○山種美術館 『歴史を描く-松園・古径・靫彦・青邨-』(2011年1月8日~2月17日)
館蔵コレクションの歴史画による展覧会。ただし、本展の「歴史」の定義はかなり鷹揚で、神話や歴史物語、風俗図も広く含んでいる。なので、日本武尊像はともかく、中将姫や源氏物語の夕顔図になると、これは「歴史」画か?と苦笑を誘われるところもあった。
解説によれば、近代日本画に「歴史画」というジャンルが確立するにあたっては、(1)西洋のアカデミズム絵画の影響、(2)欧化政策への反動としての国枠主義、(3)龍池会・鑑画会などの古美術鑑賞、(4)菊池容斎の『前賢故実』(幕末の作、広まったのは明治30年代。→近代デジタルライブラリー)などのきっかけが、複合的に働いている。1920-30年代に歴史画を描き始めた安田靫彦、小林古径、前田青邨らは、戦後も、このジャンルで活躍を続ける。
会場の作品は、制作年代よりも、描かれた人物や事件の年代によって配列がされていた。まずは古代。松岡映丘の絵画に正木直彦が詞書を添えた『山科の宿』(高藤内大臣絵詞)。川崎小虎の『伝説中将姫』は、女性の黒髪を一筋ずつ描き分けるのではなく、薄墨を刷いてぼかした表現が新鮮。新井勝利の『杜若』は東下りの業平を描いたものだが、ものすごく業平らしい! ムチムチした白い肌、きかん気そうな、目尻の上がった大きな目、「体貌閑麗、放縦不拘」(日本三代実録)の形容そのままで、にやにやしてしまった。
次に「平家物語」に関連する作品は、不思議なほど多い。特に1960~70年代に優品が多いのは、吉川英治の『新・平家物語』(小説:1950-57年連載、大河ドラマ:1972年)の影響だろうか。これは、1階ロビーに流れていたビデオで、山下裕二先生もおっしゃっていたこと。守屋多々志の『平家厳島納経』(1978年)は、安芸の厳島神社に向かう平家一門を描いている。青い海を背景に、今しも鳥居の下を武者や公達、女性たちを乗せた舟が漕ぎ入っていく。威儀を正した人々の姿と、漕ぎ手の力強い動きが対照的。恩師・前田青邨の死を悼む気持ちを表した作品と言われている。その前田青邨が晩年に描いた『大物浦』(1968年)の、禍々しく荒れた海も魅力的だ。1968年って、世相が騒然としていた年だけど、関係ないかな。大正末~昭和前期という森村宜稲の『宇治川先陣』もいい。広い金地屏風の左右にニ騎の武者を小さく配し、宇治川の広大さを表現して、緊張感を盛り上げる。
「太平記」関連は少ないが、猪飼嘯谷の『楠公義戦之図』は、よく見るとアニメっぽい表情が面白い。安土桃山時代になると、個性ある武将たち、女性たちが登場する。やっぱり信長は、どの作品でもカッコいいなあ。歴史画家なら、一度は描いてみたいと思うだろう。服部有恒の『淀殿』(茶々)は、今にも喋り出しそうな生気に満ちた表情だ。日本史を彩る多くのヒーロー、ヒロインを身近に感じ、嬉しくなる展覧会である。
最後に別室(第2展示室)では、上村松園を小特集。したたるような美貌の女性たちが並ぶ。晩年の作品が多い。自分が年を取るにつれ、若い女性の美しさに敏感になっていく気持ち、最近、分かるような気がする。
館蔵コレクションの歴史画による展覧会。ただし、本展の「歴史」の定義はかなり鷹揚で、神話や歴史物語、風俗図も広く含んでいる。なので、日本武尊像はともかく、中将姫や源氏物語の夕顔図になると、これは「歴史」画か?と苦笑を誘われるところもあった。
解説によれば、近代日本画に「歴史画」というジャンルが確立するにあたっては、(1)西洋のアカデミズム絵画の影響、(2)欧化政策への反動としての国枠主義、(3)龍池会・鑑画会などの古美術鑑賞、(4)菊池容斎の『前賢故実』(幕末の作、広まったのは明治30年代。→近代デジタルライブラリー)などのきっかけが、複合的に働いている。1920-30年代に歴史画を描き始めた安田靫彦、小林古径、前田青邨らは、戦後も、このジャンルで活躍を続ける。
会場の作品は、制作年代よりも、描かれた人物や事件の年代によって配列がされていた。まずは古代。松岡映丘の絵画に正木直彦が詞書を添えた『山科の宿』(高藤内大臣絵詞)。川崎小虎の『伝説中将姫』は、女性の黒髪を一筋ずつ描き分けるのではなく、薄墨を刷いてぼかした表現が新鮮。新井勝利の『杜若』は東下りの業平を描いたものだが、ものすごく業平らしい! ムチムチした白い肌、きかん気そうな、目尻の上がった大きな目、「体貌閑麗、放縦不拘」(日本三代実録)の形容そのままで、にやにやしてしまった。
次に「平家物語」に関連する作品は、不思議なほど多い。特に1960~70年代に優品が多いのは、吉川英治の『新・平家物語』(小説:1950-57年連載、大河ドラマ:1972年)の影響だろうか。これは、1階ロビーに流れていたビデオで、山下裕二先生もおっしゃっていたこと。守屋多々志の『平家厳島納経』(1978年)は、安芸の厳島神社に向かう平家一門を描いている。青い海を背景に、今しも鳥居の下を武者や公達、女性たちを乗せた舟が漕ぎ入っていく。威儀を正した人々の姿と、漕ぎ手の力強い動きが対照的。恩師・前田青邨の死を悼む気持ちを表した作品と言われている。その前田青邨が晩年に描いた『大物浦』(1968年)の、禍々しく荒れた海も魅力的だ。1968年って、世相が騒然としていた年だけど、関係ないかな。大正末~昭和前期という森村宜稲の『宇治川先陣』もいい。広い金地屏風の左右にニ騎の武者を小さく配し、宇治川の広大さを表現して、緊張感を盛り上げる。
「太平記」関連は少ないが、猪飼嘯谷の『楠公義戦之図』は、よく見るとアニメっぽい表情が面白い。安土桃山時代になると、個性ある武将たち、女性たちが登場する。やっぱり信長は、どの作品でもカッコいいなあ。歴史画家なら、一度は描いてみたいと思うだろう。服部有恒の『淀殿』(茶々)は、今にも喋り出しそうな生気に満ちた表情だ。日本史を彩る多くのヒーロー、ヒロインを身近に感じ、嬉しくなる展覧会である。
最後に別室(第2展示室)では、上村松園を小特集。したたるような美貌の女性たちが並ぶ。晩年の作品が多い。自分が年を取るにつれ、若い女性の美しさに敏感になっていく気持ち、最近、分かるような気がする。