見もの・読みもの日記

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宮内庁楽部・舞楽公演『蘇合香』『狛桙』(国立劇場)

2011-02-28 00:05:12 | 行ったもの2(講演・公演)
国立劇場 舞楽公演『蘇合香(そこう)』『狛桙(こまぼこ)』(2011年2月26日)

 久々に宮内庁式部職楽部による舞楽公演を見てきた。前売開始日を忘れていて、出遅れたのだが、運よくチケットを取ることができた。3階席だったが、全体が見通せるので、こうした演目には悪くないと思った。

 大曲『蘇合香』は、唐楽、盤渉調、六人舞。昭和50年(1975)に一部省略して演奏されて以来の復興だという。全曲を通し上演すると2時間かかるので、今回は2年かけて全曲を上演することになった。今年は序一ノ帖から五ノ帖まで。ただし、ニノ帖はない。延暦年間に遣唐舞生・和邇部嶋継(わにべのしまつぐ)によって伝えられたが、嶋継は序一帖の後半と序ニ帖を忘れてしまったという(教訓抄)。しかし、源博雅撰『新撰楽譜』にはこれらも含まれており、楽譜は全曲日本に伝えられたようであるが、大曲の特殊性ゆえか、日本で舞を補作することは行われなかったらしいとのこと(パンフレットによる)。

 う~む、「遣唐舞生」なんて人々がいたのかあ。文字資料や実物資料と違って、パフォーマンスを輸入するって、大変だったんだろうなあ、と苦労をしのぶ。

 舞人の衣装は、白を基調とする下襲に赤系の半臂を付け、オレンジ色の袍を両袖脱ぎにして垂らす。背中の金帯(金具を並べた石帯)が華やかさを添える。『北庭楽』や『万歳楽』の衣裳が近いかな(→写真:大阪楽所)。それにしても愛らしい色彩、花鳥をモチーフとした優美な文様。おじさんにこんな萌え衣裳を着せるなんて、どんな文化なんだ、と思う。甲(かぶと)は、菖蒲甲と呼ばれる独特のもの。横向きになると、あ、草だと分かるが、正面(しかも上方)から見ると、噛み合わせの口みたいで可笑しい。

 舞台に上がってきたとき、六人舞って、あまり見たことがなかったので、ちょっと驚いた。さすが大曲。しかし、曲の初めから終りまで、六人はずっと同じ振付で舞い続ける。左右列が対照のポーズを取るとか、ひとりずつ順番に何かをするという演出はない。なので、少し退屈する。解説パンフによれば、足の使い方が普通の舞と逆になるなど、特殊な舞振りがあるそうだが、なかなかそこまでは分からないので。

 続いて『狛鉾』。高麗楽、壱越調、四人舞。日本で新しく作られた舞楽だが、作者や年代は不明とのこと。巻纓+老懸の冠が武官の凛々しさを表す。右舞なので、装束は緑色が基調。袍に散らした丸文は、双眼鏡を覗いて、蛮絵?と思っていたら、栗鼠の丸紋なのだ。かわいい~。袍の上に、袖のない裲襠(りょうとう)を着る。縁(へり)は金襴。近衛の役人の乗馬の際の装束であったという。葵祭でも乗尻(のりじり)がこれを着ていた。そして、五色に彩色した2.5メートルほどの棹を操って舞う。『蘇合香』と異なり、右列左列がペアになったり、入れ替わったり、変化に富んでいて、飽きない。

 楽曲の編成もだいぶ異なる。唐楽(蘇合香)は笙が入るが、高麗楽(狛鉾)には入らず、「篳篥と高麗笛が対位法的に進行する」という説明をネットで見つけた。音楽に詳しくない私にはよく分からないが、「メロディーで舞う左舞(唐楽)、リズムで舞う右舞(高麗楽)」というのは、感覚的に納得できる。その晩、蒲団に入ってからも、ずっと夢の中で鳴っていたのは、高麗笛の音だった。鉦と太鼓のリズムが、日本の祭のお囃子に似ているようにも思った。

 来年、『蘇合香』の完結編も見に行けますように。
コメント
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