これは見て楽しい本です。図版で見るヴェルヌの世界といってもいいかもしれません。

『文明の帝国 ジュール・ヴェルヌとフランス帝国主義文化』杉本淑彦 山川出版社 1995/8/1
―ヴェルヌの小説の表現を通して当時のフランス帝国主義を考えるという論文。原書からの挿絵も多数収録。
 巻末100ページを費やし、ヴェルヌの〈驚異の旅〉シリーズ全作品及び初期作品のあらすじを紹介。
 本書『名を捨てた家族』の解説でも触れられています。

『水声通信 no.27(2008年11/12月号) 特集 ジュール・ヴェルヌ』水声社 2009/1/6
―1977年『ユリイカ』以来の雑誌特集。本邦初訳短編「ごごおっ・ざざあっ」、ル・クレジオ他エッセイ、年譜、《驚異の旅》書誌、主要研究書誌。

『ユリイカ 1977年5月号 特集=ジュール・ヴェルヌ 空想冒険小説の系譜』青土社 1977/5/1
―本邦初訳短編、フーコー、ビュトール、私市保彦他各氏エッセイ。


(画像:蔵書から――『ジュール・ヴェルヌの世紀―科学・冒険・《驚異の旅》』東洋書林 2009/3/1 『文明の帝国 ジュール・ヴェルヌとフランス帝国主義文化』杉本淑彦 山川出版社 1995/8/1 『水声通信 no.27(2008年11/12月号) 特集 ジュール・ヴェルヌ』水声社 2009/1/6 『ユリイカ 1977年5月号 特集=ジュール・ヴェルヌ 空想冒険小説の系譜』青土社 1977/5/1)

*『お茶でっせ』ジュール・ヴェルヌの記事:
【ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション】
・2019.1.10 ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクションV(カルパチア)と(シュトーリッツ)を読む
・2018.10.29 おまたせ!ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクションV 第三回配本10月31日発売
・2017.11.21 ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション第2回配本『蒸気で動く家』を読む
・2017.4.7 『ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション II 地球から月へ 月を回って 上も下もなく』を読む
・2017.1.23 『ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション II 地球から月へ 月を回って 上も下もなく』1月20日発売

【文遊社<ヴェルヌ>の過去の記事】:
・2014.7.19 文遊社ジュール・ヴェルヌ復刊第四弾『緑の光線』7月30日発売
・2014.1.13 文遊社ヴェルヌ復刊シリーズ第3弾『黒いダイヤモンド』年末に発売 
・2013.10.17 ジュール・ヴェルヌ『ジャンガダ』を読む
・2013.8.6 ジュール・ヴェルヌ『永遠のアダム』を読む&『ジャンガダ』出版

【その他の<ヴェルヌ>の過去の記事】:
・2017.1.22 ヴェルヌ『名を捨てた家族 1837-38年ケベックの叛乱』を読む
・2016.7.25 角川文庫から新訳ジュール・ヴェルヌ『海底二万里』(上下)7月23日発売
・2015.8.10 ジュール・ヴェルヌ『十五少年漂流記』椎名誠、渡辺葉・父娘共訳31日発売
・2013.6.2 ジュール・ヴェルヌの本2点『〈驚異の旅〉または出版をめぐる冒険』『永遠のアダム』
・2012.10.25 テレビの威力か?HPジュール・ヴェルヌ・コレクションにアクセス急増!
・2007.8.24 ジュール・ヴェルヌ『海底二万里(上)』岩波文庫
・2004.10.18 偕成社文庫版ジュール・ヴェルヌ『神秘の島』と映画『80デイズ』
・2004.7.2 復刊された『グラント船長の子供たち』


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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
光文社古典新訳文庫から完訳版『十五少年漂流記 二年間の休暇』ヴェルヌ/鈴木雅生訳 が発売
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<夏の文庫>フェア2024から(2)集英社文庫『鉄道員(ぽっぽや)』浅田次郎-楽しい読書371号

2024-08-04 | 本・読書
古典から始める レフティやすおの楽しい読書(まぐまぐ!)
【別冊 編集後記】


2024(令和6)年7月31日号(vol.17 no.14/No.371)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2024から(2)集英社文庫・
浅田次郎『鉄道員(ぽっぽや)』から「ラブ・レター」」



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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2024(令和6)年7月31日号(vol.17 no.14/No.371)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2024から(2)集英社文庫・
浅田次郎『鉄道員(ぽっぽや)』から「ラブ・レター」」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 今年も毎夏恒例の新潮・角川・集英社の
 <夏の文庫>フェア2024から――。

 昨年同様、一号ごと三回続けて、一社に一冊を選んで紹介します。

 第二回は、集英社文庫の浅田次郎さん『鉄道員(ぽっぽや)』から
「ラブ・レター」を。

【角川文庫の夏フェア】
「カドイカさんとひらけば夏休みフェア2024」特設サイト
https://note.com/kadobun_note/n/n94088457149e

集英社文庫『ナツイチ2024』フェア-
ナツイチ2024 言葉のかげで、ひとやすみ
https://bunko.shueisha.co.jp/natsuichi/

「新潮文庫の100冊 2024」フェア
https://100satsu.com/


(画像:新潮・角川・集英社 三社<夏の文庫>フェア2024のパンフレット)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ◆ 2024年テーマ:夢か奇蹟の物語 ◆

  新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2024から(2)

  集英社文庫・浅田次郎『鉄道員(ぽっぽや)』から「ラブ・レター」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

●集英社文庫『ナツイチ2024』フェア

集英社文庫 毎年恒例・夏のフェア「ナツイチ2024」 - PR TIMES
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000584.000011454.html

によりますと、今年の集英社文庫『ナツイチ2024』フェアは、
6月20日にスタート。
集英社文庫の「夏の文庫フェア」は、1991年から始まり、今年は34回目。

 《全国およそ4000軒の書店で、
  6月20日(木)から9月30日(月)まで実施予定》

対象ラインナップ作品は全82冊。

【ラインナップ】

私が気になった作品(★)とその他の主な作品を挙げておきます。

■映像化する本 よまにゃ
『地面士たち』新庄 耕
『クラスメイトの女子、全員好きでした』爪 切男

■心ふるえる本 よまにゃ
『塞王の楯(上下)』今村 翔吾
『N』道尾 秀介
『逆ソクラテス』伊坂 幸太郎
★『陸王』池井戸 潤――以前取り上げた作品
★『鉄道員(ぽっぽや)』浅田 次郎――映画化もあり、気になる作品
★『星の王子さま』サンテグジュペリ 池澤 夏樹 訳――大好きな作品
他 13冊

■スリリングな本 よまにゃ
『真夜中のマリオネット』知念 実希人
『本と鍵の季節』米澤 穂信
『カケラ』湊 かなえ
『偉大なるしゅららぽん』万城目 学
★『傷痕』北方 謙三――デビュー以来、大好きだった作家
他 14冊

■ときめく本 よまにゃ
『猫だけがその恋を知っている(かもしれない)』櫻 いいよ
『一ノ瀬ユウナが浮いている』乙一
『オーラの発表会』綿矢 りさ
『吸血鬼と愉快な仲間たち』木原(このはら) 音瀬(なりせ)
★『アナログ』ビートたけし――ちょっと古くさい?感じが気になる
他 12冊

■じっくり浸る本 よまにゃ
『燕は戻ってこない』桐野 夏生
『ミシンと金魚』永井 みみ
『透明な夜の香り』千早 茜
★『よくわかる一神教』佐藤 賢一――多神教の日本人である私にとって、
 一神教は以前から興味があった
★『文明の衝突(上下)』サミュエル・ハンチントン 鈴木 主税 訳――
 西洋対東洋という、これも昔から気になっていた本の一つ
『人間失格』太宰 治
『坊っちゃん』夏目 漱石
他 16冊


 ●特設サイト

ナツイチ2024 言葉のかげで、ひとやすみ - 集英社文庫
https://bunko.shueisha.co.jp/natsuichi/

2024年テーマ

--
言葉のかげで、ひとやすみ。
こころの夏やすみ。
それは一冊の本から始まる。
ファンタジーでも、
ロマンスでも、ミステリーでも。
ページをめくれば、
こころをリフレッシュさせてくれる
新たな出会いが待っているから。
さあ、よまにゃ。
--

――というわけで、新たな出会いを求めて、以前から気になっていた本
浅田次郎さんの『鉄道員(ぽっぽや)』を取り上げることにしました。


 ●浅田次郎『鉄道員(ぽっぽや)』――奇蹟の一巻

『鉄道員(ぽっぽや)』浅田次郎 2000年3月17日

巻末の「あとがきにかえて 奇蹟の一巻」で、著者・浅田さんは、
1997年4月に出たときの本書の帯に掲げられたキャッチコピー
<あなたに起こる やさしい奇蹟。>を紹介して、

 《「奇蹟」をモチーフにした短篇を集めました、というほどの意味》

だと解説されています。

それぞれの短編はすべて個別の物語で、
男性が主人公だったり女性が主人公であったり、
三人称多視点の作品であったり一人称の作品であったり、
まったく異なる内容の物語です。

で、共通するのは、「奇蹟」をモチーフにした物語だ、という点です。

それぞれの作品を簡単に紹介しておきましょう。

『鉄道員(ぽっぽや)』 浅田 次郎/著 集英社文庫 2000.3


(画像:集英社文庫『ナツイチ2024』フェアのパンフレットと『鉄道員(ぽっぽや)』)

(画像:【集英社文庫『ナツイチ2024』フェア パンフレットの『鉄道員(ぽっぽや)』の紹介ページと本と)


「鉄道員」――映画化されて有名な一作です。
旧国鉄時代からのJR北海道の鉄道員(ぽっぽや)一筋の男が
定年を迎えた最後の日の物語。
死んだ娘がだんだんと成長する姿を幻として見るのでした。
そして当日……。

「ラブ・レター」――これも映画化されて有名な作品です。
中国人の女性と偽装結婚した書類上だけの夫は、
彼女が仕事先で病気で亡くなり、夫として後始末を任されます。
彼女が残した彼へのお礼の手紙二通を読み、
ありえたかもしれない日々を想像し、涙するのでした。

「悪魔」――子供の目を通して描く怪奇・恐怖もの。
悪魔のような家庭教師により家庭が崩壊する姿を子供の目から描くお話。

「角筈にて」――出世だけじゃない、人生をやり直そうとする夫婦の話。
出世コースから海外支店長に左遷された男は、過去に父に捨てられた
経験を持ち、引き取られた先のおじの娘が今では妻となりました。
父に似た人物を見かけ、過去がよみがえるのですが……。

「伽羅」――洋装店の女店主にまつわる怪奇・恐怖もの。
高級既製服(プレタポルテ)を扱うブティックの素人女主人と、
素人経営者を食い物にするメーカーのトップ・セールスとの物語。

「うらぼんえ」――孫娘を守るためお盆に“帰ってきた”祖父の物語。
夫の愛人に子供ができ、離婚を迫られる身内のいない妻。
夫方の祖父の初盆にゆき、その話が義父からも出るが、育ての親の祖父が
“帰ってきて”妻の味方となり、この話し合いに加わる……。

「ろくでなしのサンタ」――異色のクリスマス・ストーリー。
クリスマス・イヴに出所した三太(さんた)は、留置所で知り合った男の
ために、妻と娘あてにクリスマス・プレゼントの豚まんと鉢植えと大きな
ぬいぐるみを置き「メリー・クリスマス」と一声かけて去って行く……。

「オリヲン座からの招待状」――映画館閉鎖で帰郷した別居夫婦の一日。
生まれ故郷に唯一残っていた映画館の最後の上映会に出席した、東京で
別居生活をしている幼馴染の夫婦と妻を亡くし一人となった館主のお話。


前回の<夏の文庫>フェアの角川文庫『ナミヤ雑貨店の奇蹟』でも、
相談を通じて何人かの人物の人生が描かれていました。

本書でも、短編毎にそれぞれに夫婦と親子の家族の問題を背景に、
奇跡的な出来事を交えて、人間の存在の軽みと重さを
時の流れとともに描いています。

なかなか読み応えのある一冊になっていました。


 ●リトマス試験紙のような作品集

巻末解説で、北上次郎さんが書いていますように、
この優れた短編集の中には、大きく四つの「名作」が含まれています。

北上さんのお話では、読者には「鉄道員」を支持する派と
「ラブ・レター」派のあいだで論争があり、
そこへ「うらぼんえ」派が割り込んで来て、
さらに「角筈にて」派が続く、といい、
本書は《リトマス試験紙のような作品集だ》p.294 といいます。

 《読み手の年齢、性別、経験、環境、人生観などによって、
  このように感じ入る作品が異なるからである。》p.297

私の場合、「鉄道員」は、男の話としては分からないではないのですが、
子を失い妻を失い、それでも仕事一途にやってきた男の話としては、
哀しいけれど、結婚もして子も生まれ、一時的ではあれ、
幸せの時を経験しているという点では、それで良かったのではないか、
また最終的にも、という気もします。

「角筈にて」と「うらぼんえ」も夫婦のお話である一方、
親子の情、または育ての親との情を描いています。
夫婦の間には、それなりに幸せな時があったのではないでしょうか。

しかし、「ラブ・レター」の主人公の場合はどうでしょうか。
40歳近くまでの20年、歌舞伎町で、ヤクザの末端の組の一員として、
バーテンやポルノショップの雇われ店長等の仕事を続けてきた男が、
偽装結婚した中国人の女性の死後、残された手紙を読んだ結果、
起きたかも知れない状況を夢想する、という物語です。

そう、一人なのです、どちらとも。
戸籍上は夫婦となってはいるものの。
本当の夫婦としての幸せな時間を経験していないのです。

そういう意味では、これら四編の中にあっては一つ異端の作品です。


 ●私のお気に入り「ラブ・レター」

この「ラブ・レター」は、先の北上さんのお話では、
女性読者に圧倒的に好評だったそうで、

 《現代の恋愛小説として哀切きわまりないから、女性読者の涙腺を
  刺激するのは理解できる。》p.294

というのです。

ところで、本書中私の一番のお気に入りが、実はこの作品なのでした。

では「ラブ・レター」について書いてみましょう。
(ちなみに映画は見ていません。)

なぜ私がこの作品に惹かれたかといいますと、
それは本書の作品中、一番自分の気持ちを感情移入できる作品だった、
という点です。

70歳まで独り者の私にとって、夫婦のお話というのは、ピンときません。

「ラブ・レター」の主人公は、まだ40歳手前のようですが、
それでも故郷を出てからずっと独身で東京の街中で暮らしてきたわけで、
そういう意味では、私にとって一番身近な存在といえるでしょう。

主人公の境遇のうちで、私にとって最も似つかわしいのがこれだった、
ということです。

そして、ありえたかもしれない日々を夢に見るようすなど、
私にも十分理解できるからです。

私も時折、ありえたかもしれない生活、起こりえたかもしれない出来事、
そういう日々を夢に見ることがあるからです。


 ●「おまえらがみんなふつうじゃねえんだ」

ここからは私が惹かれた部分の引用を、少しメモしておきましょう。

 《手紙の文句が甦った。/ここはみんなやさしいです。
  組の人もお客さんもみんなやさしいです。
  海も山もきれいでやさしいです。ずっとここで働きたいです。/
  謝謝。それだけ。海の音きこえます。吾郎さんきこえますか――。/
  自分はやさしさのかけらもない町で、二十年も生きてきたのだと、
  吾郎は思った。》p.74

吾郎にとって、自分の今までの“しょうもない”生き方を
改めて突き詰められた気持ちだったのでしょう。

その夜、夢の中で吾郎は、両親はすでにこの世にいないけれど兄のいる、
捨ててきたはずの故郷に帰った、あったかも知れない日々を思います。

 《(ありがとう、吾郎さん。あたし、もういいよ。
   お客さんみんなやさしいけど、吾郎さんが一番やさしいです。
   私と結婚してくれたから)/花の上に、吾郎は涙を落とした。/
  (俺、やさしくなんかないもね。やくざもおまわりもお客も、
   みんなしておめえのこといじめたもね。一番ひどいのは俺だよ。
   五十万で籍を売って、その金だって三日で使っちまった。
   おめえ、その金も体で返すんだろ。血を吐きながら、返すんだろ。
   俺たち、みんな鬼だもね。おめえを骨になるまで食いちらかした
   鬼だもね。おめえを骨になるまで食いちらかした鬼だもね。
   鬼がやさしいはずないべや)/
   物を言わぬ花を大地ごと抱きかかえて、
  吾郎は思いのたけをこめて声を絞った。/(もう何もせんでいい。
   俺と、結婚して下さい)》p.77


二通目の手紙から――

 《吾郎さんにあげられるもの、何もなくてごめんなさい。
  だから言葉だけ、きたない字でごめんなさい。/
  心から愛してます世界中の誰よりも。/吾郎さん吾郎さん吾郎さん
  吾郎さん吾郎さん吾郎さん吾郎さん吾郎さん吾郎さん。/
  再見、さよなら。》p.84

手紙の途中から吾郎はまた泣き出します。

吾郎がおかしくなったという、組の若者に対して、

 《「ふつうだよ。どうもしちゃいねえよ。
   おまえらがみんなふつうじゃねえんだ」》p.84

と。
そして骨箱に「高野白蘭」と口紅で名前を書くのでした。

 《国へ帰ろう。ついに会うことのなかった弟の嫁を、
  兄はきっとやさしく迎えてくれるだろう。/
  「帰ろうな、パイラン、みんな待ってるから」》pp.84-85


モデルほどの美貌の女性だったそうで、だからというのは考えすぎで
(その辺は小説ですからね)、純粋に美しい心を反映した内容の手紙に
感動したというところでしょう。
それに対して自分たちのしてきたことは何だったのか、
という反省が込められているのです。

さて彼はこれからどういう人生をたどることになるのでしょうか。
結局また元の木阿弥になるのかどうか。
まあ、人生そう簡単でもないですからね。

でも、そうはならずに故郷に帰って、やり直してほしいものです。


 ●心に残る一編

年を取るにつれて、涙腺がゆるくなる、といいますが、
ちょっとしたことでも、思わず泣いてしまいます。
これもそういう物語でしたね。

先ほども書きましたけれど、
私のように、独身でここまで生きてきてしまった人間としては、
ひょっとしたらこういう何かがあったかもとか、
色々考えてしまうときがあるのです。

そういう意味で、このお話はやっぱりこの短編集の中にあっては、
格別な味わいです。

心に残る一編でした。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2024から(2)集英社文庫『鉄道員(ぽっぽや)』浅田次郎」と題して、今回も全文転載紹介です。

今年の<夏の文庫>フェアは、ここまで映画化された人気作家の有名作品を扱ってきました。

案外無かったことかも知れません。
今までは基本的に、古典の名作名著を軸にしてきた、というところがありました。

最近は、出版社のフェア作品の選書が変化してきたという面もあるのでしょうか。
各社ともに自社の持つ日本の人気作家の作品を全面に押し出してきている感じがします。

売上を考えているのか、“古典や名作を若者に読んでもらいたい”主義では、老舗の出版社に勝てないといった事情もあるのかも知れません。
あるいは、“若者に読んで欲しい本”から、もっと単純に“若者に読んでもらえそうな本”に重点を置いた選書に変化しているのか。

私もこの機会に、少しでも読書の間口を広げようと、目新しい作家の作品を選んで読むようにしています。

さて次回は、最後に残った新潮文庫ですが、どうなりますか……。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

『レフティやすおのお茶でっせ』
〈メルマガ「楽しい読書」〉カテゴリ

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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
" target="_blank"><夏の文庫>フェア2024から(2)集英社文庫『鉄道員(ぽっぽや)』浅田次郎-楽しい読書371号
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<夏の文庫>フェア2024から(1)角川文庫『ナミヤ雑貨店の奇蹟』東野圭吾-楽しい読書370号

2024-07-16 | 本・読書
古典から始める レフティやすおの楽しい読書(まぐまぐ!)
【別冊 編集後記】


2024(令和6)年7月15日号(vol.17 no.13/No.370)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2024から(1)角川文庫・
『ナミヤ雑貨店の奇蹟』東野圭吾」



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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2024(令和6)年7月15日号(vol.17 no.13/No.370)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2024から(1)角川文庫・
『ナミヤ雑貨店の奇蹟』東野圭吾」
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 今年も毎夏恒例の新潮・角川・集英社の
 <夏の文庫>フェア2024から――。

 昨年同様、一号ごと三回続けて、一社に一冊を選んで紹介します。

 第一回は、角川文庫から東野圭吾さんの『ナミヤ雑貨店の奇蹟』を。


【角川文庫の夏フェア】
「カドイカさんとひらけば夏休みフェア2024」特設サイト
https://note.com/kadobun_note/n/n94088457149e

集英社文庫『ナツイチ2024』フェア-
ナツイチ2024 言葉のかげで、ひとやすみ
https://bunko.shueisha.co.jp/natsuichi/

「新潮文庫の100冊 2024」フェア
https://100satsu.com/


(画像:新潮・角川・集英社 三社<夏の文庫>フェア2024のパンフレット)

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 ◆ 2024年テーマ:夢か奇蹟の物語 ◆

  新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2024から(1)

  角川文庫・『ナミヤ雑貨店の奇蹟』東野圭吾
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●【角川文庫の夏フェア】

まず今回は、角川文庫から。

例年は新潮文庫から始めていましたが、
今年、集英社と角川文庫は、6月からスタートで、
新潮文庫は、7月1日スタートとのことでしたので、
早かったこの二社の内、すぐにこれだという本を見つけた順、
という感じで。


【角川文庫の夏フェア】
「カドイカさんとひらけば夏休みフェア2024」特設サイト
https://note.com/kadobun_note/n/n94088457149e

まずは、出版社の言葉――

--
■ はじめに
今年のテーマは「カドイカさんとひらけば夏休みフェア」!
本を読むことって、なんだか難しそう。
たくさんある本の中から、楽しいと思える1冊が見つかるかわからない。
そう思っている人は、少なくないはず。

けど、今年の夏は、
まずは1冊、本をひらいてみませんか?

