"暮らしのリズム"的できごと

先人が培った暮らしの知恵を通じて今を楽しむ【暮らしのリズム】のブログ。旧暦、落語、音楽、工芸品、食、民俗芸能などをご紹介

おめでとう![BCXSY]、田中清八さん

2011年02月11日 06時57分11秒 | 手しごと

 旧一月九日。立春。今年は2月4日でしたが、まだまだ寒い日が続いているとは言え、確実に春の気配を感じることができるようになってきました。澄み切った冬晴れの青空に雲が増えたり、霞がかかったり、雪や雨の日があったり、もうそれだけで春なのです。東の空が白んでくるのは早くなり、日没も気がつけば随分遅くなってきました。春の気が少しずつ強くなって行くこの季節は、なかなか良いものだと思います。

 嬉しいお話が届きましたので、ここでご紹介したいと思います。このblog【“暮らしのリズム”的できごと】で何度かご紹介している建具・指物の伝統工芸師、田中清八さんの奥様から十日ほど前にお電話を頂きました。お話を要約すると・・・
 昨年(2010年)
、オランダをベースに活動するイスラエル出身のBoaz Cohenさんと山本紗弥加さんによるアーティスト・ユニット『BCXSY』と清八さんが共同制作で素晴らしい作品を創りました(その模様は0630bcxsy [Origin part I : join]と題されたこの作品は、斬新でありながらも自然を感じさせるデザインと、日本の伝統的な建具の美しさが見事に結びついています。和の空間でも洋の空間にも暮らしにフィットするインテリアであり芸術作品です。この作品がUKの雑誌Wallpaper*のDesign Award 2011で、Best domestic design部門の[Best screen]に選ばれた。ということでした。
 これは素晴らしい出来事です。作品が完成した後、ミラノでの展示に出品した、というところまでは知っていましたが、多くの人に伝わり、いい出会いがあったのだなと思いました。優れた芸術作品は、たくさんの人に知ってもらうことで価値が高まってゆくものだと思っています。
Boazさん・紗弥加さんの意欲的な活動と作品を伝えたいという熱意が今回の受賞に繋がったのでしょう。お二人には敬意を表したいです。おめでとうございます。
 清八さんの奥様は「BCXSYとの共同制作がとても有意義なものだったので、日本にもこの作品を残しておきたい」とお話されていました。もちろん受注がなければ作品作りも難しいです。理想を言えば、いろいろな人の目に触れることができる空間で普遍的に展示あるいは活用がされる場が、
[Origin part I : join]に相応しいかな、と思います。この日本で、たくさんの人に伝えてゆくために“暮らしのリズム”では何ができるのか、思いを巡らせています。

 山本
紗弥加さんからのメールによると[Origin part I : join]は日本の雑誌『Casa Brutus』2011年1月号でも掲載されているとのことです。

 そしてもう一つ嬉しいお知らせ。[Brit Insurance Design Award 2011]のFurniture Categoryにおいてノミネート作品にリストアップされました。
[Origin part I : join]は2011年2月17日から8月7日まで、ロンドンのDESIGN MUSEUMにて展示されるとのことです。

田中清八さんに関してはこちらもぜひご覧下さい。
2010年6月30日建具職人・田中 清八さんとBCXSYの共同制作

2008年2月20日『伝統工芸、指物 師・田中清八さんを再び訪ねて』

2007年 6月17日『職 人技に触れる。指物師・田中清八さんとの再会』
2006年7月2日『指物建具工芸 師、田中清八さんを訪ねる』


中国の農民画に魅せられて

2009年05月04日 01時01分08秒 | 手しごと

 旧四月十日。月も膨らんできました。そして、明日5月5日は二十四節気の【立夏】です。
 公園の花も、初夏の彩りとなってきました。

 

