関東地方の地味な県にある、ほどほどの程度の高校。
下の学年に部員がいなくなり、3年生4人だけになってしまった天文部。それまで特に仲が良かった訳ではない彼らが、4人だけで初めて定例会を開いた日の夜、偶然、町で再会。運命を感じた彼らは、自分たちの関係を世間に秘密にし、昼間は他人で夜は仲間、というスパイ的な間柄になることにし、それぞれの特徴などからコードネームをつけた……お嬢様風な容貌の中島翠には“ジョー”、芸術家風の青山孝志には“ゲージ”、ギャルっぽい安田朱美には“ギィ”、部長である黄川田祐一には“ブッチ”、と。そんな彼らの4人の過ごす1年間を描いた連作短編集。
ジョーの両親、特に父は、女は早く嫁に行った方が幸せ、という旧弊的な考えの持ち主で、勉強が好きなジョーは、塾に通わせてもらえなかったことから、自分の力だけで推薦をとり、東京の大学に行こうと考えていた。
4月のある日、学校のビオトープで季節外れのホタルが出たという噂が出始めた。屋上で観測会をしていた天文部のメンバーたちもまたその光を目撃するが……『季節外れの光』、
日本一有名な泥棒を手本として自らのキャラクターを作り上げてきたゲージ。非日常を生きるトリックスターたることが彼の信条。
夏休み。お盆が終わった後に、天文部のメンバーと顧問の田代で、3泊4日の合宿に出かけた。そこで、ブッチがバイトをしているピザ屋の奇妙な客2人…ひとりはトッピングなしばかりを頼む女性、ひとりはトッピング多過ぎの男性…の話を聞き……
『スペシャル』、
父がリストラされた後アル中になり、たびたび暴力を振るうように。そんな家から抜け出す為に、ギャルを装い、毎夜コーヒーショップでアルバイトをし、その資金を貯めているギィ。
季節は秋。学祭の最終日。ジョーが手芸部で売られていた、サクランボ柄の財布を買おうとしたところ、何故か部員である少女に敵意剥き出しで断られた。しかしジョーには彼女に憎まれる心当たりがなかったことから、その時に着ていた、サッカー部のバーゲンで買ったセーターが関わっているのではないかと気づくが……『片道切符のハニー』、
物心ついたころから、家長である祖父からの強い圧力により、家業である農家の手伝いをさせられていたブッチは、昔から人の年齢をどうこういう物言いが嫌い。
冬。学校の敷地内で、寒いのにコートも着ずに、セーターだけで、妙にリアルなぬいぐるみを持ってうろつく女子が目撃された。彼女の目的とは一体……『化石と爆弾』、
卒業後。念願叶って遠くの大学に進学したジョー、地元の大学に通うゲージ、遠い町の飲食店で働きつつ専門学校に通う資金を貯めているギィ、そして養蜂家として全国を旅するブッチ。久しぶりに再会した彼らは、皆である場所へと出かける……『それだけのこと』の5編収録。
それぞれが陥った閉塞感から逃れる為、スパイの如く周囲を欺きながら、望む未来を手に入れようとする高校生たちの青春ミステリ。
彼らの距離感がとても良い感じで、そんな仲間が欲しいなぁと思ったり。
そしてやはり、食べ物が美味しそう…(笑)。
<08/11/17>