カバーイラストが可愛い。
推しが好きと言っていた。
あらすじが面白そうだった。
きっかけは、なんだっていい。

目にとまった1冊をためしにひらけば、ドキドキ、わくわく、ハラハラ……
あたらしい世界がひらけるはず!
--

ということで、ラインアップを挙げておきましょう。


■ フェア対象書籍のご紹介
対象作品一覧①「はじめての扉!」13点

湊 かなえ『ドキュメント』『ブロードキャスト』
重松 清『かぞえきれない星の、その次の星』
伊与原 新『オオルリ流星群』
君嶋彼方『君の顔では泣けない』
米澤穂信『氷菓』
恩田 陸『ドミノ』
森沢明夫『エミリの小さな包丁』
斜線堂有紀『ゴールデンタイムの消費期限』
朝井リョウ『星やどりの声』
東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』
原田ひ香『ギリギリ』
クレハ『結界師の一輪華』


対象作品一覧②「ミステリの扉!」15点

米澤穂信『黒牢城』
浅倉秋成『六人の噓つきな大学生』
染井為人『悪い夏』
堂場瞬一『刑事の枷』
歌野晶午『家守』
東川篤哉『谷根千ミステリ散歩 中途半端な逆さま問題』
藤崎 翔『神様の裏の顔』
芦沢 央『僕の神さま』
五十嵐律人『六法推理』
鳴神響一『脳科学捜査官 真田夏希』
柚月裕子『検事の信義』
太田 愛『幻夏』
東野圭吾『鳥人計画』『夜明けの街で』『ラプラスの魔女』


対象作品一覧③「ホラーの扉!」&「名作の扉!」13点

■ ホラーの扉!
辻村深月『闇祓』
宮部みゆき『よって件のごとし 三島屋変調百物語八之続』『おそろし
三島屋変調百物語事始』
芦花公園『極楽に至る忌門』(角川ホラー文庫)
内藤 了『FIND 警察庁特捜地域潜入班・鳴瀬清花』(角川ホラー文庫)
小野不由美『ゴーストハント1 旧校舎怪談』
辻村深月『きのうの影踏み』
中野京子『怖い絵』

■ 名作の扉!
芥川龍之介『蜘蛛の糸・地獄変』
夏目漱石『こゝろ』
宮沢賢治『注文の多い料理店』
梶井基次郎『檸檬』
オイゲン・ヘリゲル 訳・解説=魚住孝至『新訳 弓と禅 付・「武士道的
 な弓道」講演録 ビギナーズ 日本の思想』(角川ソフィア文庫)


対象作品一覧④「ベストセラーの扉!」16点

佐藤 究『テスカトリポカ』
山田風太郎『八犬伝』上・下
高杉 良『転職』
群 ようこ『老いとお金』
雹月あさみ『トイレで読む、トイレのためのトイレ小説 よりぬき文庫』
(富士見L文庫)
坪田信貴『学年ビリのギャルが1年で
 偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話[文庫特別版]』
若林正恭『完全版 社会人大学 人見知り学部 卒業見込』
群 ようこ『これで暮らす』
垣谷美雨『うちの父が運転をやめません』
大泉 洋『大泉エッセイ僕が綴った16年』
松村涼哉『ただ、それだけでよかったんです【完全版】』
(メディアワークス文庫)
道草家守『青薔薇ブルーローズアンティークの小公女』(富士見L文庫)
パウロ・コエーリョ 訳=山川紘矢 山川亜希子
 『アルケミスト 夢を旅した少年』
伊坂幸太郎『グラスホッパー』『マリアビートル』『AX アックス』


対象作品一覧⑤「特別企画」&「コラボカバー」16点

■【朗読アリ】KISHOW(谷山紀章)さん おすすめ本
星 新一『きまぐれロボット』(★朗読アリ)
恩田 陸『ユージニア』(★朗読アリ)
小林泰三『人獣細工』(角川ホラー文庫)(★朗読アリ)
伽古屋圭市『猫目荘ねこのめそうのまかないごはん』
原田マハ『さいはての彼女』
■【朗読アリ】「文豪ストレイドッグス」コラボカバー作品
中島 敦『李陵・山月記 弟子・名人伝』(★朗読アリ)
泉 鏡花『高野聖』(★朗読アリ)
坂口安吾『暗い青春』(★朗読アリ)
芥川龍之介『羅生門・鼻・芋粥』
江戸川乱歩『魔術師』
中原中也 編=佐々木幹郎『汚れつちまつた悲しみに…… 中原中也詩集』
太宰 治『斜陽』『人間失格』
■ mt masking tape コラボカバー作品
太宰 治『女生徒』
宮沢賢治『銀河鉄道の夜』
田辺聖子『ジョゼと虎と魚たち』

対象作品一覧⑥「Pick Up!」19点

■ 号泣文庫
汐見夏衛『ないものねだりの君に光の花束を』
一条 岬『今夜、世界からこの恋が消えても』(メディアワークス文庫)
岩井圭也『永遠についての証明』
山田悠介『スイッチを押すとき』
■ ハラハラ文庫
伊岡 瞬『残像』
染井為人『震える天秤』
本城雅人『宿罪 二係捜査(1)』
畑野智美『消えない月』
■ 猫文庫
西 加奈子『きりこについて』
夏目漱石『吾輩は猫である』
■ 大活字で読める文庫
太宰 治『100分間で楽しむ名作小説 走れメロス』
江戸川乱歩『100分間で楽しむ名作小説 人間椅子』
森 絵都『100分間で楽しむ名作小説 宇宙のみなしご』
恒川光太郎『100分間で楽しむ名作小説 夜市』
■ 時代文庫
鈴木英治『江戸の探偵』
横山起也『編み物ざむらい』
■ ごちそう文庫
標野 凪『ネコシェフと海辺のお店』
長月天音『キッチン常夜灯』
秋川滝美『おうちごはん修業中!』

――以上、92点。

既読は十数点ぐらいです。
夏目漱石、宮沢賢治、泉鏡花、芥川龍之介、太宰治、中島敦等の文学系。
エンタメ系では、江戸川乱歩、宮部みゆき辺りは読んでいるかも、程度。
作品としては、昨年の<私のベスト3>に選んだ、山田風太郎『八犬伝』。

そんな感じでほぼ全滅に近い状況です。
例年、この機会に新しい作家さんとの出会いを考えるのですが、
せいぜい3社合わせて一人程度ですね。

今年も結局は、昨年(集英社文庫『白夜行』)に引き続いて、
また東野圭吾さんにしました。


 ●東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』

東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』角川文庫 2014/11/22

(画像:【角川文庫の夏フェア】「カドイカさんとひらけば夏休みフェア2024」パンフレットと『ナミヤ雑貨店の奇蹟』)

フェアの紹介文によりますと――

--
東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』

東野作品史上最も泣ける感動作! 手紙が紡ぐ奇蹟の物語。

悪事を働いた3人が逃げ込んだ廃屋。
そこはかつて悩み相談を請け負っていた雑貨店だった。
店内に突然届いた、悩み相談の手紙。
過去と現在、時空を超えた温かな手紙交換が始まる。
悩める人々を救ってきた雑貨店は、再び奇蹟を起こせるか? 
心ふるわす物語。
--


(画像:【角川文庫の夏フェア】「カドイカさんとひらけば夏休みフェア2024」)パンフレットの『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の紹介ページと『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の本と)

ストーリーは、窃盗程度の悪さしかできない青年三人組が
逃げ込んだ廃屋で出会う“奇蹟”の物語です。

なかなかのハート・ウォーミングなお話です。

東野さんといえば、ミステリ、推理小説の印象ですが、
こういうファンタジー系の小説もあるのですね。
へぇー、という感じでした。

そういう点からこの作品に決めました。


 ●主なストーリー

こういうエンタメ系の小説では、あまり詳細なストーリーを語りますと、
興ざめな面となりますので、ポイントだけを紹介しましょう。

彼らが逃げ込んだこの「ナミヤ雑貨店」は、
週刊誌でも取り上げられたほどの、悩みの相談で有名となった店でした。
最初は小学生のとんち話的ないたずら半分の相談でしたが、
あるとき真剣な悩みの相談があり、それ以来、
悩みの相談は深夜までに店のシャッターの郵便受けに入れてもらい、
返事は裏通りの牛乳配達箱に入れる、というルールができました。

彼らの潜り込んだこの店に、なんと相談の手紙が投入されます。
彼らは、一から相談された経験も無く、それが逆に新鮮で、
自分らなりに考えて答えを書きます。

 《「だってさ、ふつうなら俺たちが誰かの悩みを聞くなんてこと
  ないだろ。俺たちになんか、誰も相談しようとしない。
  たぶん一生ないぜ。これが最初で最後だ。
  だから一回ぐらいいいじゃないかってこと」》p.29

オリンピックを取るか不治の病の恋人の看病を取るか、
という悩みでした。

彼らの何度かの返事に対し、最終的にお礼の手紙が来ます。

 《(略)「誰かの相談に乗るなんてこと、これまでの人生では一度も
  なかったからなあ。まぐれでも結果オーライでも、相談して
  よかったと思われるのは嬉しいよ。(略)」》

するとまた第二の手悩みの相談が届きます。
音楽の道を進むべきか、というものでした。(以下、第2章)

彼らは、相談者とのやりとりの末、彼の曲を聞き、
音楽の道を進むのはムダにならない、あなたの曲で救われる人がいる、
あなたの音楽は残る、それだけは信じてくださいと答えます。

なぜならそれは、彼らの知っている曲だったからです。

彼らが潜り込んだこのナミヤ雑貨店は、なぜかタイムマシンのように、
相談者たちの過去と彼らの現在をつなげるものだったのです。

第3章では、このナミヤ雑貨店の店主で相談役の親父さんが登場します。

人生相談を始めたいきさつを語り、
いつしかこの人生相談が生きがいとなったこと、
しかしある事件をきっかけに、自分の回答が本当に役にたったのか、
実状を知りたいと思うようになり、息子さんにあることを依頼します。

それは自分の33回忌の日に、一度だけこの相談受付が再開される、
という告知でした。

その時、病院を抜け出した店主は、多くの礼状を手にします。
それはもちろん未来からのものでした。

 ・・・

このナミヤ雑貨店のあるまちの近くに丸光園という養護施設があり、
こことナミヤ雑貨店には何かしら因縁があるようなのです。

この丸光園は女性篤志家が始めたもので、
死後も天の上から見守っていると言い残したといういわくつきでした。
ところが、その後丸光園を引き継いだ男が悪いやつで、
園の存続が難しくなっていました。

そんな時にこの事件が起こったのでした……。


 ●悩みと人生相談とその回答について

このナミヤ雑貨店と丸光園との関係は、読んでのお楽しみということで、
ここでは、悩みと人生相談とその回答の在り方について、
考えて見ましょうか。

相談の回答者となった浪矢雄治はこう言います。

 《「(略)『ナミヤ雑貨店』に手紙を入れる人間は、
  ふつうの悩み相談者と根本的には同じだ。心にどっか穴が
  開いていて、そこから大事なものが流れ出しとるんだ。その証拠に、
  そんな連中でも必ず回答を受け取りに来る。(略)ナミヤの爺さんが
  どんな回答を寄越すか、知りたくて仕方ないわけだ。(略)
  だからわしは回答を書くんだ。一所懸命、考えて書く。
  人の心の声は、決して無視しちゃいかん」》p.142

息子の貴之は、子供たちが巣立ち、十年前に妻を亡くし、一人暮らしの
父親にとって、たぶん生きがいというやつなんだろう、と思うのでした。

 《「長年悩みの相談を読んでいるうちわかったことがある。多くの
  場合、相談者は答えを決めている。相談するのは、それが正しい
  ってことを確認したいからだ。だから相談者の中には、回答を
  読んでからもう一度手紙を寄越す者もいる。たぶん回答内容が、
  自分が思っていたものと違っているからだろう」(略)
  「これも人助けだ。面倒臭いからこそ、やり甲斐がある」》p.150

そんな雄治が店を閉じます。

 《(略)大事なのは、あのときのわしの回答が本当に正解だったのか
どうかだ。
  (略)これまでに書いてきた無数の回答が、それぞれの相談者たちに
  とってどうだったのかが重要なんだ。わしは毎回、懸命に考えて
  答えを書いてきた。適当に書いたことなんてただの一度もない
  と断言できる。しかしそれでも、その回答が相談者たちのために
  なったかどうかはわからない。もしかしたら、わしの回答の通りに
  行動して、とんでもなく不幸になってしまった、なんてこともある
  かもしれない。そのことに気付いた瞬間、わしはもういてもたっても
  いられなくなったんだよ。もう、気楽に相談窓口を開けている気分で
  はなくなった。だから店を閉めたんだよ」》p.172

 《(略)わしの回答が、誰かの人生を狂わせてしまったのではないか
  と思うと、夜も眠れなかった。病気で倒れた時も、わしは思ったん
  だ。これは天罰じゃないか、とね」》p.172

そして夢の中で、相談者たちが自分の人生がどう変わったかを知らせる
手紙を投函してくれるのを、雄治は知るのでした。
今行けばそれを受け取れると、貴之に話すのです。
そして実現します。

 《「(略)殆どが、わしの回答に感謝してくれている。
  それはありがたいと思うが、読んでみると、わしの回答が役に立った
  理由はほかでもない、本人の心がけがよかったからだ。本人に、
  真面目に生きよう、懸命に生きようという気持ちがなければ、
  たぶんどんな回答を貰ってもだめなんだと思う」》p.180-181


 ●70年生きてきて思ったこと

そう、たぶんそうなんでしょうね。
結局はどんな人生を生きるかは、本人の心がけによる、ということ。

そして、70年生きてきて私が思うことは、
やっぱり自分らしくある、ということ。

どんな時もどんな状況にあっても、
本来の自分の在り方を変えることなく、生きてゆくという姿勢が大事だ、
と思うのです。

自分らしく、といっても難しいのですが、
自分の性格に合わせた生き方というのでしょうか、
真面目な人は真面目に、ちょっと大胆な人は大胆に、
でも、大胆にとはいっても、基本的には階段を一段ずつ登るように、
こつこつやる、ということです。

人生に近道はない、ということ。

で、やるべき時にはやる、ということ。

「幸運の女神には前髪しかない」という言葉があります。
「チャンスの女神には後ろ髪がない」ともいいます。

「後悔先に立たず」ともいいます。

やってしまったこと、もしくは逆にやらずにしまったことは、
後からではどうすることもできない、ということです。

チャンスは確実にその時にしっかりとつかんでおけ、という教えです。

そうはいいましても、なかなか潔く決断できないのが、人間です。

でも、それはそれでいいのだと思います。
人生に遅すぎるということはない、ともいいますから。


昨今は、人生100年時代ともいいます。

若い頃のようには行かなくても、
それなりに生きることはできるようです。

要は、あきらめないことでしょうか。

私も今この程度のことはできています。
毎日こつこつと積み重ねることで、できることもあるようです。


青年たちが投じた白紙の手紙に対するナミヤ雑貨店の爺さんの回答が、
一つの答えかも知れません。
(あえて引用は辞めておきます。)


 ●奇蹟は起こる?

奇蹟は、本当に起こるのでしょうか。
もちろん、そんなことはわかりません。
しかし時には、起こって欲しい、
という願いを抱かせるものでもあるように思います。

ある人が一生懸命生きているのならば、
その人のまわりではなにかしら良いことが起きてほしいものです。

そうでなければ人生なんて、
生きるに値しないものになってしまいますから。

神様仏様が存在するのなら、ときには奇蹟も起こってほしいものです。

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本誌では、「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2024から(1)角川文庫・『ナミヤ雑貨店の奇蹟』東野圭吾」と題して、今回も全文転載紹介です。

私は人生相談というものに特別に興味はないものの、新聞の人生相談などはつい見てしまうことがあります。
どういうものを見るかといいますと、やはり自身高齢化したこともあって、そういう手の老後の在り方といったものですね。
それと、逆に若者の進路相談などにもつい目が行くことがあります。

よりよい人生航路を始めて欲しいという願いが出てしまうようです。

さて、本書では、未来を知っているゆえに、青年たちでも適切な相談ができてしまう部分があって、こういう風に未来を見通し、人生を俯瞰して生きて行ければいいのになあ、と思ってしまいますね。

実際には、白紙の人生であっても、そこにどんな人生地図を書いてゆくのか、人それぞれなわけです。
むずかしいけれど、だからこそおもしろいとも言えるわけです。

死の瞬間まで人は迷いながら生きてゆくものなのでしょうか。
あるいは、ある瞬間になにかしら確かな確信を抱けるものなのでしょうか。

まだ私にはわかりません。

 ・・・

弊誌をおもしろいなあと感じた方は、ぜひご購読の申し込みをお願い致します。

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

『レフティやすおのお茶でっせ』
〈メルマガ「楽しい読書」〉カテゴリ

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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載

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私の読書論187-2024年岩波文庫フェアから『タタール人の砂漠』-楽しい読書369号

2024-07-02 | 本・読書
古典から始める レフティやすおの楽しい読書(まぐまぐ!)
【別冊 編集後記】


2024(令和6)年6月30日号(vol.17 no.12/No.369)
「私の読書論187-2024年岩波文庫フェアから『タタール人の砂漠』」



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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2024(令和6)年6月30日号(vol.17 no.12/No.369)
「私の読書論187-2024年岩波文庫フェアから『タタール人の砂漠』」
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 本来は、月末で
 古典の紹介(現在は「漢詩を読んでみよう」)の号ですが、
 今月は岩波文庫のフェアが始まっていますので、
 恒例化ということで、今年もやります。

 最近のものでは↓

2023(令和5)年6月30日号(No.345)
「私の読書論172- 2023年岩波文庫フェア「名著・名作再発見!
 小さな一冊をたのしもう」から 上田秋成『雨月物語』「蛇性の婬」」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2023.6.30
私の読書論172-2023年岩波文庫フェアから上田秋成『雨月物語』
「蛇性の婬」-楽しい読書345号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/06/post-ec8330.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/417d68371321fb4e635a0fa83166e4d2


2022(令和4)年6月15日号(No.320)
「私の読書論159-エピクテトス『人生談義』―『語録』『要録』
―<2022年岩波文庫フェア>名著・名作再発見!から」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2022.6.15
私の読書論159-エピクテトス『人生談義』―
<2022年岩波文庫フェア>から-楽しい読書320号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2022/06/post-98be91.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/6a52aba9e4f9468c46611a84cd31f14f


2019(令和元)年6月30日号(No.250)-190630-
「2019年岩波文庫フェア「名著・名作再発見!」小さな一冊...」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2019.6.30
2019年岩波文庫フェア「名著・名作再発見!」小さな一冊...
―第250号「レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
http://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2019/06/post-b015ac.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/e3a5116ac2b0a7abfec291e180ec97ce
 ◎取り上げた本:
芥川竜之介『羅生門・鼻・芋粥・偸盗』岩波文庫 改訂版 2002/10/16


 国内(芥川龍之介)、海外(エピクテトス)、国内(上田秋成)
 と来ましたので、今年は海外作品を――。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 - 人生、または時の遁走 -

  ~ 『タタール人の砂漠』ブッツァーティ ~

  2024年岩波文庫フェア
「名著・名作再発見! 小さな一冊をたのしもう」から
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ●<2024年岩波文庫フェア「名著・名作再発見!」>から

今年も6月になり、<2024年岩波文庫フェア
「名著・名作再発見! 小さな一冊をたのしもう」>から、
「一冊これは」というものを取り上げます。


2024年岩波文庫フェア「名著・名作再発見! 小さな一冊をたのしもう」
https://www.iwanami.co.jp/news/n56405.html

《毎年ご好評をいただいている岩波文庫のフェア「名著・名作再発見!
 小さな一冊を楽しもう!」を今年もご案内いたします。
 岩波文庫は古今東西の典籍を手軽に読むことができる、
 古典を中心としたシリーズです。
 できるだけ多くの皆さまに名著・名作に親しんでいただけるよう、
 本文の組み方を見直し、より読みやすい文庫を
 と心がけてまいりました。
 いつか読もうと思っていた一冊、誰もが知っている名著、
 意外と知られていない名作──岩波文庫のエッセンスが詰まった
 当フェアで、読書という人生の大きな楽しみの一つを
 存分にご堪能いただければ幸いです。》

※2024年5月28日発売(小社出庫日)

■:以前弊誌、もしくはブログで取り上げた作品
◆:同、他社の本による
▼:既読、本書・他社本等による

<対象書目>
◆風姿花伝【青1-1】  世阿弥/野上豊一郎、西尾実 校訂
◆学問のすゝめ【青102-3】  福沢諭吉
◆武士道【青118-1】  新渡戸稲造/矢内原忠雄 訳
■代表的日本人【青119-3】  内村鑑三/鈴木範久 訳
風土──人間学的考察【青144-2】  和辻哲郎
君たちはどう生きるか【青158-1】  吉野源三郎
◆老子【青205-1】  蜂屋邦夫 訳注
■ブッダの 真理のことば・感興のことば【青302-1】  中村 元 訳
◆ソクラテスの弁明 クリトン【青601-1】  プラトン/久保 勉 訳
◆怒りについて 他2篇【青607-2】  セネカ/兼利琢也 訳
■マルクス・アウレーリウス 自省録【青610-1】  神谷美恵子 訳
◆方法序説【青613-1】  デカルト/谷川多佳子 訳
ルソー 社会契約論【青623-3】 桑原武夫、前川貞次郎 訳
永遠平和のために【青625-9】  カント/宇都宮芳明 訳
■ラッセル幸福論【青649-3】  安藤貞雄 訳
■ロウソクの科学【青909-1】  ファラデー/竹内敬人 訳
生命とは何か【青946-1】 シュレーディンガー/岡 小天、鎮目恭夫 訳
ウィーナー サイバネティックス【青948-1】
  池原止戈夫、彌永昌吉、室賀三郎、戸田 巌 訳
何が私をこうさせたか【青N123-1】  金子文子
伊藤野枝集【青N128-1】  森まゆみ 編
史的システムとしての資本主義【青N401-1】
  ウォーラーステイン/川北 稔 訳
▼古事記【黄1-1】  倉野憲司 校注
▼古今和歌集【黄12-1】  佐伯梅友 校注
■新訂 方丈記【黄100-1】  鴨 長明/市古貞次 校注
◆新訂 徒然草【黄112-1】  吉田兼好/西尾 実、安良岡康作 校注
閑吟集【黄128-1】  真鍋昌弘 校注
芭蕉 おくのほそ道【黄206-2】 松尾芭蕉/萩原恭男 校注
■源氏物語(一) 桐壺―末摘花【黄15-10】  紫 式部/柳井 滋、
    室伏信助、大朝雄二、鈴木日出男、藤井貞和、今西祐一郎 校注
◆こころ【緑11-1】  夏目漱石
夜叉ケ池・天守物語【緑27-3】  泉 鏡花
◆羅生門・鼻・芋粥・偸盗【緑70-1】  芥川竜之介
葉山嘉樹短篇集【緑72-3】  道籏泰三 編
放浪記【緑169-3】  林 芙美子
自選 谷川俊太郎詩集【緑192-1】  谷川俊太郎
大江健三郎自選短篇【緑197-1】  大江健三郎
けものたちは故郷をめざす【緑214-1】  安部公房
まっくら──女坑夫からの聞き書き【緑226-1】  森崎和江
北條民雄集【緑227-1】  田中 裕 編
安岡章太郎短篇集【緑228-1】  持田叙子 編
権利のための闘争【白13-1】  イェーリング/村上淳一 訳
危機の二十年【白22-1】  E.H.カー/原 彬久 訳
政治的なものの概念【白30-2】  カール・シュミット/権左武志 訳
▼日本国憲法【白33-1】  長谷部恭男 解説
プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神【白209-3】
  マックス・ヴェーバー/大塚久雄 訳
大衆の反逆【白231-1】  オルテガ・イ・ガセット/佐々木 孝 訳
▼自由論【白116-6】  J.S.ミル/関口正司 訳
■曹操・曹丕・曹植詩文選【赤46-1】  川合康三 編訳
知里幸惠 アイヌ神謡集【赤80-1】  知里幸恵/中川 裕 補訂
サロメ【赤245-2】  オスカー・ワイルド/福田恆存 訳
灯台へ【赤291-1】  ヴァージニア・ウルフ/御輿哲也 訳
終戦日記一九四五【赤471-2】  エーリヒ・ケストナー/酒寄進一 訳
▼ラ・ロシュフコー箴言集【赤510-1】  二宮フサ 訳
タタール人の砂漠【赤719-1】  ブッツァーティ/脇 功 訳
白い病【赤774-3】  カレル・チャペック/阿部賢一 訳
やし酒飲み【赤801-1】  エイモス・チュツオーラ/土屋 哲 訳
失われた時を求めて 1 スワン家のほうへⅠ【赤N511-1】
  プルースト/吉川一義 訳
サラゴサ手稿(上)【赤N519-1】  ヤン・ポトツキ/畑 浩一郎 訳
サラゴサ手稿(中)【赤N519-2】  ヤン・ポトツキ/畑 浩一郎 訳
サラゴサ手稿(下)【赤N519-3】  ヤン・ポトツキ/畑 浩一郎 訳
シェフチェンコ詩集【赤N772-1】  シェフチェンコ/藤井悦子 編訳


以上、取り上げた作品は、60点中17点程度でした。
既読は5点。

全体のせいぜい三分の一程度でした。
まだまだ未読や取り上げていない古典の名著・名作がたくさんあります。

今回は、以前、地元の図書館で見て気になりつつも、
そのままだった本がありましたので、それを取り上げることに。


 ●タタール人の砂漠【赤719-1】ブッツァーティ/脇 功 訳

『タタール人の砂漠』ブッツァーティ/作 脇 功/訳
 岩波文庫 2013/4/17


 がそれです。

岩波文庫 赤(外国文学/南北ヨーロッパ・その他)719-1
タタール人の砂漠
https://www.iwanami.co.jp/book/b248369.html

《カフカの再来と称される,現代イタリア文学を代表する世界的作家
 ディーノ・ブッツァーティの代表作.20世紀幻想文学の世界的古典.》

刊行日 2013/04/16 ISBN 9784003271919

《この本の内容
 辺境の砦でいつ来襲するともわからない敵を待ちながら,
 緊張と不安の中で青春を浪費する将校ジョヴァンニ・ドローゴ――.
 神秘的,幻想的な作風で,カフカの再来と称され,
 二十世紀の現代イタリア文学に独自の位置を占める作家
 ディーノ・ブッツァーティ(1906―72)の代表作にして,
 二十世紀幻想文学の世界的古典.1940年刊.》



 ●イタリア文学の幻想小説家? ブッツァーティ

「二十世紀幻想文学の世界的古典」という点に興味を感じていました。
いつか読もうと思いつつ、そのままだった本です。

イタリア文学は若い頃に読んだアルベルト・モラヴィア以来でしょうか。


でも、この人の他の作品に『神を見た犬』(光文社古典新訳文庫)という
短編集があり、この本を過去に読んでいるようなのです。

『神を見た犬』ディーノ・ブッツァーティ 関口 英子/訳
光文社古典新訳文庫 2007/4/12


いま『タタール人の砂漠』と並行してこの短編集を読んでいるのですが、
既読感のある作品にぶつかり、あれっという感じです。

読書記録を繙けば、読んでいるのかどうか判明すると思うのですが、
2007年に出た本なので、十何年分かチェックすることになりますので、
ちょっと面倒です。
もう少し読んでいけばはっきりするかな、という気もしています。

昔から<幻想と怪奇>と呼ばれるジャンルの小説が好きで、
そういう触れ込みの本は結構読んできましたので、
この人の作品も読んでいたのかも知れません。

かなり記憶はいい方なのですけれど、ね。
どうでしょうか。

あるいは、何かのアンソロジーに入っているのを読んだのか?


