"暮らしのリズム"的できごと

先人が培った暮らしの知恵を通じて今を楽しむ【暮らしのリズム】のブログ。旧暦、落語、音楽、工芸品、食、民俗芸能などをご紹介

風土が生んだ漬け物のヨーグルト、木曽の「すんき」

2010年01月13日 19時10分26秒 | 食と呑

 旧十一月二十九日。日本列島は猛烈な寒波に覆われているのだそうです。九州や四国の南部でも雪に見舞われています。青空が戻った東京も肌を刺すような乾いた強風が身にしみます。この寒気はまだ数日居座るそうです。こんな時は体を中から温める美味しいものをたくさん食べたいものですね。


 このところ食べ物の話ばかりになってしまっていますが、日本は美味しいものが溢れています。今日ご紹介する「すんき」もその一つ。0113sunki 厳しい寒さに包まれる長野県木曽地方の風土が生んだ冬の味覚です。年末に味噌仕込みの師匠からお裾分けをいただき、この冬いろいろ大活躍をしています。
 京都で柴漬け・千枚漬けと並んで代表的な漬け物に「すぐき」があります。酸茎菜(すぐきな)というその名の通り「すぐき」のための京野菜を、塩を使わず乳酸醗酵させる漬け物です。古漬けのような独特の酸味と旨味がクセになるのですが、やはり京漬け物ならではの上品さがあります。
 木曽の「すんき」はこの「すぐき」が流れ着いたものなのでしょう。漬ける蕪は木曽御嶽山の山麓に広がる地域に因んで「開田蕪」と総称される土地土地の在来品種。冷え込む冬の気候と、「米は貸しても塩は貸せるな」という海から遠く塩が貴重だったお土地柄が生んだ名産品です。この蕪と葉を粗く刻んで、10秒ほど熱湯にくぐらせて殺菌し、漬けて行くのだそうです。京都では今や室で醗酵させるのが主な製法だそうですが、冷え込み厳しい木曽では家々で普通に漬けられています。新たに漬けた時、前年のすんきを乾燥や冷凍で保存しておいたものから乳酸菌を接種するというから、これはもうヨーグルトのような漬け物なのですね。確かに食べた後しばらくして胃腸が活発に動いているような気がします。
 味は、確かにすぐきをルーツにしていることが感じられるのですが、もっと素朴でワイルドな印象です。野沢菜のふる漬けを塩抜きしすぎた感じ、と言ってはすんきに失礼でしょうか。でもその感覚がとても美味しいのです。
 もっともシンプルですんきそのものの味を楽しめるのが、そのまま鰹節と醤油を掛けて頂く方法。ご飯が進むということは、お酒も進みます。木曽では冬、暖かい蕎麦にすんきが欠かせないそうです。これも独特の酸味が美味しいですね。年越し蕎麦はこれでした。あとはもっと細かく刻んで納豆と併せたり、炒めたりと、塩分が無いのでいろいろ楽しめます。
 郷土の家庭の味ということで、なかなか都会ではお目にかかる機会もありませんが、中山道信濃の国木曽を冬に通る折にでもぜひ「すんきそば」をご賞味下さい。

ネット販売や取り扱いの業者も紹介/リンクされています。
木曽町商工会のホームページはこちら


 


中国のこうじ菌をお試し

2009年12月13日 16時06分44秒 | 食と呑

 旧十月二十七日。今の暦の12月13日は【正月事始め】または【煤払(すすはらい)】の日です。もちろんこれは旧暦からの風習で、仏壇や神棚の煤を払うことでしたが、正月に向けて年末の慌ただしさに拍車がかかる行事ですね。ぼちぼち年賀状の準備もしなければ、という頃です。

