知らないこと分からないこと(下)
☆☆
いやあ、驚きました。突然コンピュータの電源が切れて、真っ青でした。すぐに対応してもらって直ったからよかった。IPUの冷却(れいきゃく)装置がどうでこうでと言ってました。
たった一日でしたが、パソコンのない時間を過ごしていろいろ考えてしまいました。
では、福島からの報告です。
1 「変な病気」?
『美味しんぼ』のこと、皆さんはどう思っていますかと聞くと、
「井戸川さんの鼻血ブー?」
レジのおばちゃんが間を置かずに、双葉の前町長を茶化(ちゃか)した。広野の野菜直販所でのことだ。もうすっかり顔を覚えてもらった私は、
「お茶やってったら」
と声をかけられ、お茶のみコーナーに座ったのだ。ご近所のお客さんも一緒に、たちまち話の輪が出来た。
「あれはね~ はっきり言って迷惑(めいわく)だわ~」
「もとに戻(もど)そうと思って一生懸命やってんのにさ」
「せっかく落ち着いたと思ってたのに」
と手厳しい。私はレジのおばちゃんが以前、ここで売っている米を、
「私達は食べないよ」
と言っていたことを思い出しながら、しかしもちろん絶対口には出さずに、
「でも、今は不安はないんですか」
と聞く。一体何が「落ち着いた」のか、確かめないわけには行かない。
ここで詳(くわ)しくは書かないが、先だって環境省が行った甲状腺ガンの「広域(こういき)調査」は、実はむちゃくちゃだ。他の三県と福島で発症(はっしょう)が同じになるように操作(そうさ)している。
放影研(放射線影響研究所)の検証した、広島・長崎の歴史的データの「低線量被曝による影響の『低さ』」を、私はバカにしてはいない。しかし、福島での甲状腺ガン発症(またはその疑い)の多さは異常と言える。
次第におばちゃんたちの空気が変わる。話を切り上げる頃合い(ころあい)だったのかもしれないが、「もうたくさん」という空気とも思えた。テーブルを囲(かこ)んでお茶とおやつの漬け物を食べながら、私は何人かのおばちゃんと話を続けた。
「確かに、双葉の人たちには変な病気があるって」
「長いこと原発のそばに住んでるとよ、そんなことがあるらしいよ」
「去年の7月、検診(けんしん)に来た関西のお医者さんが言ってたけど」
「福井って原発多いのかい? あそこにも変な病気が多いって言ってたよ」
いや、皆さんが住んでいる広野町も「双葉郡」なんですよと、私はじっと思うだけだ。この人たちの言う「双葉」は、きっと双葉町・大熊町のことを言う。そして、こんなことをどうしようもないのだろうかと、いまいましい気持ちが募(つの)る。
2 『美味しんぼ』を支持する
どうやらまた『美味しんぼ』のことに触(ふ)れないわけには行かないようだ。結局、ビッグコミックスピリッツの特集号を買った。「総合誌もかくやの充実ぶり」(斉藤美奈子)だった。そこには、
「根拠(こんきょ)のないものを振り回さないで欲しい」
に対する、
「科学的根拠はある」
議論が展開されている。私はマンガの前半を読んでないが、数値的なことで厳密(げんみつ)さを欠いた部分が、確かにあったようだ。そして、井戸川町長の「福島(全体)が住めない」発言と並ぶ、福島大学荒木田准教授の「取り返しのつかない汚れ」は、今までの『美味しんぼ』の、
「丹念な取材(しゅざい)や執筆(しっぴつ)の努力を台無しにする」
と、指摘したのは臨済宗住職の玄侑宗久氏である。ちゃんと『美味しんぼ』を読んでの発言である。一番まじめだったのではないか。みんなまじめなのだが、どれもそれぞれの立場で、
「相手の非科学性を批判する」
だけで、それほど違いを感じなかった。私も当初は、
「科学的な視点」で「不安や恐(おそ)れを持つべきだ」
と思っていた。でも、決してとれない不安は残った。なぜだろう。私は、こんな時いつも楢葉の牧場主さんの言葉を思い出す。
「国がずっと『安全/安心』って言ってきた原発が壊(こわ)れたんだよ」
「それで今度は食品100ベクレル以下は安全」
「年間被爆量20ミリシーベルト以下は安心」
「……て言われてもな……」
実はこの特集号でもうひとつ、注目した発言がある。小児科医の山田真氏である。震災後、山田氏はすぐ福島入りしていた。ところが、この山田氏の福島報告を目にした私はたまらず、疑義(ぎぎ)をこの新聞(『救援』)に申し立てた。二点である。
「福島の子どもたちは、給食で県内産の食物を食べさせられている」
「福島の人たちは、国・行政に抑(おさ)えられて放射能の不安を言えずにいる」
いわき市で頑張っている議員さんから、給食の食材については、
「遠方、最低でも『県外』のものを使ってもらっている」(2011年当時)
という発言を私は確認していた。だから一点目は、
