実戦教師塾・琴寄政人の〈場所〉

震災と原発で大揺れの日本、私たちにとって不動の場所とは何か

田中原子力規制前委員長 実戦教師塾通信六百六十二号

2019-07-26 11:54:25 | 福島からの報告
 田中原子力規制前委員長
     ~いくつかの驚き~


 ☆初めに☆
いわきから福島市まで、磐越(ばんえつ)道路は激しい雨でした。でも、福島駅前についた頃には小降りとなっていて、駅前から歩いて五分の会場「コラッセふくしま」までは傘もささずに行けました。

一階のフロアは、県内産品の展示と販売場になっています。居並ぶ日本酒に、思わず喜びの声を出してしまいます。

 1 田中俊一原子力規制委員会・前委員長
 前から話を聞きたいと思っていた。出来れば話したいとも思っていた。
「福島で話を聞いて来るから、何か聞きたいことはある?」
私は、楢葉の渡部さんにそう言ったが、私にも聞きたいことがあった。残念ながらかなわなかったが。
 前にも言ったが、私が田中原子力規制前委員長(以下「前委員長」と表記)を評価するのは、原発の新規制基準のクリア宣言をする時、
「安全とは申し上げない」
と必ず言って来たことだ。このことを「無責任だ」と反発人たちがいるのだが、私にはさっぱり理解できない。「新規制基準をクリアすること」と「安全」は別なことだ。それを宣言するのがどれだけ大変なのことなのか、私も少しは分かるつもりだ。このことに関して前委員長を批判する人たちは、この「安全とは……」発言をたてに、
「原発はどうやっても安全じゃないんだよ」
と主張することが出来るのに、といつも思う。
 前委員長の自宅は茨城の日立太田だそうだ。でも、飯舘村に古民家を買って週の半分をそこで暮らし、住民とともに福島の未来を模索しているという。

 この日、会場コラッセふくしまの大会議室・定員250人は大入り満員、私は一番前の席をキープできた。写真の撮影は禁止なので、スナップはこれだけ。

 2 低線量被曝
 放射性セシウムの地球上で初めての拡散は、1945年の広島・長崎での核爆弾使用である。それ以前の地球には存在しなかった物質だ。カリウムやラドンなども放射性物質だが、地球上にずっと前からあったものと一緒には出来ない。それで私たちは常に慎重になるのである。このセシウムを外から浴びる外部被曝ではなく、食事などで身体の内側に取り込む「内部被曝」の話。
 2012年の春、それまで一般食品の規制値500ベクレルだったものを、厚生労働省は100ベクレルに変更する。まったく科学的根拠のない数字だった。これによって当時の民主党政権が、人々の「安心」を買おうとしたというのは、私の推測である。一方、放射性物質研究者の間では、セシウムが危険と考える値の「高い」傾向がある。前委員長も同様である。とてつもない被曝を日常的にしている航空パイロットとか、原子力関係の仕事に従事しているものの例をあげながら、
「そんなに大騒ぎすることではない」
と説明する。2012年の南相馬世界会議でご一緒した、東大アイソトープ研究所の児玉龍彦先生もそう言う。
「輸入食品やタバコの方がよっぽど危ない」
とも言う。しかしこの両者の言い方には、微妙な差が生じている気がしている。児玉先生に関しては、低線量なら大丈夫(アメリカのオークリッジ研究所など)なのではなく、害が生じる確率が下がるだけである、という。
 前委員長の端的な物言いは、福島の人たちが不安を払拭して欲しいという思いから出ているのだろうか。

 2 「中間貯蔵施設」
 一番の驚きは、第一原発立地点に作られつつある「中間貯蔵施設」に関する言及だった。
「中間貯蔵施設を本気で『中間』と信じている県民がどれほどいるのか」(2019,7,18『東京新聞』)
とは、福島の立憲民主党県連が今年の5月末日、国に提出した要望書の中にあるものだ。国が帰還困難地域を買い取るのは、それを最終処分地にしようという考えがあるからだという。ただ、この中間貯蔵施設なるものの設置を決めたのは、8年前の民主党政権なのだ。我々立憲民主党は民主党とは違うと言うのだろうが。
 さて、前委員長もこれと同じことを言った。満員の会場に向かって、
「セシウムが半減した廃棄物を受け入れてくれる地域があると思いますか」
あるはずがないですよ、ときっぱり言うのだ。宮城県加美町、栃木県塩谷町が候補地を拒絶したのは記憶に新しい。
 なみいる福島の県民を前に公言したのだ。こんなこと誰も言わないし言えない。
 先日、前委員長が議員会館で講演の依頼を受け、話した相手は立憲民主党だったという。
「あんたたちが作った法律なんだ、撤回しなさい」
中間貯蔵施設のことだ。そう言ったけど皆さん黙ってるんだよ、と前委員長は続けるのだった。
 これを先の低線量の被曝に「大騒ぎするもんじゃない」とあわせて考える時、前委員長は国の手先だと糾弾(きゅうだん)することも出来る。しかし、地元に戻って頑張ろうと考える人には、これが新しい指針となるのかも知れない。
「『帰って来てください』と、簡単には言えない現実があるんです」
これも前委員長の言葉だった。

 トリチウムというやっかいな物質が汚染水のタンクに満たされ、海洋に流すかどうか議論が続いている。ところが、関西電力下の原発では、トリチウムが以前から海に流されているという。これも前委員長の口から出た驚きの話。
 何も知らない知らされていない、そしてもっと知らないといけない、調べないといけない、改めてそう思った講演会だった。



 ☆後記☆
暑いですね。今夜には南の海上にある熱帯低気圧が台風になるんだとか。明日に控えた隅田川などの花火大会がどうなることか。
さて、夏は売り上げが目に見えて落ちるというコーヒー店、そんなお店にエールを送ろうかと。

私のご贔屓(ひいき)『豆壱(まめいち)』のポストカードです。「柏の名店」なんて「とんでもない」というマスターなので、「隠れた名店」としましょう。小さな店の持ち味というか、新しい豆はまさに小まめに品がわり。美味しい淹れ方も、親切に教えてくれます。この間はティーサーバーでの美味しい淹れ方も伝授されました。
「コーヒー苦手だけどチャレンジしようかと」
いう若い女の子に、だったらガテマラから始めるといいです、などというアドバイスが店の奥から聞こえてきます。
となりはこれも小さいんですが、そば屋。店の佇(たたず)まいもごく普通なんですが、お客さんは知っている。お昼時はいつも満席で、神奈川や東京からも食べに来る。のど越しが浅草の「尾張屋」を思わせます。
私はいつもお昼のそばを食べてから、『豆壱』に向かうのです。
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W・I・Uの動画、公開されました。今回のテーマ「校則」は30分です。よかったら見てください。