 ●ストーリー

さて、『タタール人の砂漠』です。

士官学校を出たばかりの青年将校ジョヴァンニ・ドローゴ中尉は、
北の辺境の地にある任地のバスティアーニ砦に向かいます。

北の砂漠の国のタタール人が侵略に対抗するべく設けられた砦で、
多くの兵士が駐在し、厳格に勤めを果たしています。
彼らは、いつかやって来るであろう敵を撃退し、この地を守ることで
手柄を立て出世しよう、という願いを持っているのでした。

ジョヴァンニは、当初自分の志願した地ではないということで、
早期に町の近くの任地に転勤できるよう願い出るのでした。

ところがあれこれと説諭され、砦に留まります。
まだ、あの手柄を立てるという可能性を信じることができたから。
そして、まだ自分は若いと思っていたからでした。

最初に考えていた月日はたち、しかし、これといった事態の変化はなく、
日は過ぎていきます。

《彼は自分をここに引き留めようとする目に見えぬ罠が
 まわりに張りめぐらされいくのを感じるような気がした。(略)
 なにか正体不明の力が彼が町へ帰ろうとするのを阻む作用を
 働かせているのだった。》p.55


そんなとき小さな変化が起きます。
二年が過ぎたある日、敵の兵士が乗っていたのかもしれない、
一頭の鞍をつけた馬が見つかります。
自分の馬だといった砦の兵士が、隠れてこの馬を捕まえに行きますが、
捕まえられず帰ってきたところ、合い言葉が分からず、
軍務違反で砦に入れず射殺されます。


《北の砂漠からは彼らの運命が、冒険が、誰にでも一度は訪れる
 奇跡の時がやって来るに違いない。時が経つとともに次第にあやしく
 なっていくこうした漠とした期待のために、大の男たちがこの砦で
 人生の盛りをむなしく費やしているのだった。》p.85


北の王国が国境線の画定のために北の山稜に人員を送って来たのです。
こちらからも国境確保のために兵を出すのですが、
病気を押して任務を続けた一人の中尉が凍死する事件が起きます。
しかし、国境を確定すると北の兵士は去ってしまいます。


四年後、ジョヴァンニは町に帰りますが、家も母も、友人たちも、
もう彼の生活からは離れたものとなっていました。
友人の妹とも話がかみ合わず、大きな隔たりを感じます。
もはや自分の住む世界、生活は砦にしかないと。

あるとき、高倍率の良い望遠鏡を持つシメオーニ中尉が、
山の方に光があるといい、北の国が道路を建設しているのだといいます。
当初、司令部は否定していたのですが、実際に工事が始まります。
ところが、またしても道路を作るだけで、戦闘には発展しません。

一方、もう北の脅威はない、ということで、
軍はこの砦の規模を縮小することに決定します。
まわりのものはみな、彼には知られないように、
転勤を要請していたのでした。
取り残されたジョヴァンニ。

砦に戻るとき、新任の中尉と道連れになります。
それはちょうど自分が新任してきたときとまったく同じ状況でした。


そして三十年が過ぎ、ジョヴァンニは病気に倒れます。
その時に、とうとう待ちに待ったともいうべき、事態が発生します。
北の国から例の道路を敵が進撃してきたのです。
病気の彼にはここでの戦いの力になれない、
馬車を呼んでいるので町に療養に帰れ、と命令されます。
実は、援軍が来るので、彼らのために部屋を開けてくれ、というのです。

旅の途中、見知らぬ町の旅籠で遂に最期を迎えます。


 ●古希を迎えた私の人生の場合

私は今年古希、70歳となりました。
自分の人生を考えるときがあります。

正直、自分の人生は、残念な人生だった、と思っています。
自分のやりたいことをまったくといっていいぐらいできない、
できなかった人生だったからです。

私がやりたかった人生というのは、
大好きな女の子と一緒にしあわせに暮らすこと、でした。
できることなら自分の子供を産んでもらって、云々。

何が悪かったのかというと、結婚生活というのは、
まずはお金だと思っていました。
ところが自分は、その辺が全くだめという感じで、
実際はそれなりに稼いではいたので、豪邸を建てられような、
そういう結婚生活を考えるべきではなかった、というところでしょうか。

人生に置いて大事なことは、若いうちに自分の目指すべき将来の姿を、
自分の思うような生き方を、まずは考えるべきだろう、と思います。

そういう点で、まったく先のことを考えずに生きてきたのが、
一番の問題だったのでしょう。
とりあえずその時その時を生きるだけ、という生き方でした。

このように、流されるような生き方では
いい成果を挙げることは難しいものです。


 ●寓意性のある小説

さて、『タタール人の砂漠』です。
これはまさに「人生」を描いている小説です。

幻想小説とされていますが、確かに現実感の少ないストーリーです。
国境が未確定な部分もある辺境の地の砦で、いつか来るであろう敵襲で、
手柄を挙げて出世する、という希望を抱いた軍人たちの物語。

砦に向かう途上、そんな砦はない、聞いたこともないと言われたり、
最初から非現実的な展開で、

《(略)まさしくその夜に、
 彼にとっては取り返しようのない時の遁走がはじまったのだった。》

といった記述が出てきます。

時間を追ったリアリズムの小説というより、
全体を俯瞰したような記述があり、幻想的な小説という感じがします。

しかし、寓意性というのでしょうか、
そういう意味では、非常に現実的な展開でもあり、
一人の男の生き方を示しているともいえましょう。

人生とは、生きるため、食うために、
同じ場所で日々単調な生活を続けざるを得ない部分があります。
それらの日々のなかで、何かしらの希望や期待を胸に生きている、
という部分があります。
それでいて、何かが起きるかというと、何も無いまま終わってしまう、
ということも、まま起きるものです。
そういう生き方を象徴しているような物語です。


 ●何かを待つ人生の果てには

青春は待ってくれない、といいます。

ジョヴァンニの場合もそういう一つの罠に掛かったような、人生でした。

でも、早々に転勤を願い出て砦を出て行く者もあり、
それでもこの場に留まり、一か八かではないけれど、
一つの希望を抱いている者もいるのが現実でした。

彼らは何を人生に期待したのか、
あくまでも軍人としての出世だけだったのでしょうか、
それとも何かもっと異なる何かがあったのでしょうか。

その辺は本当のところはわかりません。
人それぞれに求めるものがあり、期待するものがあるのですから。

最終的に、この物語は何を語っているのでしょうか。

人生というものは、時の流れというものは、待ってはくれない、
ということなのでしょうか。

結局その時その時を生きるのではなく、やはり先々を考えながら、
今を生きることが大事ということでしょうか。

目先のことだけではなく、広く人生を考えることが重要なのでしょう。

それと、やはり自分の思いを大切に生きるべきだということでしょうか。
その結果が、ジョヴァンニの選択と同じであったとしても、
自分の選んだ道ならそれでいい、というのが人生なのかも知れません。

やはり思うのですが、いかな人生であったとしても、
それは「自主性を持った選択の結果」であるべきだろう、と。
そういうものであれば、いかな人生であっても、
最終的に納得がゆくものとなるのではないでしょうか。


とはいえ、70年生きてきても、まだ私にはよくわかりません、
人生の真実とか、良い人生とは何か、ということは。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「私の読書論187-2024年岩波文庫フェアから『タタール人の砂漠』」と題して、今回も全文転載紹介です。

毎年の恒例になりました、<岩波文庫フェアから>の一冊です。

昔から幻想小説といったものも結構好きで読んできたつもりです。
どちらかといいますと、幻想小説そのものというより<幻想と怪奇>系の小説を多く読んでいました。

特に、英米系のそういう小説に比べますと、他のヨーロッパ諸国のものとではかなり傾向が異なるように感じます。
フランスやイタリアというのは、結構トンデいる感じがします。

このブッツァーティの『神を見た犬』の短編などは、本当に楽しいというか愉快というか、そういうものから本当に怖いものまで、実にレパートリーを感じさせます。

一方、今回取り上げました出世作といいますか、彼の名を最初に有名にした『タタール人の砂漠』の場合は、非常に人生というものを考えさせる内容だったと思います。

光文社文庫版『神を見た犬』の訳者・関口英子さんの「解説」に、本書についての当時のブッツァーティの言葉が紹介されています。
当時彼は新聞社で働いていて、
《単調でつらい仕事の繰り返しに、歳月ばかりが過ぎていった。私はこれが永遠に続くのだろうかと自問していた。希望も、若者ならば誰しも抱く夢も、しだいに萎縮してしまうのではないだろうか」》(p.380)
と感じていた、といいます。

『神を見た犬』の中の一編「天国からの脱落」に、天国で友人と談笑していた聖人の一人が、ふと下界の青年たちの姿を垣間見、
《二十代の若者だけに許された希望をひしひしと感じ取ったのだ。未来という無限の可能性を秘めた若者たちの力やエネルギー、嘆きや絶望、そしてまだ荒削りの才能を、まざまざと見せつけられた。》(p.262 関口英子訳)
という場面があり、結果この聖人は、もう一度そういう人たちの仲間入りをしたいと、万能の神に願い出ます。

まあ、そういう不確定だけれど、心浮き立つ希望に満ちた若さに魅力を感じるという気持ちはわかります。

どんな状況にあっても、人は未来に希望を抱くものであり、そこにこそ生きがいというか、エネルギーが湧いてくるものがあるように思います。

この『タタール人の砂漠』の砦の人々も、一つの希望を持って毎日軍務に精を出してきたのでしょう。
ただ、その流れに流されてしまう人もいれば、区切りをつける人もいるということなのでしょう。

どちらが正しいのかはなんとも言えませんが、やはり「自分をしっかりと持つ」ということが大事なんだろうな、という気はします。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

『レフティやすおのお茶でっせ』
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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
私の読書論187-2024年岩波文庫フェアから『タタール人の砂漠』-楽しい読書369号
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新潮文庫にデイモン・ラニアン(『ガイズ&ドールズ』)が帰ってきた!

2024-06-24 | 本・読書
新潮文庫にデイモン・ラニアンが帰ってきました!
2024年5月29日に発売されました新潮文庫の新刊、田口俊樹訳のデイモン・ラニアン著『ガイズ&ドールズ』がそれ。
私にとっては<なつかしい友との再会>というところです。



40年前、1984年夏(8月1日)に発売された、加島祥造訳のデイモン・ラニアンの選集『ブロードウェイの天使』が、新潮文庫での初登場でした。
(絶版になってからでは34年らしいですが。)
当時私は、人にプレゼントするために、自分用の他に何冊も買いました。
今も一冊残っています。


まあ、それほど私のお好みの作家だったということですね。

1970年の高校二年生の夏休みから読み始めた『ミステリマガジン』という、<海外文学の早川書房>から発行されていた海外ミステリの専門誌で、英米文学者で詩人、のちに『老子』の現代詩訳で<伊那谷の老子>と呼ばれた加島祥造さんが、ぽつりぽつりと訳しては掲載されていたのが、このラニアンの短編でした。
その前には、これも新潮文庫で何年か前に再登場したリング・ラードナーの長短編を訳しておられたものでした。

今回は、訳者を英米ミステリ翻訳のベテランの田口俊樹さんにかえて、ラニアンの第一短編集を新訳で紹介。

前回のラニアン作品集は、なんといっても当時ラニアン紹介の第一人者であった加島さんによる<ラニアン傑作集>といった趣のあるものでした。
それゆえに、傑作中の傑作といってもいい、人気作を集めたものだったといっていいでしょう。
少なくとも、私にとっては、ほぼそういう内容の作品集になっていました。

例えば、(1)「プリンセス・オハラ」(2)「ブロードウェイの天使」「レモン・ドロップ・キッド」「片目のジャニー」など((3)は、本書にも収録されている「マダム・ラ・ギンプ」)。

今回は、単にラニアンの「第一短編集」ということで、作品の選定は当時の編集の人たちの手になるものです。
それはそれで意味のあることでしょう。

なにしろ、このラニアンの短編集は、ミステリの分野では、ミステリ作家であり編集者でもあったエラリイ・クイーンのポー以降の価値あるミステリ短編集を集めた『クイーンの定員 Queen's Quorum』にも選ばれていますから。

*参照:
「Queen's Quorum:クイーンの定員」
http://www.cityfujisawa.ne.jp/~katsurou/conerstone/quorum/main.htm

第二期近代
#084 野郎どもと女たち Guys and Dolls(1931)

『クイーンの定員 3 傑作短編で読むミステリー史』エラリー クイーン/著 各務 三郎/編 光文社文庫 1992/4/1
収録作品「ドロレスと三人の野郎ども」

 ・・・

『ガイズ&ドールズ』デイモン・ラニアン/著、田口俊樹/訳 2024.5.29

目次(・は、「前」短編集収録作品)

序文
第一話 ブロードウェイのブラッドハウンド
第二話 社交場での大きな過ち
第三話 サン・ピエールの百合
・第四話 ブッチは赤子の世話をする
・第五話 リリアン
第六話 荒ぶる四十丁目界隈のロマンス
第七話 どこまでも律儀な男
・第八話 マダム・ラ・ギンプ
第九話 ダーク・ドロレス
・第十話 紳士のみなさん、国王に乾杯!
・第十一話 世界で一番ヤバい男
第十二話 ブレイン、わが家に帰る
・第十三話 血圧
・おまけの一話 ミス・サラ・ブラウンの恋の物語
解説 小森 収


この短編集に収録されている作品で私のお気に入りをいいますと――
(1)「マダム・ラ・ギンプ」――昔読んだときもおもしろいと思った作品、新喜劇なんかにあるパターンですよね。
(2)「サン・ピエールの百合」(3)「ミス・サラ・ブラウンのロマンス」といったところか。

子供や動物の登場する作品は、やはりいつの時代どこの国であって、人気は高いのでは、という気がします。
「ブロードウェイのブラッドハウンド」「ブッチは赤子の世話をする」「リリアン」「紳士のみなさん、陛下に乾杯」など。

私は演劇関係には疎いので、日本でのラニアン評価というものはよくわかりませんが、アメリカでは昔から非常に人気の高い作家だったようで、巻末資料にもあるように映画化・ドラマ化作品が多数あるようです。
日本では80年代に宝塚のレパートリーに入っているとのことです。

とにかく、今回の訳書が広く読まれ、デイモン・ラニアンの名が知られ、人気が高まることを願ってやみません。

*参考:
『ブロードウェイの天使』デイモン・ラニアン/著 加島 祥造/訳 新潮文庫 赤 207-1 1984/8/1

<新書館・版>
1.『野郎どもと女たち』デイモン・ラニアン/著 加島 祥造/訳 1973.4
(新装版)『ブロードウェイ物語 1 野郎どもと女たち』デイモン・ラニアン/著 加島 祥造/訳 1987/11/1
2.『ブロードウェイの出来事』デイモン・ラニアン/著 加島 祥造/訳 1977
(新装版)『ブロードウェイの出来事 新装版 (ブロードウェイ物語 2) 』デイモン・ラニアン/著 加島 祥造/訳 1987/12/1
3.『ロンリー・ハート』デイモン・ラニアン/著 加島 祥造/訳  1983
(新装版)『ロンリー・ハート 新装版 (ブロードウェイ物語 3) 』デイモン・ラニアン/著 加島 祥造/訳 1987/12/1
4.『街の雨の匂い ブロードウェイ物語 4』デイモン・ラニアン/著 加島 祥造/訳 新書館 1987/11/1


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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載

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中国の古典編―漢詩を読んでみよう(29)陶淵明(6)「雑詩十二首/飲酒二十首」-楽しい読書367号

2024-06-06 | 本・読書
古典から始める レフティやすおの楽しい読書(まぐまぐ!)
【別冊 編集後記】


2024(令和6)年5月31日号(vol.17 no.10/No.367)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(29)陶淵明(6)
「雑詩十二首 其の二/飲酒二十首 其の十六・其の二十」」



------------------------------------------------------------------
◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
------------------------------------------------------------------
2024(令和6)年5月31日号(vol.17 no.10/No.367)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(29)陶淵明(6)
「雑詩十二首 其の二/飲酒二十首 其の十六・其の二十」」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 今月の「中国の古典編―漢詩を読んでみよう」は引き続き、
 陶淵明の詩から
「雑詩十二首 其の二/飲酒二十首 其の十六・其の二十」を。 


(陶淵明 第1回)
2023(令和5)年9月30日号(No.351)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(24)陶淵明(1)「五柳先生伝」」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2023.9.30
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(24)陶淵明(1)
「五柳先生伝」-楽しい読書351号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/09/post-b68999.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/d371c2c2141932565db7fac1a67c1150

(第2回)
2023(令和5)年10月31日号(No.352)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(25)陶淵明(2)
「飲酒二十首」から「序」と代表作「其の五」」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2023.10.31
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(25)陶淵明(2)
「飲酒二十首 其の五」-楽しい読書353号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/10/post-7e3a1c.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/fb0ed419e609fae5ca4d419eb039fc2a

(第3回)
2024(令和6)年2月29日号(No.361)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(26)陶淵明(3)
「園田の居に帰る五首 其の一・其の二」」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2024.2.29
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(26)陶淵明(3)
「園田の居に帰る五首(其一・二)」-楽しい読書361号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2024/02/post-40f92c.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/554a8f921e059526fa614aeb7885735b

(第4回)
2024(令和6)年3月31日号(vol.17 no.6/No.363)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(27)陶淵明(4)
「園田の居に帰る五首 其の三・其の四」」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2024.3.31
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(27)陶淵明(4)
「園田の居に帰る五首(其三・四)」-楽しい読書363号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2024/03/post-23dc09.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/983a4bfc7e91c974e60c7924b461f563

(第5回)
2024(令和6)年4月30日号(vol.17 no.8/No.365)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(28)陶淵明(5)
「居を移す二首 其の二」
「庚戌の年 九月中 西田に於いて早稲を穫る」」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2024.4.30
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(28)陶淵明(5)「居を移す二首」他
-楽しい読書365号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2024/04/post-1a3755.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/afd92fdc908f963491d4340b712106f2


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

◆ 封印された「猛志」 ◆

 中国の古典編―漢詩を読んでみよう(29)

  ~ 陶淵明(6) ~

 「雑詩十二首 其の二/飲酒二十首 其の十六・其の二十」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

今回の参考文献――

『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』
 江原正士、宇野直人/著 平凡社 2010/4/20
「九、達観を目指して――陶淵明の世界」より


 ●陶淵明「雜詩其の二」

陶淵明は隠者ぐらいを続けるのですが、予想していたほど楽しくない、
なかなか思惑通りには進まない、閉塞感が募り、
その心境を詩に吐露して、少しずつ自己反省してゆきます。

次に紹介するのが、そういう隠居しても平静な心を得られなかった、
陶淵明の辞職後、十年以上たった、50歳から60歳頃の詩です。

《秋の夜、心に悲しみがあって寝られない歎きを歌っています。》p.358

と、宇野直人さんの解説。

 ・・・

 雜詩其二   雜詩其の二   陶淵明

白日淪西阿  白日(はくじつ) 西阿(せいあ)に淪(しづ)み
素月出東嶺  素月(そげつ) 東嶺(とうれい)に出(い)づ
遙遙万里輝  遙遙(ようよう)たり 万里(ばんり)の輝(き)
蕩蕩空中景  蕩蕩(とうとう)たり 空中(くうちゆう)の景(けい)

 輝く太陽はだんだん西の丘に沈み
 かわって白く明るい月が東の峰から顔を出す
 遙か遠く一万里の彼方に満ち渡る月の輝き
 大きく広がる夜空いっぱいの月の光

第一段は、夜に月が出て来る描写。


風来入房戸  風(かぜ)来(きた)つて房戸(ぼうこ)に入(い)り
夜中枕席冷  夜中(やちゆう) 枕席(ちんせき)冷(ひ)ゆ
気変悟時易  気(き) 変(へん)じて時(とき)の易(かは)るを悟(さと)り
不眠知夕永  眠(ねむ)らずして夕(ゆふべ)の永(なが)きを知(し)る

 風が吹き寄せて私の寝室に入り込み
 夜中に寝床が冷えてきた
 空気の様子が変わったことで季節の変化に気付き
 眠れないために夜が長いことをたしかに知った

第二段では、隠者になってみて初めて、隠者が退屈だとわかった、と。


欲言無予和  言(い)はんと欲(ほつ)するも
        予(われ)に和(わ)するもの無(な)く
揮杯勧孤影  杯(さかづき)を揮(ふる)うて孤影(こえい)に勧(すす)む
日月擲人去  日月(じつげつ)人(ひと)を擲(なげう)ちて去(さ)り
有志不獲騁  志(こころざし)有(あ)るも騁(は)するを獲(え)ず
念此懐悲悽  此(これ)を念(おも)うて悲悽(ひせい)を懐(いだ)き
終曉不能静  曉(あかつき)を終(を)ふるまで
        静(しづ)かなる能(あた)はず

 何か話をしたいけれど答えてくれる相手はおらず
 ひとり杯をあげて自分の影法師に酒を勧める
 月日の流れは私を放り出したままどんどん去って行き
 抱負を抱いているのに一向に発揮することができない
 こんな思いにふけるうち、すっかり悲しみにとらわれてしまい
 夜明けが明けるまで落ち着くことができなかった

志がありながら果たすことができず、仕方なく酒を飲むうちに、
悲しみがふかまって、夜明けまで眠れずにいる。

《五十を過ぎて悲しみのために徹夜をしてしまう、激しい人ですね。》p.359

陶淵明さんのその志の実態が現れているのが、次に紹介する詩です。


 ●「飲酒二十首 其の十六」

「飲酒」の連作は、
《隠居後の折々、酒を飲みながら心に浮かんだものを書き付けた作品》
で、
《ただ悲しんでいるだけでなく、自己反省し、
 自分がほんとうに求めているのは何なのか、
 だんだん浮き彫りになって来ます。》p.361

 ・・・

飲酒二十首  陶淵明

 其十六    其の十六

少年罕人事  少年(しようねん)より人事(じんじ)罕(まれ)にして
遊好在六経  遊好(ゆうこう)は六経(りくけい)に在(あ)り
行行向不惑  行(ゆ)き行(ゆ)きて不惑(ふわく)に向(なんな)んとし
淹留遂無成  淹留(えんりゆう)して遂(つひ)に成(な)る無(な)し

 私は若い頃は世間の事にあまり関わりがなく
 喜んで愛好するのは六経であった 

第一段は、40歳になるまでの思い出と、改めて自分の本質に気付く。

「少年」は、中国では18歳から30歳くらいまでを指し、
“若き日、青年”に近い。「人事」は、“世間の事柄”。
「六経(りくけい)」は、儒教の重要な古典。

 《自分は本当は官職を求めていたのではなく、読書、
  とくに儒教を勉強するのが好きだったんだなあ、
  と改めて思い当たった》(p.361)という感じ。


竟抱固窮節  竟(つひ)に固窮(こきゆう)の節(せつ)を抱(いだ)き
飢寒飽所更  飢寒(きかん) 更(ふ)る所(ところ)に飽(あ)く
弊廬交悲風  弊廬(へいろ) 悲風(ひふう)を交(まじ)へ
荒草没前庭  荒草(こうそう) 前庭(ぜんてい)を没(ぼつ)す

 その間、私は終始一貫して“君子はとかく困窮するものだ”という
  覚悟をしかと持ち続けた
 しかしその結果、飢えや寒さをいやと言うほど経験した
 壊れかけたあばら家には悲しげな秋風が吹きわたり
 伸び放題の雑草は家の前の庭をうずめている

第二段では、時が流れて四十歳になろうとしても
ぐずぐずしているだけで物にならなかった
『論語』為政第二「四十、五十に鳴っても世の中から注目されなければ
その人はだめだ」という孔子の言葉を踏まえて、
自分は官職にいても隠者になっても常に貧乏だ、と。

陶淵明の詩のキーワード=人生目標ともいうべき、
「固窮の節」という言葉が出てきます。
『論語』衛霊公第十五「君子 固(もと)より窮す。
 小人、窮すれば斯(ここ)に濫(らん)す」にある言葉で、
《そんな君子の、貧窮に負けず信念を守る覚悟を示し、
 これに陶淵明は共感したんでしょう》p.362、と宇野さんは解説する。


被褐守長夜  褐(かつ)を被(き)て長夜(ちようや)を守(まも)るに
晨鶏不肯鳴  晨鶏(しんけい) 肯(あへ)て鳴(な)かず
孟公不在茲  孟公(もうこう) 茲(ここ)に在(あ)らず
終以翳吾情  終(つい)に以(もつ)て
        吾(わ)が情(じよう)を翳(かげ)らしむ

 粗末な服を着て秋の夜長を眠らずに過ごしているが
 夜明けを告げる鶏はなかなか鳴いてくれない
 今は孟公がいない
 そのことが私の心を暗くするのだ

「孟公」は、張仲蔚(ちようちゆううつ)という隠者の
よき理解者だった人物のこと。
張仲蔚は、文才があり読書好きで、雑草だらけの家に住んでいた。
自分にはそういう孟公のような人はいないので、心を暗くする、と。

当時は、隠者が宮廷に登用されるということもあったと言います。
陶淵明は、自分を評価してくれる人のいないことを嘆いているようです。

宇野さんの解説では、
これは「固窮の節」といえるのかどうか、疑問ではあります、と。
それでも、こういう風に素直に自分の気持ちを出している点が、
親しみを誘うのかも知れません。


 ●「飲酒二十首 其の二十」

飲酒二十首  陶淵明

 其二十    其の二十

羲農去我久  羲農(ぎのう) 我(われ)を去(さ)ること久(ひさ)しく
挙世少復真  世(よ)を挙(あ)げて
        真(しん)に復(かへ)ること少(すく)なし
汲汲魯中叟  汲汲(きゆうきゆう)たり 魯中(ろちゆう)の叟(そう)
弥縫使其淳  弥縫(びほう)して 其(それ)を淳(じゆん)ならしむ
鳳鳥雖不至  鳳鳥(ほうちよう) 至(いた)らずと雖(いへど)も
礼楽暫得新  礼楽(れいがく) 
        暫(しばら)く新(あら)たなるを得(え)たり

 伏羲と神農の太平の世はたいへん遠くなった
 本質に帰ろうとすることが稀になった
 思えば春秋時代、倦(う)まずたゆまず道を説き続けたあの魯の大人
  孔子さまは、伏羲・神農以来の太古の正しい道を手直しして
  世の中をすなおで人間らしいものにしようとなさった
 聖天子の出現を予告する鳳は残念ながら現れなかったが
 孔子の仕事のおかげで礼儀作法や音楽がひとまず面目を改め、
  現代的な意味をもった

最初の六句は、儒教を体系化した、孔子の仕事を讃えます。
「羲農」とは、儒教で聖天子といわれる、民衆に工芸技術を教えた伏羲と、
農業や薬を教えた神農のこと。

何が真実かを見直そうとすることがめったになくなった――
昔の話ではなく、現代にも通じること。

「魯中の叟」とは、魯の国出身の孔子さま。
「鳳鳥」は鳳(おおとり)という想像上の鳥で、
理想的な天子の出現とともにやって来る。
礼楽は、人間関係をスムーズにする礼儀作法と、
人の心を和らげる音楽のことで、
この二つをうまく運用するのが立派な政治とされ、儒教では重視した。