「『福島』の給食とは、一体どこを指(さ)しているのか」
であった。
2011年の夏、私達ボランティア仲間が中通り(福島市・郡山市など)で活動した時、口々に言っていたことがある。彼らが道々、放射線量を測(はか)っていると、
「おい、なにやってんだ!」
こう言ってとがめたのは、役人でも警察でもなかった。これらは住民による『摘発(てきはつ』だった。
「国から言われて不安を言わないのではない」
が、二点目だった。
特集号によれば、山田氏のかつての見解は、どうもだんだん「修正」されたらしい。山田氏はもちろん、健康調査や安心な避難先での生活という点で、国の姿勢を批判している。そしてこう言う。
「『美味しんぼ』では、福島の方々の避難を求めているようです」
これは、かつての山田氏の見解にほかならない。しかし、これが避難している人々の健康相談をしているうちに変わったという。「様々な事情で避難できない人」に、
「『ここにいるのは危険だから逃げなさい』と言ってもむなしいのです」
と言うのだ。
山田氏と玄侑氏に、共通のものを見た私である。
最後に誤解のないようにことわるが、私は『美味しんぼ』を支持する。そのことにどんな変化もない。
続報(ぞくほう)によれば、福島大の荒木田氏は、
「自分の発言はマンガに載(の)せないという確認だったが、それが無視された」
と抗議し、小学館もそれを認めたとある。本当だろうか。「仕方のない取引」がされた、としか思えない。
☆☆
もっといただけないのは、山岡と雄山の「和解」です。今回の特集号でとうとう和解しちまいました。いやあ、もう『美味しんぼ』はおしまいだ、と思うのは私だけですかねえ。
☆☆
マー君、また勝ちましたね。またまたですが、すごいとしか言えない。
「どうして自分はこんなにダメなんだろう」
って思う気持ちがすごいんですねえ。
☆☆
新たに新刊本の書評が出ました。以前、一緒に本を作った(『学校幻想をめぐって』)岡崎勝氏が主宰(しゅさい)する雑誌、『おそいはやい』79号(5月25日)です。
いつもすっきりと私の本を評してくれます。今回の評も、
「子どもとまともにつきあうことを諦(あきら)めていない人の必読書」
としめる内容は、勢いがあって嬉しいです。
え~と、ついでにここでまた宣伝。
まだの方、ぜひ読んでくださいね。
☆☆
いやあ、驚きました。突然コンピュータの電源が切れて、真っ青でした。すぐに対応してもらって直ったからよかった。IPUの冷却(れいきゃく)装置がどうでこうでと言ってました。
たった一日でしたが、パソコンのない時間を過ごしていろいろ考えてしまいました。
では、福島からの報告です。
1 「変な病気」?
『美味しんぼ』のこと、皆さんはどう思っていますかと聞くと、
「井戸川さんの鼻血ブー?」
レジのおばちゃんが間を置かずに、双葉の前町長を茶化(ちゃか)した。広野の野菜直販所でのことだ。もうすっかり顔を覚えてもらった私は、
「お茶やってったら」
と声をかけられ、お茶のみコーナーに座ったのだ。ご近所のお客さんも一緒に、たちまち話の輪が出来た。
「あれはね~ はっきり言って迷惑(めいわく)だわ~」
「もとに戻(もど)そうと思って一生懸命やってんのにさ」
「せっかく落ち着いたと思ってたのに」
と手厳しい。私はレジのおばちゃんが以前、ここで売っている米を、
「私達は食べないよ」
と言っていたことを思い出しながら、しかしもちろん絶対口には出さずに、
「でも、今は不安はないんですか」
と聞く。一体何が「落ち着いた」のか、確かめないわけには行かない。
ここで詳(くわ)しくは書かないが、先だって環境省が行った甲状腺ガンの「広域(こういき)調査」は、実はむちゃくちゃだ。他の三県と福島で発症(はっしょう)が同じになるように操作(そうさ)している。
放影研(放射線影響研究所)の検証した、広島・長崎の歴史的データの「低線量被曝による影響の『低さ』」を、私はバカにしてはいない。しかし、福島での甲状腺ガン発症(またはその疑い)の多さは異常と言える。
次第におばちゃんたちの空気が変わる。話を切り上げる頃合い(ころあい)だったのかもしれないが、「もうたくさん」という空気とも思えた。テーブルを囲(かこ)んでお茶とおやつの漬け物を食べながら、私は何人かのおばちゃんと話を続けた。
「確かに、双葉の人たちには変な病気があるって」
「長いこと原発のそばに住んでるとよ、そんなことがあるらしいよ」
「去年の7月、検診(けんしん)に来た関西のお医者さんが言ってたけど」
「福井って原発多いのかい? あそこにも変な病気が多いって言ってたよ」
