"暮らしのリズム"的できごと

先人が培った暮らしの知恵を通じて今を楽しむ【暮らしのリズム】のブログ。旧暦、落語、音楽、工芸品、食、民俗芸能などをご紹介

夕凪の街へ~その壱『尾道』

2008年07月31日 17時23分59秒 | まち歩き

 旧六月二十九日。旧暦も新暦も今日で月が変わります。カレンダーをめくると明日からは新暦の8月、旧暦では七月です。そのため旧七夕は立秋の8/7(木)に、月遅れのお盆と旧盆は同じで8/13(水)が迎え火、15(金)が盆、16(土)が送り火となります。
 
 今日は少々個人的な旅のお話を。高校生の修学旅行以来31年振りに広島を訪れることになりました。母方のルーツが広島であるために、子供の頃夏休みになると瀬戸内海に面した小さな村で半月ほど過ごすことが恒例となっていて、とても印象深い思い出となっています。その村を訪れたり、平和記念公園、厳島神社、今年で最後の広島市民球場、呉の純喫茶と居酒屋などなど、いろいろなテーマを携えて旅に出ることにしました。

 新宿から夜行バスで11時間。着いたのは海と坂道の町、尾道です。
0731onomichi1情緒のある町並みから映画の舞台となることが多く、小津安二郎の『東京物語』や地元出身の大林宣彦による三部作など有名ですね。朝8時、尾道は通勤ラッシュの時間です。尾道水道の挟んだすぐ向かいの島、その名も向島から渡し船とフェリーが頻繁にやってきて降り立つ人たちは駅へと急ぎ、車やバイクはそれぞれの仕事先へと走り去って行きます。一日の中で最も活気のある慌ただしい時間なのかも知れません。
(写真:町を一望する千光寺公園展望台からの眺望。折り重なるような瀬戸内の島々がとても奇麗でした)

 駅で観光案内地図を入手し、早速石畳の「古寺めぐりコース」を歩き始めます。
0731onomichi3途中コースを離れ、町を一望する小高い山、千光寺山を目指して石段を上って行くと、20分ほどで山頂の展望台にたどり着きます。空気が澄んで乾燥しているためか、東京よりも日差しが格段に強く感じられ、クマゼミの大合唱で西に来たことを実感させられます。それでも日陰に入ると風が心地良く、とても清涼感があるのがいいですね。
(写真左上より時計回り:観光案内地図の表紙にもなっている千光寺新道の風景/古寺めぐりコースは石畳が整備されています/千光寺本堂からの景色/フェリーが行き来する尾道水道の朝)

 山を下り、今度は町のレトロな商店街に足を踏み入れてみます。江戸の頃から北前船の海運で栄えたという尾道は、酢が特産品だったそうです。ここから運び出された酢の瓶は遠く北海道の各地でも見つかっているそうです。そんな商業の町としての風格が垣間見れる、なんともレトロな商店街です。
0731hanpu  商店街の一角に『尾道帆布』のお店があるので入ってみました。その名の通り、船の帆に使われた丈夫な綿織物ですが、化繊に取って代わり今では鞄などの素材として人気がありますね。海運と漁業の町ですから、このような伝統工芸品を大切にしているのでしょう。値段も手頃で、デザインのセンスも良く「帆布学生かばん小」という小さいショルダーバッグを買いました。

工房おのみち帆布】尾道市土堂2-1-16 10~18時 木休み

 朝のラッシュ時間とは違って、平日の昼間は町中をゆったりとした時間が流れています。
リヤカーで魚を売っている露店、堤防でままかりを釣っているおじさん、路地の日陰で昼寝をする猫、漁具の手入れをしている小舟の漁師・・・。思い描いていた瀬戸内の素朴な風景が裏切ることなく目の前に現れます。
 お昼は尾道ラーメンの老舗・朱華園で頂きました。
背油が浮いているのですが見た目と違ってあっさりとしていて、独特な平打ち細麺の歯ごたえも良く、濃い口醤油の香りが効いた美味しい中華そばです。0731onomichi2やっぱり東京で食べたことのある尾道ラーメンは別物だったんだな。
 日陰を求めて海辺を歩いていると、遊歩道のような公園のようなところに売店のような食堂のようなお店が数件あります。呉に移動する予定の電車まではまだ1時間。よしずで陽を遮っているテラスに座り、昼も回ったのでもういいだろう、とビールを飲むことにしました。「中にいろいろおかずがあるけぇ。好きなのとってね」と店内に促されると、ガラスの冷蔵ケースにラップされたおつまみがいろいろあります。この旅で幾度となくお世話になった広島特有の大衆食堂スタイルです。「土用の丑じゃったけぇ、焼きよったんよ」という小ぶりながらぷっくら肉厚の鰻の蒲焼きを頂きました。どこ産かは訊きませんでしたが、これがとても美味。

 ほろ酔い気分で駅へと向かい13時29分発の山陽本線各駅停車に乗って、尾道をあとにさらに西へ。5時間半ほどの滞在でしたが、ほっとするような雰囲気の尾道を満喫することが出来ました。また一つお気に入りの町が増えました。


大暑はピリリと乗り切りましょう

2008年07月22日 12時06分40秒 | 季節のおはなし

旧六月二十日。今日は二十四節気の【大暑(たいしょ)】です。

暑気いたりつまりたるゆえなればなり
 『暦便覧』(天明八年/1788年出版)

 暦どおりの厳しい暑さになりました。昔はこの日が暑さのピークだったのしょう。0722nouzenkazura 都市熱や温暖化の影響もあって、暑さはこれからますます厳しくなります。東京ではそろそろニイニイゼミが鳴き始めました。少し早いかな、という気もしますが、夏の花、凌霄花(ノウゼンカズラ)が見事に咲いています。

 「この暑さをどう乗り切るか」誰と顔を合わせても自然と口に出るこの時期世間話のテーマです。電気料金もじわじわと値上げしています。二酸化炭素排出量がどうだとか、何かにつけてエコだ、省エネだと言われて、いろいろな文明の利器の利用を我慢することが美徳のような空気になって来ています。一方街中では真昼の炎天下、焼け付いたアスファルトに一斉に打ち水をするという妙なキャンペーンをやっていますが、あれは気化熱で一時的に温度は下がっても、その後の湿気とさらに照りつける日差しで不快指数が増すばかりです。打ち水は朝の陽が照りつける前、夕方、日が傾き始めて日陰になったところにしましょう。

 夏の暑い時にはちょっとピリリとする唐辛子などの香辛料が好きですね。激辛は汗がひかずあとが大変になってしまいますから、この加減が重要です。
 先日横浜の郊外、里山と谷戸、田畑が残る寺家ふるさと村に行った際、付近の農産物直売場で目についたのが『福耳唐辛子』。
0722fukumimi名前からして運が付きそうで気になります。大きさは15cmほど。万願寺唐辛子を一回りほど大きくしたようなサイズで、しっかり辛さもあるとのことです。網でしっかり焦げ目がつくまで焼いてから、いりこに煮浸しに。冷蔵庫でしっかり冷やしてみました。肉厚なのでしっかりとした歯ごたえで清涼感が口の中に広がり、少し遅れて程よい辛みがやってきます。額にじんわり汗が出て、すぐにひいて行くと、少しだけ涼しくなったような。
 この時期、唐辛子の他には山椒や中国山椒の「花椒(ホワジャオ)」もいいですよ。折しも明後日は土用の丑。鰻もいいけれども「山椒は小粒でピリリと辛い」をお忘れなく。

 


ほおずき市。浅草は緑と橙に染まる

2008年07月11日 01時32分27秒 | まち歩き

 旧六月九日。今日は二十四節気【小暑】の後、最初の壬(みずのえ)の日。旧暦では梅雨明けの日とされています。気象庁の発表により梅雨明けしているのは今日現在、沖縄・奄美、九州、四国です。今年は全体的に平年より早いようです。関東では平年が7月20日頃。来週半ば頃にでも梅雨明けとなるでしょうか。

0710hoozuki1  夏の風物詩としてお馴染みの行事が浅草、浅草寺の“ほおずき市”です。今年も観世音菩薩の縁日、四万六千日に合わせ7月9日(水)、10日(木)の二日間、浅草寺境内で行われ、初日の午後に行ってきました。十五年振りくらいの“ほおずき市”です。あの頃は、一鉢いくら位だったでしょうか。今年は2500円と表示されていて、実際は500円値引きしてくれます。どんよりとした空、決して暑くなく、本格的な夏まではまだもう少し、という陽気です。境内には何百件という店が立ち並んで、ほおずきや風鈴、植木などを売っています。

