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未曾有の困難に直面し、混迷を深める現代社会、人間はこの現状のもとでどのように生きなければならないのか。この難しい哲学的な問題に正面から対峙し、問題の所在を解明(解剖)し、未来への展望を指示した本です。著者からの献本です。
当然、取り扱われる問題は広範です。人間とはそもそも何なのか、生きることの意味、生きることと深く関わる自由、責任、義務とは何か。これらの問題を、抽象的にではなく具体的に論じていること、西洋の哲学者の書を読みこなして問題にアプローチしていることが本書の特徴です。
例えば前者では水俣病とその裁判、ワーキングプア、格差と貧困、自殺、児童虐待、蔓延する自己責任論、世界的規模で進行する環境破壊などが取り上げられ、後者ではアリストテレス、へーゲル、ホッブス、ルソー、スミス、ロック、マルクス、エンゲル、ミルの自然観、人間観、社会観、哲学が検討されているといった具合です。
問題を多面的に論じながら、生物学的なヒトが人間になるためには文化行為や人間相互のかかわり(社会性)が不可欠であること、ボランティア活動が社会性の回復に寄与する営為であること、自由の概念は時代の求めに応じて変遷があること、労働の意味を探求しながら疎外、所有、権利について考察していること、人間存在の生のありかたを破壊するものとして環境問題を根源的に解明していることがうかがえます。
内外の新しい学説、考え方をとりいれていることにも配慮があり、小原秀雄氏の「自己家畜化」説(人間は文化や文明をつくり、そのシステムに身を投じることで自分たちの身をまもってきたが、現在はそのシステムに完全に依存する存在になってしまったという説)、平田清明の個体的所有論、瀧川裕英氏の責任概念(「負担責任」と「応答責任」)、フロムの「市場的構え」、アマルティア・センの「交換権原」の低下(「飢餓発生の主因」を突然起こる権利の剥奪状況とみる)、アイザイア・バーリンの「消極的自由」と「積極的自由」などの諸説が活用されています。
若い人が人間は一人では生きていけないこと、人間らしい生き方と幸福な社会の在り方を根源的に考えるのには最適な図書といえます(大学の講義という教育実践を踏まえて書かれた本のようです)。
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