"暮らしのリズム"的できごと

先人が培った暮らしの知恵を通じて今を楽しむ【暮らしのリズム】のブログ。旧暦、落語、音楽、工芸品、食、民俗芸能などをご紹介

名物に美味いものあり“小田原おでん”

2009年12月30日 01時22分10秒 | まち歩き

 旧十一月十五日。明日は大晦日です。あれもこれもやらなければ、と慌ただしさが増しながらも、年明けに先送りしようかと、半ば妥協しながらblogのアップに精を出しているという情けない始末です。
 
 よく「名物に美味いもの無し」という言葉を聞きますが、どうでしょう。わたしは五分五分かな、と思います。その土地の産物、気候風土、1230odawara1古くからの物の流れに支えられて来た名物には裏切る物が無いように思います。小田原の名物、と言えば真っ先に思い浮かぶのが蒲鉾、練り物ですね。
 師走最後の土曜日に、長唄三味線のユニット、スクイーズ☆ハジキーズのお二人、松永鉄駒さんと松永鉄六さんと小田原のおでんで忘年会という楽しい企画が実現しました。
 鉄駒さんが小田原に住まわれているというご縁でこの日お二人は子供三味線教室を行っていました。合流は夜の始まり頃として、日没の早いこの時期、まだ明るさが残る時間に小田原に降り立って、駅からは少し離れた城址公園、御幸の浜にほど近い本町、鎮守の松原神社あたりをゆっくり散歩します。足柄や箱根から吹き下ろす空気が心地良く、古い民家や孤高の黒松が城下町・宿場町の面影を残していて、歩いていて楽しいコースです。向かったのは、その名も『小田原おでん本店』
(写真右:左は御幸の浜から夕闇迫る箱根のお山/右上は門などの復元で見所が多くなった小田原城/右下は『小田原おでん本店』の門前。正しい小田原提灯が待っています)

 歴史ある小田原の練り製品と、豊富な農産物、お酒、調味料を駆使して地産地消を目指して今から六年ほど前に『小田原おでん会』という会が発足したそうです。1230odenそのフラッグシップ的存在がこの『小田原おでん本店』です。
 昭和の香りを感じさせるごく質素な木造民家を仕立てた店内は、「J」の形をしたカウンター席で、運良くおでんやさんの特等席であるおでん鍋の目の前を陣取りました。奥には離れの茶室もあってとてもいい雰囲気です。ここでは会席のコースが頂けるそうです。
 小田原に13も蒲鉾店がある、ということがまず驚きで名物たる所以なのですが、それぞれが一品ずつ作り上げたおでん種が目を引きます。それにお店のオリジナル種や肉屋さんや豆腐屋さん、農家産直の野菜など、メニューを眺めているだけで心躍らされます。薬味には定番の辛子に加えてわさび、梅みそというのが小田原らしいですね。これが鰺や鰯のような光りものの種によく合います。お値段も都心では考えられないほどお手頃。ところどころ三人でシェアしながら個性的なおでんを美味しくたっぷり頂きました。
(写真左上から時計回りで:甘みのある引き締まった大根とすじ、いわし団子に焼き豆腐。昆布と鰹節だけの上品ながらコクがある出汁も美味しい/そのおでんの出汁が効いてる〆のおでん茶漬け/おでんには熱燗がベストマッチ。お銚子にある『火牛』は地元の蔵。惜しまれつつ今年廃業してしまったそうです/素材の味がしっかり感じられる「野菜のおでん」女性に人気があるのでは)
 話題は2月20日に開催する『長唄三味線の会~香り立つ早春の響き』のこと、先日のお浚い会『てんの会』のこと、そして鉄駒さんのおめでたいおはなしなどなど、花が咲きっぱなしでした。
 昔から、なぜかおでんは心を和ませてくれます。映画やドラマでも大事な話は結構おでん屋さんや屋台のシーンで、というのが多いですね。夏でもおでんと熱燗を愛する者にとって小田原は魅力的です。

今年もありがとうございました。来年もどうか“暮らしのリズム”をよろしくお願いします。


伝の会がおくる“てんの会”

