見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

眼科医の眼力/ギッター・コレクション展(千葉市美術館)

2011-01-19 00:13:37 | 行ったもの(美術館・見仏)
千葉市美術館 開館15周年記念『帰ってきた江戸絵画 ニューオーリンズ ギッター・コレクション展』(2010年12月14日~2011年1月23日)

 米国ニューオリンズ在住のカート・ギッター博士と妻のイエレン女史の収集による、江戸絵画コレクションの里帰り展。ギッター博士(眼科医だそうだ)は60年代の日本滞在を機に、日本美術のコレクションを始めた。パネルの解説「1970年代から80年代にかけて、日本の市場には江戸絵画が大量に流通していました」という一文を読んで、冒頭の若冲や蕭白の優品を眺めると、感慨深い。80年代には(お金さえあれば)こんな作品を買うことができたのか。今ではかなわないだろうな…。

 若冲の、長方形と三角形の積み木を並べたような『寒山拾得図』には見覚えがあって、記憶をたどって、2007年の『日本美術が笑う』展に出品されていることをつきとめた。同展には、若冲の『達磨図』、南天棒の『達磨図』、白隠の『七福神図』なども、ギッター・イエレンコレクション(と図録に表記されている)から出品されている。蘆雪の『赤壁図』にも見覚えがあって、画像検索をかけたら、2009年、府中美術館の『山水に遊ぶ』がヒットした。「個人蔵」のキャプションつきで画像が掲載されてるが、これは同じものかどうか悩む。個人的に、妙に気になった作品は応挙の『達磨図』。流し目が色っぽい。

 ギッター博士は、あえて日本語を学ばず、自分の眼力だけで、このコレクションを築いてきたそうだ。その結果か、ギッターコレクションには、若冲、蕭白、応挙、蘆雪など、江戸絵画の(現在の)ビッグネームが揃っているかと思えば、徴翁文徳という、初めて聞く画家の『龍虎図』屏風も収められている。虎図は、うねうねした竹の節が、歪んだ空間をつくりだしているようにも見え、龍図の、大蛇のように長く伸びた龍の胴も面白い。破天荒な力強さが感じられて、江戸初期の作品?と思ったら、嘉永2年(1849)の年記あり。幕末モノである。

 紀楳亭、山本梅逸の繊細な花鳥図もよかった。地方の県立美術館で見たことがあるくらいで、印象の乏しい画家たちだったが、はじめて作品をいいと思った。谷文晁の『山水図』は総金地の大画面に書かれた豪快な水墨画で、この画家には珍しいのではないか。このほか、琳派あり、浮世絵あり、禅画あり。美術史の系統分野にこだわらない収集だが、品のある自然描写が多いことは、自ずとコレクターの趣味を反映しているように思う。貴重なコレクションが、2005年のハリケーン「カトリーナ」の被害をまぬがれて、本当によかった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする