千の天使がバスケットボールする

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娘と母の関係 母と娘の関係

2005-05-06 23:31:40 | Classic
もうすぐ母の日らしい。”らしい”というのは、このテのイベントには疎いからだ。親不孝ものとも言われているかもしれないが、母上すまん・・・。

ところで母という優しくおおらかでありながら、凛とした厳しさをももつこの言葉の響きにある女性向けファッション雑誌に掲載されていた母と娘の物語を少々長いが紹介したい。
登場人物は、バイオリニスト千住真理子さんとお母さまの文子さんである。

千住真理子さんは、女性音楽家が一般的に年齢をあきらかにしない例にならっていて公表されていないが、12歳でデビューして今年30周年、明日サントリーホールで記念演奏会を開催する近年益々ご活躍されているバイオリニスト。(バイオリニストとしての音楽性についてはコメントを控えるが、楽器は勿論ストラディバリウスを使用されている)
真理子さんはお父様がK大学名誉教授、お母さまは専業主婦、ご長男が後の日本画家の千住博、次男が作曲家の明さんの一家の末っ子に生まれ2歳3ヶ月でバイオリンをはじめる。習い事だったバイオリンだったが、小学校5年生で学生コンクールでの優勝が転機となり母とともに二人三脚の音楽家への人生がはじまるのである。
「母は私の人生を大きく大きく変え、形造った人。ひと言では語れない存在」

それから江藤俊哉先生の門下生になり、お母さまが週2回自宅である横浜、学校のある三田、先生宅の小平まで車で移動する日がはじまる。車の中で真理子さんは、宿題・食事・譜読みをこなすのは、優雅にきこえるが実は時間がないためである。(バイオリンは、はじめる年齢が早いほど曲の難易度に比較して譜読みなどがついていかなかったり、楽器の持ち方、姿勢のチェックなどもあるため、けっこう高学年になるまで母子ともにお稽古に通うのが一般的である。結婚される前は化学を勉強されていたという文子さんの家庭でのおけいこ指導は、合理的でシステム化させているのに感心した記憶がある。ここに二人三脚という表現のもつ真理子さんの幸運と悩みも理解できる。諏訪内晶子さんをはじめ、多くのバイオリニストを世に輩出した江藤さんに師事するために、それまでお世話になったS先生とお別れするときに、別れを寂しがる先生に土下座をしてお願いしたという一途な方でもある。)
「母は純粋ゆえに要求することが厳しい。バイオリンにしても思いどおりに弾けなかったり、怠けると厳しい空気に変わり、窒息しそう。あまりにも母の存在が大きく、殻に閉じこもらないと自分を守れないと感じるときもあった」

ところが真理子さんが17歳になりボーイフレンドができ、ふたりの関係が大きくかわる時がくる。
そのボーイ・フレンドとの交換日記の最後のページに、こんなことはやめなさいというお母さまの書き込みがあり、相手の男の子に10数枚の手紙をだして勉強やら人間とは、などと説教したのだから彼女が怒るのは当然だ。しかも男の子のお母さままで呼び出したそうだ。
お母さまにしてみれば、江藤先生の厳しいレッスンを受けていて、音楽家になるためにも微妙な時期、家中のみんなが犠牲をはらっているときにとこんなことではこの道に進む資格がないという、一生懸命でまさに純粋な気持ちだったが、真理子さんは女性として、どう生きるか悩みはじめる。

それからほどなく、真理子さんは母とともにバイオリンをやってきたという自負が、コンプレックスになり、2年ほど音楽から遠ざかるようになってしまった。

「バイオリンの存在が精神的に近づいてきて、音楽がどういうものか、見えていなかった核の部分が見えてきた」
しかし深い愛情あっての母の厳しさにも気がついてゆき、その後、再びバイオリンを手にしてからの彼女にもう迷いはない。

そして現在の真理子さんは、孤高のバイオリニストのような痛々しさを感じるときもあるが、その演奏活動は音楽と楽しむというよりも、常に真摯に音楽という芸術のはるかなやまに対峙しているようにも見える。(確かに芸術としての音楽に、厳しいものがあるのは事実だ)

千住真理子さんと彼女のお母さまの関係は、世間一般の母と娘の関係から比較すると、かなりかけ離れているかもしれない。しかし決して特殊な例とは思えない。美智子皇后がかって嫁ぐとき、お母さまが娘は自分の作品であるとおっしゃたというエピソードと根本は同じである。女性の社会進出が遅れているという日本の現状もあとおししているのかもしれないが、娘を育てることに人生の20年近くを情熱とエネルギーで走る母親は、今でも多いと思う。それが娘にとって、また母にとって、望ましいことなのか、幸福なことなのか、それはわからないが。
生物の世界でも、細胞分裂する前の細胞を”母細胞”、分裂後を”娘細胞”と呼ぶ。母と娘の関係は中学受験をめざして送迎、勉強をみる父と息子以上の、遺伝子のなせる強い絆なのである。

「いちばんわかってくれる人が母。結婚は両立できないのでバイオリンをとったことは、母も理解している」
そう応える真理子さんに、純粋で潔癖だというお母さまの理念がしっかりすりこまれているとも、私には感じる。