本書を通読して印象に残ったのは、自然科学の対象が自然であるが、別の観点からみれば人間も自然の一部であり、そうであるならば自然科学によるる自然認識は自然の自己認識に他ならないという考え方です(自然自体の自己反映活動)。このコンセプトが全体の基調にありますが、実際の叙述はもっと具体的です。
概要は以下のとおりです。
自然科学の論理と方法にはそれを生み出した文明の基礎にある自然観の反映がある。また、逆に新たな科学の発展が自然観の転換をもたらしてきた。自然科学の在り方と自然観は双方向的である。
とりあげられている自然観は、①数学的自然観、②原子論的自然観、③機械論的自然観(デカルトが提唱)、④力学的自然観(ニュートン力学)、⑤階層的自然観(物質と力)、⑥進化論的自然観、⑦量子論的自然観である。
17世紀以降の近代科学の成立までには、アリストテレスの目的論的自然観が支配的であった。後者にとってかわった近代自然科学の特徴はその成立期から成熟期まで「絶対化」の論理、すなわち近代科学の理論体系が絶対的時間・空間、不変実体の原子・元素、絶対的空虚で不動の真空、および絶対的自然法則、因果律に基づく必然的決定論などといった絶対的概念で構築されていた。
これに対し、20世紀以降の相対性理論と量子論に象徴される自然科学は相対概念に重きが移り、この相対化の論理とは個別的に分離把握されていた絶対概念(時間、空間、物質)を変化と相互連関のうちに捉え直すという認識の方法である。
この科学の認識革命、概念転換によって自然観の転換も引き起こされ、現代科学の自然観の柱は、階層的自然観(原子論的自然観に対置)、進化論的自然観(機械論的自然観に対置)、数学的自然観である。また、ミクロ世界の運動を支配する普遍的理論である量子力学の成立は、それまでの自然認識を根底から覆すものであり、現代科学の共通の基盤になっている。
本書ではこうした自然観の変遷の様が、物理学の進歩・発展をたどりながら解説されています。古代ギリシャの科学者、哲学者(アリストテレス、プラトン、パルメニデス、ピュタゴラス)から始まって、ニュートン、デカルト、ケプラー、オイラー、ベルヌーイ、マックスウェル。マイケルソン、モーレイ、アインシュタイン、ボイル。ホイヘンス、ノイマン、ゲーデル、ハイゼンベルグ、ド・ブロイなど有名な科学者の業績が丁寧に(したがって、門外漢には難しいところが多々ある)紹介されています。
自然の無限の奥深さ、自然科学のそれが実感できる好著です。
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