"暮らしのリズム"的できごと

先人が培った暮らしの知恵を通じて今を楽しむ【暮らしのリズム】のブログ。旧暦、落語、音楽、工芸品、食、民俗芸能などをご紹介

手拭と浴衣の本染め工場を訪ねて

2008年02月24日 23時51分14秒 | 手しごと

 旧正月十八日。昨日は日本海に低気圧、太平洋側に高気圧が位置したので、午前中から強い南風が吹いて、関東では“春一番”となりました。東京の最高気温は17℃まで上がって、日中はコートもいらないほどの暖かさ。でもそれが午後2時くらいを境に一転し、夕方は真冬の陽気に。風邪をひかないように天気予報から目が離せない季節になりました。

 昨年6月の「足立区伝統工芸展」でお話しを伺い、『本染め手拭のできるまで』というドキュメンタリーDVDを買い求め、興味を抱くと、街で見る手拭いや浴衣にどんどん惹きつけられてゆきました。問屋さんを紹介していただき、念願叶って初めての浴衣を仕立てたのが夏のことでした。是非一度染める作業を生で拝見したい、という想いが募っていたのですが、ついに実現しました。

 訪ねたのは足立区の一番北、工場の裏の綾瀬川を渡れば埼玉県八潮市という場所にある旭染工株式会社です。予め電話でお願いして工場を見学させていただきました。
解説と案内をして下さるのは二代目社長の阿部晴吉さんです。0224asahi1旭染工では伝統工法を改良して明治時代初期に考案された“注染”という技法が行われています。今回は写真を中心に、その工程を追って行きたいと思います。分割写真は左上から時計回りの流れになっています。

 工場にはシンボリックなやぐらがあって、染める前の白生地や、染め上がった反物を干しています。訪ねたのは春の嵐の午後。染め上がった浴衣や手拭いが風に舞っていました。(写真右)

 染める前の白生地、
0224asahi2小巾綿織物は“練地(ねりじ)”というお湯に浸す工程と天日乾燥を終えると“地巻(じまき)”という作業を行います。布目を真っ直ぐに均等にしてゴミや付着物を取り除きながら巻き取ってゆきます。反物は20~40メートルととても長いので工場は1階と2階を繋ぐ穴が空いています。地巻が終われば、次の“型付(かたづけ)”の工程に移ります。(写真左、右上の方が社長の阿部さん)

 “型付”または“柄付”“糊付”は型紙を枠に張って、 台の上に伸ばした白生地にへらで防染糊を塗ります。
0224asahi3この糊の付いていないところに染料が浸みてゆくのですね。一枚塗っては白生地を蛇腹状に折り返してまた塗って、という作業を白生地が終わるまで続けます。白生地の最初と最後には“捨て生地”という使い回しの生地に糊付けをします。糊はもち米や海藻などの天然素材を用いて、生地や染料の種類、柄の細かさなどによって微妙に調整しているのだそうです。型付が終わった反物は細かい砂が敷き詰めてある地面に置いておきます。

 次の工程が染色です。注染台に生地を乗せて、
調合した染料を薬缶(やかん)で注ぎ、0224asahi4  足踏みペダルでコンプレッサーを加減し台の下から減圧して吸い取ります。染料を注ぐ方向、早さ、量、吸い取るタイミングなど、ムラなく綺麗に染めるのは、職人技が必要なのだそうです。左の写真は浴衣地です。白地差分け”という染色法で2色の蝶を染め上げています。藍色の蝶は、左右の手で異なる色の染料が入った薬缶を持ち、同時に注いでグラデーションとなる“ぼかし染め”となっています(右上)。これは特に興味深い技でした、ひじょうに熟練された技が必要だそうです。

 写真右、左上は染まる部分が大きい“地染一色”。右上は日本舞踊の手拭いで、柄は「道成寺」。
0224asahi5“白地差分け”ですね。染めの次は水洗いです。井戸水を引き込んだ水洗機を使って染め上がった生地をよく洗い(右下)、糊や余分な染料を落とします。 工場のすぐ裏手にには県境の綾瀬川が流れています。昭和30年の創業当時は川で作業をしていたそうです。清らかな川に色とりどりの染め物が泳ぐ風景は、また風情があったのでしょうね。水洗が終わると乾燥し(左下は機械での乾燥)、再び地巻きしてから蛇腹に畳んでこの工場での工程はおしまいです。

 とここまでは、染め工場での工程です。一枚の手拭が出来るまでには、生地を織る職人、型を描く職人、型紙を切る職人・・・たくさんの職人の手が携わっています。大変失礼なのですが旭染工さんには思っていたよりたくさんの職人の方が作業をされていました。最近は少しブームになっているということもあって、手拭や浴衣を街で見かけることが多くなりました。いいものはお値段も張るのですが、やはりそれだけの技術と素材、手間が注ぎ込まれているものなのですね。
 「いいものを作っていても、ある時に安いものがでてくると、すぐそれに取って代わらってしまう。伝統工芸はそんな世の中になんとか追いついて行かなければならないのです」という阿部さんの言葉に重みを感じました。

◆◆注染に関するアーカイブをぜひご覧下さい◆◆
2007.7.22【佃島盆踊りと初めての浴衣】
2006.11.28【手拭いで感じる季節の移ろい】


最新の画像もっと見る