【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

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水田珠枝『女性解放思想の歩み』岩波新書、1973年

2013-08-21 22:16:39 | 科学論/哲学/思想/宗教

           

  ルネサンスから現代までの女性解放思想の歴史をあとづけた試論。試論といっても、かなり本格的である。


  著者の視点は、自身が語っているように、女性問題を労働と性の矛盾の問題、そしてその矛盾を固定し、制度化した家族制度と、それにささえられた階級社会の問題としてとらえたことにある(p.204)。

  本書を通読してわかったこと、再確認したことは、この分野の研究がまだまだ貧しいこと、未開拓分野がたくさんあること、女性の人類史上における従属的地位の根源は、家父長的封建制度にあること、あるいは家族制度にあること、これらは歴史のなかで微妙に形をかえながらも一貫して存在していて、そこにメスをいれないと女性解放の問題、生活資料tの生産と生命の生産との矛盾は根本的に解決しないこと、過去に起こった女性解放運動は断片的で、継続性がなく、それゆえに根本的な変革につながらなかったこと、人間の平等をめざした思想(例えば、ルネサンス、フランス革命、社会主義)の担い手も女性に対しては不当に現状を是認する考え方、女性をおとしめる考え方から自由でなかったこと(ルソー、プルードンなど)、女性解放運動は具体的には参政権運動、売春禁止運動などで展開されたが、それが対象とする分野は広く、民法上の諸権利の要求、教育の機会均等の要求、母性保護の要求、性の自由の要求、労働に関する要求など、非常に広範であり、このことが意味することは、女性解放に関しては現在にいたるも問題はほとんど何も解決していないこと」などである。

  わたしは、この関連分野の古典は、エンゲルス「家族・私有財産・国家の起源」(1884年)、ベーベル「女性と社会主義」(1879年)、シモーヌ・ドゥ・ボーボワール「第二の性」(1949年)くらいしか知らなかったが、この本で紹介されている古典の豊富さに驚いた。ルソー批判のウルストンクラフト「女性の権利の擁護」(1792年)、ヴィオラ・クライン「女性-イデオロギーの歴史」(1946年)、ペティ・フリータン「女性の神秘」(1963年)、ファイアストーン「性の弁証法」(1971年)、グールストレム編「男性と女性の変化する役割」(1962年)、イーヴァ・フィグズ「家父長的態度」(1970年)、ジャーメイン・グリア「去勢された女性」(1970年)、シーラ・ローボサム「女性、抵抗および革命」(1972年)、ジュリエット・ミッチエル「女性の地位」(1971年)などの内容を知ることができ(この他、マリ・ドゥ・ジャル・ドゥ・グルネ、フランソワ・プーラン・ドゥ・ラ・バール、フェヌロン、メアリ・アステルなどの16、17世紀の古典の紹介も豊富)、著者には感謝したい。

  これらの本の紹介は、ルネサンス、宗教改革、市民革命、産業革命、資本主義の発展、ロシア革命、ファシズム、そして現代までの歴史と関連させながらなされているので、わかりやすく、説得である。岩波新書のなかでも名著に属すると思われる。


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