洙泗輟微響  洙泗(しゆし) 微響(びきよう)を輟(や)め
漂流逮狂秦  漂流(ひようりゆう)して狂秦(きようしん)に逮(およ)ぶ 
詩書復何罪  詩書(ししよ) 復(ま)た何(なん)の罪(つみ)かある
一朝成灰塵  一朝にして灰塵(かいじん)と成れり
区区諸老翁  区区(くく)たる諸(しよ)老翁(ろうおう)
為事誠殷勤  事(こと)を為(な)して誠(まこと)に殷勤(いんぎん)なり

 洙水と泗水の辺りで説かれた孔子の教えは奥の深い影響を次第に弱め
 世の中はふらふらとさまよって、あの凶暴な秦の時代にいたった
 『詩経』と『書経』にいったい何の罪があったのか
 何の罪もないのに或る日突然、それらは焼かれて灰となった
 こつこつ努力してやまない先生方が
 儒教を発掘して伝える仕事にまことに手厚く取り組んだ

次の六句は、始皇帝による秦の時代の儒教迫害、
そして漢の時代の学者による儒教復活の流れをたどる。

「洙泗」は魯の国を流れる二つの川、洙水と泗水。
この側で孔子が塾を開いていたので、孔子の塾や学問をさす。
「詩書」は『詩経』と『書経』で、儒教で尊重する「六経」に含まれる。
「焚書坑儒」のことを語る。


如何絶世下  如何(いかん)ぞ 絶世(ぜつせい)の下(もと)
六籍無一親  六籍(りくせき) 一(いつ)の親(した)しむ無(な)き
終日馳車走  終日(しゆうじつ) 車(くるま)を馳(は)せて走(はし)るも
不見所問津  津(しん)を問(と)う所(ところ)を見(み)ず

 それなのにいったいどうしたことだろう
  儒教の伝統は今の世の中、絶えてしまい、
 その経典はまったく立派なものではなくなった
 こういう現状では一日中、馬車をあちこち走らせても
 進むべき渡し場のありかを尋ねるべき相手がいない

次の四句は自分の時代に移り、儒教が重んじられないと嘆く。
名目上は中心になっているが、実際の運用はそうでもない。
「如何ぞ」は二句にかかる。どうしたことか?
「津」は船の渡し場、転じて“人生の拠り所、人生の指針”の意味。
儒教の伝統はたえてしまい、人生の拠り所は見つからない。


若復不快飮  若(も)し復(ま)た快飲(かいいん)せずんば
空負頭上巾  空(むな)しく頭上(ずじよう)の巾(きん)に負(そむ)かん
但恨多謬誤  但(ただ) 恨(うら)む 謬誤(びゆうご)の多(おほ)きを
君当恕醉人  君(きみ) 当(まさ)に酔人(すいじん)を恕(じよ)すべし

 こんな世の中にいきているなら、大いに酒を飲まなければ
 わが頭巾に申し訳が立たないぞ
 ただ一つ心残りなのは、こういう私の考え方に誤りの多いことだ
 しかし君はきっと、この酔いどれ男を多めに見てくれるでしょうなあ

当時は自分の家で酒の醸造が許されていたようで、頭巾で絞り、
それを平気でかぶっていた。
「当は~べし」は、確実視性の強い推量。

 《“ちょっと言い過ぎたかな”というかんじで、最後はおどけ、
  あきらめた感じで結びます。》p.367

老荘思想が普及している貴族社会のなかで、
自分の本質はやはり儒教だと告白した陶淵明さん。

自分を気持ちを表現できる風潮が広まったとは言え、
彼にも家族や使用人もいるので、彼らを守る意味で、
こういう風にむすんだのだろう、という宇野さんの解説です。

いままでのあれやこれやは、酔っ払いの戯れ言と許しておくれ、と。

世の中の変化を嘆きつつも受け入れ、自分は隠居の身として、
酒でも飲んで暮らしましょう、というところでしょうか。

「飲酒二十首」の最後の一首で、全体をまとめる一首という形でしょう。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(28)陶淵明(5)「居を移す二首 其の二」「庚戌の年 九月中 西田に於いて早稲を穫る」 」と題して、今回も全文転載紹介です。

今回も田舎に帰った陶淵明さんの詩です。

孔子の教えに従い、儒教を自分の本質と考える陶淵明さんですが、世の変化に不満を持ちつつも酒に紛らせる日々、というところでしょうか。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

『レフティやすおのお茶でっせ』
〈メルマガ「楽しい読書」〉カテゴリ


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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載

" target="_blank">中国の古典編―漢詩を読んでみよう(29)陶淵明(6)「雑詩十二首/飲酒二十首」-楽しい読書367号

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私の読書論184-がんばれ!町の本屋さん-楽しい読書366号

2024-05-15 | 本・読書
古典から始める レフティやすおの楽しい読書(まぐまぐ!)
【別冊 編集後記】


2024(令和6)年5月15日号(vol.17 no.9/No.366)
「私の読書論184-がんばれ!町の本屋さん」



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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2024(令和6)年5月15日号(vol.17 no.9/No.366)
「私の読書論184-がんばれ!町の本屋さん」
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 昨年9月から10月、11月、12月と、
 読書習慣を持つ人の減少、および町の本屋さんの減少に関しての文章を
 書いてきました。

 今回また、私の“町の本屋”論を書いてみたいと思います。

 私は、今からおよそ40年ぐらい前になりますが、
 20代後半から30代の初めまで6年近く“町の本屋”さんで、
 「本屋の兄(にい)ちゃん」(近所の小学生からそう呼ばれていました!)
 として働いていました。

 そういう書店員経験と小学生時代からの書店客としての経験を基に
 語ってみたいと思います。


【過去の本屋論】

2023(令和5)年9月15日号(No.350)
「私の読書論174-消えゆく書店と紙の本」
2023.9.15
私の読書論174-消えゆく書店と紙の本-楽しい読書350号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/09/post-f7ab5e.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/a65f07da56cc868147fbd49d01c3c4bf

 ●朝日新聞の記事「本屋ない市町村、全国で26%~」
 ●再販制度――定価販売による価格保証
 ●書店経営が厳しい背景の要因―雑誌の売り上げの急減
 ●ネット書店で本を買う人の増加
 ●リアル書店での「偶然の出会い」
 ●リアル書店の生き残りについて――「コンビニ+本屋」
 ●ベストセラーではなく、ロングセラーを!
 ●本屋はそのまちの文化のバロメーター

一番大事なことは、本屋さんというのは、
その町の文化を代表する存在の一つだ、ということです。

もちろん文化施設としては、
公立や私立の図書館とか美術館とか博物館などもあります。
あるいは学校――小・中・高校、大学、専門学校などの教育施設などが
あります。

しかし、最も身近な文化施設として、私が思うところは、
やはり町の本屋さんなのです。
これは私の経験からの意見です。

本屋さんに出入りするようになり、私の世界が広がったのです。
今の私につながるような変化を生みました。

それが文化というものでしょう。

本の世界には、文字通り世界のすべてが包含されています。
未知なる世界への入口になるのです。

日常的な生活だけでは、絶対ふれ得ないような世界の広さです。

それが本屋さんというものだと私は思っています。

もちろん、昔でいえば映画やラジオやテレビもそういうものでした。
しかし、それらは自分の手元に置いておくことができにくいものでした。

紙の本なら、それが可能でした。

広い世界へつながる入口――それが本屋さんであり、
文化へ続く道だったのです。
--


2023(令和5)年10月15日号(No.352)
「私の読書論175-出版業界―または本と本屋のこと」
2023.10.15
私の読書論175-出版業界―または本と本屋のこと-楽しい読書352号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/10/post-d8d8ec.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/7b9a38985fcfd574650e4c54eba355c1

 前回に引き続き、本と本屋の世界といいますか、業界について、
 「元本屋の兄ちゃん」として、本好き・読書好きの人間として、
 私なりに考えていることを書いてみようと思います。

 前回は、朝日新聞の記事「本屋ない市町村、全国で26%~」を基に、
 書店が生き残る方法など、私なりの考えを書きました。
 再販制度をやめよとか、雑誌販売についてとか、
 書店の選書について等々。

 今回はその続きで、出版業界における改革について、
 私なりの案を書いてみましょう。

 ●日本の本は安い!?
 ●本の値段を上げてみれば?
 ●本の価格を1.5倍に
 ●より良い本作りが可能に
 ●「軽い」本は電子版で
 ●「良い本」を作れる環境を!

まとめ的にいいますと、
現状ではまず本の値段を上げてそれぞれの取り分を増やす。

そうして、著者・出版社の「良い本」を作れる環境を整え、
書店がそれらの「良い本」をじっくり時間をかけて売れる状況にする。

――というところでしょうか。
--


2023(令和5)年11月15日号(No.354)
「私の読書論176-読書週間に関する新聞記事から思ったこと」
2023.11.15
私の読書論176-読書週間に関する新聞記事から思ったこと-楽しい読書354号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/11/post-7462e0.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/d498bde194e54d8e97a5d018d683f607
 ●月0冊が半数
 ●系統だった情報を入手する方法としては本が上では?
 ●「読書週間」と読書習慣
 ●「本を読むから偉い」のでなく「本を読んだから偉くなれた」
 ●「読む時間が確保できない」
 ●「読みたい本がない」について
 ●書店の新形態――無人の店舗、コンビニ併設
 ●本屋さんの生き残りに期待

とにかく、本屋さんがなくなるというのが一番の悲劇だと思っています。
何らかの形で残って欲しい、という強い願望があります。

ふらりと入った本屋さんであれこれ見ることで、
「あっ、こんな本が出てる!」という偶然の出会いがあります。

それが本好きにとっての一番の至福の時間かもしれません。

私は、本屋さんにいるときが一番楽しい時です。
図書館も楽しみですが、本屋さんの方が、より新しい顔を見られる、
という点で楽しみが大です。

今の私があるのは、ひとえに本屋さんあればこそ、と思っています。
私の人生の一番の友、それが本で、その友との出会いの場が本屋さん、
なんです。

(略)

私は、書店・本屋さんは、地域の文化の担い手だと考えています。
がんばれ本屋さん!
--


2023(令和5)年12月15日号(No.356)
「私の読書論177-個性的な本屋の作り方を学ぶ
―『美しい本屋さんの間取り』から」
2023.12.15
私の読書論177-個性的な本屋の作り方を学ぶ―『美しい本屋さんの間取り』-楽しい読書356号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/12/post-bf19e5.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/79bec3e02805048065d5ea41387e2c55

 (今回の参考書)
『美しい本屋さんの間取り』エクスナレッジ X-Knowledge 2022/12/29
http://www.amazon.co.jp/dp/4767830958/ref=nosim/?tag=hidarikikidei-22
 ●現物の魅力

本屋さんの魅力といいますと、なによりも、
<思いがけない本との出会いがある>という点でしょう。

欲しい本を買うだけなら、ネットで十分です。
在庫があれば、Amazonなどではホントにすぐに送ってきてくれます。

でも、自分が欲しい本が必ずしも、選んだ本だった、とは限りません。
色々な情報を手にしたうえで吟味して選んだつもりでも、
ホントに自分に合ったものかどうかは、
実際に手に取って読んでみなければ分からないものです。

その点、本屋さんではある程度立ち読みで現物を確認する事もできます。
内容だけではなく、実際の“もの”としての魅力という側面もあり、
自分で納得のいくものに出会えるという点では、
リアルの世界の持つ力は、捨てがたいものがあります。

本屋さんで本を探していると、予定していた本以外にも、
もっと適切な本が見つかることがあります。

さらに、考えてもいなかった本と出会うこともあります。
自分の中にそんな欲望があったのか、と思うような、
異なるジャンルの本との出会いも。

 ●本屋さん開業の夢
 ●『美しい本屋さんの間取り』主な目次
 ●間取りの図版が楽しい
 ●1章 設え方 来店者を増やす
 ●2章 見せ方 美しく本を見せる
 ●3章 基本 知っておきたい基礎知識
 ●本書が見せてくれる自分の本屋さんの夢
--

 以上、過去4回の概要とまとめというところです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 - 私の読書論184 -
  ~ がんばれ!町の本屋さん ~

  産経新聞の記事「一筆多論/多様な本屋があればこそ
          書店減少と読書文化を考える」より
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ●「多様な本屋があればこそ 書店減少と読書文化を考える」

産経新聞2024/4/30の山上 直子さんの
「一筆多論/多様な本屋があればこそ 書店減少と読書文化を考える」
https://www.sankei.com/article/20240430-3WZGEHWNPVPEHJSDN4I2J4ITXU/


(画像:産経新聞2024/4/30の山上 直子さんの「一筆多論/多様な本屋があればこそ 書店減少と読書文化を考える」全文)

(画像:産経新聞2024/4/30の山上 直子さんの「一筆多論/多様な本屋があればこそ 書店減少と読書文化を考える」のネット・ニュース版冒頭)

を紹介しましょう。

私も書いていますが、
本屋さんをのぞく楽しみは、他の商品と同じかも知れません。

「出会い」です。

 《思わぬ本に出会って人生が変わることもある。
  これまで、その舞台となってきたのが「街の本屋さん」だった。》

今その書店が次々と消えつつある。
この20年で半減し、

 《全国の市区町村のうち、4分の1以上で書店が一つもない
  という調査もある。》

そんななかで頑張っている地方の本屋さんを描いた本を紹介しています。

『本屋で待つ』(佐藤友則・島田潤一郎著、夏葉社 2022/12/25)

 《広島県庄原市の山間部の書店「ウィー東城店」を経営する佐藤さんの
  物語だ。試行錯誤するうちに本屋が印刷代行を手掛けるようになり、
  美容院や化粧品販売、コインランドリーにベーカリーまで…。》

 《いわゆる〝多角化〟で、
  街の「よろずや」となっていく過程がおもしろい。》

低い利益率による収益の少なさをカバーするためだけでなく、

 《各サービスが地域の人に必要とされていたからだ。》

といいます。

そして、ここが肝心の部分ですが、

 《書店を主軸にした多角化が地域の人たちに受け入れられたのは、
  「本という商品が社会から信頼されているから」というのである。》

 《本が信頼されているから本屋も信頼され、そこでパンを売ろうが
  化粧品を売ろうが、客は信頼してくれるのだと。》

人口減少と過疎化が進んでいる状況下で、
このような「よろず屋」が求められているわけです。

私も以前から書いていますように、

 《ただ、出版業界の構造が今のままでは、つまり、
  新刊や雑誌を売るだけではこの先、本屋を維持するのは難しいと、
  佐藤さんは同書で指摘している。》

利益率を上げる、顧客を確保する等の理由から、複合店が増えています。
それができないお店では、2割の粗利しかない現状で、
上質な文化の担い手を人材として確保するのは難しく、
それどころか学生アルバイトすら雇えず、
志を持つ店主たち(あるいはパパママ)で対応しているのが現状です。


書店を文化創造基盤として、その振興策を検討するための
「書店振興プロジェクトチーム」が経済産業省に発足した、といいます。

 《近年、個性的な書店が増えている。
  規模も取り組みもさまざまだが、従来の経営モデルでは
  もう通用しないという裏返しでもあるだろう。》

と、記事にあります。
一つは専門店化であり、他方は副業を合わせた多角化です。
その辺のところは、以前の記事でも紹介しました。

 《本や書店への信頼は読書文化の一端だ。
  大規模書店も街の本屋さんも、
  地域のニーズに根差した多様な書店が
  生き残る術(すべ)を考えてもらいたい。
  時間的な猶予はあまりない。(論説委員)》

と締めくくっています。


 ●私の“町の本屋さん”の生き残り法

私の考えた“町の本屋さん”の生き残り法の一つは、
現状の出版販売制度を維持したままでならば、本の価格を引き上げ、
その値上げ分を著者を含めた出版社、取次、書店で分配する方法。
これにより利益率を改善する。

もう一つは、根本的に販売制度を変え、再版制度をやめて、
書店の自由販売に変える。
他の商品などと同じように、自主的に仕入れて、自由に価格を設定、
販売する。

――という二つの方法を書いてみました。

私は、最終的には、後の根本的に販売法を変える方を取ります。
それぞれの経営者が努力する方向が一番だ、と思うからです。

再販制度はかつては、全国一律に価格競争を避けて、
経営規模の大小にかかわらず、全国の読者に本を提供するという役割を、
無事にこなしてきたと思います。

しかし、現状のような変化が生まれてきますと、
十分に対応できない面が出てきました。
Amazonのようにポイント制で、
実質的に再販価格制度を破っているところもあります。

電子本のように三次元空間でものを動かさない流通制度も、
現物主義の書店に不利になっています。

電子本によって、印刷・製本会社も儲けが減り、リアル書店も減益。

そういう現実の中で、生き残るためには、
書店や出版流通の構造を根本的に変える必要がある、
と私は考えています。


 ●文化の発信地としての書店の役割

書店の役割として、地域の文化の創造基盤としての存在、
というものがあると思います。

読書系の文化基地としては、書店だけでなく、図書館があります。
図書館の役割は大きいものがありますが、
図書館だけではカバーしきれない部分もあります。

公共の施設としての限界もあります。

図書館では扱いにくい本もあります。
図書館で借りて帰るのは、ちょっと……と思う本もあります。

また、図書館で借りて読むだけでは満足できず、ぜひ、自分の本として、
手元に置いておきたい本というものもあります。

そういった本はやはり本屋さんで買うのが一番です。

かつての私のように、引きこもりで外に出られなかった少年でも、
本の力によって、本の世界で社会とのつながりを得て、
現実に本屋さんに出かけることで、外の世界とつながっていた、
という現実がありました。

本屋さんは、外の世界への扉を開いてくれる場所でもあったのです。

そして、私が左利きの活動を始めるとき、
役に立つ情報を与えてくれたのも、本屋さんと図書館の本でした。


 ●がんばれ! 町の本屋さん

どんなに電子本が普及しようと、
それでもなお、紙の本を欲しいという人もいます。

紙の本による、
三次元で肉体と精神の両方を駆使して行う知的活動こそが読書だ、
と考える人もいます。

特に子供さんなどは、手に取って触って見て、五感で理解するのです。
ものとしての本の役割は、非常に大きなものがあります。

これからも、このメルマガでは、
本と本屋さんについてあれやこれやと書いてゆく予定です。
お楽しみに!

 ・・・

実は、後半の部分、当初の書いたものと異なる内容になりました。
パソコンのエラー?で、書いた部分百行分ぐらい消えてしまったのです。

要点の記憶はあるのですが、いざ書き直そうとすると、
まったく異なるものになりました。
あ~あ。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「私の読書論184-がんばれ!町の本屋さん」と題して、今回も全文転載紹介です。

かつて「町の本屋」さんで「本屋の兄ちゃん」をやっていた私にとって、こんなに早く本屋さんという業種が「絶滅危惧種」になるとは思ってもいませんでした。

少なくとも私の生きているあいだは大丈夫と、勝手に決め込んでいました。
まあ、それほど、この文化に大きな変化があるとは思っていなかった、ということですね。

ネットを含めた電子化、デジタル化の変化が大きかったということでしょう。

「紙の本から電子本」だけでなく、ネット書店の存在がここまでウエートを高めるとは思いませんでした。

Amazonで当初言われていたのが、ロングテールの本が売れるということでした。
これはネット書店の利点だと思いました。
店舗の立地に左右されず、店舗の賃貸料などを考慮しますと、本屋さんのような利益率の低い商品を扱う時、非常に有利になります。

私自身、後年、本屋時代の上司と話をしたときに、本屋さんは売れる本だけなどという在庫の置き方をするとダメになる、もっと売れない本も置いておかなければ、と。
滅多に売れないけれど、その本を置いておくことで、本屋さんとしての格といいますか、存在価値といいますか、お客さんに選択肢を与えるといいますか、そういう本屋としての価値があるかどうか、ですね。

さて、雑談はそれぐらいにして、これらのお話はまた来月にでもしたいものです。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

『レフティやすおのお茶でっせ』
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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
私の読書論184-がんばれ!町の本屋さん-楽しい読書366号
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中国の古典編―漢詩を読んでみよう(28)陶淵明(5)「居を移す二首」他-楽しい読書365号

2024-05-01 | 本・読書
古典から始める レフティやすおの楽しい読書(まぐまぐ!)
【別冊 編集後記】


2024(令和6)年4月30日号(vol.17 no.8/No.365)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(28)陶淵明(5)
「居を移す二首 其の二」
「庚戌の年 九月中 西田に於いて早稲を穫る」」



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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2024(令和6)年4月30日号(vol.17 no.8/No.365)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(28)陶淵明(5)
「居を移す二首 其の二」
「庚戌の年 九月中 西田に於いて早稲を穫る」」
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 今月の「中国の古典編―漢詩を読んでみよう」は引き続き、
 陶淵明の詩から「居を移す二首」と
 「庚戌の年 九月中 西田に於いて早稲を穫る」を。 


(陶淵明 第1回)
2023(令和5)年9月30日号(No.351)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(24)陶淵明(1)「五柳先生伝」」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2023.9.30
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(24)陶淵明(1)
「五柳先生伝」-楽しい読書351号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/09/post-b68999.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/d371c2c2141932565db7fac1a67c1150

(第2回)
2023(令和5)年10月31日号(No.352)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(25)陶淵明(2)
「飲酒二十首」から「序」と代表作「其の五」」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2023.10.31
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(25)陶淵明(2)
「飲酒二十首 其の五」-楽しい読書353号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/10/post-7e3a1c.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/fb0ed419e609fae5ca4d419eb039fc2a

(第3回)
2024(令和6)年2月29日号(No.361)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(26)陶淵明(3)
「園田の居に帰る五首 其の一・其の二」」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2024.2.29
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(26)陶淵明(3)
「園田の居に帰る五首(其一・二)」-楽しい読書361号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2024/02/post-40f92c.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/554a8f921e059526fa614aeb7885735b

(第4回)
2024(令和6)年3月31日号(vol.17 no.6/No.363)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(27)陶淵明(4)
「園田の居に帰る五首 其の三・其の四」」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2024.3.31
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(27)陶淵明(4)
「園田の居に帰る五首(其三・四)」-楽しい読書363号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2024/03/post-23dc09.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/983a4bfc7e91c974e60c7924b461f563


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◆ 農事にいそしむ ◆

 中国の古典編―漢詩を読んでみよう(28)

  ~ 陶淵明(5) ~
 「居を移す二首 其の二」
 「庚戌の年 九月中 西田に於いて早稲を穫る」」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

今回の参考文献――

『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』
 江原正士、宇野直人/著 平凡社 2010/4/20
「九、達観を目指して――陶淵明の世界」より



 ●陶淵明、農事にいそしむ

今回は、隠居後二年で火事にあい、引っ越すこととなり、
その直後に使った詩「居を移す二首」から「其の二」と
「庚戌の年 九月中 西田に於いて早稲を穫る」を紹介しましょう。

「居を移す二首」は、
 《引っ越し直後に新しい隣近所の人たちと宴会を開き、
  その場で挨拶がわりに“どうぞこれからよろしくお願いします”
  と詠んだもののようです。》p.349


 ●「居を移す二首 其の二」

移居二首   居を移す二首  陶淵明

 其二     其の二

春秋多佳日  春秋(しゆんじゆう) 佳日(かじつ)多(おほ)く
登高賦新詩  高(たか)きに登(のぼ)つて新詩(しんし)賦(ふ)す
過門更相呼  門(もん)を過(よぎ)りて更(こも)ごも相(あい)呼(よ)び
有酒斟酌之  酒(さけ)有(あ)らば之(これ)を斟酌(しんしやく)す

 春と秋には天気のよい日が多く
 小高い所に登って新しい詩を作りたくなる
 近所の人々の戸口を訪ねてお互いを呼び合い
 そこに酒があれば酌み交わす

《コミュニケーションを円滑にする、
“これからそういうおつき合いをしましょう”と呼びかけている雰囲気》
p.349 だといいます。


農務各自帰  農務(のうむ)には各自(かくじ)帰(かへ)り
閒暇輒相思  閒暇(かんか)には輒(すなは)ち相(あひ)思(おも)ふ
相思則披衣  相(あひ)思(おも)へば
        則(すなは)ち衣(ころも)を披(ひら)き
言笑無厭時  言笑(げんしよう) 厭(あ)く時(とき)無(な)し

 とはいえ、畑のおつとめがあればそれぞれ自分の畑に戻り
 手が空けばその都度、お互いのことを思い出す
 思い出せば、着物をはおって出かけ
 近所の人同士で談笑し、飽きることがない


此理将不勝  此(こ)の理(り) 将(は)た勝(まさ)らざらんや
無為忽去茲  忽(たちま)ち茲(ここ)を去(さ)るを為(な)す無(なか)らん
衣食当須紀  衣食(いしょく)
        当(まさ)に須(すべから)く紀(をさ)むべし
力耕不吾欺  力耕(りよくこう) 吾(われ)を欺(あざむ)かず

 こういう生き方の道筋は、さて優れていないか、どうでしょうか
 ふいに深い考えもなしに、この村を立ち去るようなことはしません
 自分が着るものや食べるものは当然、自分で調えるもの
 一心に骨折って農作業する生活は、私たちを欺いたりしませんよね

農作業にいそしみ、《この村でみなさんとずっと一緒に暮らしますよ》
ですから《どうぞよろしく、仲間に入れてください》と、
《彼の社交的な面、公の面》が見られる詩だ、といいます。


 ●「庚戌の年 九月中 西田に於いて早稲を穫る」

次は、陶淵明46歳の秋頃の作品。
火事で焼け出され、貧窮し、
いよいよ農作業に力を入れなければならない状況。

儒教は世直しの思想で、この孔子の教えに従い、官吏となりながらも、
乱れた世に志も遂げられず、職をなげうった陶淵明。

この決断も孔子の教え、『論語』に依拠したもので、そこを押さえれば、
この詩はわかりやすい、と宇野さんは言います。

『論語』「泰伯第八」に「天下道有れば則(すなわ)ち見(あらわ)れ、
道無ければ則ち隠る」とあり、

 《世の中が治まっている時はどんどん出て行って世直しをすべきだが、
  凡人は隠居して農耕生活でもするがよい――
  陶淵明はどうやらこの説に従って隠居したのではないか。
  ところが実際にそうしてみるとうまくゆかない、
  “これはどういうことだ”
  と孔子さまに食って掛かっている感じです》p.350


