【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

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高瀬正仁『高木貞治-近代日本数学の父』岩波新書、2010年

2012-11-18 18:22:24 | 自然科学/数学

       

 本書は,
1900-50年にかけて,日本の数学発展に貢献した高木貞治(1875-1960)の没後50年を記念して書かれている。高木貞治は,代数的整数論とりわけ類体論の権威。


 類体論(るいたいろん,
class field theory)の名前の由来は,1930年ごろに考案されたヒルベルトの「類体」による
 *「類体」の用語を始めて使ったのはハインリッヒ・ウェーバーで,彼は「楕円関数の虚数乗法により供給されるある特別な相対アーベル数体をとりあげ,それを『類体』とした[本書140ページ]」。

 高木貞治の学問業績とその背景を、本書によりながら簡単に紹介したい。

 パリで開催された第2回国際数学者会議(1900)でヒルベルトが示した数学上の未解決の23の問題のうち、9問題「任意の数体における一般相互法則の証明」と第12問題「アーベル体に関するクロネッカーの定理の,任意の代数的有理域への拡張」を解いたのが高木貞治である。

 
高木は上記の2つの数学上の難問を解いたが、後者については1901年に書かれたガウス数体の虚数乗法論に関する論文(「複素有理数域におけるアーベル数体について[学位論文])で部分的に解決,さらに1920年に書かれた「相対アーベル数体の理論」「任意の代数的数体における相互法則」で最終的な結論を出した。
さらに同年9月シュトラスブルクで開催された第6回世界数学者会議で発表した(153-154ページ)。

  本書は,高木の出生(岐阜県大野郡数屋村)から,三高,東京帝大を経て,近代日本の数学が確立されるまでにいたった経緯を,研究経歴,研究活動と研究仲間との親交をたどりながら,その学問的貢献とともに解説したものである。(巻末に年譜があります)

 高木の貢献を数学的に解説した個所を理解するのは難しいが,全体的な流れをつかむことが大切。数学に特化した本でなく,多くのエピソードをまじえて読みものとして構成されていることは,以下の章建てをみるとわかる。


 ・序章:故郷を訪ねて
 ・第一章:金栗初めて開く-岐阜から京都へ
  
(1)一色小学校
  
(2)二つの生誕日
  
(3)岐阜中学校から三高へ
  
(4)近代日本数学の源流-金沢の関口開」
 ・第二章:二人の師:河合十太郎と藤澤利喜太郎
  
(1)第三高等中学校
  
(2)初代数学教授菊池大麓
  
(3)帝国大学の数学講義
  (
4) 藤澤利喜太郎の洋行
  ・第三章:自由な読書にふける-数論の海へ
  
(1)藤澤セミナリー
  
(2)アーベル方程式をめぐって
  
(3)洋行ベルリンへ
 ・第四章:後るること正に
50年-類体論の建設
  
(1)ゲッチンゲンへ
  
(2)類体論への道
  
(3)世界大戦をはさんで
 ・第五章:日本人の独創性-高木貞治の遺産
  
(1)『解析概論』の誕生
  
(2)ヒルベルトとの再会
  
(3)過渡期の数学
  
(4)晩年の日々
 ・終章:高木貞治と岡潔

 
 「高校生向けに」と称してコラムが設けられ,「二次方程式と複素数」「平方剰余の相互法則」「レムニスケート関数」「アーベル方程式」「アーベル数体と代数的整数論」などの説明がある。
 

 著者の高瀬正仁氏は専攻が多変数函数論で,現在九州大学大学院数理研究院準教授。


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