池の睡蓮も朝日を浴びて蕾が開きかけています。池の畔には黄色い菖蒲も咲いています。う~ん初夏ですね(写真左)。0504hana2syu_2もう一つは写真右の花。中国名では「双色錦帯」と言うのだそうです。ネットで調べてみると日本名は「オオベニウツギ」の一種。一色ではなく、白・ピンク・紅色と様々なトーンが賑やかで華やかなことから「カルナヴァル(カーニバル)」という名前もあります。あまり意識したことのなかった花ですが、緑も濃く鮮やかなので、とても花が映えます。
0426budcard さて、前回のblog『街バス乗りの楽しみ』でご紹介した上海市の公共交通カード。 私が使っているのは2009年新春バージョンで、かわいい牛の農民画がデザインされています。この中国の農民画をテーマにした施設というか村が上海市の郊外にあります。ちょうど日本から友人が来ていたので、あいにくの雨模様でしたが、中行ってみることにしました。
 上海の街中から地下鉄・バスを二本乗り継いで1時間半。目的の『中国農民画村
は水郷の古い村???』の近く、牧歌的な農地の中にあります0504nouminga_2。もともとこの地域に多く住んでいた農民画家を村に集めて、コテージのような建物で実際に暮らし、作品を制作し、自分の作品を展示・販売もしています。村には資料館や売店、上海以外の農民画も扱われています。ちょうど行ったときもそうだったのですが、小学生の遠足コースの定番なのでしょうか。大型バスで上海の都会からやってきた子供たちで賑わっていました。子供も楽しめるように、素朴な遊具も用意されています。(写真左上より時計回りに:これが村の入口。入場料は30元/作家が暮らしている家/資料館に展示された生活の道具。農民画から飛び出して来たようだ/交通カードの絵を描いた陳衛雄さんと龔彩娟さんご夫妻)

 中国の農民画
の画風は、もちろん画家の創造性によって様々です。0504nouminga1 共通する主な手法は、手漉き和紙のような黄色がかった紙に、水性のポスターカラーでストレートに農村のとても日常的な風景を描いてゆきます。中国でも今ではあまり見られなくなった、ちょっと昔の光景なのでしょうか。衣食住、農作業、農機具、生活の道具、収穫物、季節の移ろい、年中行事、労働力の家畜・・・。
 絵の中からはとてもゆったりとした活気のある時間が流れ“暮らしのリズム”が感じられます。それは少し前の日本でも流れていたリズムなのでしょう。

 今週半ばから二週間、一時的に日本に戻ります。5/9(土)は【手前味噌仕込みの会】楽しい時間はきっとあっという間に過ぎてしまうでしょう。三ヶ月ぶりの日本がこの目にどう映るのか、興味津々です。


手拭と浴衣の本染め工場を訪ねて

2008年02月24日 23時51分14秒 | 手しごと

 旧正月十八日。昨日は日本海に低気圧、太平洋側に高気圧が位置したので、午前中から強い南風が吹いて、関東では“春一番”となりました。東京の最高気温は17℃まで上がって、日中はコートもいらないほどの暖かさ。でもそれが午後2時くらいを境に一転し、夕方は真冬の陽気に。風邪をひかないように天気予報から目が離せない季節になりました。

 昨年6月の「足立区伝統工芸展」でお話しを伺い、『本染め手拭のできるまで』というドキュメンタリーDVDを買い求め、興味を抱くと、街で見る手拭いや浴衣にどんどん惹きつけられてゆきました。問屋さんを紹介していただき、念願叶って初めての浴衣を仕立てたのが夏のことでした。是非一度染める作業を生で拝見したい、という想いが募っていたのですが、ついに実現しました。

 訪ねたのは足立区の一番北、工場の裏の綾瀬川を渡れば埼玉県八潮市という場所にある旭染工株式会社です。予め電話でお願いして工場を見学させていただきました。
解説と案内をして下さるのは二代目社長の阿部晴吉さんです。0224asahi1旭染工では伝統工法を改良して明治時代初期に考案された“注染”という技法が行われています。今回は写真を中心に、その工程を追って行きたいと思います。分割写真は左上から時計回りの流れになっています。

 工場にはシンボリックなやぐらがあって、染める前の白生地や、染め上がった反物を干しています。訪ねたのは春の嵐の午後。染め上がった浴衣や手拭いが風に舞っていました。(写真右)