庚戌歳九月中於西田穫早稲  庚戌(こうじゆつ)の年(とし)
              九月中(くがつちゆう)
              西田(せいでん)に於(お)いて
              早稲(そうとう)を穫(か)る  陶淵明

人生帰有道  人生(じんせい) 有道(ゆうどう)に帰(き)す
衣食固其端  衣食(いしょく) 固(もと)より其(そ)の端(たん)なり
孰是都不営  孰(たれ)か是(こ)れ都(すべ)て営(いとな)まずして
而以求自安  而(しか)も以(もつ)て
        自(みづか)ら安(やす)んずるを求(もと)めんや

 “人は道徳を修めることが肝心だ”と孔子さまは言われた
 それはもっともだが、衣食が安定していることがその前提になる筈だ
 衣食のことにまったく関わらず、
 しかも自分を安心させようとするのは誰か、いやそんな人は誰もいない


冒頭、『論語』への疑問から始まる。
「人生 有道に帰す」は引用。
『論語』「学而第一」で、
 《学ぼうとする者は、飽食や美食を求めず、安楽な住まいをも求めず、
  やるべき物事はてきぱきと迅速に行い、言葉遣いに気をつけ、
  お手本となる立派な人について正す。そうであればこそ、
  学ぶのが好きな人と言える》p.352
と、
 《学ぶ者は、衣食住にこだわるな、
  物質的満足より精神的充実を目指しなさい》p.352
という。

陶淵明はそれに共感していたけれど、実際に暮らしてみると、
どうもそれだけではすまないぞ、と考えるようになった……。


開春理常業  開春(かいしゆん) 常業(じようぎよう)を理(をさ)め
歳功聊可観  歳功(さいこう) 聊(いささ)か観(み)る可(べ)し
晨出肆微勤  晨(あした)に出(い)でて微勤(びきん)を肆(つく)し
日入負耒還  日(ひ)入(い)りて耒(すき)を負(お)うて還(かへ)る

 春のはじめから普段の農作業をきちんとすれば、
 その年の収穫はまずまず見るべきものになる筈だ
 だから私は朝早くから畑に出てささやかな努力を傾け、
 日没とともに農具を背負って帰って来る


山中饒霜露  山中(さんちゆう) 霜露(そうろ)饒(おほ)く
風気亦先寒  風気(ふうき)も亦(また) 先(ま)づ寒(さむ)し
田家豈不苦  田家(でんか) 豈(あに) 苦(くる)しからざらんや
弗獲辞此難  此(こ)の難(なん)を辞(じ)するを獲(え)ず

 私の家があるのは山の中で、霜や露がことのほか多い
 風も空気も平地に先立ってどんどん冷えてしまう
 そういう農耕生活がどうして苦しくない筈があろうか、たいへん苦しい
 しかしこの難儀を避けることはできない


日々の農作業のつらさを告白します。


四体誠乃疲  四体(したい) 誠(まこと)に乃(すなは)ち疲(つか)る
庶無異患干  庶(こひねが)はくは
        異患(いかん)の干(をか)す無(なか)らんことを
盥濯息簷下  盥濯(かんたく)して簷下(えんか)に息(いこ)ひ
斗酒散襟顏  斗酒(としゆ)もて襟顏(きんがん)を散(さん)ず

 両手両足がまったくもうくたくたである
 どうかこの上は、よきせぬ災いが襲うことのないよう願いたい
 一日の終わりに手や足を洗いすすぎ、家の軒下で休み、
 お酒を飲んで心と表情をくつろがせる


「斗酒」=少量の酒、これが唯一の楽しみだ、と。


遥遥沮溺心  遥遥(ようよう)たる沮溺(そでき)の心(こころ)
千載乃相関  千載(せんざい) 乃(すなは)ち相関(あひかか)はる
但願常如此  但だ願ふ 常に此の如きを
躬耕非所歎  躬耕は歎ずる所に非ず

 こういう生活を続ける中で、遙か昔、孔子に批判的であった隠者、
 長沮(ちょうそ)・桀溺(けつでき)の気持ちが
 千年の隔たりを超えてなんとまあ、今ごろ私と通い合った
 いつまでもこういう生活が続くことをひとえに願う
 私は農作業については、歎くべきこととは思っていない


孔子に批判的であった隠者、長沮と桀溺とは、『論語』「微子第十八」に
道に迷った孔子一行が、農作業中の二人に道を尋ねると、
 《「孔子なら中国全体をわたり歩いているから、
  道は知っている筈だろう」と道を教えてくれませんでした。》p.354
という二人で、彼らは孔子の生き方に賛成せず、
 《「世の中は悪い方に流れていて、もう正すことはできない。
  無理して世直しするのではなく、わしらのように宮仕えせず、
  農作業をして生きる方がいい」》p.354
それに対して孔子は、
 《「われわれは人である限り、完全に世の中を避けることはできない。
  鳥や獣と一緒に暮らすのは無理だ。私はあくまで人間たちとともに
  いきてゆきたい。だから世直しを志しているんだ」》p.354

で、陶淵明は千年を隔てて、この長沮と桀溺の気持ちが分かった、
というのです。

とはいえ陶淵明は、元は孔子の教えに従い隠居生活に入った身、
隠者にはなりきれず、新しい村の人たちとやって行こう、
という気持ちでいます。
新しい生活に馴染んでいこうという思いでいます。


前回紹介しました「園田の居に帰る五首」では、

 《観念的な理想や、隠居後の折々の感慨を述べた》p.355


陶淵明でしたが、

 《方向性が出ていない印象がありました。
  それがこの辺から農作業の実体験を通じて、
  本当の生き方を探る方向性がとりあえず見えて来たのか。
  なんとなく生き方の糸口がつかめましたよ、
  と孔子さまに報告しているのかな。それを借り物でなく、
  自分の言葉で述懐しはじめたのかもしれません。》pp.355-356


というのが、解説の宇野さんの言葉です。

 ・・・

生きるというのは、志を貫くにこしたことはないのでしょうけれど、
いざ、実際に生活を続けていくことは大変で、様々な問題もあり、
初志貫徹がなるものでもない、志は大切ですが、
一方で現実の中で生きていくためには、お金も必要ですし、
志だけでは生きていけません。
ある程度あきらめながら、どこかで現実とのあいだで、
折り合いを付けていかなければならない。

その辺の迷いなども徐々にその詩の中に出て来るようです。

次回は、その辺の心境を歌っているような作品を見て行ければ、
と思います。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(28)陶淵明(5)「居を移す二首 其の二」「庚戌の年 九月中 西田に於いて早稲を穫る」 」と題して、今回も全文転載紹介です。

今回も田舎に帰った陶淵明さんの詩です。

田舎で農作業に日々を過ごす隠居さん、といえば今もあこがれる人が結構いそうな気がします。
しかし、これも作物が順調に育ってのことで、ひとたび天候不順や病虫害に見舞われれば、一年の苦労があっという間に水の泡ともなりかねず、なかなか大変な毎日が続きます。

孔子の教えに従いながらの日々の中で、そんな苦労も垣間見れる状況を描いています。

スローライフとか、田舎暮らしについて、色々と言われる時代ではありますが、いつの時代であっても、どこに行っても、人生とは苦労の種が尽きないもの。
強いて言えば、健康でさえあればなんとか我慢できるのかなあ、という感じですね。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
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私の読書論183-トールキン『指輪物語』70周年-楽しい読書364号

2024-04-19 | 本・読書
古典から始める レフティやすおの楽しい読書(まぐまぐ!)
【別冊 編集後記】


2024(令和6)年4月15日号(vol.17 no.7/No.364)
「私の読書論183-トールキン『指輪物語』(第一巻・第二巻)70周年」



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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2024(令和6)年4月15日号(vol.17 no.7/No.364)
「私の読書論183-トールキン『指輪物語』(第一巻・第二巻)70周年」
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 今年1954年から70年となります。
 この年には、偉大なる人々や偉大なる創作物が生まれています。

 最初に、1月生まれの
 “ユーミン”の愛称で知られる荒井由実、現・松任谷由実さん。

 かつてオリンピックの野球の「長嶋ジャパン」で、
 長嶋さんが倒れて代役の監督を務めた、
 現役時代は「絶好調男」と呼ばれた、元プロ野球巨人軍の中畑清さん。

 歴代最長の任期を記録した元首相、故・安倍晋三さん。

 (もう一人、一部の人々――主に左利きの、
  そのまた一部の人たちの間では、
  左利き界の“第一人者”とか“大師匠”とか呼ばれる、
  「レフティやすお」さんも1月生まれです)

 創作物でいいますと、最新作がアカデミー賞を受賞したことで
 改めて話題となっている<ゴジラ>シリーズの第一作「ゴジラ」。

 海外では、そう、今回取り上げます『指輪物語』です。

 『指輪物語』は全三巻(普及している邦訳版では全六巻)ですが、
 その第一巻(邦訳版「旅の仲間」上下)、
 第二巻(同「二つの塔」上下)が、本国イギリスで出版されたのが、
 この年でした。ちなみに、第三巻(同「王の帰還」上下)は翌1955年。

 ということで今回は、
 J・R・R・トールキンの『指輪物語』について――。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
◆ 1954年の奇跡!? ◆

  ~ 『指輪物語』『ホビットの冒険』の作家トールキン ~

 『指輪物語』第一巻・第二巻出版(1954年)から70周年
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ●『最新版 指輪物語』文庫版・全六巻(評論社)



2022年に、『指輪物語』の邦訳版の出版元・評論社から、
『最新版 指輪物語』の文庫版・全六巻が出ました。

2022年9月、AmazonのPrime Videoプライム・ビデオ
『ロード・オブ・ザ・リング――力の指輪 第1シーズン』
の配信に合わせたもののようで、その広告の帯が付いています。

出版社の紹介文にも、

《ファンタジー文学の最高峰『指輪物語』が
 日本で初刊行された1972年から奇しくも50年目の2022年、
 訳文と固有名詞を全面的に見直した日本語訳の完成形として、
 本最新版をお届けします。》


この文庫のことは知らなかったのですが、
これという気になる本がないなあ、と近所の本屋さんをのぞいていて、
見つけました。

従来あった文庫版は、活字が小さくて、文庫派の私でしたが、
買う気になれずにいたものでした。

本屋さんにあったのは、この全六巻だけでしたが、
第七巻「資料編」も2023年に出ています。


『最新版 指輪物語1 旅の仲間 上』J・R・R・トールキン/著
瀬田貞二, 田中明子/訳 評論社文庫 2022/10/19

《遠い昔、魔王サウロンが、悪しき力の限りを注ぎ込んで作った、
 指輪をめぐる物語。全世界に、一億人を超えるファンを持つ
 不滅のファンタジーが、ここに幕を開ける。》
631ページ

『最新版 指輪物語2 旅の仲間 下』J・R・R・トールキン/著
瀬田貞二, 田中明子/訳 評論社文庫 2022/10/19

《瀬田・田中訳の集大成
 黒の乗手の追跡から、辛くも逃れたフロドが目を覚ましたところは、
 「裂け谷」のエルロンドの館。翌朝、モルドールに抵抗する種族――
 魔法使い、エルフ、人間、ドワーフ、ホビット――の代表が参加する
 会議がエルロンドの主催で開かれ、指輪をどのように扱うかについて
 話し合われた。さて、その決定は……》
547ページ

『最新版 指輪物語3 二つの塔 上』J・R・R・トールキン/著
瀬田貞二, 田中明子/訳 評論社文庫 2022/10/19

《瀬田・田中訳の集大成
 ガンダルフを失った悲しみを、ロスローリエンで癒した一行は、
 大河アンドゥインを漕ぎ下り、とうとう別れ道へ差し掛かる。
 フロドの指輪棄却の決意を知ったボロミルは、それを奪おうとする。
 逃げ出すフロド。悔悟したボロミルは、オークとの戦いに倒れ、
 メリーとピピンはさらわれる。ここに旅の仲間は離散した……》
545ページ

『最新版 指輪物語4 二つの塔 下』J・R・R・トールキン/著
瀬田貞二, 田中明子/訳 評論社文庫 2022/10/19

《瀬田・田中訳の集大成
 ボロミルから逃れて一人モルドールに向かおうとするフロド。
 しかし、忠実なサムは、出し抜かれずに後を追う。
 大河アンドゥインの東側に連なる急峻エミュン・ムイルの荒涼たる
 山中を、やっとのことで抜け出した二人だったが、
 その後ろに忍び寄る一つの影が……》
418ページ

『最新版 指輪物語5 王の帰還 上』J・R・R・トールキン/著
瀬田貞二, 田中明子/訳 評論社文庫 2022/10/19

《瀬田・田中訳の集大成
 堕落した魔法使いサルマンが所持していたパランティールを、
 好奇心に勝てずに覗き込んだピピンは、魔王サウロンの見出すところ
 となる。ガンダルフは、パランティールをアラゴルンに預け、
 ピピンを連れてミナス・ティリスへ。
 一方ローハン軍召集のためにエドラスに向かう騎士たち。
 空にはナズグールが飛び交い、風雲急を告げる中、
 物語は佳境へと近づく。》
436ページ

『最新版 指輪物語6 王の帰還 下』J・R・R・トールキン/著
瀬田貞二, 田中明子/訳 評論社文庫 2022/10/19

《瀬田・田中訳の集大成
 フロドをオークの手から奪い返した忠実なサム。
 二人は、助け合いながら最後の使命を果たすべく滅びの罅裂を目指す。
 一方、冥王の目をフロドたちから逸らすべく、黒門前に兵を進めた
 ガンダルフやアラゴルンをはじめとする西国の勇士たちは、
 圧倒的な兵力の差のため暗黒の渦に吞み込まれようとしていた……
 ここに「一つの指輪」をめぐる物語の大団円を迎える。》
403ページ

『最新版 指輪物語7 追補編』J・R・R・トールキン/著 瀬田貞二,
田中明子/訳 評論社文庫 2023/5/30

《瀬田、田中訳の完成形として、日本初刊行以来50年の
 2022年に刊行を始めた『最新版指輪物語』の最終巻。
 固有名詞と訳文の見直しを行った。本編では語られていない
 歴史の記述、固有名詞便覧など、『指輪物語』世界の案内書。》


 ●著者J・R・R・トールキンについて

――出版社より(著者について)
1892~1973年。南アフリカのブルームフォンテンに生まれ、3歳のとき、
イギリスに移住。オックスフォード大学卒業。第一次世界大戦に従軍後、
1925年からオックスフォード大学教授。中世の英語学と文学を中心に
講じた。『指輪物語』は、20世紀最高のファンタジーとされる。
これに先立つ物語として『ホビットの冒険』『シルマリルの物語』
『ベレンとルーシエン』があるほか、児童向けの作品に
『トールキン小品集』『サンタ・クロースからの手紙』などがある。

というわけで、2023年に没後50年として出版されたのが、

『ユリイカ 2023年11月臨時増刊号』総特集◎J・R・R・トールキン
 ―没後50年――異世界ファンタジーの帰還― 青土社 2023/10/5
(Eureka 2023 no.811 vol.55-14)



《『指輪物語』や『ホビットの冒険』といった作品において壮大かつ
 緻密な世界を構築し、様々な”読み直し”の旋風を巻き起こしてきた
 J・R・R・トールキン。後続世代による模倣と継承から、映像や
 ゲームがもたらしたビジュアライズの時代を経て、没後から半世紀が
 経つ本年、終わらざりしトールキン論に臨みたい。》

目次
❖異世界は何度でも /上橋菜穂子 /小谷真理 /井辻朱美
 /パトリック・カリー(訳=鏡リュウジ)
❖汲み尽くしがたい源流 /鶴岡真弓 /一條麻美子 /石野裕子
❖座談会 /大久保ゆう+川野芽生+逆卷しとね
❖遠く聞ゆるは懐かしき調べ /伊藤尽 /清水知子 /宮本裕子
 /木澤佐登志 /森瀬繚
❖テーブルを囲んで /上田明
❖創造のカレイドスコープ /辺見葉子 /髙橋勇
 /アラリック・ホール(訳=岡本広毅)
❖エルフ語入門 /伊藤尽
❖言葉は輪廻する /山本史郎 /小野文 /小澤実
❖叙述から始めよ /桑木野幸司 /勝田悠紀 /岡田進之介
 /石倉敏明 /渡邉裕子
❖資料 /髙橋勇 編



 ●『指輪物語』の思い出

私がこの作品を読んでのは、1979年6月から7月の初めについて。
この作品を読もうと思ったのは、山口の女子大生からお便りをもらい、
その中にオススメ本としてこの本のことが書かれていたからでした。

これではよく事情がおわかりにならないでしょうから、
もう少し説明します。

当時の私の愛読雑誌のひとつだった、
故やなせたかしさん編集の『詩とメルヘン』の読者投書欄に、
私の投書が掲載され、それを読んだ人が手紙をくれたわけです。

以前このメルマガでも紹介しました、ハヤカワSF文庫から出た、
ゼナ・ヘンダースン『果てしなき旅路』のような作品を書いてみたい、
というのが私の投書でした。

疎外された立場の人たちが仲間を得て、彼らの手助けもあり、
自分を肯定できるようになり自立して行く、といった内容の作品で、
私のお気に入りの作品でした。


*参照:
【ゼナ・ヘンダースン <ピープル>シリーズ
  『果てしなき旅路』『血は異ならず』ハヤカワ文庫SF】



『果てしなき旅路』ゼナ・ヘンダースン/著 深町眞理子/訳
ハヤカワ文庫 SF ピープル・シリーズ 1978/7/1(1959)

・2023(令和5)年1月15日号(No.334)「私の読書論165-
私の年間ベスト3・2022年フィクション系(前編)総リスト&再読編」
・『レフティやすおのお茶でっせ』2023.1.15
私の読書論165-私の年間ベスト3・2022年フィクション系(前)総リスト&再読編
-楽しい読書334号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/01/post-ce3d4b.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/963db458297d62363a53bf4aaefe9930

・2023(令和5)年1月31日号(No.335)「私の読書論166-
私の年間ベスト3・2022年フィクション系(後編)再読編&初読編」
・『レフティやすおのお茶でっせ』2023.1.31
私の読書論166-私の年間ベスト3・2022年フィクション系(後)初読編
-楽しい読書335号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/01/post-059ad0.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/3d8f4210a27677ac55d433cea1778596


それに対して、お返しにご自分のお気に入りの作品として、
この『指輪物語』が紹介されていました。

さっそく図書館で借りて読み始めました。
長い作品でしたが、面白く読んだ記憶があります。

その後、この作品の前作というべき児童向けの『ホビットの冒険』も
楽しみました。

45年前の思い出話です。


『ホビットの冒険 上』J・R・R・トールキン/著 瀬田 貞二/訳
岩波少年文庫58 2000/8/18
《ひっこみじあんで、気のいいホビット小人のビルボ・バギンズは、
 ある日、魔法使いガンダルフと13人のドワーフ小人に誘いだされて、
 竜に奪われた宝をとり返しに旅立つ。79年刊の新版。》
336ページ

『ホビットの冒険 下』J・R・R・トールキン/著 瀬田 貞二/訳
岩波少年文庫59 2000/8/18
《魔法の指輪を手に入れたビルボとその一行は、やみの森をぬけ、
 囚われた岩屋からもなんとか脱出に成功。ビルボたちは、
 いよいよ恐ろしい竜スマウグに命がけの戦いを挑む。79年刊の新版。》
282ページ

『新版 ホビット――ゆきてかえりし物語 <第四版・注釈版>』
J・R・R・トールキン/著 山本史郎/訳 原書房 2012/11/12
《映画「ロード・オブ・ザ・リング」で世界中にブームをまきおこした
 J.R.R.トールキンの『指輪物語』。 その前章の物語『ホビット』の
 定本(第四版)の新訳決定版! 著者自筆の挿絵および各国語版の挿絵を
 収録。 時代を越えて読み継がれる“名作"の理解を助ける詳細な
 注釈付の愛蔵保存版。 2012年12月、3部作の第1弾
 「ホビット 思いがけない冒険」がついにロードショー!》
470ページ

(文庫)
『ホビット〈上〉―ゆきてかえりし物語』J・R・R・トールキン/著
山本史郎/訳 原書房 2012/11/1
《時代を越えて読み継がれる不朽の名作『ホビット』を、
 さまざまな角度から詳細な注釈をつけた新訳決定版。
 トールキン自筆の挿絵つき。持ち歩きしやすい文庫判。》
362ページ

『ホビット〈下〉―ゆきてかえりし物語』J・R・R・トールキン/著
山本史郎/訳 原書房 2012/11/1
422ページ


 ●『指輪物語』の内容について

『指輪物語』は1960年代に欧米の若者たちのあいだで大いに読まれた、
といわれています。
1960年台後半、ベトナム戦争に嫌気したアメリカの若者たちのあいだで、
カンターカルチャーとしてファンタジーが流行し、
『指輪物語』のペーパーバックが300万部も売れたといわれています。

日本では、1972年に翻訳刊行されました。

『ゴジラ』が水爆実験の影響で出現した、とされているのに対して、
この作品は「指輪」が核兵器を表している、という読み方もあります。

実際には、戦時中から書かれた物語ということなので、
その時代背景が著者に影響している、
というのが本当のところではないか、といわれています。


さて、なにしろ45年ほど前に読んだっきりですので、
詳しいストーリーも今は忘れてしまい、
あらためて『ホビット』から読み直している状況で、
まだ第一巻「旅の仲間」(上)巻を読んでいるところですので、
具体的な感想などはまだ書けません。

『ホビット』も昔読んだ、岩波少年文庫版『ホビットの冒険』ではなく、
20年ほど前に手に入れたまま放置してあった旧版、
『ホビット―ゆきて帰りし物語― 第四版注釈版』のほうです。



図書館で岩波少年文庫版の方ものぞいてみましたが、
Amazonのレヴューにもあるように、
ひらがなが多くおとなにはちょっと読みづらく感じました。
おとなが読むなら、
原書房版のおとな向けの翻訳の方が適しているかもしれません。


 ●おとな向けファンタジー『指輪物語』

『ホビット』と『指輪物語』の違いについて書いておきましょう。

一言でいえば、「子供向け」と「おとな向け」ということになります。
その分、ストーリーがより複雑になり、
背景となるムードもより深刻になっています。

『ホビット』は、ホビット族のビルボ・バギンズが主人公で、
ドワーフの王様とその一行がドラゴンに奪われたお宝を奪回にゆく旅に、
魔法使いガンダルフの推薦を受けて「忍び」役として同行し、
お宝を奪い返したご褒美と、偶然手に入れた指にはめると姿を消せる、
魔法の「指輪」を持って帰って来るという、副題にあるように、
文字通り<ゆきてかえりし物語>で、
その途中で出会う冒険の数々を語るものです。

『指輪物語』は、このときの「指輪」が実は、
魔王サウロンが探している魔法の指輪で、
この世界を統べることができるというしろもので、
これを奪われないようにどうにかしよう、とビルボから指輪を預かった
養子のフロド・バギンズが仲間たちと旅に出る、というものです。

「黒の乗手」という悪の一味たちから追われる旅です。

――私は、今はまだその辺までですね。

今どきの小説と違って、会話の応酬で進め、
ジョットコースターのようなストーリー展開で読者を離さない、
といったものとは異なり、
詩というか歌も交えて、ゆったりとした地の文で読ませるお話、
というイメージです。

『ホビット』も子供向けにしては長いお話でしたが、
『指輪物語』もまた長大な作品です。

残り5巻とちょっと。
何ヶ月後になるかわかりませんが、読み終えたら
具体的なストーリーの紹介や感想など書いてみたい、と思います。

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本誌では、「私の読書論183-トールキン『指輪物語』(第一巻・第二巻)70周年」と題して、今回も全文転載紹介です。

『指輪物語』の映画化作品三部作もありました。
そちらで知っているよ、という人も多いかと思います。
あるいはゲームも出ているそうで、そちらで知ってるという人もいるのかもしれません。

映画にしろゲームにしろどちらにしろ、それはそれでいいのですけれど、やはり本の方を読んでいただきたいと思っています。
それがそもそもの始まりだから。
小説というのは、言葉の芸術なのです。
歌なども言葉の芸術の一つですけれど、これには音、あるいは声が伴います。
しかし、小説のほうは、言葉のみ、それも文字のみの世界です。

それは、人間だけが楽しめる世界といっても過言ではありません。

そういう頭の中だけの空想の世界で遊ぶのも楽しいものなんですよ。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

『レフティやすおのお茶でっせ』
〈メルマガ「楽しい読書」〉カテゴリ


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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
私の読書論183-トールキン『指輪物語』70周年-楽しい読書364号
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中国の古典編―漢詩を読んでみよう(27)陶淵明(4)「園田の居に帰る五首(其三・四)」-楽しい読書363号

2024-04-02 | 本・読書
古典から始める レフティやすおの楽しい読書(まぐまぐ!)
【別冊 編集後記】


2024(令和6)年3月31日号(vol.17 no.6/No.363)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(27)陶淵明(4)
「園田の居に帰る五首 其の三・其の四」」



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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2024(令和6)年3月31日号(vol.17 no.6/No.363)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(27)陶淵明(4)
「園田の居に帰る五首 其の三・其の四」」
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月末発行の「楽しい読書」は、古典作品の紹介です。
 現在は、中国の古典から漢詩の名作を読んでいます。

 今月の「中国の古典編―漢詩を読んでみよう」は、前回に引き続き、
 六朝時代(東晋末~南朝宋初)の詩人・陶淵明(とう えんめい)の
 「園田の居に帰る五首」の後半部分から「其の三・其の四」です。