0710hoozuki ほおずき市の起源は諸説あるようですが、愛宕神社の「千日詣り」がルーツなようです。こんな言い伝えがあります。愛宕の長屋の住人で、癪に苦しむ婦人がいました。ある晩愛宕様の御神託により参道のほおずきを煎じて飲むと、たちどころに癪は治まり、長屋の子供の虫も治ったそうです。その噂が広まり、ほおづきが薬草として珍重されるようになって、愛宕神社に市が立つようになったそうです。今では、もっぱら観賞用。水をたくさんかけて、瑞々しく濃い緑と橙の実が暑い夏に涼をもたらしてくれます。また枝に実をつけたほおずきは、先祖の魂が提灯の代わりにするようにと、お盆の精霊棚に飾ります。(浅草寺境内は威勢の良い売り声で包まれます)

 ところで、おやっと思ったのは『ほおずき』と『ほおづき』の仮名の違いです。結構この表記が混在しているので、どっちが正しいのだろうか、と。愛宕神社では『ほおづき』で統一しているようですが、こちらの方が古い言い方だそうです。

 久しぶりの“ほおずき市”。夏の浅草はいい雰囲気ですね。定番コースの並木薮で蕎麦を、梅むらで豆かんを味わいました。


夏本番“佃祭”の準備も始まり

2008年07月07日 12時12分54秒 | 催しごと

 旧六月五日。二十四節気の【小暑(しょうしょ)】です。

大暑来れる前なればなり
        『暦便覧』(天明八年/1788年出版)

 酷暑の夏本番が忍び寄ってくる感じが伝わってきますね。さて今日は新暦で七夕。あいにく星は望めそうにありませんが、ご安心ください。旧暦の七夕は今年8月7日(木)です。きっと夜空は晴れ渡ることでしょう。梅雨も後半に入ってじめじめ蒸し蒸しとした陽気になってきました。急に夏の暑さがやって来て、早くも少々夏バテ気味です。

0707nobori1  わが町の氏神、佃住吉神社の例大祭、通称“佃祭”は、今年三年に一度の本祭りです。大祭の日程は8/1(金)~4(月)の四日間。住吉神社が鎮座する佃島を中心に佃、月島、勝どき、晴海の氏子地域全体が祭り一色に染まります。佃祭りのシンボルと言えば、八角形をした宮神輿の「八角神輿」、若衆が担いで町内を渡御する一対の「獅子頭」、軽快で粋な響きの「佃囃子」、そして住吉神社を守るように立てられる六本の「大幟」です。高さ20メートル、川を渡る夏の風になびく姿は勇壮そのものです。
(歌川広重の名所江戸百景より「佃しま住吉の祭」)


 7/6日曜日。「大幟」の柱や柱を固定するための抱木(だき)が、佃堀から掘り出されました。
0707nobori住吉神社の祭礼や行事を司る佃住吉講の人々が朝から集まり、この日潮位が最も低くなる13時頃を中心に手順よく掘り出して行きます。木は空気や雨風に触れるよりも、堀の底に埋めておく方が劣化が少ないので、祭りが始まった江戸の頃から伝統的に、この手法がとられているそうです。
(写真左:佃堀の底から姿を現し工事用クレーンで吊り上げられる柱/佃堀に浸かって柱から泥を洗い落とす/柱を固定するための抱木)

0707poster  これから佃島周辺では詰所、獅子小屋、山車小屋、囃子殿などが建てられ、大幟の柱は7/27(日)に立ち、祭り初日の8/1(金)の朝10時、一斉に幟旗が揚げられて祭り本番を迎えます。三年に一度、いつもより暑く熱い夏がいよいよやってきました。
(写真は今回のポスター。クリックすると大きくなります。左側に日程が書いてありますのでご覧ください。佃住吉講のホームページから頂きました。)

住吉神社例大祭「佃祭」に関する過去のエントリーは
2005.7.27「住吉神社例大祭~其の壱~御神輿の準備」
2005.8.11「住吉神社例大祭~其の弐~祭始まる」
2005.8.12「住吉神社例大祭~其の参~神輿上がる」
2005.8.15「住吉神社例大祭~番外編~夢見心地な祭りの夜」
です。ぜひご覧ください。