 染める前の白生地、
0224asahi2小巾綿織物は“練地(ねりじ)”というお湯に浸す工程と天日乾燥を終えると“地巻(じまき)”という作業を行います。布目を真っ直ぐに均等にしてゴミや付着物を取り除きながら巻き取ってゆきます。反物は20~40メートルととても長いので工場は1階と2階を繋ぐ穴が空いています。地巻が終われば、次の“型付(かたづけ)”の工程に移ります。(写真左、右上の方が社長の阿部さん)

 “型付”または“柄付”“糊付”は型紙を枠に張って、 台の上に伸ばした白生地にへらで防染糊を塗ります。
0224asahi3この糊の付いていないところに染料が浸みてゆくのですね。一枚塗っては白生地を蛇腹状に折り返してまた塗って、という作業を白生地が終わるまで続けます。白生地の最初と最後には“捨て生地”という使い回しの生地に糊付けをします。糊はもち米や海藻などの天然素材を用いて、生地や染料の種類、柄の細かさなどによって微妙に調整しているのだそうです。型付が終わった反物は細かい砂が敷き詰めてある地面に置いておきます。

 次の工程が染色です。注染台に生地を乗せて、
調合した染料を薬缶(やかん)で注ぎ、0224asahi4  足踏みペダルでコンプレッサーを加減し台の下から減圧して吸い取ります。染料を注ぐ方向、早さ、量、吸い取るタイミングなど、ムラなく綺麗に染めるのは、職人技が必要なのだそうです。左の写真は浴衣地です。白地差分け”という染色法で2色の蝶を染め上げています。藍色の蝶は、左右の手で異なる色の染料が入った薬缶を持ち、同時に注いでグラデーションとなる“ぼかし染め”となっています(右上)。これは特に興味深い技でした、ひじょうに熟練された技が必要だそうです。

 写真右、左上は染まる部分が大きい“地染一色”。右上は日本舞踊の手拭いで、柄は「道成寺」。
0224asahi5“白地差分け”ですね。染めの次は水洗いです。井戸水を引き込んだ水洗機を使って染め上がった生地をよく洗い(右下)、糊や余分な染料を落とします。 工場のすぐ裏手にには県境の綾瀬川が流れています。昭和30年の創業当時は川で作業をしていたそうです。清らかな川に色とりどりの染め物が泳ぐ風景は、また風情があったのでしょうね。水洗が終わると乾燥し(左下は機械での乾燥)、再び地巻きしてから蛇腹に畳んでこの工場での工程はおしまいです。

 とここまでは、染め工場での工程です。一枚の手拭が出来るまでには、生地を織る職人、型を描く職人、型紙を切る職人・・・たくさんの職人の手が携わっています。大変失礼なのですが旭染工さんには思っていたよりたくさんの職人の方が作業をされていました。最近は少しブームになっているということもあって、手拭や浴衣を街で見かけることが多くなりました。いいものはお値段も張るのですが、やはりそれだけの技術と素材、手間が注ぎ込まれているものなのですね。
 「いいものを作っていても、ある時に安いものがでてくると、すぐそれに取って代わらってしまう。伝統工芸はそんな世の中になんとか追いついて行かなければならないのです」という阿部さんの言葉に重みを感じました。

◆◆注染に関するアーカイブをぜひご覧下さい◆◆
2007.7.22【佃島盆踊りと初めての浴衣】
2006.11.28【手拭いで感じる季節の移ろい】


伝統工芸、指物師・田中清八さんを再び訪ねて

2008年02月20日 15時07分21秒 | 手しごと

   旧正月十四日。昨日は二十四節気の【雨水(うすい)】でした。

雪散じて水と為る也(『暦林問答集』)

雪解けが始まる頃、草木が芽吹き始める頃、なのでしょう。立春を過ぎても冬のような寒気に支配され、余寒が厳しかったのですが、ようやく「三寒四温」の気配が感じられるようになってきました。梅やまんさくの花も咲き、春の香り沈丁花の蕾もはちきれんばかりの膨らみを見せています。いよいよ春本番ですね。

