古い歴史をもつ海辺の街・風早にある<カフェ・かもめ亭>。
曽祖父の代から70年近く続くその店で、現在マスターをしているのはまだ若い女性・広海。そこを訪れるお客さまの語る、ちょっと不思議なお話の数々。
店の常連で、甘いミントミルクティー好きの女子高生・澪子。美術部員である彼女は、理想の青が頭の中にあるが、その色を実際に作り出せずにいた。そんな彼女が、マスターの友人の作った、古い美術品の展示会のポスターを見て驚き、ある話を語った……それは前世のような記憶。
短剣とわずかな食糧だけを渡され、砂漠で両親に捨てられた少女は、小さな泉にたどり着いた。そこでしばらく過ごしていた彼女は、ある日、草の芽を見つけた。それはすくすくと育ち、やがてつぼみをつけるが、咲く寸前で泉は涸れてしまい……『砂漠の花』、
梅雨。かもめ亭に出入りしている寺嶋雑貨店の営業の青年が語る。自分がこの仕事に就いた理由。
小学5年生の6月。遠い街にある、父の知り合いの家に、お使いを頼まれた。そこはあじさいが見事な庭のある家。そこで、あずさやその弟とゲームに興じた彼は、そこであずさから万華鏡を見せられる。その後行く機会のなかったその場所へ、大学生になってから久しぶりに出かけた彼だったが……『万華鏡の庭』、
秋。近所の古い骨董店・不可思議屋の主人・柳老人。彼の店には、中国製の大きな銀の鏡が置かれているが売り物ではなく、またそれを手放せない理由があるという。
数年前、たびたび店を外から眺めていた中学生の少女・真由子と話すようになった彼。どうやら彼女はクラスでいじめに遭い、それを親にも言い出せずにいるらしい。そんなある日、彼女は店に置かれた鏡の中に少女の姿を見る。それはかつて鏡に逃げ込んだ中国の少女……『銀の鏡』、
近所に住んでいる常連の老婦人。水仙の花が好きだという彼女が、その理由を語る。
幼き日、妙音岳のふもとの小さな村にすんでいた彼女は、東京で植物の勉強しており、休みのたびに帰省していた村の地主の3番目の息子・光三に密かに恋をしていた。それを本人には告げられず、病弱ながら読書家で物知りだった姉にだけ相談していたのだった。
ある冬、光三が植物の研究の為に、危険の多い外国のジャングルへと行くこととなった。姉から、水仙池の水の精・水仙姫にお願いしたらと助言され……『水仙姫』、
かもめ亭からバスで2時間かかる、緑野村のペンションで暮らす12歳の少女・亜里子。両親が育てているハーブや高原の花を配達にやってくる彼女が、今年の夏休みにあった出来事を語る。
両親と共にその村に越してきて、3年。彼女は、魔法使いだという外国人の老人R.グリーン氏に弟子入りしている。
ある日、病気療養の為ペンションに泊まりに来ていた美少女・森岡曜子と出会った亜里子。親しくなるが、彼女は太陽の光が苦手で、家の中でしか遊ぶことができない。そんな彼女にお花畑を見せてあげたいと、早朝に彼女を誘うが……『グリーン先生の魔法』、
小学生の時、よく店にきていた少女・かおるが、数年ぶりに高校生になってやってきた。彼女は、当時出会った猫“ねこしまさん”が人間に変身した話を語る。
小学4年生の時。クラス内で囁かれる陰口を原因に、学校へ行けなくなってしまった彼女は、家に帰ることもできず、駅のそばの中央公園でしばらく過ごしていた。
そこで出会った茶とらの猫に“ねこしまさん”と名付け、共に時を過ごすようになる。
ある日、具合が悪そうになったねこしまさんを獣医に連れていくのをきっかけに、谷岡ひろのという女性と知り合い、やがて彼女のフリースクールにこないかと誘われるかおる。ところが結局身体が受け付けず、寝込んでいるうちに、初雪が降り出した。心配になり、家を抜け出して公園に様子を見に行ったものの、そこにねこしまさんの姿はなく、代わりにしましまのセーターの男の人が現れて……『ねこしまさんのお話』、
広海の曾祖父は、昔船乗りだったという。そんな彼は、“人魚がみまもっていてくれるから”というのが口癖だったらしい。
ある日、広海はふと気がつくと、いつのまにか、店内に、銀色の髪の外国人の老婦人がたたずんでいた。どうやら以前この店に来たことがあるらしいあるらしい彼女は、自分が人魚だという……『かもめ亭奇談』の7編収録。
かもめ亭で語られる、不思議なお話(ねこしまさん~とかはちょっと不思議のネタを明かされてますが)の連作短編。
いろいろ切なく、痛くもあるけれど、どれも素敵なお話でしたv
特にねこしまさん~はかなり号泣…(何だか泣かされまくりだ…)。
<09/1/30>