"暮らしのリズム"的できごと

先人が培った暮らしの知恵を通じて今を楽しむ【暮らしのリズム】のブログ。旧暦、落語、音楽、工芸品、食、民俗芸能などをご紹介

『手前味噌自慢の会』贅沢な宴

2010年09月30日 21時03分09秒 | 主催する催し

 旧八月二十三日。「秋に三日の晴れ無し」とか「女心と秋の空」などと言ったりしますが、猛暑が去れば、慌ただしく陽気が行ったり来たりします。着るものを選ぶのにも一苦労する季節です。明日は10月1日で衣替え。そろそろ夏物をすっきり整理しましょうか。あ、遅いですか。

 今年で5回目を迎えた『手前味噌仕込みの会』は2月11日に開催しました。今回は麦こうじ十割で、本格的な麦味噌です。参加者の皆さんが1升瓶をご自宅に持ち帰り、熟成。今年の猛暑を味噌たちはどう過ごしたのでしょうか。
 そんな期待に胸を膨らませて『手前味噌自慢の会』。9月25日に居酒屋ニュー信州で開催しました。半年間愛情を注がれてきたのか、ほっとかれてきたのか、ほとんど存在を忘れられてきたのか、手前味噌が集合します。0930miso まずは恒例の色比べ。お皿にそれぞれの味噌を大さじ一杯ほど盛り合わせてみました。今回はさほど色の差はないようです。夏前頃には麦味噌らしい色白で甘みがたっぷりあったのですが、だいぶ琥珀色になってきました。で、味はというと、微妙に違いがあるものです。甘みがしっかり残っていたり、塩がちょっと強く感じられたり、なぜか深い旨味があったりと、皆個性的です。こうじ菌だけでなく“家菌”の影響なのでしょうか。毎度毎度、この比較はとても面白いです。

 味噌自慢はそこそこに、あとは宴一直線です。 テーブルには次から次へと味噌を使った料理などが運ばれてきます。
0930misoryouriニュー信州の特別メニューはとても贅沢でどれもこの上なく美味いのです。たくさんあったのですが、ここでは味噌の料理を写真でご紹介しましょう。全体ピントがダメダメなのですが・・・。4分割写真の左上から。1,「青柳とわけぎの酢味噌」(若い麦味噌は酢味噌に良く合います。九州や瀬戸内の麦味噌圏では確かに酢味噌和えやぬたが美味しいですね) 2,「里芋の田楽」(昨年仕込んだ玄米味噌をベースにした味噌が旨味たっぷりです) 3,「こんにゃくの味噌煮」(薄切りのこんにゃくの隅々までしっかり味が染み込んでいてお酒が進みます) 4,「はすの田楽」(蒸したレンコンに先ほどの味噌を掛けてあるのですが、レンコンの自然な甘みと旨味に感動します)。
 0930misoshiru もう一品。これはお遊びの様でもありますが、よくある「しじみスープ」とか「味噌汁の具」というような乾燥わかめとなんとか、というインスタントの椀だね。これに手前味噌とお湯、または出汁を注げば完成する簡単味噌汁です。手前味噌はこうじ菌が生きているので、直火で沸かしてしまわない方が良いのかもしれません。味噌の味・香りがストレートに伝わってきて、これは簡単で美味しいです。お勧めします。

 宴もたけなわ、話題は次回の『手前味噌仕込みの会』に及びました。参加メンバーからは短期熟成と長期熟成の二パターンの配合で仕込んでみては、とか。もっとお子さんの参加を促してみては、などの積極的な意見が出てきました。皆さんのご意見を考慮して、来年も楽しい味噌仕込みを行えいたいと思います。ぜひお楽しみに。


名月雲に隠され猛暑も去り

2010年09月23日 10時02分38秒 | 季節のおはなし

 旧八月十六日。二十四節気の【秋分】です。

  陰陽の中分なればなり
          『暦便覧』(天明八年/1788年発行)

 「暑さ寒さも彼岸まで」の言葉通り、朝にはすっかり空気が入れ替わり、少しヒンヤリするくらいです。天気予報を見ていても、いよいよ暑さはおしまい。これから段々と秋が深まって行く模様です。

 そして、昨日は旧暦の八月十五日。中秋の名月でした。東京では夕方から薄い雲が広がり始め、
0923seiroka月の出から30分ほど遅れて17時20分頃、東の空から薄ら静かに名月は姿を現します。明石町の聖路加タワーの展望室から眺めようか、とエレベーターで最上階まで向かったところ、残念ながらこの展望室は7月に閉鎖されてしまったとのこと。築地・月島や佃島を箱庭のように見下ろすこの展望室は結構お気に入りの場所だったので残念でしたが、東を向いたエレベーターホールの窓は絶好のお月見ポイントです。聖路加タワーの影が真っすぐ伸びて行くその先から上ってくるのは、秋分に近いからなのでしょう。橙色に染まった街を優しく見守るような名月の姿にうっとりします。