 中国から帰国して早いものでひと月が、まさにアッという間に経ってしまいました。日本の滋味深き初冬の味覚や新酒などに舌鼓を打つ日々でもありますが、素朴ながら味わい豊かな中国の大衆料理も懐かしく感じるこの頃です。 その中の一つに【酒??子(jiu3niang4yuan2zi】というデザートがあります。1213jiunianga_2 酉へんに良は「醸」という字です。お酒を醸す段階の初期にあたる、こうじをお湯に溶いて白玉のような小さい団子が入っている暖かいスープのような、甘酒のようなもの、と言えばなんとかおわかり頂けるかと思います。自然の甘みと独特の酸味が特徴的で、これが油の多い料理や、四川とか湖南省の辛い料理の後に、清涼剤のような役割を発揮してくれるのです。

 街の市場の近くに、
酒?の瓶と小さい団子を売っている人がいます(上の写真の左上と右下)酒?は500gで3.5元(50円くらい)で、団子は一袋1元(13~4円)だったと思います。この女性にお願いしてもらって、酒?のこうじ菌(酒曲とか酒?と言います)を売ってもらうことにしました。一塊でもち米20kg分が作れる、というこうじ菌は柔らかい石灰岩のような物体です(上の写真の左下)

 このこうじ菌で
酒?を作ってみました。もち米を一晩水に浸して(左の写真の左上)、翌日に30分ほど固めに蒸します。 温度が35℃くらいまで下がったら(左の写真の右上)、瓶に2cmくらい敷き詰めては菌を振りかけて層状にします(左の写真の右下)1213jiuniangb瓶をタオルや毛布に包んで押し入れに入れておきました。この季節だと30℃くらいに保つのが難しいので、電子レンジで温める肩こり用の温パットを瓶に巻いて、半日ごとに温めます。二日目位から少しお酒っぽい匂いがし始めて、三日目に全体に菌が増えたようなので(左の写真の左下)、出来上がりということにして、水に溶いて温めてみたところ、ほぼ現地の味を再現することが出来ました(上の写真の右下)
 で、このこうじ菌の正体。調べてみるとリゾープス(別名クモノスカビ)というこうじ菌の一種みたいです。中国の老酒や韓国のマッコリ、インドネシアのテンペといったお酒を醸すのに使われるようです。お酒を作ると当局に怒られてしまいますので、
酒?の他に、こうじを作っていろいろ料理などに応用してみようかと思っています。次回の『手前味噌仕込みの会』で成果を発表できるとおもしろそうです。醗酵食品は奥が深くて楽しいです。


七草粥です

2006年01月07日 15時31分05秒 | 食と呑

 旧十二月八日。月は上弦の月です。今日は1月7日ですから、七草です。一昨日ご紹介しました七草粥、今朝作って食べました。(↓こんな感じです)
0107kayu パックの野草と小さな大根、蕪は水で洗っいます。沸騰したお湯に塩を入れてサッと湯がきます。冷水に晒して軽く絞って細かく刻みます。お粥が炊けて火を止めたところに七草を入れて軽くかき混ぜて5分ほど蒸らせば出来上がり。味は昆布一切れの出汁とお塩だけ。
 なんだか修行僧になった気分です。いつもより背筋を伸ばして頂きま
す。これで一年間病気知らず・・・、になると良いのですが。
 一昨日も書きましたが、本来は旧暦の一月七日“
人日”の節句に食べていた七草粥です。時期としては1月下旬から2月下旬頃でしょうか。南北に長い日本ですから、その時期身近に息吹く野草には随分違いがあったことでしょう。本屋さんに行ってみると「食べることができる野草」に関する図鑑のような本が結構あるようです。そんな本を片手に旧暦の七草(今年は2月4日です)にお近くを散策してみるのはいかがでしょうか。すみません。豪雪に見舞われてしまっている方は難しいですよね。でも雪国の七草粥はどのようにしていたのでしょうか。緑のある季節に摘んでおいた野草を塩漬けや、乾燥させて保存していたのでしょうか。

三浦半島で七草を栽培して出荷している農家【はねっ娘会】です。


手前味噌の蔵出しです~発酵食品万歳!