(陶淵明 第1回)
2023(令和5)年9月30日号(No.351)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(24)陶淵明(1)「五柳先生伝」」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2023.9.30
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(24)陶淵明(1)
「五柳先生伝」-楽しい読書351号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/09/post-b68999.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/d371c2c2141932565db7fac1a67c1150

(第2回)
2023(令和5)年10月31日号(No.352)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(25)陶淵明(2)
「飲酒二十首」から「序」と代表作「其の五」」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2023.10.31
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(25)陶淵明(2)
「飲酒二十首 其の五」-楽しい読書353号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/10/post-7e3a1c.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/fb0ed419e609fae5ca4d419eb039fc2a

(第3回)
2024(令和6)年2月29日号(No.361)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(26)陶淵明(3)
「園田の居に帰る五首 其の一・其の二」」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2024.2.29
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(26)陶淵明(3)
「園田の居に帰る五首(其一・二)」-楽しい読書361号


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◆ 隠居生活の思い ◆

 中国の古典編―漢詩を読んでみよう(27)

  ~ 陶淵明(4) ~

 「園田の居に帰る五首 其の三・其の四」

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今回の参考文献――

『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』
 江原正士、宇野直人/著 平凡社 2010/4/20
「九、達観を目指して――陶淵明の世界」より



 ●陶淵明「園田の居に帰る五首」

40歳過ぎで官職をなげうって、故郷に帰った陶淵明。
その隠居後の生活をうたった42歳頃の連作「園田の居に帰る五首」。

今回は、窮屈な生活から解放された開放感にあふれた第一首とは違い、
農業生活の悩みを実感するようになった思いがあらわれ始めたころの、
後半の三首から、第三首、第四首を紹介しましょう。


 ●「園田の居に帰る五首 其の三」陶淵明

・第三首目は、第一首と並んで有名になった歌だそうです。
そこでは、《「其の二」より少し深刻で、自分の経験不足で農作業が
 うまくゆかない悩みを告白しています。》p.344


帰田園居五首(其三)
           園田(えんでん)の居(きよ)に帰(かへ)る
            五首(ごしゆ) 其(そ)の三(さん)

・前半四句は、《農作業の大変さを述べる。》p.344

種豆南山下  豆(まめ)を種(う)う 南山(なんざん)の下(もと)
草盛豆苗稀  草(くさ)盛(さか)んにして
        豆苗(とうびよう)稀(まれ)なり
晨興理荒穢  晨(あした)に興(お)きて荒穢(こうわい)を理(おさ)め
帯月荷鋤帰  月(つき)を帯(お)び 鋤(すき)を荷(にな)うて帰(かへ)る

 山のふもとに豆を植えたが
 その畑には雑草ばかりはびこって、かんじんの豆が育たない
 それで私は毎日、夜明けから畑に出て、
 夜になるまで畑の手入れをしている


・後半四句は、《“農作業は大変だが、どうかうまくいきますように”と、
 祈るような気持ちを述べます。五・六句めはたとえを使って、
 計画通りにゆかないむずかしさを述べたもの》p.344
 
道狹草木長  道(みち)狹(せま)くして草木(そうもく)長(ちよう)じ
夕露沾我衣  夕露(ゆうろ) 我(わ)が衣(ころも)を沾(うるほ)す
衣沾不足惜  衣(ころも)の沾(うるほ)ふは惜(をし)むに足(た)らず
但使願無違  但(ただ) 願(ねが)ひをして
        違(たが)ふこと無(なか)ら使(し)めよ

 帰り道は狭く、余計な草や木ばかりが茂って邪魔をする
 その上、夜露が私の服をぬらす
 着物がぬれるのは、いやがるほどのことではない
 ただひとえに、私の願いが背かれることのないようにさせてほしい 

《夜の帰り道の描写であるとともに、農耕に生きる道の大変さのたとえ》
で、
《自分で選んだ農耕生活が今後もうまくゆくよう、それだけが願い》だ、
ということだろうといいます。


 ●「園田の居に帰る五首 其の四」陶淵明

帰田園居五首(其四)
           園田(えんでん)の居(きよ)に帰(かへ)る
            五首(ごしゆ) 其(そ)の四(し)

・《最後の二句に重みがあります。或る日、
 子どもたちや甥を連れてピクニックに行った時に廃屋に出くわし、
 そこから人生の無常に思いを巡らす――ちょっと深刻な展開です。》
pp.345-346

・第一段は、《隠居直後の正直な感慨か》。p.346

久去山沢游  久(ひさ)しくる山沢(さんたく)の游(あそ)びを去(さ)り
浪莽林野娯  浪莽(ろうもう)たり 林野(りんや)の娯(たのし)み
試携子姪輩  試(こころ)みに子姪(してつ)の輩(はい)を携(たづさ)へ
披榛歩荒墟  榛(しん)を披(ひら)いて荒墟(こうきよ)を歩(ほ)す

 私はもう、長いこと山水を楽しむ遊覧から遠ざかっていて
 森や野原を歩く楽しみなど、ぼんやりとしか考えていなかった
 今日試みに、子どもや甥たちを連れて
 雑木を掻き分け押し分けて、荒れた村里を歩いてみた


・第二段の「丘隴(きゅうろう)」を「墓場」ととる説もあるそうですが、
特別な行事の場合は別として、
《墓場にピクニックに行く、というのはどうかなあ。》p.346

徘徊丘隴間  徘徊(はいかい)す 丘隴(きゆうろう)の間(かん)
依依昔人居  依依(いい)たり 昔人(せきじん)の居(きよ)
井竈有遺処  井竈(せいそう) 遺処(いしよ)有(あ)り
桑竹残朽株  桑竹(そうちく) 朽株(きゆうしゆ)残(ざん)す

 ぶらぶら歩き回る、小高い丘の辺り
 どうやらここらには、昔の人の家があったようだ
 井戸やかまどがその名残りをわずかにとどめている
 農家につきものの桑や竹は、枯れ朽ちた株が崩れてしまっている


・第三段は、廃屋について、
《ちょうど通りかかった木こりにようすを尋ねます。》
その答えを聞いて、《一挙に無常観に突き落とされます。》p.346

借問採薪者  借問(しやくもん)す 薪(たきぎ)を採(と)るの者(もの)
此人皆焉如  此(こ)の人(ひと) 皆(みな) 焉(いづ)くにか如(ゆ)くと
薪者向我言  薪者(しんじや) 我(われ)に向(むか)つて言(い)ふ
死没無復余  死没(しぼつ)して復(ま)た余(あま)す無(な)しと

 ちょっと尋ねてみた、通りすがりの薪を取る人に
 ここにいた人たちはみんな、いったいどこに行ってしまったのですか
 すると木こりは答えた
 いや、みんな亡くなって、跡を継ぐ人もいないんですよ


・第四段、「一世」は三十年の意味。「当(まさ)に~べし」は、
「必ずや~なるであろう」と、《確実性の強い推量です。》

一世異朝市  一世(いつせい) 朝市(ちようし)を異(こと)にす
此語真不虚  此(こ)の語(ご) 真(まこと)に虚(きよ)ならず
人生似幻化  人生(じんせい)幻化(げんか)に似(に)たり
終当帰空無  終(つひ)に当(まさ)に空無(くうむ)に帰(き)すべし

 三十年のうちに、朝廷も市場も、がらっと様変わりするという
 その言葉はまったく正しい
 人が生きるというのはまぼろしであり、
 実態がないもののように思う、結局は無に帰するのであろう


「一世異朝市」という慣用句があったようで、「一世代三十年のうちに、
 宮廷や市場が入れ替わるほどの変化がよくある」と、
世の中の移り変わりやすさと取る説もあるといいます。

 《隠居後一年、“こういう人生を選択したけれどいいのかなあ”と
  壁にぶつかった時にたまたま見た廃屋、
  それが自分のこれからの人生に重なって、
  あまり深い思想からではなしに、
  ついこういうことを書き付けてしまったのか……。》p.347

時の流れというものは、無常なもので、
鴨長明『方丈記』の冒頭にもありますように、
「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。」と。

仏教の無常観というものの表れですが、
陶淵明の時代には、そこまでのものがあったかどうか、
宇野さんの解説では、
後漢の「古詩十九首」あたりから出ているといいます。

 《“人生は朝露のようにはかないものだから、
  夜じゅうろうそくを灯して遊ぼう、酒を飲もう”という考え方が
  見られ、実はそこにも仏教思想が影を落としている
  と言われています。》p.347

ただ、
 《来世に望みを託するということはなく、
  その当時の中国に人々の仏教の受け止め方なんでしょうか――
  もしかしたら来世を考えない儒教の影響が
  大きいかも知れませんね。》p.347
と。


 ●田舎生活の陰影

ここでは紹介しませんが、
「其の五」では、
悲しみを抱えたまま険しい道をたどり、山の水で足を洗い流す。
新たな酒と鶏を潰して近隣の人を呼び、酒宴を開き、朝を迎える。

というふうに、隠居し移住した地で新たな生活を送る、
その生活の起伏を描いています。

政治の世界を離れた寂しさも感じさせる反面、
世相の荒波を超えた日常的な田舎の生活――
新たな農家の生活に、日々の収穫の多寡に一喜一憂するような、
そういう生活の陰影も感じさせる詩編です。

 ・・・

次回は、隠居後二年で火事にあい、引っ越すこととなり、
その直後に使った詩「居を移す二首」を。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(27)陶淵明(4)「園田の居に帰る五首 其の三・其の四」 」と題して、今回も全文転載紹介です。

近年、UターンとかJターンとか、あるいは故郷とは別個に地方への移住をする人も増えていると聞きます。
田舎暮らしのスローライフというのでしょうか。

この陶淵明さんもそういう一人だったようで、都での役人の世界を捨てて故郷に帰って農業に励むという暮らし。
政治や役人の世界も大変でしょうが、農業は農業でそれはそれで楽しみもある反面、自然が相手では思うにならぬむずかしい面もあり、ある種の無常観にとらわれることもあったのでしょう。
酒でも飲まないといられない、ということも……。

まあ、どこで、どのような世界で暮らすにしても仲間がいれば、それで解消される部分もあるでしょうから。

 ・・・

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中国の古典編―漢詩を読んでみよう(27)陶淵明(4)「園田の居に帰る五首(其三・四)」-楽しい読書363号
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私の読書論182-渡瀬謙『一生使える「雑談」の技術』から-楽しい読書362号

2024-03-18 | 本・読書
古典から始める レフティやすおの楽しい読書(まぐまぐ!)
【別冊 編集後記】

2024(令和6)年3月15日号(No.362)
「私の読書論182-渡瀬謙のビジネス書の新刊
『一生使える「雑談」の技術』から」



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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2024(令和6)年3月15日号(No.362)
「私の読書論182-渡瀬謙のビジネス書の新刊
『一生使える「雑談」の技術』から」
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 いつも新刊が出ると本を贈っていただいている、
 友人で左利き仲間の渡瀬謙さんの新刊を取り上げます。

 彼の著作を取り上げるのは、昨年の6月と8月の二度ありました。

 「営業のノウハウを処世術として人生に活かす」という趣向でした。

 今回は「雑談術」を扱ったもので、
 必ずしも「営業のための」、というものではありません。

 近所付き合いでも職場での付き合いでも、またお友達付き合いでも、
 その他色々な場面で応用できるかなあ、ということでご紹介します。


・2023(令和5)年6月15日号(No.344)
「私の読書論171-渡瀬謙のビジネス書の新刊
『トップセールスが絶対やらない営業の行動習慣』から」
・『レフティやすおのお茶でっせ』2023.6.15
私の読書論171-渡瀬謙『トップセールスが絶対やらない営業の行動習慣』
から-楽しい読書344号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/06/post-929a0f.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/59ae185f3daf8eebaec62cad6639e4f4

*渡瀬謙『トップセールスが絶対やらない営業の行動習慣』
日本実業出版社 2023/5/26


2023(令和5)年8月15日号(No.348)
「私の読書論173-友人・渡瀬謙の新刊・
 静かな人のための『静かな営業』を読んでみた」
2023.8.15
私の読書論173-友人の新刊・静かな人のための『静かな営業』を
読んでみた-楽しい読書348号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/08/post-a3c1f9.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/18d2f67eff14d96378e59e618cd888a3

*渡瀬謙『静かな営業 「穏やかな人」「控えめな人」こそ選ばれる
 30の戦略』PHP研究所 2023/7/20

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

◆ 平常心――「常にまわりが見える」観察の力で… ◆

  ~ 営業のノウハウを処世術として人生に活かす(3) ~

 渡瀬謙『一生使える「雑談」の技術』(大和出版)から

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ●『一生使える「雑談」の技術』全体の概要

『どんな場面でも会話が途切れない 一生使える「雑談」の技術』
渡瀬謙/著 大和出版/2024/2/16


目次

 序章 発想さえ変えれば、誰もが“雑談上手”になれる!
 第1章 これだけは押さえておきたい! 雑談の基本&大原則
 第2章 最初が肝心! 話のきっかけづくりと話題の見つけ方
 第3章 ストレスがかからない! 不自然にならない雑談の進め方
 第4章 会話がどんどん弾む! 話の上手な広げ方・掘り下げ方
 第5章 もう、あわてない! 話につまったときの切り抜け方
 第6章 こんなとき、どうする? [シーン別]困った状況での雑談術 
 終章 雑談の技術をマスターできれば、人生が大きく変わる!


(出版社の紹介文)
--
ムリに話さなくてもOK!
生来の口下手人間が試行錯誤の末につかんだ
「話のきっかけづくりと見つけ方」「話の広げ方と掘り下げ方」
「困った状況の切り抜け方」etc.を事例とともに初公開。
「雑談が苦手な人」ほど効果がある決定版!
--
カギは「相手ファーストの雑談」にある!
 ◎雑談には5つの目的と効果がある
 ◎「相手ファーストの雑談」の構造は、じつにシンプル
 ◎話題に迷ったときの「新鮮なネタ」の選び方
 ◎オンラインでの雑談にはコツがある
 ◎相手がもち出した話題はこうフォローしよう
 ◎雑談で話が広がらない人の3つの特徴
 ◎自然と距離が縮まる「教えてもらう雑談」
 ◎雑談での沈黙には、この3つで対応しよう 他、全49項
--


 ●著者・渡瀬謙さんからの言葉

次に、渡瀬謙さんのメールにあった文章を紹介しましょう。

--
この本の特徴は、読んだ翌日からすぐに使える即効性にあります。

・雑談が苦手な人でも翌日からすぐに使える!
・練習不要!難しいセリフを憶える必要がない!
・相手からの信頼度がグンと上がる!
・人付き合いが一気にラクになる!

そもそも雑談力がゼロだった私がこの方法を実践したとたん、
「雑談が得意」と言えるようになりました。
いまでは、雑談を教える講師もやっています。

もちろん、売れない営業にもおススメです。
--


 ●雑談の秘訣は「相手ファースト」

 序章 発想さえ変えれば、誰もが“雑談上手”になれる!
 第1章 これだけは押さえておきたい! 雑談の基本&大原則

ここまでで、「雑談」とは何か、何のために行う行為か、
という大前提について語り、どのような「雑談」が正解かを説きます。

くわしい内容については本書をご覧いただくとして、
正解は「相手ファーストの雑談」。

それは、
 《がんばって自分がしゃべるのではなく、
  いかに相手に気持ちよくしゃべってもらうかに集中する――。》p.56
というもの。

第2章以降が、「相手ファーストの雑談」の具体的な方法の解説です。

第2章以降第6章までの35項目で、それぞれ、
雑談のきっかけや話題作りから、その後の雑談のすすめ方、
話題の広げ方、つまったときの切り抜け方、
困った状況でのシーン別対処法などの具体的な説明が続きます。

ここでも詳しい内容は本書をお読みいただくとして、
その中からいくつか気になった項目を見ておきましょう。


 ●「天気」の話題はなぜNGなの?

「第2章 01 雑談で「天気」の話をするのはNG」とあります。

私は雑談の第一歩は「天気」の話題だろうと考えています。

雑談の話題としては、
(1)誰もが知っていること・感じていること・興味があること
(2)相手がよく知っていること・感じていること・興味があること
(3)話者本人がよく知っていること・感じていること・興味があること
(4)本人と相手だけが知っていること・感じていること・興味があること
といったことでしょう。

「天気」の話題は最もポピュラーなもので、
いつでもどこでも可能なもので、一番手っ取り早いものです。
これを利用しない方法はありません。

これは、軽い立ち話で終わる日常的な挨拶の次の雑談の話題として、
最適かつ有効な話題です。

ところが、この本書に於いては、
必ずしもそういう「軽い雑談」について論じているわけではないので、
ここでは「NG」だというわけでしょう。

「天気」の話題が有効なのは「異常気象」の時だ(p.72)というのです。
そういうときこそ、誰もが話したくなるものですからね。


 ●「平常心」が良いパフォーマンスを生む

次に大いに気になった項目は、同じ第2章の
「09 まわりを観察するために必要なのは“平常心”」です。

渡瀬流の雑談のポイントは、この「平常心」をいかに保つか、です。

雑談のきっかけとなる話題を見つける上で大切なことで、
それは、広い視野でまわりを見られるかどうか、
そうして、いかに相手にふさわしい内容の話題を見つけられるかどうか、
という面で。
さらに、実際に雑談に入ってからのパフォーマンスにおいても重要です。
雑談が緊張したものでは、何のための雑談か分からず、
そのあとに続く本題の商談への逆効果となり、本末転倒です。

 《「自分が平常心でいられるときに、
  最も高いパフォーマンスを発揮できる」》p.98

からです。

昔読んだ松井秀喜さんの本
(『不動心』新潮新書 2007/2/16)

の中で、「平常心」について書いておられたと記憶しています。

メジャリーガーとしてワールド・シリーズでMVPとなった、
あの松井秀喜さんの言葉です。

自分がチャンスに強いのではなく、相手の方が負けているだけ。
相手がピンチだと思って、勝手に追い込まれていて、
平常心を保てずにふだんの実力を発揮できないでいる。
一方、自分は平常心で、普段通りの実力を発揮できている、
その差が出るのだろう、と言った内容の言葉でした。

どんなときも動じない、平常心でいられる『不動心』が大事なのだ、
といったお話でした。


このお話を渡瀬さんにしますと、
イチローさんも同じような話をしているとのこと。

名選手、天才、偉大な才人等々と呼ばれる人たちはみな、
チャンスに実力を発揮できるように、
どんなときも平常心を心掛けて実践している、ということなのでしょう。


 ●「営業に雑談は不要」と考える人もいる

実は、私は「営業に雑談は不要」と考える人間です。
よく「会話が途切れない雑談のコツ」等の文字が並ぶ
『雑談術』の本があります。

あれっ、この本の副題? にも
「どんな場面でも会話が途切れない」とありましたね。

私は「会話が途切れて何が悪い」とも考えています。

が、それはさておき、まずは「雑談不要論」について――。

私は昔、下請けの町工場で「工場長兼雑用係」のような立場でした。
仕事の最中に飛び込みで営業に来る人がいますと、
甚だうっとしいものでした。
こちらは一個組み立てて工賃がいくらといった仕事をしています。
時間=工賃、すなわち「時は金なり」の仕事です。

時間泥棒はお金泥棒です。
営業なら、雑談する閑があるのならさっさと商談を始めなさい、
というわけです。

もちろん、すべての雑談を排除する気はありません。

ルートセールスのような、すでに取引関係がある場合なら、
新商品の紹介とか、偶然近くに来たので挨拶に、とか、
関係を維持するための潤滑剤としての訪問ならば、
相手のようすを伺ったうえで、余裕がありそうなら、
ちょっとした雑談をはさむというのは、有効です。

あくまでも人間関係の潤滑剤が雑談です。

で、大いに感心したのが、
「第3章 06 こんな人には雑談は禁物」p.118 という項目です。

雑談をしていけない場面を説明しています。
忙しい人には雑談をしない、というわけです。

ほかの著者が書いた雑談術の本を読んだことはないのですが、
当たり前と言えば当たり前のことですが、
こういう雑談は禁物発言は、意外と書かれていないような気がします。


 ●しゃべりが止まらない人

次にその逆? で、
しゃべりすぎる人を相手にしたときの対処法が次の項目です。

「第3章 07 しゃべりが止まらない人への対処法」p.120
詳しくは本書をご覧ください。

一言言えば、私はこんな言葉を知っています。

 《誰かと会話をはじめる時は、
  まずその相手がこっちの話を聞く性質の人か、
  それともこっちがそのお喋りを聞くほかない人か、
  見きわめることが大切だ。 ――リチャード・スチール――》
    加島祥造『会話を楽しむ』岩波新書 2004/10/20

(加島さんは、英米文学者で、
 晩年は信州に住み「伊那の老子」と呼ばれた詩人でした。
 現代語の自由詩訳の『老子』で有名です。)

この『会話を楽しむ』では、
会話というものは、二つの基本認識が必要だ、と言います。
対等観と心を開くこと。

この対等観とは、福沢諭吉の有名な『学問のすすめ』の冒頭の、
「天は人の上に人を作らず、人の下に人を作らず」という時の
「人間としての平等」としての対等な関係という意味です。

目上とか年上とか上役であるとかの形式とは別の意味でのこと。

たかが雑談といえども、本格的な会話と同じことだと思っています。
一人の人間として対応して相手の考えをつかみ、自分の考えを伝える。
それが大事だといいます。

雑談でも、技術的な雑談ではなく、
心のこもった雑談であって欲しいなあ、と私は思いますね。


 ●沈黙を恐れるな

次に沈黙について。

「第5章 01 雑談での沈黙には、この3つで対応しよう」

沈黙には、「いい沈黙」と「悪い沈黙」と、
さらには「必要な沈黙」がある、といいます。

私も、沈黙を恐れるな、と言いたいですね。
特に「考えている間」というものは絶対必要です。
お互いに考えなしにダラダラ話し合っても意味はありません。

さきほども言いましたように、会話とは互いの考えを披露し合うもので、
理解し合う手段です。

当然、相手の言葉に対しても、考える時間も必要になります。
考えている間の沈黙は、必要な沈黙となります。


 ●自分で動く

「第6章 05 大勢の飲み会で孤立しそうなとき」の中にあった言葉が、
ガーンときています。

それは、
 《孤立するのがイヤだったら、自分で動くこと。》p.191

ここでは、パーティーなどでの対応を述べています。
しかし、人生に置き換えてもいいかもしれません。

私は<左利きライフ研究家>を自称しています。
もう34年ほどになります。
その間、はじめの頃も今も、ほぼ一人で動いてきました。

残念ながら、思うほどには同志は得られませんでしたが、
それは動き方が足りなかったからか、と思われます。

動いた分だけ、何かを得たことは事実です。
もう一度、動いてみたほうがいいのかなあ、という反省はあります。


 ●「自信」があれば何でもできる

最後に、「おわりに」にあった言葉「自信」について。

まあ、何事もそうなのですが、人間にとって一番大事なのはこの「自信」。

どんなときも「平常心」でいられるというのも同じで、
これも「自信」にもつながることです。

自分は今までこれだけのことをしてきたのだから――といった意識が、
そのまま自信につながっていて、それがそのまま自分の力になっている。

自信があるので、常に平常心でいられ、何事にも積極的に挑んでいける。


雑談に於いても、
本人の精神状態というものが如実に現れてしまうものなのですね。

「平常心」とか「自信」とかは、いきなり身につくものではありません。
色々と経験を積むことで、自然と生まれてくるものなのでしょうけれど、
意識的に極めることはできると思います。

渡瀬さんは、雑談によって人生にこんな変化が生まれた、
といくつかの嬉しい成果を上げています。

しかし、これを見て打算的に雑談の腕を上げようとするのではなく、
人間としてのグレードを一段階上げるのだという、
真摯な気持ちで取り組んでほしいと思います。

この本を読んで各項目の内、一つでも納得のいくことがあれば、
それを実践してゆく。

その結果、何かしら一つでも身につける事ができれば、
それでいいのではないでしょうか。

雑談に関して、その方法論を書いた本でした。

 ・・・

えっと、私から最後に一言――

私は、日々きちんと状況に応じた「挨拶」ができるならば、
その延長として、「雑談」もクリアできるように思いますけれど、ね。

「挨拶から始めよう!」って。

*参照:「コラム4 “あいさつ言葉”はありがたい」p.124

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「私の読書論182-渡瀬謙のビジネス書の新刊『一生使える「雑談」の技術』から 」と題して、今回も全文転載紹介です。

本文でも書いていますが、私は基本的に「雑談」というのが嫌いです。
なんとなく「雑な談話」みたいで。

本当の意味は、雑誌の「雑」で、いろんなジャンルのものといった意味なのでしょう。
でもね。

できるなら、意味のある「会話」、もしくは「対話」にしたいものです。

とはいえ、雑談は「挨拶」同様、「人間関係の潤滑剤」なのでしょう。

有効な雑談術を身につけましょう。
おしまい。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

『レフティやすおのお茶でっせ』
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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
私の読書論182-渡瀬謙『一生使える「雑談」の技術』から-楽しい読書362
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中国の古典編―漢詩を読んでみよう(26)陶淵明(3)「園田の居に帰る五首(其一・二)」-楽しい読書361号

2024-03-03 | 本・読書
(まぐまぐ!)古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

2024(令和6)年2月29日号(No.361)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(26)陶淵明(3)
「園田の居に帰る五首 其の一・其の二」」



------------------------------------------------------------------
◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
------------------------------------------------------------------
2024(令和6)年2月29日号(No.361)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(26)陶淵明(3)
「園田の居に帰る五首 其の一・其の二」」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 昨年10月以来の「中国の古典編―漢詩を読んでみよう」です。
 26回目は、前回に引き続き、陶淵明の第3回です。