 タワーを降りて隅田川のテラスに出てみます。川の対岸、佃の高層マンション群の間に昇る名月もまた美しいもの。
0923ugan隅田川の水辺は都会にあっても空が広いです。昨年、やはり高層ビル群の上海で眺めた名月を思い出し、一年間の早さをあらためて実感します。

 旧八月十五日の名月は俗に【芋名月】と呼びます。この頃盛んに収穫され始める里芋を模した月見団子を飾り、収穫を喜んだ のでしょう。


 大相撲秋場所の打ち出しの頃は、もう夜の風情です。0923homes月島の自宅に戻って窓から望む名月。陽がとっぷりと暮れて、これからが月夜の本番というところですが、このあと雲がどんどん広がり始め、20時頃にはすっぽりと名月を隠してしまいました。慌ただしいお月見になりましたが、今年の【中秋の名月】、皆さんは何処で望みましたでしょうか。

 【芋名月】に対して、旧暦九月十三日の月を【栗名月】とか【後の月】と呼びます。この両方のお月見をすると縁起が良いとされていますが、今年の十三夜は10月13日水曜日です。



江戸の名建築が蘇ります

2010年09月06日 21時37分08秒 | まち歩き

 旧七月二十七日。相変わらず厳しい残暑が続いています。猛暑日や熱帯夜の記録が次から次へと書き換えられているようです。0906urokogumo 夏の象徴である太平洋の高気圧がとても強いのでしょう。台風がやってきても日本海の方に行ってしまいます。なかなか空気が入れ替わらず、涼しい陽気にならないのでしょうか。それでも空を見上げればもうすっかり秋です。右の写真は9月3日金曜日の夕方4時半頃。表参道から渋谷方面に広がっていた鰯雲、うろこ雲とも言うのでしょうか。少し傾いて薄ら橙色の陽光に照らされた雲と青空のコントラストは、まさに秋を感じるものでした。

 都会のオアシス、旧浜離宮庭園は四季を感じられるだけではなく、江戸の大名庭園を今に伝える貴重な歴史的名跡でもあります。今は東京都立の公園となっていて、6年前からは史実に基づいて修復や復元が行われています。特に平成20年度から始まった「御茶屋」の復元がこれからますます盛んになることでしょう。
 今は潮入りの池に面した「松の茶屋」の復元が佳境を迎えています。白いテントのベールに覆われた中でどんな作業が行われ、足を運ぶたびに今はどんな姿なのだろうか、と興味津々眺めていました。
0906matsunochayaそんな中、たまたま都のホームページを眺めていたところ「松の茶屋復元工事現場見学会」の募集があり、飛びついてしまいました。
 本来の「松の茶屋」が建てられたのは十一代将軍家斉時代(1787年~1837年)で、第二次大戦の空襲で焼失してしまったそうです。礎石がそのまま残っていたことと、史料が豊富だったことが幸いしているとのことで、創建当時の姿・材料・工法を出来る限り忠実に再現しているそうです。建物は茶室建築などに代表される「数寄屋建築」。随所に見られる粋な意匠と技術を極めた職人の心意気が伝わってきます。(写真左上から時計回りに)茶屋は十畳の間と十三畳の間が続いています。奥が十三畳の間で天井板には屋久杉が使われています/長押釘の隠し金具は松毬と蝉の意匠。蝉は文献にしか残っていないので試作だそうです/南側の縁側に座って潮入りの池から中島の茶屋を望みます。将軍様もこの風景を愛でていたのでしょう/この礎石は創建当時のもの。足柄の小松石です。
 感動的なのは屋根の美しさ。軒の高さに組まれた足場に上って間近で見学が出来ます。
0906yaneサワラ材を3mmの薄さに割って重ねて葺く「杮葺き(こけらぶき)」という技法で出来ています。(写真左上から時計回りに)意匠の細やかさと正確な業をこの視線で見られるのは貴重な体験/厚さ3mmを3cmずつずらして葺くと厚みは10cm以上になります。下には立派な杉の磨き丸太が見えます/サワラ材の屋根板は竹釘二本で固定されます/北西の角のカーブ。繊細で美しい様は職人業の極みです
 見学会は1時間で終了。猛暑の午後、縁側では冷たいお茶が振る舞われ、実際屋根に使われるサワラ材の屋根板と、0906omiyage 天井板に使われた屋久杉材の端材ををお土産に頂きました。
 「復元にあたり、資料を集め調査を進めてゆくのに従って先人の知恵と業の素晴らしさに驚かされました」と言う言葉には重みを感じます。スタッフの皆さん、施工業者の皆さん、設計士の方、貴重な体験を企画・サポートして頂きましてありがとうございました。
 松の茶屋を囲むベールは9月中に取り払われ、日の目を見るそうです。完成までもう少し。ただならぬ愛着を感じる建物になると思います。11月下旬には落成するそうです。機会がありましたらぜひ見にいらして下さい。旧浜離宮庭園は一年間有効の年間パスポート1200円があります。お近くの方には断然お得でおすすめです。