○神奈川県立金沢文庫 80年特別展『運慶-中世密教と鎌倉幕府-』(2011年1月21日~3月6日)
昨年から楽しみに待っていた展覧会のひとつ。さっそく行っちゃえ~と思って見てきた。日本全国、運慶作と称されている仏像はきわめて多いが、信頼できる史料等から運慶の真作と確認されている作品は意外と少ない(Wiki)。その数少ない運慶の仏像を一堂に会し、「中世密教」と鎌倉幕府の関係から、運慶作品の制作背景の秘密に迫る展覧会、だという。「一堂に会し」と言っても、東大寺・南大門の金剛力士像は来てませんが。
1階展示室に入ると、元代の大きな青磁香炉。鎌倉後期~末期に称名寺に施入されたものだという。それから金沢貞顕の釼阿宛て書状。裏が仏像の図像集の摺りものじゃないかと思われ、気になる。隣りは、おお、国宝『文選集注』じゃないか。参考展示にも力が入っている。特別展に展示されることの多い海岸尼寺旧本尊の十一面観音像も、このたびは1階にひかえめに鎮座。
さて、2階である。上がっていくと、すぐ目に入るのが、奈良・円成寺の、若々しい大日如来坐像。まあ、ようこそ東国においでくださいました! 会場ではガラス越しとはいえ、かなり間近に寄って拝見することができ、像の重量感を感じることができる。斜めから見ると、腰の左右はくびれているが、意外と正面のお腹がぽっこりしている。でも、興福寺・阿修羅像の向こうを張るくらいの美形だと思う(私の趣味)。東博あたりの特別展なら、背景に青や赤の強い色彩を配し、スポットライトでスタア感を煽るところだろうが、ここは凝った演出をしていないので、全体が見やすく、ありがたかった。
先に仏像だけ紹介してしまうと、栃木・光得寺の厨子&大日如来像。東博の常設展にも長いこと出ていたが、むしろ佐賀まで見に行った『運慶流』展の印象が強い。黄金の風合いの違いに注目。それから、愛知・滝山寺の帝釈天像。ここも3回くらい行ったなあ。やさしいおばちゃんに宝物館を開けてもらったりして。別ケースに滝山寺諸尊の装身金具(の残欠)が展示されていて、瑞雲の美しさに見とれる。仏師の工房は、こうした金具専門の工人も抱えていたのだろうか。
伊豆の願成就院からは五輪塔形の銘札。むかし、東京から1日がかりで行った。三浦半島の浄楽寺もなつかしい。ここは桜の頃がいいのよね。毘沙門天像、不動明王像は、どちらも横顔がよい。特に不動明王は、左右非対称の歪んだ、恐ろしい表情なのだが、ひそかに右横から拝すると、あっと驚くカッコよさである。やっぱり運慶の仏像には、東国の風が似合う。そして、金沢文庫保管の大威徳明王像。ここまでは、全て見た記憶があった。
最後に、神奈川・瀬戸神社の舞楽面が2点。見たことがあってもよさそうだが、記憶になくて、魅了された。確かに運慶の――慶派の顔である。特に陵王面の額に、エイリアンのように四肢をふんばってまたがった龍の、小さな筋肉の盛り上がり具合が、興福寺の天燈鬼を彷彿とさせる。抜頭面の裏面には「右依夢想…運慶法師自彫刻」の朱漆の銘文(後銘)がある。瀬戸神社? あ、金沢八景のダイエーに行くときによく通った神社か。
仏像以上に興味深かったのは、「称名寺聖教教(しょうぎょう)」と呼ばれる文書・典籍の中から抜き出された運慶関係文書の数々。膨大な文書群から、よくぞ抜き出したものだ! たとえば「東寺講堂仁王経道場指図」には、現在の東寺講堂そのままの諸像の配置が記録されている。いま管理人小屋のある隅が「勅使座」だったのか、なんて分かるのも面白い。講堂諸像の修理関係の史料は、よく修理したなあ…と感心するものもあるが、ひどい虫損のままの文書もある。貴重な史料だと思うので、なんとか手当てしてやってほしい。