(陶淵明 第1回)
2023(令和5)年9月30日号(No.351)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(24)陶淵明(1)「五柳先生伝」」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2023.9.30
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(24)陶淵明(1)「五柳先生伝」-楽しい読書351号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/09/post-b68999.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/d371c2c2141932565db7fac1a67c1150

(第2回)
2023(令和5)年10月31日号(No.352)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(25)陶淵明(2)
「飲酒二十首」から「序」と代表作「其の五」」
【別冊 編集後記】『レフティやすおのお茶でっせ』2023.10.31
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(25)陶淵明(2)「飲酒二十首 其の五」-楽しい読書353号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/10/post-7e3a1c.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/fb0ed419e609fae5ca4d419eb039fc2a

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
◆ 故郷に帰って新しい生活を ◆

 中国の古典編―漢詩を読んでみよう(26)

  ~ 陶淵明(3) ~
 「園田の居に帰る五首 其の一・其の二」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

今回の参考文献――

『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』
 江原正士、宇野直人/著 平凡社 2010/4/20
「九、達観を目指して――陶淵明の世界」より



 ●田園に帰る

40歳過ぎで官職をなげうって、故郷に帰った陶淵明。

その隠居後の生活をうたった連作「園田の居に帰る五首」は、
42歳頃の作とされます。

 《隠居直後の開放感、新しい生活に入る覚悟から、
  農作業が思うようにゆかない悩み、本当にこういう生活でいいのか
  という心細さなど、いろいろの感慨が詠まれています。》p.335

題「園田の居に帰る」は、「耕作地がついている実家に帰る」の意。
使用人も大勢いて、ある意味事業を始めるような感覚に近い、
といいます。

「園田」の「園」は果物能義や野菜など、草木が植わっている広い庭で、
「園田」は「耕作地が備わっている実家」の意味で、
「田園」は、素朴に「田畑や庭」の意味に使う、といいます。


 ●「園田の居に帰る五首 其の一」陶淵明

第一首は、《窮屈な役人生活を辞め、故郷に帰ってやっと安らぎを
  取り戻したようすを詠んでいます。》p.337


★「園田の居に帰る五首」陶淵明 ★

帰園田居五首 其一
  園田(えんでん)の居(きよ)に帰(かへ)る五首(ごしゆ) 其(そ)の一(いち)

・最初の四句は、
 《本心に反して長いこと役人生活を続けてきたことの告白》p.338

少無適俗韻  少(わか)きより適俗(てきぞく)の韻(いん)無(な)く
性本愛丘山  性(せい) 本(もと) 丘山(きゆうざん)を愛(あい)す
誤落塵網中  誤(あやま)つて塵網(じんもう)の中(うち)に落(お)ち
一去十三年  一去(いつきよ) 十三年(じゆうさんねん)

 私は若いときから世俗にかなう気質がなかった
 もともと山や丘などの自然、俗世間を離れた環境が好きだった
 それがなにかのはずみで間違って役人生活に入り込み
 十三年が経過してしまった


・次の四句では、《本心に素直になって役人生活を辞めたことを、
  鳥や魚のたとえを使って述べます。》p.338

羈鳥恋旧林  羈鳥(きちよう) 旧林(きゆうりん)を恋(こ)ひ
池魚思故淵  池魚(ちぎよ) 故淵(こえん)を思(おも)ふ
開荒南野際  荒(こう)を南野(なんや)の際(さい)に開(ひら)かんとし
守拙帰園田  拙(せつ)を守(まも)つて園田(えんでん)に帰(かへ)る

 かごの中の鳥は、
  自分がもといた森をいつまでも忘れられずに思い続けるものだ
 池に飼われている魚も、自分がもといた川のふちを思い慕うものだ
 今、自分は南の野原の片隅で荒れ地を開墾しようと拙を守り、
 そういう自分の個性を大事にして、農村に帰って来た 


・第三段からは、
 《具体的な描写に入り、自分の家を簡単に紹介します。》p.339

方宅十余畝  方宅(ほうたく) 十余畝(じゆうよほ)
草屋八九間  草屋(そうおく) 八九間(はちきゆうけん)
楡柳蔭後簷  楡柳(ゆりゆう) 後簷(こうえん)を蔭(おほ)ひ
桃李羅堂前  桃李(とうり) 堂前(どうぜん)に羅(つら)る

 田舎の家の四角い敷地は十畝余りである
 茅葺(かやぶき)の屋根の家は八つか九つの部屋しかない
 楡(にれ)や柳の木が裏側の庇(ひさし)に覆いかぶさっている
 桃や李(すもも)が表座敷の前に並べて植えてある


・次は、《家からの村里の眺め。まずは遠景。》p.339

曖曖遠人村  曖曖(あいあい)たり 遠人(えんじん)の村(むら)
依依墟里煙  依依(いい)たり 墟里(きより)の煙(けむり)
狗吠深巷中  狗(いぬ)は吠(ほ)ゆ 深巷(しんこう)の中(うち)
鷄鳴桑樹巓  鷄(とり)は鳴(な)く 桑樹(そうじゆ)の巓(いただき)

 我が家からぼんやり見える、遠くの人々が住む村
 かすかにゆらめくかまどの煙
 犬は奥まった路地で吠えており
 鶏は桑の木のこずえで鳴いている

犬や鶏は、戦国時代以後、理想社会の象徴だと言います。


・最後の四句は、《新しい生活への満足感を述べます。》p.340

戸庭無塵雜  戸庭(こてい) 塵雜(じんざつ)無(な)く
虚室有余間  虚室(きよしつ) 余間(よかん)有(あ)り
久在樊籠裏  久(ひさ)しく樊籠(はんろう)の裏(うち)に在(あ)りしも
復得返自然  復(ま)た自然(しぜん)に返(かへ)るを得(え)たり

 家の戸口や庭に、煩わしいごちゃごちゃした事は入り込んで来ない
 余分な物のない部屋にはゆとりある空間がある
 私は長いこと、檻やかごのような、
  本性を押さえつける俗世間に居続けたが、
 今やっと再び本来の自分に帰ることができた

樊籠の「樊」とは鳥かご、「籠」は鳥や虫を入れるかご。
束縛されていた役人時代の生活を意味します。


 ●「園田の居に帰る五首 其の二」陶淵明

一首目は、《観念的に理想を追う形で官職を辞した》陶淵明の
まだ開放感に溢れた内容でした。

二首目からは、
 《農作業の実体験をつむうちにいろいろなものが見えて来て、
  それとともにさまざまな思いがわき起こるようになりましたが、
  (略)それを素直に吐露している作品》です。


帰園田居五首 其二
  園田(えんでん)の居(きよ)に帰(かへ)る五首(ごしゆ) 其(そ)の二(に)

・まずは、《自分自身の今の生活環境から歌い始めます。》p.341

野外罕人事  野外(やがい) 人事(じんじ)罕(まれ)に
窮巷寡輪鞅  窮巷(きゆうこう) 輪鞅(りんおう)寡(すくな)し
白日掩荊扉  白日(はくじつ) 荊扉(けいひ)を掩(とぎ)ひ
虚室絶塵想  虚室(きよしつ) 塵想(じんそう)を絶(た)つ

 町から外れた辺りでは、人の世のいろいろな面倒なことが少ない
 奥まった路地にいるから、車や馬が入って来ることも稀である
 私は昼日中にいばらの粗末な扉を閉めたまま
 余分なもののないがらんとした部屋にいて、
  面倒な雑念も湧き起こらない

《車や馬に乗るのは、貴族や政府高官で、そういう人の訪れもなく、
気楽である》という状況です。
「塵想」は、「ごちゃごちゃつまらない俗念」の意味です。


・次の四句は、《村人たちとの関係です。》p.342

時復墟曲中  時(とき)に復(ま)た墟曲(きよきよく)の中(うち)
披草共来往  草(くさ)を披(ひら)いて共(とも)に来往(らいおう)す
相見無雜言  相見(あいみ)て雜言(ざつげん)無(な)く
但道桑麻長  但(ただ) 道(い)ふ 桑麻(そうま)長(ちよう)ずと

 時おり村の片隅にいて
 草を掻き分け、踏み分けるようにして、近所の人々と交流する
 お互いに出会っても余計な話はしない
 ただ桑や麻の具合を語り合うだけである

《農業関係の話しかしない》と、《貴族社会への批判が入っている》。


・最後は、《体験から滲み出たのか、新しい視点が入っています。》p.342

桑麻日已長  桑麻(そうま) 日(ひ)に已(すで)に長(ちよう)じ
我土日已広  我(わ)が土(ど) 日(ひ)に已(すで)に広(ひろ)し
常恐霜霰至  常(つね)に恐(おそ)る 霜霰(そうさん)の至(いた)つて
零落同草莽  零落(れいらく)して
        草莽(そうもう)に同(おな)じからんことを

 日に日に桑や麻は成長し
 わが耕作地もだんだん広がってゆく
 いつも心配しているのは、霜や霰に見舞われて作物が枯れ萎み、
 ただ草むらのような意味のない、無駄なものになってしまうことだ


陶淵明の生きた東晋の時代はやたら天災の多かったといい、
それが彼の家が没落した理由の一つでもあるのでは、と
宇野直人さんは推測しています。
それだけに気になるというわけですね。

 ・・・

今回はこの辺で。

次回は、引き続き、「園田の居に帰る五首 其の三・四」を。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(26)陶淵明(3)「園田の居に帰る五首 其の一・其の二」 」と題して、今回も全文転載紹介です。

40歳すぎで役人を辞めて故郷に帰り農家をやる、今時でもありそうなUターンのパターンですが、当初の開放感はいつまでも続くことなく、故郷といえども土地の人に馴染めるのか、農作業に馴染めるのか等、その土地にはその土地ならではの色々な悩みがあるものでしょう。

さて次回はこの続きとなります。
その辺のところはどうなんでしょうね。

 ・・・

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私の読書論181-私の年間ベスト3・2023年〈フィクション系〉(後)初読編-楽しい読書360号

2024-02-16 | 本・読書
(まぐまぐ!)古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

2024(令和5)年2月15日号(No.360)「私の読書論181-私の年間ベスト3・
2023年〈フィクション系〉(後編)初読編ベスト3 」



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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2024(令和5)年2月15日号(No.360)「私の読書論181-私の年間ベスト3・
2023年〈フィクション系〉(後編)初読編ベスト3 」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 

 「私の年間ベスト3・2023年フィクション系(後編)」です。

 <フィクション系>は、文字通りフィクション、
 小説等の創作ものを指します。

 今回はいよいよ「初読編ベスト3」を。


「再読編」
『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』
2024(令和5)年1月31日号(No.359)「私の読書論180-私の年間ベスト3・
2023年〈フィクション系〉(前編)総リスト&再読編 」
『レフティやすおのお茶でっせ』2024.1.15
私の読書論180-私の年間ベスト3・2023年〈フィクション系〉(前)総リスト&再読編-楽しい読書359号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2024/01/post-244657.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/24ab2ce38b836145b195398a2c4197f6


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 - 青春ミステリか? 老人探偵団か? -

  ~ 私の年間ベスト3・2023フィクション系(後編) ~

  2023年フィクション系ほぼ全書名紹介&初読編ベスト3

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ●<初読編ベスト3>候補

<初読編ベスト3>の候補となる、
初読のフィクションの全書名を紹介してみましょう。

例年のように簡単に分類してみましょう。

(1)メルマガ用のお勉強の本
(2)それ以外の古典の名作
(3)小説や左利き本等著作のための勉強本
(4)個人的な趣味で、好きな作家、
 ミステリ(推理小説)やSF、冒険小説など

 ・・・

(1)メルマガ用のお勉強の本

・『曹操・曹丕・曹植詩文選』川合 康三/編訳 岩波文庫 2022/2/17
――読書メルマガ『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』の
参考資料。
*参照:『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』
2023(令和5)年3月31日号(No.339)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(21) ―曹丕(そうひ)」
『レフティやすおのお茶でっせ』2023.3.31
中国の古典編―漢詩を読んでみよう(21) ―曹丕(そうひ) -楽しい読書339号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/03/post-849fb1.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/e03d798d0eb5364d8cd88d8d0fc20004

(2)それ以外の古典の名作

・『八犬伝(上・下)』山田風太郎 山田風太郎傑作選・江戸篇 河出文庫
2021/2/5
――江戸時代の戯作本、滝沢馬琴『南総里見八犬伝』の「虚の世界」と、
それを書く馬琴が画家・葛飾北斎等を相手に、日常の作家として、一人の
世帯主としての葛藤を語る姿を描く「実の世界」を交互に綴る、風太郎版
『八犬伝』。


・『世界推理短編傑作集6』戸川安宜編 創元推理文庫 2022/2/1
――2018年にリニューアルされた江戸川乱歩編『世界推理短編傑作集』
全5巻を補完する第6巻。未収録作家13人の古典的名作を収録。冒頭、
1870年発表のエミール・ガボリオ「バティニョールの老人」は、左手に
よるダイイング・メッセージという<左利きミステリ>。既刊の短編集や
アンソロジーに収録されているものも多いが、まとめて読めるのは便利。


(3)小説や左利き本等著作のための勉強本

特になし。

(4)個人的な趣味で、好きな作家、
 ミステリ(推理小説)やSF、冒険小説など

【新井素子】
・『二分割幽霊綺談』講談社 1983
――パラレルワールドにつながる?トンネルの向こうとこちらで
繰り広げる奇想冒険談。
『二分割幽霊綺談』講談社文庫 1986/3/1

・『・・・・・・絶句(上下)』早川書房 新鋭書下ろしSFノヴェルズ
1983/12/15, 1984/1/15
――異星人の起こした事故で、新井素子の創作したインナー・スペースが
現実化して大混乱……という奇想SF。

・『あなたにここにいて欲しい』文化出版局 1984/7/1
――自分一人ではなにもできない女性と、彼女の世話をすることに自己の
存在意義を認めてきた女性。小学校以来の二人の友人同士の交流に、
新たな人物が現れ、互いの相互依存があらわになる……。

――80年代、本屋さん時代に買ってそのままになっていた本たち。
当時の人気作家でしたが、今では現行本がほとんどないようです。


【リチャード・オスマン】
・『木曜殺人クラブ 二度死んだ男』羽田詩津子訳 ハヤカワ・ミステリ
2022/11/2
――第一作では謎の人物だった、老人探偵グループ〈木曜殺人クラブ〉の
中心メンバーのエリザベスと、死んだはずのかつての同僚英国諜報員の
事件。彼はダイヤを持ち逃げし、諜報組織とマフィアから追われていた。
メンバーは、この国際的陰謀との戦いに乗り出す。
一方で、メンバーの一人元精神科医のイヴラヒムが一人で町に出たとき、
若者に襲われスマホを奪われる、という事件が起きる。このとき、肉体の
負傷以上に、精神的にまいってしまう。それを老人仲間たちが支え、
励ます姿の美しさ。さらに精神科医の彼が女性警官の相談を受けたときの
回答も読ませます。

・『木曜殺人クラブ 逸れた銃弾』リチャード・オスマン 2023/7/4
――第三作では、かつて大規模詐欺事件を追求するうちに事故死した
女性キャスターの事件を、有名キャスターと捜査を始める。
一方エリザベスは、マネーロンダリングにまつわる事件に巻き込まれる。

以上、イギリスの高級高齢者施設に住む老人たちの探偵クラブ
〈木曜殺人クラブ〉の面々による探偵冒険譚のそれぞれ第二作と第三作。
老人たちの会話が読ませます。著者は第一作を書く前に、高齢者施設で
取材もしたというのですが、老人の仲間入りをした現在の私が読んでも、
迫るものがあって、単なる娯楽小説に終わらず、読む価値ありの作品に
なっているように感じます。


【ホリー・ジャクソン】
・『自由研究には向かない殺人』服部京子訳 創元推理文庫 2021/8/24
出版社の紹介文《イギリスの小さな町に住むピップは、大学受験の勉強と
 並行して“自由研究で得られる資格(EPQ)"に取り組んでいた。題材は
 5年前の少女失踪事件。交際相手の少年が遺体で発見され、警察は彼が
 少女を殺害して自殺したと発表した。少年と親交があったピップは彼の
 無実を証明するため、自由研究を隠れ蓑に真相を探る。調査と推理で
 次々に判明する新事実、二転三転する展開、そして驚きの結末。
 ひたむきな主人公の姿が胸を打つ、イギリスで大ベストセラーとなった
 謎解き青春ミステリ!》

・『優等生は探偵に向かない』服部京子訳 創元推理文庫 2022/7/20
出版社の紹介文《人の兄ジェイミーが失踪し、高校生のピップは調査を
 依頼される。警察は事件性がないとして取り合ってくれず、ピップは
 仕方なく関係者にインタビューをはじめる。SNSのメッセージや写真
 などを追っていくことで明らかになっていく、失踪当日のジェイミーの
 行動。ピップの類い稀な推理で、単純に思えた事件の恐るべき真相が
 明らかに……。『自由研究には向かない殺人』待望の続編。この衝撃の
 結末を、どうか見逃さないでください!》

・『卒業生には向かない真実』服部京子訳 創元推理文庫 2023/7/18
出版社の紹介文《わたしはこの真実から、決して目を背けない。『自由
 研究には向かない殺人』から始まったミステリ史上最も衝撃的な3部作
 完結編!
 大学入学直前のピップに、不審な出来事がいくつも起きていた。無言
 電話に匿名のメール。首を切られたハトが敷地内で見つかり、私道には
 チョークで首のない棒人間を書かれた。調べた結果、6年前の連続殺人
 事件との類似点に気づく。犯人は服役中だが無実を訴えていた。ピップ
 のストーカーの行為が、この連続殺人の被害者に起きたことと似ている
 のはなぜなのか。ミステリ史上最も衝撃的な『自由研究には向かない
 殺人』三部作の完結編!》

――数々のミステリベスト10で上位にランクインした、女子高校生ピップの
探偵譚三部作。さわやかな青春ミステリとして、謎解きミステリのように
開幕したシリーズでしたが、第三作では、意外な展開になります。
ストーカー行為を受けたピップが反撃に転じるのですね。真実とは何か?
非常に重たい問いかけです。彼女の選択を肯定できるかどうかが、
その人の人間としての一つの試金石ともいえます。
その時その時で人は意外な行動を取ることもあります。最終的に、人は、
起きてしまったこと、済んでしまったことを変えることはできません。
その時点で、人は自分の信じる道をただ前へ、前へと向かって進むしか
ないのです。


・『マジック・ミラー』有栖川有栖 講談社文庫 1993
新装版 マジックミラー (講談社文庫) 文庫 – 2008/4/15
――双子の兄弟による兄嫁殺しのアリバイ・トリックもの。
被害者の妹が推理作家とともに謎に迫る。

・『不吉なことは何も』フレドリック・ブラウン 越前 敏弥 訳
創元推理文庫 2021/9/21
――《『真っ白な噓』に続く巨匠の代表的ミステリ作品集》という
【名作ミステリ新訳プロジェクト】の一冊。アリバイ・トリックものの
中編「踊るサンドイッチ」がお目当てで読んだ一冊だったが。


・『スペースマン―宇宙SFコレクション(1)―』伊藤典夫、浅倉久志編
 新潮文庫 1985/10/1
・『スターシップ―宇宙SFコレクション(2)―』伊藤典夫、浅倉久志編
 新潮文庫 1985/12/1
――この二冊は本屋さん時代に買ってそのままだった、宇宙ものSFの
アンソロジー。ハインライン「地球の緑の丘」やアシモフ「夜来たる」等
名作も多く散りばめられた好アンソロジー。

・『ラブ・フリーク 異形コレクション(1)』井上雅彦監修
広済堂文庫―異形コレクション) (廣済堂文庫 い 6-1 異形コレクション 1) 文庫 – 1997/12/1
――書き下ろしの恐怖小説・怪奇小説・幻想小説のアンソロジー第一弾。
異常な状況下の恋愛を描いたもの。集中一番のオススメは、岡崎弘明
「太陽に恋する布団たち」。明るく優しい気持ちになれる名作だろう。


・『下町ロケット ヤタガラス』池井戸潤 小学館文庫 2021/9/7
――『下町ロケット ゴースト』に続く、帝国重工・財前との共同事業、
準天頂衛星「ヤタガラス」を利用した無人農業ロボット開発での、
下町中小企業との競争物語。


以上17点ほどでした。

思いのほか少なく、ベスト3を選ぶのも結構大変と思われます。

といいつつ、勝負は決まっている感じです。


 ●2023年フィクション系<初読編べスト3>

今回の<初読編ベスト3>は、以下の作品となります。


 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡

   【2023年フィクション系<初読編べスト3>】

  (1)【ホリー・ジャクソン】
・『自由研究には向かない殺人』服部京子訳 創元推理文庫 2021/8/24
・『優等生は探偵に向かない』服部京子訳 創元推理文庫 2022/7/20
・『卒業生には向かない真実』服部京子訳 創元推理文庫 2023/7/18


(画像:【ホリー・ジャクソン】女子高校生ピップ三部作
『自由研究には向かない殺人』『優等生は探偵に向かない』『卒業生には向かない真実』創元推理文庫―創元推理文庫のサイトから)

  (2)『木曜殺人クラブ 二度死んだ男』リチャード・オスマン
羽田詩津子訳 ハヤカワ・ミステリ 2022/11/2


(画像: リチャード・オスマンの老人探偵グループ〈木曜殺人クラブ〉メンバーによる探偵冒険物語の第二作『木曜殺人クラブ 二度死んだ男』羽田詩津子/訳 ハヤカワ・ミステリ 2022/11/2)

  (3)『八犬伝(上・下)』山田風太郎 山田風太郎傑作選・江戸篇
 河出文庫 2021/2/5

(画像: 図書館本『八犬伝(上・下)』山田風太郎 山田風太郎傑作選・江戸篇 河出文庫 2021/2/5)

 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡


(1)と(2)は、真逆の主人公たちを描いています。
方や高校生、方や70歳を越えた老人たち。
(3)の<実の世界>の馬琴たちももう老人です。

ハツラツとした高校生たちの探偵冒険の世界と、同じ現代を舞台にして、
SNS等を活用する探偵物語でも、主人王がこれほど異なれば、
読む側の私も高齢者であり、感情移入的には、後者に軍配が上がっても
おかしくありません。

ただ一種の憧れに似た何かがあり、こういう青春ものには
肩入れしたくなるのも事実です。

老人への親近感と青春へのあこがれといった、個人的な読者として
感情的な評価は別にして、作品本来の評価として、
三部作込みの評価というのも、ちょっと卑怯な気もしますが、
あえて<ベスト1>に、この<ピップ三部作>を上げてみたいものです。

真実はいずれ明らかになるだろうし、正義は必ずまっとうされるもの、
と私は信じています。
ピップにもそう信じて生きていってほしいと思います。

2位には、老人の心理といったものをたっぷり書き込んだ探偵物語の、
『木曜殺人クラブ 二度死んだ男』の方を上げたいと思います。

第三作も面白いのですが、ここでは、個人的な感情移入的な評価で。

元精神科医で80歳のイヴラヒムと女性警官のドナとの対話の一部を
引用しておきましょう。

 《「時間は戻ってこないことは知っているね?
  友人、自由、可能性も?」
  (略)
  「時間を取り戻すことはあきらめよう。過去は幸せだった時間として
  記憶するんだ。きみは山の頂上にいた。今は谷間にいる。今後も
  数えきれないほど、そういうことは起きるだろう」/
  「じゃあ、今は何をすればいいんですか」/
  「もちろん、次の山を登るんだ」/
  「ああ、そうか、そうですよね」シンプルだ。
  「そして次の山を登ったら?」/
  「うーん、それはわからないよ、そうだろう? きみの山だ。
   他の誰も今まで登ったことはないんだから」
   (略)
  「きみは好きなようにすればいいんだ。だが、前を見ろ、
   後ろを振り返るんじゃない。そして、きみが登るあいだ、
   わたしはここにいるよ。その肘掛け椅子は、
   必要とあらばいつでもきみのものだ」
   (略)
  「孤独はつらいものだ。大きな苦しみのひとつだ」
   (略)
  「きみはちょっと迷子になっただけだよ、ドナ。
   そして、人生で一度も迷わなかったら、まちがいなく、
   おもしろい場所には一度も旅をしなかったということだ」》pp.358-360

そして、若者の襲撃によるケガの後、一人では町に出られなくなり、
落ち込んでいるイヴラヒムに、今度はドナがいいます。

 《「あなたは悲しそうに見えます」/
  「ちょっと悲しいんだ、たしかに」イヴラヒムは白状する。
  「怯えているし、そこから抜け出す方法が見つからずにいる」/
  「次の山に登る、というのが、あたしからのアドバイスです」/
  「それだけのエネルギーがあるのか、自信がない」
  (略)
  「肋骨は痛むし、そのせいで胸まで痛い気がするんだ」/
  「あなたが登るあいだ、あたしはここにいますよ」》p.360

3位には、『八犬伝』を。馬琴の『八犬伝』のダイジェストに当たる、
<虚の世界>と、それを語る<実の世界>での、作家として、
世帯主として家庭第一を心掛けながら執筆に励む馬琴と、
家庭を顧みることない北斎。さらに、鶴屋南北らとの会話の中に出て来る、
芸術論や人生論のおもしろさ。
『八犬伝』のおもしろさはもちろんですが、この芸術論や人生論に
著者・山田風太郎の思いも重なっているようで、
読むほどに迫ってくるものがありました。

以上、<ベスト3>でした。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「私の読書論181-私の年間ベスト3・2023年〈フィクション系〉(後編)初読編ベスト3 」と題して、今回も全文転載紹介です。