2009年12月21日 16時20分12秒 | 主催する催し

 旧十一月六日。明日は二十四節気の【冬至】です。これまで暖かい日が続いて来た反動でしょうか、ここ六日間くらいとても寒く、冬らしい日々になっています。当時の頃に強い寒波がやってくると、日が短いので、ますます寒々しく感じてしまうものです。それでも日差しのある東京などはまだよいのかも知れませんが、雪国では一日があっという間に終わってしまう印象なのでしょう。
 来年2月20日の“暮らしのリズム”主催イベント『長唄三味線の会~香り立つ早春の響き』にご出演頂く長唄三味線の松永鉄九郎さんと、1221tennokai2 一門こそ違えど同じ長唄三味線の杵屋邦寿さんによるユニット“伝の会”が主催する『てんの会』という会に行って参りました。これは邦寿さん、鉄九郎さんそれぞれのお弟子さんたちによる合同お浚い会です。
 12月19日(土)の新宿・明治安田生命ホールで開かれた会は、朝の11時から夜の8時まで27曲を演奏しました。プロフェッショナルな唄と囃子方を配し、ほとんどの曲で伝の会のお二人が三味線をサポートするという、とても大掛かりな演奏会です。出演されたお弟子さんにとってはきっと想い出深い貴重な晴れ舞台になったことでしょう。
1221tennokai1_2  鉄九郎さんとご一緒にイベント
『長唄三味線の会~香り立つ早春の響き』にご出演頂く松永鉄駒さん、松永鉄六さんもこの日は大活躍です。鉄六さんはご自分の出し物はなかったものの、お弟子さんを従えて「越後獅子」を弾き(写真左の下。鉄六さんのお弟子さんの背後にチラリと見えるのが後見をしている鉄駒さん)、鉄駒さんはトリをとって見事な「綱館」をのタテを聴かせてくれました(写真左の上)。鉄六さんは「後見」と言って、お弟子さんの後ろに控えて三味線の調子を直したり、忘れてしまった勘所を囁いて教えたり、演奏者の気持ちになって黒子に徹する役をこなしていました。 長唄三味線における「後見」という存在は知りませんでした。伝統芸能の裏方を垣間見た、とても勉強になる会でした。
 そして、この日もう一つの発見。唄の杵屋六昶俉(きねやろくしょうご)さんの素晴らしいこと(写真上の鉄駒さんのお隣です)1221tennokai3鉄九郎さんの会で何度か拝見したことがあるのですが、あらためて聴き惚れてしまいました。「おそば屋さんの出前メニューのようにはしたくなかった」とおっしゃる鉄六さんデザインの番組表も素敵です。右の写真はそのごく一部。お言葉に甘えてところどころで小舟を漕いでしまいました。 


中国のこうじ菌をお試し

2009年12月13日 16時06分44秒 | 食と呑

 旧十月二十七日。今の暦の12月13日は【正月事始め】または【煤払(すすはらい)】の日です。もちろんこれは旧暦からの風習で、仏壇や神棚の煤を払うことでしたが、正月に向けて年末の慌ただしさに拍車がかかる行事ですね。ぼちぼち年賀状の準備もしなければ、という頃です。

 中国から帰国して早いものでひと月が、まさにアッという間に経ってしまいました。日本の滋味深き初冬の味覚や新酒などに舌鼓を打つ日々でもありますが、素朴ながら味わい豊かな中国の大衆料理も懐かしく感じるこの頃です。 その中の一つに【酒??子(jiu3niang4yuan2zi】というデザートがあります。1213jiunianga_2 酉へんに良は「醸」という字です。お酒を醸す段階の初期にあたる、こうじをお湯に溶いて白玉のような小さい団子が入っている暖かいスープのような、甘酒のようなもの、と言えばなんとかおわかり頂けるかと思います。自然の甘みと独特の酸味が特徴的で、これが油の多い料理や、四川とか湖南省の辛い料理の後に、清涼剤のような役割を発揮してくれるのです。

 街の市場の近くに、
酒?の瓶と小さい団子を売っている人がいます(上の写真の左上と右下)酒?は500gで3.5元(50円くらい)で、団子は一袋1元(13~4円)だったと思います。この女性にお願いしてもらって、酒?のこうじ菌(酒曲とか酒?と言います)を売ってもらうことにしました。一塊でもち米20kg分が作れる、というこうじ菌は柔らかい石灰岩のような物体です(上の写真の左下)

 このこうじ菌で
酒?を作ってみました。もち米を一晩水に浸して(左の写真の左上)、翌日に30分ほど固めに蒸します。 温度が35℃くらいまで下がったら(左の写真の右上)、瓶に2cmくらい敷き詰めては菌を振りかけて層状にします(左の写真の右下)1213jiuniangb瓶をタオルや毛布に包んで押し入れに入れておきました。この季節だと30℃くらいに保つのが難しいので、電子レンジで温める肩こり用の温パットを瓶に巻いて、半日ごとに温めます。二日目位から少しお酒っぽい匂いがし始めて、三日目に全体に菌が増えたようなので(左の写真の左下)、出来上がりということにして、水に溶いて温めてみたところ、ほぼ現地の味を再現することが出来ました(上の写真の右下)
 で、このこうじ菌の正体。調べてみるとリゾープス(別名クモノスカビ)というこうじ菌の一種みたいです。中国の老酒や韓国のマッコリ、インドネシアのテンペといったお酒を醸すのに使われるようです。お酒を作ると当局に怒られてしまいますので、
酒?の他に、こうじを作っていろいろ料理などに応用してみようかと思っています。次回の『手前味噌仕込みの会』で成果を発表できるとおもしろそうです。醗酵食品は奥が深くて楽しいです。