2005年10月31日 21時53分55秒 | 食と呑

 旧九月二十九日。今日で10月も終わりです。早いもので今年も残すところあとふた月。なんだか慌ただしくなってきますね。

10-31misosiru 一雨毎に寒さを増し、だいぶ秋も深まってきました。収穫の秋、この頃は根菜の類が美味しくなりますね。体を温める効果があるのでしょう。特に里芋や大根、人参、ごぼうが美味しく感じられます。毎朝のお味噌汁を彩る椀種も、葉物野菜から根菜へと自然にシフトしてきました。となると、味噌は甘みのある白味噌から熟成した赤味噌に、というのが私の好みなのです。(↑里芋と舞茸と葱。晩秋に美味しいお味噌汁です↑)
 もちろん、味噌の好みは地域性や慣れ親しんだ家庭の味によって大きく多岐に分かれるもの。皆さんはいかがでしょうか? 

10-23miso3 さて、根菜のお味噌汁が美味しくなるこの頃まで、ずっと我慢してきたことがありました。初めて仕込んだ自家製味噌の蔵出しです。(←美味しそうでしょ。と早くも自慢)
 二年前の冬、スローな友人であり師匠のYUMIさんからお裾分けして頂いた二年ものの自家製味噌。これがたまらなく美味いのです。市販の味噌ではめったにない懐かしい濃厚な香り、粒々とした手作り感がたまりません。そのYUMI師匠がご実家で味噌を仕込むというので、図々しくもその“儀式”に参加させて頂きました。で、実際にやってみるとじつにシンプルな作業なのです。これは自分でも、と早速材料と瓶を買い込んで仕込みに取りかかりました。


 瓶は愛知県半田市にある久松の常滑焼き。豆は東北産丸大豆を約1.5kg。米糀はたまたま見つけた福島県安達郡本宮町、糀和田屋の手づくり糀を1kg。塩は沖縄でポピュラーなヨネマースを600g。前日に大豆を水に浸し、本格的な仕込み作業は平成16年2月28日。まずは米糀と塩をよ~く混ぜておきます。親指と人差し指で挟んで簡単に潰れるまで大豆を煮て、文明の利器がないためマッシャーでひたすら潰します。これが重労働で、三日後に凄く筋肉痛になりました。潰した大豆に米糀と塩をよ~く混ぜ、大豆の煮汁を加えて市販の味噌くらいの柔らかさに調整します。この作業の後しばらく、手の肌がツルッツルになっていました。美肌効果が凄いのかもしれませんね。これをソフトボール大のボールにして、瓶の底めがけて投げつけ、空気が残らないようにします。あとは表面を均して、ラップで空気に触れないようにしたら重しを乗せ、蓋をして床下収納へ。2ヶ月後に一度かき回して重しをはずし、それ以来ずっと発酵、熟成を続けてきました。「あまり構わず、忘れるくらいの方がよいぞ」という師匠のアドヴァイス。あわや引っ越しの時に忘れるところでした。
 そしてほぼ一年と八ヶ月が経過。いよいよ蔵出しです。恐る恐る蓋を開けると、表面にはわずかに白カビが。でもこれ生物学上はカビではなく酵母なんだそうです。
10-23miso2苦いのでこの部分は薄くはぎ取って捨ててしまいます。(5升の瓶に約半分。6kg位かな。薄い茶色の部分も酵母のかたまりです→)
すると中からは濃厚な赤茶色で飴のように艶のある味噌が登場。完璧に味噌である。ちょっと塩辛かったかな、とか師匠の味噌より香りが少ないな、とかもう少し豆を粗く潰せばよかったかな、などと反省点はややありますが、実に美味い味噌です。これぞ「手前味噌」。不思議と誰かに味見をさせて自慢したくなるものですね。そうだっ!居酒屋寄席で自慢しようかな。迷惑?
 


