"暮らしのリズム"的できごと

先人が培った暮らしの知恵を通じて今を楽しむ【暮らしのリズム】のブログ。旧暦、落語、音楽、工芸品、食、民俗芸能などをご紹介

蔵で舞うつるとかめの暖かい民謡

2006年12月26日 17時37分18秒 | 芸能の催しごと

 旧十一月七日。今年もあと5日とちょっと。クリスマスムード一色の街がその装飾をはずせば年の瀬は駆け足でやってきます。

 浅草の雷門近くに、慶応四年(1868年)に建てられた土蔵造りの蔵をギャラリーにしたスペースがあります。Gallery efというとっても雰囲気の良い空間で日本の民謡を聴かせるライヴがあるので、行ってきました。
1226tsurukame  今宵の主役【つるとかめ】は、津軽民謡一筋に常に唄に寄り添う三味線を聴かせてきた巨匠澤田勝秋さんと、鳴り物(民謡太鼓)と唄の木津茂理さんによるユニットです。日本の民謡では珍しい楽器を演奏しながら唄うというスタイルですが、世界に目を向けてみると『弦(絃)を奏で、太鼓を打ち鳴らし、唄う』というシンプルなスタイルの伝統民衆音楽はあらゆる地域で継承されていると言っていいでしょう。その日本代表こそ【つるとかめ】が表現する日本の民謡なのでしょう。大いなる母の胎内のような歴史を感じる蔵に響く、太棹の三味線と太鼓、唄は、無条件に日本人のDNAが刺激され、心を委ねていってしまうものでした。
 「梅か、桜か、蓮華の花か~、そこへ行きゃるは皆殿様~
       桃か、桜か、林檎の花か~、そこさ行くのは皆殿様~」
門付け唄が心地良く響けばもうこの空間は日本の原風景、どこか農山漁村へと飛んでいってしまいます。二部構成の第一部では、1枚目のアルバム『つるとかめ』でとりあげたテーマ、北前船で運ばれた「ハイヤ節~おけさ~あいや節」を、第二部では2枚目のアルバム『あいのかぜ』のテーマ「追分」を中心に、来春発売される待望の3作目よりたっぷり聴かせます。
 思えばあっという間のライヴでしたが、脳裏には今までに見てきた日本の様々な風景や出会った人たちの顔、感じてきたもの、思い出が浮かんできます。もっぱらいわゆる洋楽指向だった自分にとって、これまでに感じたことの無いような感情の揺さぶりを体験するライヴでした。日本の民謡に抱かれるように聴けるライヴ、というのはまだまだ少ないですが、この心地良い感覚をぜひたくさんの人たちに味わってもらいたいものです。【つるとかめ】新作が待ち遠しいです。

【つるとかめ
のアルバムです1226tsuru 

  つるとかめ 
2002年発表のファーストアルバム。田助ハイヤ(長崎)、鹿児島はんや、加賀ハイヤ、佐渡おけさ、あいや節(津軽)、を中心に、江差追分(北海道)、黒石よされ(津軽)、じょんがら節(津軽)、南部粉挽唄などが収められています。民謡のイメージを一新させる画期的な作品でした。


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あいのかぜ
2003年に発表。民謡の重要なテーマである「追分」の代表曲、江差追分(北海道)、松前三下がり(北海道)、津軽三下がり、越後追分、本荘追分(秋田)を中心に、木津さんの真骨頂、八丈太鼓囃子や、ホーハイ節(津軽)、津軽山唄、秋田荷方節が聴けます。英文の歌詞対訳と説明が掲載されているのも画期的です。

Gallery ef・・・浅草駅からほど近いところにあるスペース。通り側のフロントスペースはカフェになっており、夜はお酒とイタリアン系のお料理(旨いです!)も楽しめます。蔵でのライヴは不定期ですがギャラリーとして様々なアートの展示などは常に行っているとのことです。とても居心地が良いので、浅草にお越しの際にはお薦めスポットです。台東区雷門2-19-18 tel:03-3841-0442


『居酒屋寄席~師走の会』

2006年12月18日 23時14分21秒 | 主催する催し

 旧十月二十九日。明日は旧暦の十一月一日です。久し振りに冬らしい青空が広がった東京。お昼も過ぎるとあっという間に夕方の彩りで、東京の日の入りは16:31。明後日22日は【冬至】。昼間の長さが一年で最も短くなるのですが、日の入りの時間はもう少しずつ遅くなってきています。

