CLASS3103 三十三組

しがない個人ホームページ管理人の日記です。

【読書】 風に舞いあがるビニールシート

2020-10-21 21:19:01 | 読書感想文とか読み物レビウー
風に舞いあがるビニールシート  作:森絵都

直木賞受賞作品とのことで、気合入れて読もうと思ったら
短編集でありました、長編だとばかり思っていたのに

というわけで、いくつかの短編が、実は連続短編でつながってくるのかしらと
あれこれ考えながら読んだら、まったく別物の短編が集まっていたと
ある意味衝撃的だったのでありますけども、
どの話も面白く読めたのでメモっておく次第

たまたまだとわかっているものの、
結構驚いたのが、市之倉と琵琶湖を舞台にした物語があったことで、
どっちも、少なからず自分に縁のあるところで、
なんというか、妙な親近感みたいなのを覚えたのだけども
特に、市之倉の方の短編が好きで、にやにやして読んだのであります

まさか単発短編だと思ってなかったので、
この主人公がやがてどうしていくのか、
次の展開が楽しみだとか思って読んだのだけども
そうではなく、理不尽な上司に振り回されるという立場が、
最終的には、そういう状況で自身を発露してやまない
主人公がやばいみたいな感じだったと思うと
なかなか楽しい小説だったと思えたのでありました
常軌を逸している感じが素敵だわ
一種の信条のために、すべてをなげうっているというか
常識から逸脱してしまうことをいとわない感じというのが
面白い読み応えだったと思うのであります

もう一方の琵琶湖の方についても、仏像に関するうんちくを撫でつつも
いわゆる仏像ミステリ的な内容に仕上がっていて
こちらは、あんまり仏像マニアじゃないからそういうものかと
楽しみながら読めたわけだが、その人となりみたいなのが
よくよく伝わる読み応えを楽しめたのでありました

肝心の表題作については、その他の短編と完全にジャンルが違うというか
そこまでは、コミカルな部分を見せつつ、ちょっとしたホラー味だったり、
ミステリ味だったり、エンタメ要素があったのに
徹頭徹尾シリアスといって差支えが無い、
至極重いお話でありました

難民保護という仕事について、そこに命を懸ける人について、
それぞれを丁寧に描いていて、特に人の描写が切なくてよかった
どの短編も共通するところだけど
物語というよりも、そのキャラクタを描いているといった印象の話が
なんとも、複雑な心情ではないが、様々なことを考えさせてくれて
楽しいと思えた読書でありました

単純に感動したとか、そういうだけではない
小説を読んだ、人の物語を読んだという
満足感がある読書となったように思う