日本の道具~鰹節箱

2005年09月02日 12時22分07秒 | 食と呑

旧七月二十九日。月がとても薄くなってきました。今度の日曜日は朔、新月で旧暦では八月がスタートします。処暑(8/23)~二百十日(9/1)~八朔(9/4)~二百二十日(9/11)は台風などによる自然災害が多い時期とされています。日本に限ったことではないのでしょうか、米国本土を襲ったハリケーンは過去に例のない膨大な被害をもたらしています。日本列島の遙か南海上には大きな台風14号がゆっくり北上を始めています。来週前半にやってきそうです。水不足の四国には恵みの雨となるかもしれませんが、災害にならないかと心配です。

さて、日中の残暑が厳しく、夏の疲れも出てくるこの頃。どうも食欲がわきません。こってしたものより、あっさりした和食を求めてしまいます。この春、我が家に鰹節箱がやってきました。これが大活躍しています。友人から頂いたのですが、なんでも日本に住む彼女の友人(米国人)が帰国する際に「いらない」といって置いていった物なんだそうです。よほどの日本食通ならいざしらず、米国の食生活の中で鰹節箱が活躍するとはあまり想像できません。鰹節のことを「木」だと信じて疑わない外国人が多いという話を聞いたこともあります。
今や食事の度に鰹節箱を用意して「シャッシャッ」と掻く(どうも“削る”より“掻く”という表現の方がピンとくるのです)のが習慣になってきました。冷や奴、お浸し、納豆、猫まんまにと万能です。

(↓我が家の鰹節箱。左がまもなく終了の節。右が今朝買ってきた本節)9-2katsuobushi
そういえばいつの頃からでしょうか?小分けにパックされた削り節が食卓の主流になったのは。創業305年の歴史を誇るパイオニア、にんべんのホームページ(鰹のことならなんでもわかる濃いHPです)にその答えがありました。業界に先駆けて発売したのが昭和44年(1969)で大ヒットしたのが47年(1972)とのことです。なるほど、確かにこの頃ですね、鰹節箱が静かに役目を終えたのは。他にも、お味噌汁の出汁が煮干しからダシの素になったり、めんつゆ、カップスープ、カップラーメンといったものが登場したのって、この頃かもしれません。みんな忙しくなって急ぎ始めた時代なんですね。
今でこそ削り節といえば、パックのように薄くピンク色のものですが、鰹節箱で掻くと、粉になったり黒い血合いが混ざったり、いろいろと表情豊かでした。節が小慣れてくると「シュ~ッ」という音という感触と共に、薄くて美しい削り節ができるものです。小さな幸せとでも言いましょうか「おっ!いいぞっ!」という感覚。軽く浮き浮きするのです。もちろん風味、香りは抜群。時間にしたら30秒か1分程度のこと。ぜひキッチンに鰹節箱をリバイバルさせてもらいたいです。
ところで、鰹節箱の使い方。私のは両親がやっていた手法をそのまま受け継いでいるのですが、自己流でどうも怪しいのです。節の頭を手前に、引いて掻いています。このblogを呼んで頂いている皆様はいかがでしょうか?押している派?、引いている派?ぜひ教えて下さい。
さて、我が家の鰹節も10cm程になってしまいました。
そこでひとっ走り築地に買いに行ってまいりました。9-2matsumuraいつも買いに行くのは築地市場の波除神社前にある鰹節専門店の「松村」というお店。周辺がいつも良い香りに包まれていて、いつも吸い寄せられてしまいます。ちょっとキズがあるため安くなっている本節の背中を買いました。これがだいたい800円で2か月は持ちます。うん。実にリーズナブルですね。鰹節箱も売っています。
(築地市場の鰹節専門店「松村」年季の入った木箱が並んでいます↑)

お薦めの本です。左のメニュー「良いリズムで暮らすための本です」をご覧下さい。
懐かしい台所の道具を紹介した大好きな本です。電気や水道に頼らない先人たちの生活の知恵がぎっしり詰まっています。もちろん鰹節箱も登場します。
『昭和 台所なつかし図鑑』小泉和子著 平凡社1998年