昨年から楽しみに待っていた展覧会のひとつ。さっそく行っちゃえ~と思って見てきた。日本全国、運慶作と称されている仏像はきわめて多いが、信頼できる史料等から運慶の真作と確認されている作品は意外と少ない(Wiki)。その数少ない運慶の仏像を一堂に会し、「中世密教」と鎌倉幕府の関係から、運慶作品の制作背景の秘密に迫る展覧会、だという。「一堂に会し」と言っても、東大寺・南大門の金剛力士像は来てませんが。
1階展示室に入ると、元代の大きな青磁香炉。鎌倉後期~末期に称名寺に施入されたものだという。それから金沢貞顕の釼阿宛て書状。裏が仏像の図像集の摺りものじゃないかと思われ、気になる。隣りは、おお、国宝『文選集注』じゃないか。参考展示にも力が入っている。特別展に展示されることの多い海岸尼寺旧本尊の十一面観音像も、このたびは1階にひかえめに鎮座。
さて、2階である。上がっていくと、すぐ目に入るのが、奈良・円成寺の、若々しい大日如来坐像。まあ、ようこそ東国においでくださいました! 会場ではガラス越しとはいえ、かなり間近に寄って拝見することができ、像の重量感を感じることができる。斜めから見ると、腰の左右はくびれているが、意外と正面のお腹がぽっこりしている。でも、興福寺・阿修羅像の向こうを張るくらいの美形だと思う(私の趣味)。東博あたりの特別展なら、背景に青や赤の強い色彩を配し、スポットライトでスタア感を煽るところだろうが、ここは凝った演出をしていないので、全体が見やすく、ありがたかった。
先に仏像だけ紹介してしまうと、栃木・光得寺の厨子&大日如来像。東博の常設展にも長いこと出ていたが、むしろ佐賀まで見に行った『運慶流』展の印象が強い。黄金の風合いの違いに注目。それから、愛知・滝山寺の帝釈天像。ここも3回くらい行ったなあ。やさしいおばちゃんに宝物館を開けてもらったりして。別ケースに滝山寺諸尊の装身金具(の残欠)が展示されていて、瑞雲の美しさに見とれる。仏師の工房は、こうした金具専門の工人も抱えていたのだろうか。
伊豆の願成就院からは五輪塔形の銘札。むかし、東京から1日がかりで行った。三浦半島の浄楽寺もなつかしい。ここは桜の頃がいいのよね。毘沙門天像、不動明王像は、どちらも横顔がよい。特に不動明王は、左右非対称の歪んだ、恐ろしい表情なのだが、ひそかに右横から拝すると、あっと驚くカッコよさである。やっぱり運慶の仏像には、東国の風が似合う。そして、金沢文庫保管の大威徳明王像。ここまでは、全て見た記憶があった。
最後に、神奈川・瀬戸神社の舞楽面が2点。見たことがあってもよさそうだが、記憶になくて、魅了された。確かに運慶の――慶派の顔である。特に陵王面の額に、エイリアンのように四肢をふんばってまたがった龍の、小さな筋肉の盛り上がり具合が、興福寺の天燈鬼を彷彿とさせる。抜頭面の裏面には「右依夢想…運慶法師自彫刻」の朱漆の銘文(後銘)がある。瀬戸神社? あ、金沢八景のダイエーに行くときによく通った神社か。
仏像以上に興味深かったのは、「称名寺聖教教(しょうぎょう)」と呼ばれる文書・典籍の中から抜き出された運慶関係文書の数々。膨大な文書群から、よくぞ抜き出したものだ! たとえば「東寺講堂仁王経道場指図」には、現在の東寺講堂そのままの諸像の配置が記録されている。いま管理人小屋のある隅が「勅使座」だったのか、なんて分かるのも面白い。講堂諸像の修理関係の史料は、よく修理したなあ…と感心するものもあるが、ひどい虫損のままの文書もある。貴重な史料だと思うので、なんとか手当てしてやってほしい。