いや、皆さんが住んでいる広野町も「双葉郡」なんですよと、私はじっと思うだけだ。この人たちの言う「双葉」は、きっと双葉町・大熊町のことを言う。そして、こんなことをどうしようもないのだろうかと、いまいましい気持ちが募(つの)る。
2 『美味しんぼ』を支持する
どうやらまた『美味しんぼ』のことに触(ふ)れないわけには行かないようだ。結局、ビッグコミックスピリッツの特集号を買った。「総合誌もかくやの充実ぶり」(斉藤美奈子)だった。そこには、
「根拠(こんきょ)のないものを振り回さないで欲しい」
に対する、
「科学的根拠はある」
議論が展開されている。私はマンガの前半を読んでないが、数値的なことで厳密(げんみつ)さを欠いた部分が、確かにあったようだ。そして、井戸川町長の「福島(全体)が住めない」発言と並ぶ、福島大学荒木田准教授の「取り返しのつかない汚れ」は、今までの『美味しんぼ』の、
「丹念な取材(しゅざい)や執筆(しっぴつ)の努力を台無しにする」
と、指摘したのは臨済宗住職の玄侑宗久氏である。ちゃんと『美味しんぼ』を読んでの発言である。一番まじめだったのではないか。みんなまじめなのだが、どれもそれぞれの立場で、
「相手の非科学性を批判する」
だけで、それほど違いを感じなかった。私も当初は、
「科学的な視点」で「不安や恐(おそ)れを持つべきだ」
と思っていた。でも、決してとれない不安は残った。なぜだろう。私は、こんな時いつも楢葉の牧場主さんの言葉を思い出す。
「国がずっと『安全/安心』って言ってきた原発が壊(こわ)れたんだよ」
「それで今度は食品100ベクレル以下は安全」
「年間被爆量20ミリシーベルト以下は安心」
「……て言われてもな……」
実はこの特集号でもうひとつ、注目した発言がある。小児科医の山田真氏である。震災後、山田氏はすぐ福島入りしていた。ところが、この山田氏の福島報告を目にした私はたまらず、疑義(ぎぎ)をこの新聞(『救援』)に申し立てた。二点である。
「福島の子どもたちは、給食で県内産の食物を食べさせられている」
「福島の人たちは、国・行政に抑(おさ)えられて放射能の不安を言えずにいる」
いわき市で頑張っている議員さんから、給食の食材については、
「遠方、最低でも『県外』のものを使ってもらっている」(2011年当時)
という発言を私は確認していた。だから一点目は、
「『福島』の給食とは、一体どこを指(さ)しているのか」
であった。
2011年の夏、私達ボランティア仲間が中通り(福島市・郡山市など)で活動した時、口々に言っていたことがある。彼らが道々、放射線量を測(はか)っていると、
「おい、なにやってんだ!」
こう言ってとがめたのは、役人でも警察でもなかった。これらは住民による『摘発(てきはつ』だった。
「国から言われて不安を言わないのではない」
が、二点目だった。
特集号によれば、山田氏のかつての見解は、どうもだんだん「修正」されたらしい。山田氏はもちろん、健康調査や安心な避難先での生活という点で、国の姿勢を批判している。そしてこう言う。
「『美味しんぼ』では、福島の方々の避難を求めているようです」
これは、かつての山田氏の見解にほかならない。しかし、これが避難している人々の健康相談をしているうちに変わったという。「様々な事情で避難できない人」に、
「『ここにいるのは危険だから逃げなさい』と言ってもむなしいのです」
と言うのだ。
山田氏と玄侑氏に、共通のものを見た私である。
最後に誤解のないようにことわるが、私は『美味しんぼ』を支持する。そのことにどんな変化もない。
続報(ぞくほう)によれば、福島大の荒木田氏は、
「自分の発言はマンガに載(の)せないという確認だったが、それが無視された」
と抗議し、小学館もそれを認めたとある。本当だろうか。「仕方のない取引」がされた、としか思えない。
☆☆
もっといただけないのは、山岡と雄山の「和解」です。今回の特集号でとうとう和解しちまいました。いやあ、もう『美味しんぼ』はおしまいだ、と思うのは私だけですかねえ。
☆☆
マー君、また勝ちましたね。またまたですが、すごいとしか言えない。
「どうして自分はこんなにダメなんだろう」
って思う気持ちがすごいんですねえ。
☆☆
新たに新刊本の書評が出ました。以前、一緒に本を作った(『学校幻想をめぐって』)岡崎勝氏が主宰(しゅさい)する雑誌、『おそいはやい』79号(5月25日)です。
いつもすっきりと私の本を評してくれます。今回の評も、
「子どもとまともにつきあうことを諦(あきら)めていない人の必読書」
としめる内容は、勢いがあって嬉しいです。
え~と、ついでにここでまた宣伝。
まだの方、ぜひ読んでくださいね。
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