 さて、先週土曜日(12/16)に開催しました居酒屋寄席ですが、
1219bunto師走の慌ただしい時期にたくさんのお客さんに来ていただきました。ご来場いただいた皆様、ありがとうございます。お陰様で楽しい会になったと思います。感謝しています。
 出演いただいたのはお馴染みの立川文都師匠と立川談修さん。この夜の噺は談修さんが『蜘蛛駕籠(くもかご)』に『子褒め(5分短縮ヴァージョン)』のおまけ付き。
1219dansyu 文都師匠は痛快な滑稽噺『小言幸兵衛』です。舞台出演の稽古などで、少しの間高座から離れていた文都師匠は“定位置”の座布団の上で水を得た魚のように元気いっぱいでした。
 落語で大いに笑ったあとは、第二部“宴”の幕開けです。高座を片付け、テーブルをセットするのですが、この時ばかりはお客様もスタッフのごとく手際よくお手伝いしてくれます。ホント助かっちゃっています。感謝感謝。乾杯は、ニュー信州のご厚意により口開けした新潟の銘酒【鶴の友】の非売品手造り大吟醸。こちらもお店からのお振る舞い。もっちりとした黒米、赤米の焼おにぎりに、手造りの野沢菜漬けが、お酒の前のお腹に優しいです。
 いつもながら特に段取りのない宴です。でも、落語でたっぷり右脳を刺激した皆さんの表情やおしゃべりはとても楽しそうです。これが会を主催する者として何より嬉しいことなのです。そんなこんなでスタッフの打ち上げは夜更けまで続くのでした。
 “ぴあ”が落語をテーマにしたムック(雑誌スタイルの書籍)を年明け2月に発売するそうで、この夜の模様を取材していただきました。発刊の際にはこの場でご紹介します。
 


長唄三味線にうっとり~邦楽は楽しい!

2006年12月01日 17時18分18秒 | 芸能の催しごと

 旧十月十一日。冷え込んできました。東京ではここしばらく冬晴れの日が続くようです。日が沈みあっという間に夕闇に包まれる頃、いつの間にかぽっかりと浮かんだ月が存在感を増してゆきます。121hazenoki今宵十一日目の月を“宵月”とはよく言ったものですね。 関東の平野部では紅葉が見頃を迎えています。銀杏やいろはもみじが色づき始める中、ハッとさせられるほどひときわ朱に輝いているのがハゼノキです。この木の名前がわからずにずっともやもやしていたのですが、たまたま近所で作業をしていた植木屋さんが教えてくれました。美しいからといって触れては大変。ウルシ科なのでかぶれてしまうそうです。

 普段は落語や講談といった演芸を楽しむ寄席、上野広小路亭で珍しく長唄を中心とした音楽のライヴをやるというので観に行ってきました。このところ日本舞踊や歌舞伎を通じて、生で聴く三味線音楽の魅力にはまってゆく真っ只中なので、とてもタイムリーなライヴでした。
 ライヴを主宰する松永鉄九郎さんは、長唄の三味線方であることはもちろん、映画やテレビドラマの音楽制作や、若手の指導、オリジナル曲の創作活動などなど、さまざまな場面で活躍されています。杵屋邦寿さんとの三味線デュオ・ユニット【伝の会】でもお馴染みです。

121tetsukurou この夜のライヴは鉄九郎さんのお弟子さんユニット『スクイーズ☆ハジキーズ』(松永鉄駒・松永鉄六)で始まり、囃子方小鼓の川島佑介さんと長唄三味線の奥様(お名前失念)のユニット『かわしま夫妻(表記?)』、長唄の杵屋三七郎さんが登場。中入り後はインプロヴィゼーションによるフリーセッション、そして最後は鉄九郎さん(三味線)、鉄六さん(三味線と鳴り物?)、三七郎さん(唄)、川島佑介さん(囃子と鳴り物)による「たぬき」でした(写真上の四人です)
 彼らのような邦楽の担い手は、普段歌舞伎や舞踊の後ろで雛壇に座り、121kawashima 神妙な面持ちで音を紡ぎ出しているのですが、この日ばかりは自分たちが主役。膝元にはいつもはないマイクが置いてあり、曲の解説や楽器の説明から、世間話、邦楽界の裏話など愉しいお話しが次から次へと飛び出してきます。ちょっと長唄や邦楽は敷居が高いな、と思う人にとってもこういうスタイルのライヴは自然にひきこまれ、楽しめてしまうでしょう。こういう場がどんどん広がってゆくと邦楽はますます面白くなってくるでしょうね。
(写真は舞台で小鼓を組み立てながら独特な間のトークで場内を沸かせる川島さん)