今年も半分、もうすぐ盆踊

2008年07月01日 11時18分36秒 | 季節のおはなし

 旧五月二十八日。今日は雑節の【半夏生(はんげしょう)】です。二十四節気をさらに三つに分けた七十二候、夏至の末候です。特に雑節として重要視されるのは「この時期までに田植えを終えましょう」という江戸時代の農家にとって八十八夜や二百十日のように農作業の節目の指標とされてきたからです。0701hangesho 「半夏」はサトイモ科の毒草「からすびしゃく」のことで、それが生える時期とされてきました。今ではなかなか見ることが出来なくなった半夏に代わって、半夏生の頃に生えるというので、その名も『半夏生』という名の野草「カタシログサ」が時々見られます(写真右:昨年のこの頃北鎌倉の東慶寺にて)。この時期葉っぱが白く変色して花弁となる不思議な野草です。今朝テレビで初めて知ったのですが、関西では半夏生の日に蛸を食べる風習があるそうですね。(【半夏生】2006年の模様はこちらを、2007年の模様はこちらをご覧ください)
 一年が半分終わり今日から7月です。夏の眩しい日差しはもうすぐです。

 7月になると東京は夏らしい行事がたくさんあります。いくつかご紹介しましょう。浅草寺の境内で行われる『ほおずき市』は7/9(水)と10(木)。10日は浅草寺の縁日「四万六千日」です。入谷の鬼子母神、真源寺境内で行われる『入谷朝顔市
は例年7/6~8ですが、今年はサミットの影響で7/18(金)~20(日)に開催するそうです。東京ではお盆の行事を新暦の7月13日~16日に行う風習が定着しています。お盆の装飾やお供え品を売る『草の市』が各地で7/12(土)の夜に行われます。今となっては商店街の縁日という雰囲気が強くなって来ていますが、どこか開放感があって夏の風情を感じることが出来るでしょう。
0701iidatsuneo  今年も『佃島盆踊』が7/13(日)~15(火)の三夜、中央区佃一丁目、かつての渡船場前にある少し広くなった道で行われます。始まりは三百年以上前と言われているこの盆踊りは、盂蘭盆に先祖の霊を祀るだけではなく、隅田川上流の大火や様々な災害でこの地に流れ着いた無縁仏を供養する、という強い思いが込められています。やぐらの上には太鼓が一つ。一人の音頭取りが太鼓を打ちながら一つの盆踊り唄をうたい、踊り手は囃しながら輪になった踊りの輪を、これまた一つの踊りを繰り返してゆく、というとてもシンプルな盆踊りです。七七七七の詞形を繰り返す唄は、岡山県「白石島盆踊唄」とよく似た「兵庫口説」系で、特に上の句の七七を繰り返す形式はとても古い形式なのだそうです。踊りの輪に加わり30分も続けて踊っていると、身も心もすっきりしてくるから不思議です。踊りはとても簡単です。揃いの浴衣を着た保存会のお姐さまたちの粋な踊りを真似ていればすぐにマスターできてしまいます。水辺の風が心地良く、本格的な盛夏の到来を予感させる頃、静かに繰り広げられる盆踊りはいかがでしょうか。
(写真は一昨年の模様。音頭取りの飯田恒雄さんです)

◆◆佃島盆踊(佃島念仏踊り)◆◆
日程:7月13日(日)~15日(火)
時間:19時頃から21時過ぎまで(雨天の場合は中止です)
  ※前半は子どもの踊り、名音頭取り飯田恒雄さんは20時過ぎに登場します。
場所:中央区佃一丁目(地図はこちら)
注意:佃島盆踊りは、この地に上がった無縁仏を供養するための行事です。踊りの輪に入る前には必ず精霊棚でお線香を上げましょう。

過去の関連エントリーは
2005.7.14「佃島盆踊」
2006.7.12「佃島の夏景色」
2006.7.22「『遙かなる佃』昭和の東京を見る」
2007.7.11「準備完了。もうすぐ佃島盆踊」
2007.7.22「佃島盆踊り と 初めての浴衣」
です。ぜひご覧下さい。