見もの・読みもの日記

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カタストロフの幕末/慶喜の捨て身:幕末バトル・ロワイヤル(野口武彦)

2011-02-24 22:49:58 | 読んだもの(書籍)
○野口武彦『慶喜の捨て身:幕末バトル・ロワイヤル』(新潮選書) 新潮社 2011.2

 やったー野口武彦さんの「幕末バトル・ロワイヤル」シリーズ最新作だー!という具合で、書店で見つけるなり、即購入、一気に読み通してしまった。ご存知、「週刊新潮」連載の幕末史談エッセイ。本書は、元治元年(1864)暮れ、高杉晋作の功山寺挙兵に始まり、長州戦争、大政奉還を経て、慶応3年(1867)暮れの江戸薩摩藩邸の焼討事件までを扱う。雑誌に発表されたのは、2008年5月から2009年3月の間だというから、もう少し早く本になってもよさそうなものだが、2010年の大河ドラマ『龍馬伝』とのバッティングを意識的に避けたんじゃないかな、と思った。便乗企画みたいに思われるのが嫌で。

 内容的には『龍馬伝』の時代とちょうど重なる。まだドラマの印象が新しいので、高杉晋作と聞けば伊勢谷友介が浮かび、徳川慶喜と聞けば田中哲司に返還されてしまう。困ったものだ。しかし、勝海舟→武田鉄矢は絶対に違うと思っていたので、既に記憶から消去されている。一方、チョイ役だった小栗上野介忠順は斎藤洋介の印象で定着しているなど、読みながら、自分の無意識の選択が分かっておもしろかった。

 本書は龍馬暗殺のエピソードに1章を設けているが、著者は坂本龍馬には関心が薄いように思える。善人すぎて、どこか物足りないのだろう。むしろ著者は、これまで「慶喜ぎらい」だと思っていたが、見かけ倒し、意志薄弱、権力志向など、非難の止まらない慶喜のことが、ホントは好きなんじゃないか、という感じがした。本書では、「大政奉還」という大勝負に全財産を張った慶喜の決断を、意外と冷静に評価している。

 私は、幕末史では、見え隠れする西洋人外交官の存在がとても気になる。ロッシュ、パークスなど。のちの新政府が招き入れたお雇い外国人と違って、基本は自国の利益しか考えていない悪党連中だと思うのだが、悪役や欠点の多い登場人物がいてくれないと、歴史は面白くない。それにしても、フランス公使ロッシュが慶喜に「ナポレオン三世のようにおなりなさい」と吹き込む場面にはたまげた。

 最高権力の帰趨だけでなく、喧嘩・殺人・茶番・打毀しなど、市井の人々の喜怒哀楽を同時並行で描いているのは、本書の魅力のひとつ。米価高騰による「貧窮組騒動」とか「ええじゃないか」もすごいなあ。平成の日本も、そろそろカタストロフが近づいているような気がするが、これら幕末の状況を読むと、いや、まだまだかなあという気持ちになる。

※前作:野口武彦『天誅と新選組:幕末バトル・ロワイヤル』(新潮選書) 新潮社 2009.1
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