前回に引き続き、<フィクション系>の後編、初読編のベスト3発表でした。

改めて、三部作をひっくるめるのはどうか、という気もします。
しかし、この作品に関しては、一冊ずつもいいですし、しかも、三作で到達するところというものもある、という意味で、これは致し方ないという気もします。
<木曜殺人クラブ>も二作上げています。
こちらの方は、昨年二作読んだということで、ついでに上げているだけで、正味は第二作による結果です。

『八犬伝』も二巻本でしたし、今年は、冊数的には<ベスト3>が3冊ではなくなったというのは、ちょっとした事件だったかもしれませんね。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

『レフティやすおのお茶でっせ』
〈メルマガ「楽しい読書」〉カテゴリ


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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
私の読書論181-私の年間ベスト3・2023年〈フィクション系〉(後)初読編-楽しい読書360号
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私の読書論180-私の年間ベスト3・2023年〈フィクション系〉(前)総リスト&再読編-楽しい読書359号

2024-01-28 | 本・読書
古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

(まぐまぐ!)登録・解除

2024(令和5)年1月31日号(No.359)「私の読書論180-私の年間ベスト3・
2023年〈フィクション系〉(前編)総リスト&再読編 」


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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2024(令和5)年1月31日号(No.359)「私の読書論180-私の年間ベスト3・
2023年〈フィクション系〉(前編)総リスト&再読編 」
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 「私の年間ベスト3・2023年フィクション系(前編)」です。

 <フィクション系>は、文字通りフィクション、
 小説等の創作物を指します。

 まずは、「再読編」から。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 - 昔の感覚に間違いはなかった!? -

  ~ 私の年間ベスト3・2023フィクション系(前編) ~

  2023年フィクション系ほぼ全書名紹介&<再読編ベスト3>候補作
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ●傾向と分類

2023年は、冊数が40冊程度でした。
うち約半数の20冊が再読ものでした。
これは昨年と同数となります。

そこで今年も、<再読編ベスト3>と<初読編ベスト3>とに分けて
紹介してみましょう。

 ・・・

例年のように簡単に分類してみましょう。

(1)メルマガ用のお勉強の本
(2)それ以外の古典の名作
(3)小説や左利き本等著作のための勉強本
(4)個人的な趣味で、好きな作家、
 ミステリ(推理小説)やSF、冒険小説など

*(再):自分の蔵書の再読本、[再]:作品そのものは再読、本は新本


 ●(1)メルマガ用のお勉強の本

・[再]『雨月物語』上田秋成/長島弘明 校注 岩波文庫 2018/2/17


2023(令和5)年6月30日号(No.345)
「私の読書論172- 2023年岩波文庫フェア「名著・名作再発見!
 小さな一冊をたのしもう」から 上田秋成『雨月物語』「蛇性の婬」」
『レフティやすおのお茶でっせ』2023.6.30
私の読書論172-2023年岩波文庫フェアから上田秋成『雨月物語』
「蛇性の婬」-楽しい読書345号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/06/post-ec8330.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/417d68371321fb4e635a0fa83166e4d2


・[再]『時をかける少女』筒井 康隆 角川文庫 新装版 2006/5/25


・(再)『カドカワ フィルム ストーリー 時をかける少女』筒井康隆原作
大林宣彦監督作品 角川文庫 1984(昭和59年)/11/1

・(再)『タイム・トラベラー』石山透 大和書房 1984/2/1


――1972年、NHKドラマ『タイム・トラベラー』全6話、と
 続編『続・タイム・トラベラー 』全5話のシナリオ集。巻末に
 「NHK少年ドラマシリーズ放送作品リスト」、主題歌楽譜を収録。

2023(令和5)年7月31日号(No.347)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から(2)角川文庫・
筒井康隆『時をかける少女』わが青春の思い出の一冊」
2023.7.31
[新潮・角川・集英社]
<夏の文庫>フェア2023から(2)角川文庫・筒井康隆『時をかける少女』
-楽しい読書347号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/07/post-ea808e.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/51993cafbd23c48808fba514944ef122


・(再)東野圭吾『白夜行』集英社文庫 2002/5/25


2023(令和5)年8月31日号(No.349)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から(3)集英社文庫・
 東野圭吾『白夜行』青春の思い出も背景に散りばめられた一冊」
2023.8.31
[新潮・角川・集英社]
<夏の文庫>フェア2023から(3)集英社文庫・東野圭吾『白夜行』-楽しい読書349号
17:36 2023/08/23
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/08/post-68005b.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/a591675405b6e87c3e89a1653c2d3316


 ●(2)それ以外の古典の名作

・(再)『親友(パル)・ジョーイ』ジョン・オハラ 田中小実昌訳
 講談社文庫 1977
――戦前のアメリカの風俗小説、表題の連作短編とその他の短編集。
表題作はペンフレンドに送る近況報告の手紙の形式で、
昔『ミステリ・マガジン』でそれぞれの短編として紹介されていた。
当時は面白い小説として読んだが、今回読んでみると、昔ほどの魅力は
感じず、まあまあ、というところか。私の主人公に対する見方が変わり、
真実の姿を理解できるようになった、というところでしょうか。

・[再]『少女地獄』夢野久作 角川文庫 1976
――同じく戦前の日本の小説短編集。


(3)小説や左利き本等著作のための勉強本
特になし。


 ●(4)個人的な趣味で、好きな作家、
 ミステリ(推理小説)やSF、冒険小説など

【新井素子】
・(再)『あたしの中の……』集英社コバルトシリーズ 1981
・(再)『グリーンレクイエム』講談社文庫 1983
・(再)『ひとめあなたに……』双葉ノベルズ 1981
・(再)『扉を開けて』CBSソニー出版 1982
・(再)『ラビリンス<迷宮>』トクマ・ノベルズ 1984
・[再]『いつか猫になる日まで グリーン・レクイエム』日下三蔵編
柏書房<新井素子SF・ファンタジー コレクション1> 2019
・[再]『扉を開けて 二分割幽霊綺談』日下三蔵編
柏書房<新井素子SF・ファンタジー コレクション2> 2019
・[再]『ラビリンス<迷宮> ディアナ・ディア・ディアス』日下三蔵編
柏書房<新井素子SF・ファンタジー コレクション3> 2019
――『あたしの中の……』は、記念すべきデビュー作。
『扉を開けて』『ラビリンス<迷宮>』は、異世界ものの女性が主人公の
ヒロイック・ファンタジー。『ひとめあなたに……』は地球最後の日もの。
柏書房版は、今や多くが絶版・品切れとなった初期新井作品の名作を
資料とともに復刊するもの。

<海洋冒険もの>
【セシル・スコット・フォレスター】
・(再)『スペイン要塞を撃滅せよ』ハヤカワ文庫NV 1973
・(再)『トルコ沖の砲煙』ハヤカワ文庫NV 1974
・(再)『パナマの死闘』ハヤカワ文庫NV 1974
――以上、帆船時代の英国海軍の<海の男ホーンブロワー・シリーズ>。
最初に書かれた『パナマの死闘』が好評で海軍士官候補生時代から出世
してゆく過程が順次シリーズ化されたという人気シリーズ。
人間的な弱みを持つスーパー・ヒーローでないところが、海外で人気の
シリーズというのも理解できます。なかなかのエンタメ作品。


(再)『女王陛下のユリシーズ号』アリステア・マクリーン 村上博基訳
 ハヤカワ文庫NV 1972
――第二次大戦中のドイツ海軍と連合国側の輸送船団の護衛艦、
イギリス海軍ユリシーズ号との激闘。


<その他の冒険もの>
(再)『大洞窟』クリストファー・ハイド 田中靖訳 文春文庫 1989
――日本人の地質学者が主要登場人物となる洞窟で発掘中、
地震で閉じ込められ、いかに脱出するか、というサバイバル物語。

【ディック・フランシス】
(再)『重賞』菊池光訳 ハヤカワミステリ文庫 1976
(再)『追込』菊池光訳 ハヤカワミステリ文庫 1982
――元女王陛下のお抱え障害競馬騎手だった著者が書いたことでも有名な、
<競馬スリラー・シリーズ>の中期の作品。
毎回異なるヒーローを主人公に、競馬がらみの犯罪を暴いてゆく展開で、
そのヒーロー像の造形にしびれます。イギリスでは最も有名な探偵役
シッド・ハレーを主人公にテレビドラマも制作されていました。
私の大好きな作家でした。
中期以降の作品の手持ちの文庫本が十冊程度ありますので、
もう一つと思う作品は処分しようと思い、再読を始めました。


<その他>
・[再]『刑罰』フェルディナント・フォン・シーラッハ 酒寄進一訳
創元推理文庫 2022
――ドイツの刑事弁護士が実際に経験した事例を元に描く犯罪物語集。
この作家の著作はみな問題意識が高い作品集で、読み応えがある。
ハードカバー本の文庫化で、また読んでしまった。

(再)『怪奇と幻想 第一巻 吸血鬼と魔女』矢野浩三郎編 角川文庫 1975
――怪奇小説・恐怖小説・幻想小説のアンソロジーの第一巻。
このアンソロジー全三巻は、創元推理文庫の『怪奇小説傑作集』全五巻、
近年新版『新編 怪奇幻想の文学』が出ている、その元版のアンソロジー
などと並ぶ、名アンソロジーではなかったか、と思っています。


 ●<再読ベスト3>候補

以上がほぼ全再読書です。

この中から<再読ベスト3>を選ぶにあたって、
まずは候補としていくつか上げてみましょう。

新井素子作品では、以下の三作。
1.『グリーンレクイエム』――昔読んだとき同様感動の一作。
以前紹介したゼナ・ヘンダースン『果てしなき旅路』同様、
マイノリティーの悲劇を扱う悲しい作品です。
2.『ひとめあなたに』――地球はあと一週間(だったか?)で滅ぶ
という状況で人はいかに生きるのか、という重いテーマのれん作短編。
以前読んだときよりも、重さを感じたという気がしました。
ちょっと気になる一作でした。
3.『ラビリンス<迷宮>』――かつて繁栄していた文明を失った人類が
新たなスタートにつくというストーリーですが、迷宮で待つ<怪物>を
いかに対応するか、生け贄にされた少女たちの戦い。

メルマガで扱った三作は、それぞれに印象に残る作品で候補作です。
4.『雨月物語』――古典中の古典で、今回取り上げた「蛇性の婬」は、
集中最長の中編といったところで、一番の名作かと思います。
5.『時をかける少女』も、表題作の中編は、青春のまぶしさを描いた
永遠にの名作という気がします。
6.『白夜行』は、三編中唯一の長編ですが、長さを感じさせない名作で、
これはゆがんだ青春の物語で興味深いノワールという感じです。

次に<冒険もの>では、
7.『女王陛下のユリシーズ号』――マクリーンの処女作で、
戦争ものの長編ですが、男たちはなんのために戦うのか、という
戦争に対する見方と人間としての生き方を考えさせる反戦文学です。
8.『大洞窟』は日本人が主人公になっている点がポイント高く。

9.『怪奇と幻想 第一巻 吸血鬼と魔女』――<怪奇もの>の
アンソロジーとしては、名作揃いの好アンソロジーです。
珍しいダシール・ハメットの怪奇小説アンソロジーの「序文」を借りて、
作品もモーパッサン「オルラ」、M・R・ジェイムズ「マグナス伯爵」、
F・マリオン・クロフォード「血は命の水だから」等々。


 ●2023年フィクション系<再読編べスト3>

さて、では、<再読編べスト3>です。
やはりむずかしいですが、メルマガで扱った三作は、
そちらで書いてきましたので、今更選ぶのもどうかと思います。


 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡

   【2023年フィクション系<再読編べスト3>】

  (1)新井素子『グリーンレクイエム』新装版 講談社文庫 2021/4/15


  (2)アリステア・マクリーン『女王陛下のユリシーズ号』ハヤカワ文庫 NV 7 1972/1/1


  (3)矢野浩三郎編『怪奇と幻想 第一巻 吸血鬼と魔女』角川文庫

 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡


「読む価値あり」という意味で、この辺を上げておきましょう。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「私の読書論179-私の年間ベスト3-2023年〈フィクション系〉(前編)総リスト&再読編」と題して、今回も全文転載紹介です。

今回は、本文中にもありますように、再読した<フィクション系>の本についてです。

もう何年も前から、蔵書を少しずつ処分しています。
今までもとにかく本箱?本棚? が二本しかないので、押し出し整理法でここからはみ出す分はその都度処分するようにしてきました。
ここんところ古本屋さんも減ってきて、近所の一軒ぐらいしかない状況で、そこがなくなれば、処分もむずかしいということになります。
今は少しずつその近所のお店に持ち込んでいます。

今までは聖域としていた青春初期の本も最近は、処分しています。
そうは言いましても早半世紀という本もあり、赤茶けて、ほとんど値の付かないようなものも多いようです。
でも、売れるうちは売って何かの足しになればと思っています。

処分のために再読をしているというところです。
聖域だった、新井素子さんの本や、冒険小説などもそういう一環の本で、昨年末に処分してしまいました。
ディック・フランシスはこれから再読を続けて選定に入ります。

残念と言えば残念ですが、いずれは処分しなければならないので、今のうちに少しずつ減量を、というところです。

といいつつも、毎年20冊程度は購入していますので、実数はなかなか減ってはいませんね。
まだ、本箱からオーバーしている本の段ボール箱が大小6個ぐらいありますから。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
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『レフティやすおのお茶でっせ』
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私の読書論180-私の年間ベスト3・2023年〈フィクション系〉(前)総リスト&再読編-楽しい読書359号
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私の読書論179-私の年間ベスト3-2023年〈リアル系〉(後編)田村隆一『ぼくのミステリ・マップ』-楽しい読書358号

2024-01-20 | 本・読書
古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

(まぐまぐ!)登録・解除

2024(令和6)年1月15日号(No.358)
「私の読書論178-私の年間ベスト3-2023年〈リアル系〉(後編)
田村隆一『ぼくのミステリ・マップ』」



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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
------------------------------------------------------------------
2024(令和6)年1月15日号(No.358)
「私の読書論178-私の年間ベスト3-2023年〈リアル系〉(後編)
田村隆一『ぼくのミステリ・マップ』」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 

 前回、長くなりすぎてしまい分割した後半です。

(前編)
2023(令和5)年12月31日号(No.357)
「私の読書論178-私の年間ベスト3-2023年〈リアル系〉(前編)」
2023.12.31
私の読書論178-私の年間ベスト3-2023年〈リアル系〉(前編)
-楽しい読書357号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/12/post-d85a13.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/b7d1b868920116ee23459ec47dfdd66e


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 - メルマガの為に読んだ本ばかり? -

  ~ 私の年間ベスト3・2023年〈リアル系〉 ~

  田村隆一『ぼくのミステリ・マップ』
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 ●(4)個人的な趣味、仏教や空海・弘法大師に関する本

・『マイ遍路』白川密成 新潮新書 2023/3/17


四国の八十八カ所の霊場を巡礼するお遍路旅を、
第五十七番札所・栄福寺の住職が、六十八日をかけて歩いた記録。
弘法大師の著作の言葉を引用し、その場その場のようすをたどりながら、
綴る「四国遍路」の実践的な旅日誌。
弘法大師空海のどういう言葉をどういう場面で引用しているのか、
といった興味で買ってみました。

出川哲朗さんのテレビ番組でのお遍路の旅で、
この方が住職をしているお寺をお参りされた際に、
著者が出演されたのを見た記憶があります。
まだ若いお坊様ですが、こういう著作のような活動も、
今の時代には信仰を広げる意味でも大いにありだと感じました。

生きることは悩むことでもあり、
そこに信仰というものが必要となる部分があると思います。


・『ぼくのミステリ・マップ―推理評論・エッセイ集成』田村隆一
中公文庫 2023/2/21


私の趣味であるミステリ――
特に海外ミステリ(翻訳ミステリ)についてのエッセイ集。

1923(大正十二)年生まれの著者の生誕100年記念出版としての
増補改編版。

海外ミステリ専門誌だった『(ハヤカワ)ミステリマガジン』
(通称HMM)の愛読者である私には、
『HMM』の前身『(日本語版)EQMM』の創刊前後、
それに先立つミステリ叢書「ハヤカワ・ポケット・ミステリ・シリーズ」
(通称<ポケミス>)の立ち上げに関連した部分が、
興味深く楽しめました。

 《生島 金はなかったけど、ただよかったのは社長以外は、
     編集長もくそもないって感じだったことだね。
  田村 社長だってないよ。あるはずないんだよ。
     もう前に会社つぶしているんだから。》p.342

 《生島 こっちは若いし、もうストレートに企画は通る。
     しかしおもしろいから企画出すと、
     全部てめえのしょいこみになっちゃうんだよな。
  田村 でも、ぼくがやめてから、君らががんばったからね。
     それで、ほんとの意味でいまの早川つくったんだから。》
   pp.343-344

かつては<海外文学の早川書房>として、
今やノーベル賞作家カズオ・イシグロの翻訳本の版元として、
大手に負けない出版社となった、
早川書房の草創期の物語の一つでもあります。


また文学について、田村さんは

 《田村 実際文学というのは、ユーモアのセンスなんですよ。
     文学というと、何か、しかめっ面しちゃってるけど、
     そんなものと文学は関係ないんだからね。
     どういうユーモアのセンスで言語表現していくかというのが、
     文学の鉄則ですからね。》    

と言うのです。そして、14,5のときから詩を書いていたが、
そのときから、《ユーモアのセンスで書いてるわけです》と。

田村さんの詩を読んだ学生さんは、
シリアスに詩を書いていると思っているが、
実際の田村さんは詩のイメージと全然違うので驚くという。

《そういうことと言語表現は関係ないんだから。》と。

「文学は、ユーモアのセンス」なんだそうです。

なるほど、私の好きな北杜夫さんなどは、その見本のような気がします。
高級な文学ほどユーモアのセンスに優れているのではないか、
という気がしますね。
海外の優れたミステリなどでも、しゃれた会話があったり、
ユーモアのセンス溢れる会話が魅力だったりします。

そういうところでセンスを磨くのも一法かもしれません。

以上、引用は本書「Ⅲエッセイ・対談
(×生島治郎「諸君、ユーモア精神に心せよ」)」より。


 ●私の2023年〈リアル系〉ベスト3候補

今年は「ベスト3」といいましても、
以上上げてきたような本の冊数ですので、数的にも選びにくく、
またそのほとんどをメルマガに利用していますので、
「この本を!」と改めてオススメするのは、むずかしく感じます。

候補としてあげておく程度にしておきましょう。

<2023年〈リアル系〉ベスト3候補>

・『文学のレッスン』丸谷才一 聞き手・湯川豊 新潮文庫 2013/9/28

・『美しい本屋さんの間取り』エクスナレッジ X-Knowledge 2022/12/29

・『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ 
新潮文庫 2021/6/24

・『鍵盤ハーモニカの本』南川朱生(ピアノニマス)春秋社 2023/4/19

・『左利きの言い分 右利きと左利きが共感する社会へ』大路 直哉/著
PHP新書 2023/9/16

・『ぼくのミステリ・マップ―推理評論・エッセイ集成』田村隆一
中公文庫 2023/2/21

『文学のレッスン』は、丸谷才一さんの文学論です。
とにかくメルマガ誌上でも紹介しましたように、
歴史的な視点からそれぞれの文学ジャンルの特徴などを
説いてくれていて、文学論などまともに学んだことのない私には、
とても役に立つといいますか、ヒントになるといいますか、
文学の理解に役立つ知識を得られた、という気がします。

『美しい本屋さんの間取り』は、<本屋さんになりたい>は、
<元本屋の兄ちゃん>として夢見たことでもあり、
妄想本屋さんは、今でも楽しめる遊びになりそうです。

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』では、
以前から気になっていた本で、こういう機会に読めてホントに良かった、
という一冊でしたね。
人種や文化の違いをどう乗り越えるか、あるいはどう受け入れるか、
じゃあ、最終的に実際にはどうするか、
という問題で色々考えるヒントをもらった感じです。

『鍵盤ハーモニカの本』は、とにかく力作です。
一つのことをここまで突き詰めていることがスゴいと思います。
この辺でまとめておかないと失われる情報も多かったろうと思います。

『左利きの言い分 右利きと左利きが共感する社会へ』は、前作同様、
丹念に調べた結果を基に、将来への展望などを語っています。
<左利きライフ研究家>として、色々参考になる部分も多く、
反面、「言い分」という表現にちょこっと引っかかる部分があったり、
本としての評価の面ではちょっとむずかしいところがありました。

『ぼくのミステリ・マップ―推理評論・エッセイ集成』は、
先にも書きましたように、私の中高生時代からの趣味である、
海外ミステリに関する教科書的なエッセイを含む本で、
楽しく読みました。
昔話など若い人には、あまり心惹かないものでもあるかもしれませんが、
歴史というものは、そういう部分があるものではないか、と思われます。

若い人には、常に、昨日があって今日があるのだということを、
忘れないようにしてほしいものです。

『鍵盤ハーモニカの本』や『左利きの言い分』にしても、
そういう歴史というものを語りながら、
その先に現状と未来を捉えているように思います。

こういう読み方をできるようになったのも、
自分が年を重ねた結果かも知れません。


 ●私の年間ベスト―2023年〈リアル系〉

2022年も〈リアル系〉は、以下の一作のみでした。

『生きがい―世界が驚く日本の幸せの秘訣―』茂木健一郎
 恩蔵 絢子/訳 新潮文庫 2022.5.1
―脳科学者が英語で世界に向けて出した日本人の生き方をめぐる小著。


今年も、同様に一作のみをオススメとしておきましょう。


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   私の年間ベスト―2023年〈リアル系〉

 (1)『ぼくのミステリ・マップ―推理評論・エッセイ集成』
    田村隆一 中公文庫 2023/2/21

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出版社紹介文より――

《『荒地』同人として鮎川信夫らとともに日本の戦後詩をリードした
 国際的詩人にして、早川書房の初期編集長兼翻訳者として
 海外ミステリ隆盛の基礎を築いた田村隆一(1923-1998)。
 アガサ・クリスティの翻訳に始まり、
 「ハヤカワ・ポケット・ミステリ」の出発、
 「エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン」の創刊……
 その比類なき体験による、
 彼にしか語りえない数々の貴重なエピソードとユーモアは、
 詩(ポエジー)と戦慄(スリル)の本源的考察を通して、
 やがて21世紀の我々をも刺し貫く巨大な文学論・文明論へと至る――
 人類にとって推理小説(ミステリ)とは何か?

 聞き書き形式でポーからロス・マクドナルドまでの
 クラシック・ミステリをガイドするロング・インタビュー
 (旧版『ミステリーの料理事典』『殺人は面白い』所収)を中心に、
 クロフツ『樽』やクイーンの四大『悲劇』といった翻訳を手がけた
 名作の各種解説、クリスティとの架空対談、江戸川乱歩や植草甚一に
 まつわる回想、生島治郎・都筑道夫ら元早川出身者との対談など、
 推理小説に関する著者の文章を単著初収録作含め精選し大幅増補した、
 まさに田村流ミステリ論の決定版。生誕100年記念刊行。》

【目次】
Ⅰ クラシック・ミステリ・ガイド(インタビュー)
Ⅱ 訳者解説(F・W・クロフツ/アガサ・クリスティ/
 ジョルジュ・シムノン/エラリイ・クイーン)
Ⅲ エッセイ・対談(×生島治郎「諸君、ユーモア精神に心せよ」/
 ×都筑道夫「EQMMの初期の頃」)
Ⅳ 資料編
〈解説〉押野武志

田村隆一
一九二三(大正十二)年東京生まれ。詩人。明治大学文芸科卒業。
第二次大戦後、鮎川信夫らと「荒地」を創刊。戦後詩の旗手として活躍。
詩集『言葉のない世界』で高村光太郎賞、『詩集1946~1976』で無限賞、
『奴隷の歓び』で読売文学賞、『ハミングバード』で現代詩人賞を受賞。
ほかに『四千の日と夜』など。推理小説の紹介・翻訳でも知られる。
一九九八(平成十)年没。

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本誌では、「私の読書論179-私の年間ベスト3-2023年〈リアル系〉(後編)田村隆一『ぼくのミステリ・マップ』」と題して、今回も全文転載紹介です。

前回も書きましたように、「メルマガの為に読んだ本ばかり?」で、そのため改めて<ベスト3>に上げるのはどうかと思いつつ選んでいます。

読んだ十数冊のなかでは「ベスト3候補」として上げた6冊が一段上というところでしょう。

今年のベスト1はそういう中では、一番自分の趣味に合った本ということで、勉強の本とか、自己啓発といった意味合いもなく、単純に「楽しめた本」といえるかと思います。

最後に、本文中に書き忘れましたが、昨年が生誕百年だった田村隆一さんの訳書として私が持っているのは、弊誌<クリスマス・ストーリーをあなたに>の

2013(平成25)年11月30日号(No.117)-131130-  
クリスマス・ストーリーをあなたに~
 『サンタクロースの冒険』ライマン・フランク・ボーム
クリスマス・ストーリーをあなたに~『サンタクロースの冒険』ボーム
(「作文工房」版)

でも紹介しました

『サンタクロースの冒険』ライマン・フランク・ボーム/著 田村隆一/訳 扶桑社エンターテイメント(1994.10.30) [文庫本]
―『オズの魔法使い』の作者ライマン・フランク・ボームの描くサンタ・クロースの生涯を描く、サンタさん誕生物語

があります。

他に<左利きミステリ>の一冊でもある、エラリー・クイーン『Zの悲劇』(角川文庫)、
ロアルド・ダールのポケミス版『あなたに似た人』(Hayakawa Pocket Mystery 371 1957/10/15)もそうでした。





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*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

『レフティやすおのお茶でっせ』
〈メルマガ「楽しい読書」〉カテゴリ


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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
私の読書論179-私の年間ベスト3-2023年〈リアル系〉(後編)田村隆一『ぼくのミステリ・マップ』-楽しい読書358号
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