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初物

 朝夕はひんやりして、いつの間にか虫の音もか細くなってきた。こんな季節になると我が家では父が掘ってくる自然薯をすって、とろろご飯にして食べるのが恒例となっている。しかし、乱獲のため年々自然薯の数が減り、さらに近年はイノシシが食べてしまうようで、本当に山に自然薯が生えていないのだそうだ。毎年、来年は食べられないかもしれないぞ、という父の言葉に心配になるものの、今頃になるとまず最初に父自身が我慢し切れなくなって、山深く入って行っては半日がかりで掘ってきてくれる。私たちはそれをありがたくいただいて舌鼓を打っているのだが、父も今年で74歳、山の中に入っていって万が一のことがあってもいけないから、決して無理はしないように何度も言ってある。「分かっている」とは言うものの、もうそろそろ我慢できない頃だろうなと思っていたら、案の定先週の土曜日、一抱えの自然薯を持ち帰ってきた。話を聞くと、毎日行っている畑の横の土手に生えていたものだそうで、やわらかい土で育ったせいか、色が白っぽくてまっすぐしていた。「大した苦労もせずに掘れたぞ」と自慢顔の父にほっとした。ただ、硬い赤土の中で育った自然薯の方がおいしいと経験上知っている私たち家族は、「味はどうかな?」と心配しながら、今秋最初のとろろを日曜に食べてみた。
 塾を終えて家に戻ると、父が一人で下ごしらえを終えていた。後はしばらくすりこ木でこねてから、かつおだしのおつゆを入れてのばすだけだ。そこからは私が引き受けた。親戚にもお裾分けをするつもりなので、量が多い。一生懸命こねているうちに汗はにじんでくるし、手はしんどくなるし、大変だった。挙句の果てには手のひらに水ぶくれができてしまった。最近バットの素振りを怠っているため、掌が柔らかくなったのかもしれない。それにしても、普段どれだけ力仕事をしていないかがよく分かる。

  

 心を込めてがんばっただけに、出来上がりは見事だった。表面に細かな泡が無数に浮かび、食べるのがもったいないくらいだ。だが、のばしている途中に、自然薯特有の粘り気が少ないことに気が付いた。苦労せずに育った薯は粘りがない、なんだか人間と同じようだな・・、などと苦笑しながら完成した。
 早速食べてみた。んんんん・・、まあまあかな・・。物心ついた時からずっととろろを食べ続けてきて、味に関しては一家言持っている私の評価は、3段階で○2つと言ったところか。
 
 この日は山掛けにした刺身も食べたのだが、やはりこれからの季節にふさわしいビールは SAPPORO の「冬物語」だろう。


 今年で発売20周年になるそうだが、その濃厚な味わいはこの季節ならではのものだ。私がこんなにビール好きになったきっかけはこの「冬物語」だけに、毎年発売が始まるのを楽しみにしている。今秋初の「冬物語」を今秋最初のとろろと一緒に飲むなんて、なかなかの取り合わせだった。
 
 次はひょっとしたら正月まで食べられないかもしれないとろろは、やはり私の大好物だ。食べるたびに幸せな気持ちになれる。満足・・。
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