 足立区で伝統工芸の江戸指物をされている田中清八さんを久し振りに訪ねました。0220shouji1 奥様から電話を頂き、新潟県小千谷に新築される日本家屋の障子が完成し、数日後に工務店に納品する、というお話しだったので、その前にひと目拝見したいと思い、出掛けてゆきました。
 震災で大きなダメージを受けた小千谷ですが、地震に負けない頑丈な日本家屋を、ということで、親子二人の大工が伝統工法で一年間かけて築いた家に収まるそうです。
 4枚の障子が二組。高さはいずれも七尺二寸三分(219cm)。1枚の幅は狭い方が二尺二寸二分(67cm)、広い方は二尺八寸五分(86.5cm)。材料は最も高級で時間の経過と共に美しく表情を変えてゆく米檜材です。

 大きい障子は横組子が多い“横繁障子で二本の縦組子を中央に寄せた“吹寄障子の意匠を採り入れ、さらに室内側の小障子が上下する“摺上げ障子”(関東では“猫間障子”と言いますね)になっています。0220shouji
 小さい障子は縦横の組子が荒く大きい“荒間障子”の意匠でこれも“摺上げ障子”になっています。
 シロウトが下手なコメントをしてもしょうがないのですが、凛とした姿で、美しさと暖かさがあります。こんな障子に冬の低い角度の日差しが当たる様を見てみたいものです。この障子が収まる和室の顔になることでしょう。

 田中さんはここしばらく体調を崩されていた、ということですが、以前お会いしたときに話していた、江戸時代の駕籠の制作意欲は衰えを知らず、この日もかつて修繕に係わった時の写真を見ながら熱く語って下さいました。ぜひお元気で、夢を実現して欲しいものです。

田中清八さんに関してはこちらもぜひご覧下さい。
2007年6月17日『職人技に触れる。指物師・田中清八さんとの再会』
 
2006年7月2日『指物・建具工芸師、田中清八さんを訪ねる』 


指物・建具工芸師、田中清八さんを訪ねる

2006年07月02日 12時57分29秒 | 手しごと

 旧六月七日。今日は雑節の【半夏生(はんげしょう)】です。夏至(6/21)から数えて11日目、七十二候夏至の末候にあたるこの日は、八十八夜などと共に農業の重要な節目の日とされていました。この日までには田植えを終えましょう、という頃です。“半夏とは野に生える「からすびしゃく」というサトイモ科の野草のことです。「夏半ばに生える」ちょっと早い気がしますが今や夏真っ只中なんですね。

 はっきりしない梅雨空の下、足立区は東武伊勢崎線梅島駅近く、72andon指物の伝統工芸師、田中清八さんの工房を訪ねてきました。6月の半ばに千住で開催された「足立伝統工芸品展」を見に行った際に、出品されていた行灯や障子に魅せられお話しを伺い「ぜひ後日工房にお邪魔させて下さい」という願いが実現しました。(←これが一目で釘付けにされてしまった、漆塗りの行灯と独特な意匠の“ちり返し障子”)

 お仕事の手を止めて、以前制作された衝立障子(ついたてしょうじ)を見せて下さったり、それぞれの細工を専用の特殊な工具と共に説明して下さったりと、72tanaka2たいへん親切に教えて下さいました。(↓田中清八さんと三年前に作ったという衝立障子。その下の写真が衝立障子の細部、細工と細部の面取りが美しい)
 都心では職人の技が活きる日本家屋や意匠が減っているとのこと。普段のお仕事は注文住宅の家具や建具などの制作が主で、伝統工芸の需要は少なくなっているそうですが「独創性と意欲が大事ですね」とおっしゃるとおり、
72tsuitateまだまだ伝統的な指物に対する熱い想いが伝わってきます。72koushi大量生産では決して得られない贅沢で豊かな気持になれることでしょう。
 朝に電話をしてその午後にお邪魔したのにもかかわらず、暖かく迎えて頂き感謝しています。奥様と共にこれからもどうかお元気で、私たちに驚きと感動と安らぎを与えて頂きたいと思います。
(↑お土産にと、こんなものを頂きました。これは癖になる)

 6/11“入梅の頃あけぼのは早し”の紫陽花の写真を差し替えました。