毎日いろんなことで頭を悩ましながらも、明日のために頑張ろうと自分を励ましています。
疲れるけど、頑張ろう!
工事(3)



塾舎は2階建てである。周りには大きな建物はないため、2階からの見晴らしはよかった。それがこんなに近くに建てられてしまうとやっぱりいやだ。わざわざこんなにいっぱいいっぱいまで建てなくてもいいのにと思うのは全くこちらの我儘なのかもしれないが、そう思いたくなるほど、接近している。
この建物が建って、初めて塾に来た1人の生徒がバスから塾舎を見て、「なに?あの赤いの?」と叫んだ。確かに鉄骨の赤さがすごく目立つ。遠くから見ると赤い柱が周りの色を圧倒している。塾舎は赤い牢屋に閉じ込められたような印象さえ受ける。


それにしても、建設現場を見るのは楽しい。鉄骨が組み上げられて行くのを見ていると、プラモデルを作るときの楽しさが感じられる。クレーンが鉄骨を運ぶ。それを待ち受けている作業員が決められた場所にセットしていく。ボルトでキュッ、キュッと締めていく音が心地よい。こういう建築現場を見ていると、自分はどうして父親の仕事を継いで大工にならなかっただろうと軽い後悔を時々感じる。父は私のやりたいようにやらせてくれて、何一つ指図したことはなかった。自分が体を酷使してきつい仕事を続けてきたためだろうか、私に大工をやらせたくなかったという話をしたことはあるが、本心はどうだったのだろう。
もう今さらそんなことを言ってもどうにもならないが、私には大工の仕事はとても無理だっただろうと思うことがいくつかある。その一つは高いところが苦手だということだ。


見ていると、作業員たちはまるで地上にいるかのように細い鉄骨の上を歩いていく。よくもあんな高いところを歩けるものだと感心する。父の仕事の手伝いで、屋根に上ったことは何度でもあるが、足は震えてとても身動きのできる状態ではなかった。恐る恐る動く私に父が苦笑していたのを覚えているが、そういう父も高いところは余り得意ではなかった。ただ、棟梁としての意地と責任感だけで何とかこなしてきたようだが、私にはそれほどの根性がない。それを見抜いた父が早い段階で私に仕事を継がせるのをあきらめたのかもしれない。
月曜から始まった作業は水曜で一段落したようだ。これで骨組みの建設は終わって、次には周囲を壁でおおっていくのだろう。もうすぐ塾の教室からは壁しか見えなくなってしまう。

今はこんな状態だが、壁しか見えなくなってしまったらどんな感じになるのだろう。日当たりも悪くなり、薄暗く閉塞感でいっぱいになってしまうのだろうか。塾の授業は夜が中心だからといっても、やはり外の明かりが見えなくなるのは寂しい。
ブラインドを一日中下ろしておくしかないのだろうか。それも寂しい。
コメント ( 6 ) | Trackback ( 0 )