千の天使がバスケットボールする

クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録  TB&コメントにも☆

『12人の優しい日本人』

2008-07-10 23:20:59 | Movie
あなたは、人を裁けますか?
「平成16年5月21日「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」が,成立し,平成21年5月21日から裁判員制度が実施されます。
裁判員制度とは,国民のみなさんに裁判員として刑事裁判に参加してもらい,被告人が有罪かどうか,有罪の場合どのような刑にするかを裁判官と一緒に決めてもらう制度です。
 国民のみなさんが刑事裁判に参加することにより,裁判が身近で分かりやすいものとなり,司法に対する国民のみなさんの信頼の向上につながることが期待されています。国民が裁判に参加する制度は,アメリカ,イギリス,フランス,ドイツ,イタリア等でも行われています。」―最高裁判所のHPより

****************************************

もうじきはじまる裁判員制度。その裁判制度がスタートする18年前に「東京サンシャインボーイズ」による戯曲を映画化したのが、本作品である。日本にも陪審員制度(裁判員制度ではない)があったなら、という仮定に基づく法廷劇である。勿論、脚本があの三谷幸喜氏だから、『12人の怒れる男』で理想を描いた本家本元のような自由と民主主義の勝利を詠うパワフルな正義感溢れる映画、なわけがない!

事件の被告人は、若くてなかなかきれいだがどうも男運がないらしいヤンママ。被害者は、彼女の元ダンナ。偶発事故による交通事故なのか、それとも計画的な殺人事件なのか。無作為に選ばれた日本国籍で選挙権を有する健康な成人が12人、陪審員として一室に集められた。陪審委員長を務めるのは、陪審員1号、40歳の体育教師。(でも、女子高だから、妻は元教え子だろうか。)いかにもそれらしき髪型にブレザーを着て、日に焼けた肌に精悍な顔立ちに体格もよし。そして28歳の黒ぶちめがねのサラリーマンの2号、49歳の喫茶店店主から30歳のスーパー課長補佐まで、それぞれ勝ってなことをすき放題に言い放題。有罪か無罪か。激論、無関心、日和見主義、無責任、適当、同情、敵対心、被害者に対するもてない男の嫉妬、リーダー争いや逃亡を企てるものもあり、それぞれの感情がおさえようもなく、人格がかくしようもなくあらわれていく。会議は踊るというよりも乱闘もようの混戦状態。果たして、全員の総意が一致する合理的な結論はでるのか。。。

本作品は、優れた脚本とリアルな演技力、個性的な役者たちのキャラクターの勝利である。決して、民主主義の勝利、なんて間違っても勘違いしてはいけない。12人が全員、いるいるこういうヒト!という平凡で市井に生きる日本人の典型的なカオを演じているのである。61歳の元信用金庫職員の4号・・・ネクタイのかわり温泉のおみやげのようなループタイにめがね、ズボンのベルトの位置はちょい高め、かと思えば、体にあった軽めのスーツに趣味のよいアスコットタイをしめて理路整然と話す、気取った感じの51歳の歯科医の陪審員9号、甘いしゃべり方をして花柄ふんわりワンピースに大きな麦わら帽子のちょい太めの女性は音大でピアノを弾いていた団地妻・・・。職業とバックグランドが、個人を形成していくのか、或いは個人が職業を選択し、バックグランドを背負っていくのか。ここで私が感じた典型的のステレオ・タイプの日本人だからこそ、観客の共感性と笑いをすくいとる本になりうると考える。クリーニング屋を営む50歳の女性が、エルメスのバッグをもって被告人が無罪となる論理的根拠を堂々と論じて説得できたら、映画は失敗におわるだろう。トヨエツ演じる眉が細いサングラスの人物が最初は弁護士と偽って、その意外性が物語の中核となっていくのだが、結局、本当は役者だったという設定もお約束どおり。舞台人らしい、カタチからはいる演技に最初は慣れないが、気がつけば大笑い。うまい!さらに、みんなの共感性をつき、なんといっても巧みな人物描写をセリフにしたためた三谷氏は、誰よりも冷静な陪審委員長なのだ。

そして、結局、議論はつくされた。その結論が正しいかどうかはわからないが、あなたは人を裁けるだろうか。そして、米国のような陪審員制度ではなく、日本は裁判員制度を採択したのだから、有罪か無罪かだけでなく、量刑まで決めることができるのだろうか。
劇中で、「12人の民意は、ひとりの裁判官より優る」という会話があったのだが・・・。