【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

金子勝/アンドリュー・デーウィット『世界金融危機』岩波ブックレット

2008-11-29 00:17:38 | 経済/経営
金子勝/アンドリュー・デウィット『世界金融危機』岩波ブックレット、2008年
     
 著者のひとりであるデウィットさんにいただきました。
                         金子勝/アンドリュー・デウィット 世界金融危機 岩波ブックレット740
 サブプライム問題以来、顕在化したグローバル同時不況の全貌と将来予測を豊富な資料と分析によって明らかにした本です。

 著者は本書の目的を「(世界同時不況の)メカニズムを解明すること」とし、「まずこの金融危機の根源は、証券化という手法と『影の銀行システム』の崩壊にある。つぎに、信用収縮と景気減速の悪循環のプロセスが金融危機を進行させていく。さらに、この金融危機が深刻なのは、地球温暖化に伴うエネルギー政策の波が重なっていることにある」(p.2)と述べています。

 今回の一連の危機は「津波」に例えられています。最初の「津波」は2006年の米国の住宅バブル崩壊。キーワードは「影の銀行システム」です。これは投資ビークルやファンドで債券取引などの資産を運用すれために銀行が設立した特別目的会社からなるシステムであり、これらは取引所を介さない相対(あいたい)の店頭デリヴァティブ取引を行いますが、FRB(連邦準備理事会)やSEC(証券取引委員会)の監督規制が及ばないゾーンであることがポイントです。

 「影の銀行システム」の最大の問題点は損失を確定できないこと、したがって危機の構造が見えにくく、ある日突然、金融商品のカタストロフィー(値崩れ)が生じ、システムの崩壊に落着することが起こりうるのです(起こったのです)。

 次の「津波」も予見されています。住宅価格の下落、デフォルトの割合の増加による住宅関連証券およびモノラインの格下げを引き金とする住宅関連証券の評価損、信用収縮の結果である企業倒産、さらに資源と食糧のインフレなど、「津波」の予兆をあげるには事欠きません。

 信用収縮と実体経済の悪化の悪循環のゆえに、住宅ローンのみでなく、商業用不動産ローン、消費者ローン、自動車ローン、企業融資が焦げ付き始め、危機の加速化による「津波」のエネルギーが蓄積されています。

 米国型金融資本主義と市場原理主義者がもたらした今回の危機は、まさに世界を壊すところまできているのです。

 著者はこうした状況を嘆いたり、切歯扼腕しているだけではなく、「おわりに-脱出口を見失った日本-」(pp.66-71)では、雇用、年金・医療などの社会保障の立て直し、将来につながる産業政策、すなわち大胆な自然再生エネルギーへの転換や食糧自給率を高める農業支援、東アジアレベルでの通貨や貿易の連携の強化が提唱されています。心強いですね。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