黒猫書房書庫

スイーツ多めな日々です…。ブログはちょー停滞中(´-ω-`)

『猫を抱いて象と泳ぐ』小川洋子(新潮社)

2009-01-21 | 読了本(小説、エッセイ等)
唇の上下が閉じたまま生まれ、医師により分たれたそこに、脛の皮膚を移植された少年。その容貌ゆえに友人がいなかった彼は、大きくなり過ぎて屋上から降りられなくなった為、デパートで一生を終えた象・インディラと、自宅の壁の隙間に挟まれたまま閉じ込められ亡くなったという少女のミイラに親愛の情を抱いていた。
そんな彼は、廃棄されたパスで暮らす元運転手で、今はバス会社の寮の管理人を務める男性・マスターに出会い、チェスを学ぶ。しかしそんな少年は、チェス盤の下にもぐらないと思考ができず、マスターの飼猫・ポーンと共に姿を現さないまま籠もり、そこでチェスの世界へと没頭してゆくのだった。
ところが、マスターの身体はバスの中で巨大になり過ぎ、やがてそこで息絶えたことから、彼にとって成長することが悲劇の象徴となり、それを拒絶するように小さな身体のまま大人となる。
マスターの元からチェス盤を持ち出した彼は、やがて、権威あるパシフィック・チェス倶楽部の地下で行なわれている、もうひとつの倶楽部、パシフィック・海底チェス倶楽部において、チェスの自動人形“リトル・アリョーヒン”……『盤上の詩人』と呼ばれた、ソ連のチェスのチャンピオン、アレクサンドル・アリョーヒンを模したことに因む……に潜み、その頭脳として盤下でチェスをすることになり、彼自身もまたその名で呼ばれてゆく。
そんな彼に、補佐役としてついたのは、鳩を乗せたマジシャンの娘。彼女が、隙間から抜け出してきたミイラの少女自身だと確信したリトル・アリョーヒンは、彼女を“ミイラ”と呼ぶ。
倶楽部でさまざまな人たちとチェスの勝負を繰り広げてゆく、リトル・アリョーヒンだったが……

後に“盤下の詩人”と呼ばれたチェスの名手リトル・アリョーヒンの数奇な一生を描いたお話。
ただのゲームでは括れない、チェスの世界の奥深さを感じました。
ミイラとの手紙のやりとり、そして彼女と最後にすれ違う場面がとても切なく、印象的。

<09/1/20,21>