【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

夢枕獏『神々の山嶺(下)』集英社文庫、2000年

2011-12-09 00:01:05 | 小説

          
 ナラダール・ランドセラとアン・ツェリン、この二人が下巻の最初の部分のキーパーソンです。
誘拐、拉致された岸涼子の救出、ビカール・サンこと羽生丈二の捜査に力となったからです。

 しかし、所在のわかった羽生丈二にはアン・ツェリンの娘ドゥマと結婚しふたりの子供もいました。傷心のまま涼子は、帰国。現地にとどまった深町は、羽生丈二のエヴェレスト南西壁冬季無酸素単独登攀にカメラマンとしての同行を許されます。

 神々にもっとも近い秘境、8000メートルを超えるエベレスト登攀。半ばから後半はこの登攀の記録、遭難した羽生のメモです。

 装備の準備、ルート確保、アイスフォールの回避、雪崩、落石への対応、ビバーク地点選定、テント張り、ハーケンによる足場の設定、瞬間によぎる恐怖との闘い、想い、それらが散文詩のように綴られています。

 羽生が先行し、深町がそのルートをなぞるように進んで行きます。標高6700メートルの地点で深町は、それ以上登ることを断念。彼はそこからカメラをとおして、人間の力では不可能と考えられた南西壁で虫のように動く羽生のカタツムリの速度での前進を捉えます。しかし、その羽生が視界から消えました。羽生の遭難、そして死。

 翌年11月、深町はチベット側からノーマル・ルートでエヴェレストの頂上をめざしました。下山中にG・マロリーと羽生の遺体を発見します。

 人はなぜ山に登るのか?この問いに対する答を探しもとめた著者入魂の作品です。上下あわせて1000ページを超えます。著者は山に対する想いをすべて描き切ったと語っています。

 柴田錬三郎賞受賞。